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おお、清々しい目覚めだ。


やっぱり睡眠は大事だったようで、疲れも充分取れている。

ちょっと朝日による痛みがうざったいけど、我慢我慢。

朝食を楽しみに食堂に向かう。


「おはよう。よく眠れたかい?」

「おはようございます。はい、御陰様で」

「それは良かった」


店主のコッコさんと途中会ったので挨拶する。

このコッコさんがこの宿を切り盛りしているんだよね。掃除とかどうやってんのか気になるけど、部屋もベッドも凄い良かったし気にする必要無いかな。

食堂に行き、クックさんとも挨拶した後朝食を頼む。

そして出て来た朝食も凄く美味しく、喜んで食べていると、


「よっ、おはよう」

「おはよう」


人狼さんもやって来た。


「疲れは取れたか?」

「うん」

「それじゃあやろうかと言いたい所だけど、お前光に弱いだろ?夜まで待つか?」

「いや、いいよ。やろう」

「よっし、じゃあ飯食ったら直ぐな」

「わかった」


二人共朝食を食べ終わり、コッコさんに頼んで宿の庭を貸してもらう。


「そういやお前階級何だ?」

「スケルトンだよ」

「第一階級か……魔纏は止めとくか」

「ん?」

「いや、何でもねえ、じゃあ行くぞ!」

「おう!」


その声と共に構えを取る。人狼さんはボクサーみたいな構えで、私はなるべく自然体をイメージして構える。

踏み込んで来る人狼さん。

速い、目で追うのがやっとだ。

そして突き出してくる拳を、左手で受け流す。爪が怖いので、手首辺りに手を当てて相手の力に逆らわないように流す。

そこから何度か繰り出される拳、私はそれを同じように全て受け流す。

そして数十の拳を受け流した所で、人狼さんが一度離れる。


「凄えな、速くも無いし、強くも無いのに、全然当てられねえ」

「いや、動きが速すぎて、全く反撃出来ない。そっちが凄いよ」


逸らすだけじゃなく、人狼さんの腕にダメージを与えるつもりで当ててるのに、堅過ぎて効いてないみたいだし。


「俺はこれでも、第三階級の人狼ワーウルフなんだがな。すまん、甘く見てた、本気で行くぞ」


と言うと再び構える人狼さん。さっきと変わってないのに、何となく雰囲気が違う。

そして再びの接近からの拳、私はそれを同じ様に流そうとするが、流せない。

速さは変わらないのに、物凄く人狼さんの腕が重くなった様に感じる。

思いっきり力を込める事で何とか少し流れを逸らすが、避ける事は出来ず肩に受ける。

その一撃は、私の肩の骨を折り、私は錐揉み状態で飛ばされた。


「またもやすまん。お前が全部防ぐから勘違いしてた、その身体は頑丈どころか華奢なんだな。大丈夫か?」

「大丈夫……じゃないみたいだけど、気にしなくて良いよ」


慌てて駆け寄ってくる人狼さんに、無事な方の手を振りながら起き上がる。

肩の骨が折れているけど、なんとなく問題無い気がする。

一応準備していたポーションを取り出し肩に振り掛けると治った。


「悪いな、ポーションを使わせちまって、金払うからよ」

「いや、私の身体治したんだから金は良いよ」

「だが、まだ第一階級ってことは、そこまで稼ぎも無いだろうし、ポーションの値段でも厳しいだろう」

「これ私が作ったやつだから」

「ポーション作れんのか!?その上中々強えし、ホント凄えな」

「いや、一撃で負けちゃったし、全然だよ」

「……よし、じゃあポーション代の代わりに俺の流派を教えてやるぞ!」

「あ、それは嬉しいかも。最後の攻撃の秘密とか知りたいし」

「そーかそーか、あれはな魔力を纏う技で魔纏って言うんだ」


魔纏かぁ、そんなスキルあったっけ?あの時結構流し読みしてたからなぁ。

あの違和感は魔力を纏ったからなのかな?


「そして、それを使う俺の流派は『纏装降雪流』だ!魔纏だけでもかなり役立つぞ」

「わかりました、じゃあお願いします、師匠」

「はははっ!師匠か、悪くないな!よし、じゃあ叩き込んでやる!」

「はい!あっ、その前にちょっと良いですか?」

「師匠は嬉しいけど口調は前のままで良いぞ。で、何だ?」

「うん、わかった。えっと名前教えてくれる?私はキリィ」

「あれ?そういや名乗って無かったな。俺はシアンだ、よろしくな」


ちょっと最後締まらない感じで、私はシアン師匠に弟子入りをした。


「じゃあ、先ずは基礎にして奥義とも言える魔纏だな。お前何か魔法使えるか?」

「うん、生活魔法なら」

「そうか、ならやり易いだろ。先ずは魔力を、そうだな右手に動かしてみろ」


今迄なんとなくで使ってたけど、魔法を使う時には魔力を身体から放出しているらしい。

それと同じ感覚で、身体の中を通して、手に集めれば良いらしい。


取り敢えずやってみる。

自分の身体中の魔力を右手に送るイメージで動かす。


「あれ?」

「うわっ!!どうした!?」


魔力を右手に送った途端、私の身体は崩れ、骨がバラバラになって地面に落ちていた。


「おい!大丈夫か!?死んじまったのか!?」

「大丈夫だから落ち着いて」


私は慌てる師匠に声を掛けながら、右手に集めた魔力を身体全体に戻す。

すると、骨が結びつき身体が元通りになった。


「ふうー、びびったぁ。で、何だったんだ?」

「うーん、死霊族っていうかスケルトンは魔力で身体を維持してるみたいだね。その維持していた分まで右手に集めちゃったから崩れちゃったみたい。そういえば骨同士とかくっついてない部分もあるのにどうやって身体動いてるのかと思ったら、魔力でだったんだね」

「いや、お前自分の身体の事だろ。何を大発見!みたいな顔してんだ」

「だって大発見だよ。ほら?」

「うわっ!」


私が左腕を振りながら左腕の肘の先の魔力を他に動かすと、私の左腕が途中で離れ、師匠に向かって飛んでいく。

夢のロケットパンチ!である。

師匠はそれに驚いて避けてしまい、私の左腕は10m位飛んで行った。


「あーあ、受け止めてよ」

「馬鹿か!怖すぎるわ!」


私はまた魔力を戻して左腕を戻そうとするが、戻って来ない。ある程度離れていると無理らしい。

結局50cm位の距離まで肘を近づけたら、問題なく戻ってきた。


「うーん、離れてると戻らないならちょっと不便かな?」

「いや、そういう問題じゃねえと思うが。ん?身体の維持に魔力が必要なら魔纏出来ねえって事か?」

「出来ない事も無いかな。維持の為に少し残せば良いから……うん、八割位なら集められそう」


師匠は私の言葉にほっとしている。まあ、弟子にしてあれだけ盛り上がって、流派の根幹みたいなものを種族的に扱えないとしたら残念過ぎるだろう。


「よし、じゃあ続きいくか。右手に集めたな、次は強化したい部分を明確にするんだ。例えば俺なら爪、毛皮、筋肉、骨、神経等のどれを強化するかをイメージする。漠然と手を強化しようとしても殆ど強化されないからな、これは大事だぞ。ただ、お前の場合は……」

「うん、骨一択だよね」

「ははは、そうだな。まあ、進化して受肉する可能性もあるからな、覚えておいてくれ」

「わかった」

「次はどう強化するかだ。例えば骨だとしたら、鉄みたいに硬くする、逆に柔らかくする、重くする、軽くするとかだな。このイメージも大事だ。知り合いに風にするとかイメージして物凄く速く動かす奴がいるんだが、そういう事も可能ではある。ただ、骨を鉄にするのと、風にするのじゃあ全然イメージのし易さが違うだろ?だからかなり難しい。つーか、身体の一部を風にするとかどんなイメージしてんのか俺にも全然わからん」

「ふむふむ」

「そして、最後に魔力を圧縮するんだ。イメージした部分に押し込めるように圧縮していく、今は手の周りに広がっているから、それを骨の一本一本に押し込めていくんだ。これが魔纏という技だ」

「ほう……こんな感じ?」


私は右手の骨の一本一本に、骨を硬くするイメージで魔力を押し込めていく。

うん、なんとなくわかる。今の私の右手とそれ以外の骨の硬度の違いが。


「おう、出来てるぞ」

「何か思ったより簡単だね?」

「まあな、お前は魔法を使えたから直ぐに出来たというのもあるが、魔法を使えず魔力を扱った事の無い奴でも丸一日も練習すれば殆どの奴が出来る様になるな」

「ふーん」

「ただな、魔纏を使う事は誰でも出来る、だが使いこなす事はかなり難しいぞ」

「どういう事?」

「先ずはそうだな、ちょっとこれ見てみろ」


そう言って師匠は指を一本立てる。でもそれだけで何も起きない。

ん?何かあるのかな?


「何?」

「自分の右手見てみろ」

「え?……あっ、解けてる」


私の右手の魔纏は、いつの間にか解けていた。


「俺の指に注目した時には解けてたぞ。ちょっと目を離しただけで解けていたら、それを戦闘に使うなんて無理だろ?」

「うん、全然気付かなかったよ」

「後はそうだな、また右手を強化してみろ」

「うん……出来たよ」

「じゃあ、俺がこれから左手側を攻撃するとする。どうする?」

「右手の強化を左手に移す?」

「そうだな、やってみろ」


右手に圧縮した魔力を左手に動かそうとする。でも動かない。

無理矢理動かそうとすれば動くが、凄く遅いスピードでしか動かせない。

結局、一度魔纏を解いて、魔力を動かして、再度左手に魔纏をした。

その時、焦ってうっかり身体の維持分の魔力まで動かしちゃって、また身体が崩れたりもした。

最終的に魔纏の場所を移すのに一分も掛かった。身体を崩さなくても十数秒は掛かっただろう。

これじゃあ、実戦には到底使えない。


「後は、魔力消費だな。俺なら一時間全力で魔纏を続けても、全体の三割程の消費で済む。だが、お前だとそうだな、十分で魔力が無くなるだろうな」

「へえ」

「この他にも二箇所同時に魔纏をしたり、同じ場所の筋肉と神経に違うイメージで魔纏をしたり、反射と同じ速さで魔纏を使うようになったり等、いくらでも難しくなっていく。そして、これを使いこなせている者と使えるだけの者の力の差は歴然だ。魔纏が基礎にして奥義と言われる所以だ」

「ほう」

「で、この魔纏を利用した技を使うのが『纏装降雪流』なんだが、ある程度魔纏を習熟しないと無理だからな、先ずは常に魔纏を使い続ける修行だな。とはいえ魔力が無くなったら使えないし、特にお前の場合は身体の維持が出来ないからな、なるべく毎日長時間魔纏を行うようにしろ。技はそうだな……一時間続けられるようになったらだな」

「うん、わかった」

「じゃあ、今日の修行は終わりな。そこまで自分で頑張れ」

「うん、頑張る。ところで、師匠はずっとこの宿に居るの?何の仕事してるの?」


どれくらいで一時間続けられる様に成れるかわかんないけど、その時まで師匠居るのか気になったので訊いて見る。


「俺はこの街を拠点に冒険者をしてる。依頼で街を出ている事はあるかも知れんが、今の所拠点を変えるつもりは無いな、だから心配するな」

「うん、わかった。そうだ、私も冒険者なんだけど、この辺りで稼げそうな所とか無い?」

「ん?お前何級だ?」

「何級って何?」

「いや、だから冒険者ランクだ。俺はB級だからな。一応D級からこの街に居るけど、それより下だと余り知らないぞ」

「冒険者ランクかぁ、何級だろう?」

「いや、自分の事だろうが。ギルドカード見せてみろ」

「ギルドカード?……カード……カード……これ?」


そんなのあったっけ?と思いながら、リュックの中を探ると一枚のカードが出て来た。


キリィ 死霊族

G級冒険者

依頼達成数 0

依頼失敗数 0


「何だ、なったばっかじゃねえか。依頼も一個も受けてねえし」

「そうみたいだね」

「お前そういうの多いな、人事っぽいつうか、記憶でも無くしたのか?全く。何にせよG級ならリクス草やリマの実の採取とか後は街の中での雑用だな。ここ人型の奴少ねえから、向いたの狙えば重宝されると思うぞ」

「そっか、ありがとう。やってみる」

「おう、頑張れよ」


弟子入りに修行も終わり、師匠と別れ冒険者ギルドに向かう。


街の中心辺りにギルドはあった。初めての冒険者ギルドだ。なのに登録は済んでいる不思議。

そういえば、これ多分死霊族の冒険者ギルドで登録されていると思うけど、ここでも問題無く使えるのかな?師匠に訊いとけば良かった。


ギルドに入る。中は役場みたいな感じで、ただカウンターから何からの背が低い。

狼に狐、狸に猫等の獣族が受付業務を行っている。

私はおそらく他の冒険者と思われる者達が集まる掲示板に向かう。

思ったとおり、依頼が貼り出されているようだ。

級毎に依頼が分かれているようなので、G級の依頼を見る。

師匠が言った様に、『リクス草の採取』『リマの実の採取』と、他に街の雑用がちょこちょこあるようだ。


どうしよう?リクス草であれば依頼十回分位の量がある。

それを出しても良いんだけど……別にお金そんなに必要じゃないしね。

ランクアップも……必要かな?わかんない。

うーん、目的を決めてないからなぁ。

強くはなりたい。だから魔纏の修行と体術、舞踊を使った格闘術の修行はするつもりでいる。

光弱点はウザイので日光位なら問題無いレベルまでしたい。多分LV1まで落とせば大丈夫だと思う。火弱点LV1持ってて何度か生活魔法の火使ったけど問題無かったし。

でも、光弱点LV下げるのってそんなにやる事無いんだよね。多分このまま我慢してたら何時かは下がるし、最悪進化とかすれば下がりそう。

そういえば、進化かぁ。ちょっと興味あるな。

なんだっけ?スケルトンナイトとかゴーストとかだったっけ?

頑張ってみようかな、多分種族LV上げれば進化すると思うし。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼の受諾でよろしいですか?」

「はい、お願いします」


結局採取依頼を受ける事にした。街の外に出る依頼がこれだけしか無かったので。

依頼を剥がして受付の狐さんに持っていく。

狐の受付さん。尻尾が三本あり、凄く綺麗な毛並みだ。進化したら九尾になったりするんだろうか?

声も綺麗でモテそうな気がする。このギルドのマドンナ的な方かも知れない。

実はこのギルドに入った時から微妙に注目されていたりする。まあ、動物ばっかりの所に人骨が入ってきたら当然だと思う。

それで、この狐さんの所に来たらその視線が険しくなった気がする。

やばいかな?ちょっかいかけられたりしそう。


「はい、『リクス草の採取』と『リマの実の採取』ですね。冒険者カードをお願いします」

「はい」


ちょっとびびってる私に構う事無く、狐さんは話を進める。

私がカードを渡すと、何かにカードを当てていた。あれも魔法具だろうか?


「はい、ではお返しします。採取場所の説明は要りますか?」

「お願いします」

「リクス草は北東の草原で、リマの実は街の南の森で取れます。どちらもある程度群生していますので見付けるのは簡単だと思います。ですが、リクス草はリスク草と似ていますので気を付けて下さい。それと、魔物には充分気を付けて下さい」

「わかりました。ありがとうございます」

「それでは、無事のお帰りをお祈りします」

「はい、失礼します」


私みたいな骸骨相手に凄い丁寧だなぁ。美人?で、性格も良くて、仕事も出来る、これは確実にこのギルドの人気者に違いない。

だって、周りからの威圧感が凄い。

祈ってくれたのに、無事のお帰りどころか、無事な出発が出来そうに無いんだけど、どうしよう。

まあ、ギルド内では誰も何もしてこないだろうし、ギルド出たら走って逃げちゃおう。


私はそんな考えを悟らせない様、ゆっくり堂々とギルドの入り口に向かう。

そしていざダッシュ!しようとした所で、


「痛っ……おお!まだ居たか。いや、ちょっと用があってよ。探してたんだ」


ギルドに入ってきた師匠とぶつかった。


「シアンの旦那だ……」

「あいつシアンの旦那の知り合いだったのか……」


私に向けられる敵意が薄れていく。

師匠は意外と有名人らしい。

取り敢えず師匠のおかげで無事な出発が出来そうなので、有難く師匠を伴ってギルドを出る。


「それで、用って?」

「ああ、俺の知り合いに薬屋が居るんだが、一緒に行って欲しいんだ」

「うーん、別に良いけど。でももう依頼受けちゃったんだよね」

「何の依頼だ?」

「リクス草とリマの実の採取。リクス草は持ってるけど、リマの実は取りに行かなきゃ」

「よし、俺が付いて行ってやる。直ぐ行くぞ」

「えっ?師匠B級なんでしょ?私一人でも良いよ?」

「いいからいいから、行くぞ!」


そう言って、南に早足で向かう師匠。

慌てて私もそれを追い駆ける。


「……折角だし、魔纏の修行をしよう。足を強化しろ」


早足がもう走ってるのと同じ位になった辺りで師匠がそう言って、凄い速さで走り出す。

仕方なく私も両足に魔纏をして、走る。

全く、何をそんなに急いでいるんだろう?


「着いたぞ、あれがリマの実だ」


おそらく本来三十分位はかかるであろう採取地に、五分掛からず着いた。

師匠が指した方を見ると、赤い蜜柑みたいな果実が木の高い辺りに生っている。


リマの実

日が余り当たらない場所で育つリマの木に生る果実。果実は光が当たらないと生長しない為、高い所に生る。


ふーん、確かに周りに高い木があって光が当たり難いみたいだし、実が生ってる辺りの葉っぱは枯れそうだね。

でもあそこまで高くて、枝の先に生ってると道具とか無いと取り辛い気がする。木登りしてたらかなりの時間が掛かりそう。

そう思っていると、


「はあっ!」


掛け声と共に、師匠が飛んだ。……いや、跳んだ。

でも、5m以上も跳ばれると、飛んだと錯覚しても仕方がないよね。多分7、8mは跳んでたと思う。

降りてきた師匠は両手にリマの実を持っている。


「何をポカンと見てんだ?お前が受けた依頼だろう?俺が採る分は薬屋に渡すから、自分で採らないと依頼達成出来ねえぞ」


えーと、この採り方が標準なの?

何をやったかはわかる。足の強化を速さからバネに替えた感じ?

他の獣形態の方とかはどうやって採取するのかな?とか思っていたけど、もしかして皆ジャンプするのかな?


取り敢えず私もやってみる。バネをイメージしつつ、思いっきり跳ぶ。

……残念、届かなかった。

一番低い実に向かって跳んだんだけど、1m位届かなかった。

それから何度か跳んでみたけど、届かない。

その間にも師匠は幾つもの実を採っている。一応私の為に、低い所の物は残してくれているようだ。


その後も届かず、もういっそ時間掛けて木登りしようかなと思った所で、思いつく。

今の私にはあそこまで跳ぶ事は出来ないし、木登りは時間が掛かる。なら二つを併せればいいんじゃないと。

私が跳べる高さの範囲で、がっちりしていて乗れる様な場所を探す。

そこに向かって跳び、そこからまた跳ぶ。


「やった!」


私は狙った実を掴む事が出来て喜びの声を上げるが、まだ喜ぶのは早かった。


「って、うわっ!怖っ!」


そのたった1m程伸びた高さは、私に恐怖を呼び起こす。

地面から跳べる高さじゃないというだけで、かなり怖かった。

私は怯えて慌てて、地面に両手両足をつけながら着地した。

……あれっ?両手?

私が初めて採ったリマの実は手と地面に挟まれて潰れてしまった。

私はその体勢のまま、落ち込む。


「何やってんだ?勿体ねえなぁ」


わかってるよ、落ち込んでるのに追い討ちかけんな!

私はその失敗を教訓に、少し二段ジャンプからの着地を繰り返し、高さに慣れた後、再度リマの実採取を始めた。

結局、二十個私が集めた時、師匠は百個以上集めていて、きちんと成長しているリマの実は無くなった。


「よし!じゃあ帰るぞ!」

「はあ、はあ、いいけど、帰りは歩きね。魔纏のし過ぎで魔力も体力ももう無いよ」

「だらしねえなぁ……わかった、仕方ねえな」


いや、初心者なんだから当然だよね?マジで何でそんなに急いでんの?


急かす師匠をちょっと鬱陶しく思いながら、街に帰って来た。

帰りは、歩いていたのもあって、何匹か魔物とも遭遇したけど、師匠が瞬殺した。ちなみに採取地でも何匹か排除していたようだ。

……もう、師匠の用件を早い所終わらせよう。経験値どころか、鑑定すら出来ない瞬殺に、私は最初の目的を諦めていた。


ギルドに入る。今度も注目されるが、師匠と一緒だからか敵意みたいなものは少ない。

狐の受付さんにリクス草とリマの実を十個ずつ渡す。十個で依頼一回分だ。薬屋さんで使うって事は、調合素材らしいので残りは取っておく事にした。


「はい、確かに、ではギルドカードをお願いします。……はい、お返しします」


返されたカードを見ると依頼達成数が2になっている。


「それから、これが報酬になります。リクス草銅貨十枚、リマの実銅貨四十枚、併せて銅貨五十枚になります」

「はい、確かに、では失礼します」


私は報酬を受け取ると、そわそわしている師匠がウザくなってきたので、直ぐに切り上げてギルドを出た。


「よし!じゃあ薬屋に行くぞ!」

「はいはい」



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