2
女の子は目を覚ました。
で、私は泣き崩れている。眼球の無い私の暗い眼から、どこから出ているかわからない涙が流れていた。
こうなったのは、女の子が目を覚ました事から始まる。
目を覚ます、私と目が合う、彼女が悲鳴を上げて私を突き飛ばす、距離を取り怯えながらこちらを見ている、私泣き崩れる。
という流れだ。
至福の膝枕状態から、どん底まで落ちてしまった。
何故だろうか、私の太ももが固くて寝づらかったからだろうか?
なんとか逃げずには居てくれるが、私を見る目に恐怖が宿っている。
私はちゃんと話せば誤解も解けるさと、何とか気を取り直し彼女に話し掛けようとした所で、
「ジェスはどこ?」
彼女から話掛けられた。
「ジェス?」
「私を連れて逃がそうとして、馬車の御者をしてくれてた」
「ああ、あの御者ね。ん?御者?……忘れてた」
慌てて倒れたままの馬車の方に目をやると、少し離れた所に御者が倒れている。
駆け寄り状態を見ると、気絶しているだけの様で、怪我も軽い。取り敢えず傷に初級ポーションを掛けるとホッとする。
危ない危ない、私に対する彼女の心証が悪くなる所だった。
これで安心だよという思いで彼女を見ると、私を怖い顔で睨んでいる彼女。
心証はもう充分悪くなっていた。
「えっと、大丈夫だよ。ジェス君は気絶してるだけで、怪我も治したし、直ぐに目を覚ますよ」
「……貴方が私達を助けてくれたの?」
縛られている三人の男達を見て、彼女が言う。
「そうだよ」
「……どうして助けたの?」
「君が可愛かったからだね(困ってる子が居たら助けるのは当たり前さ)……あっ、本音と建前が」
彼女の目が、変態を見るような目に変わる。
うーん、どんな顔でも彼女は可愛いなぁ。ただ、恐怖は駄目。まあ私としては笑う顔を一番見たいなぁ。
「私をどうする気?」
「ん?いや別に何もする気無いよ、君の好きにしていいよ?」
「え?」
「警戒する必要無いのに。私は君が可愛かったから助けた。ただそれだけだよ」
「……」
「ああ、そうだ。これ投げてくれたの君だよね?こっちも助けてもらったからお相子だね」
剣を手渡すのは難しそうなので、近くに置いて少し離れる。
「あれは、ジェスが守ってくれてると思ったから……」
ああ、私をジェス君だと思って助けようとしたらしい。
「それでも、私を助けてくれたのには変わらないからね。私は君を助けたいだけだから、出来れば君の望みを聞いて上げたいんだけど」
そう言っても、彼女の警戒は解けない。まあ、当然かもだけど。
とはいえ、実際私にはどうこうしたいという事は無い。殆ど勢いで助けちゃったから。
これはジェス君が目覚めるのを待つしかないかなと思った所で、先に三人の男達の方が目を覚ます。
そして十分後、
「でも、あれだよね、あの睨む顔も可愛いっていうか」
「ああ、あれはあれでって感じっすよね」
私は子分A(剣の方)と意気投合していた。
なんでだろう?
初めは、真面目に話してた。彼女を襲った目的を訊いたり、何者かを訊いたり、職業を訊いたり、あの光魔法?の事を訊いたり。
答えは、言えない、言いたくない、剣士盗賊槍士、使い捨ての魔法具で金貨1枚の価値との事だった。
別に拷問とかしてまで、答えに興味無かったので、言えない事は流してそのまま話していたら、何故か子分Aと趣味が合ったのだ。
そんな私達を、彼女が軽蔑の目で睨み、リーダーと子分Bが呆れた目で見ている。
「リル様!」
そして、そんな状況で目を覚ますジェス君。
さてこの状況は纏まるのだろうか?
「リル様には指一本触れさせない!……ぞ?」
彼女を後ろに庇い、私達四人に向かって勢い良く言おうとしたけど、途中から疑問系に変わった。
多分四人の内三人が縛られていたからだろう。
というか、お前が寝てる内にリルちゃんには膝枕しといたからな!
「さて、全員起きた所で収拾付けようか?」
「俺達を解放しろ!」
「許して欲しいです!」
「意気投合した仲じゃないっすか!」
「お前は何者だ!」
「はいはい、うるさいよ。子分Aは出来れば助けたいけど、優先順位はリルちゃんが一位だから。ジェス君は状況わかってないんだからおとなしくしてて、他のは黙ってろ」
「子分Aって俺の事っすか!?」
「くっ……」
「「……他の」」
ジェス君も自覚はあったようで、こちらへの威嚇を止め、リルちゃんを振り向く。
「私はトリアスの地に行きたいのですが、見逃してくれるという事ですか?」
「ん?見逃すというか、リルちゃんが望むなら協力するよ?」
「望みません。リルちゃんと呼ばないで下さい」
「そっか、残念。じゃあ、そのトリアスという所に向かっていいよ?」
そのまま、私を警戒しつつ腑に落ちない顔をしながら馬車に向かう、リルちゃんとジェス君。
馬車は立て直しておいたし、矢で死んだ馬と横転した時に怪我した馬の代わりに、三人が乗っていた内の二頭を繋いである。
リルちゃんとジェス君はそのまま出発していった。
うーん、結局お礼の言葉も無かったし、笑った顔も見れなかったなぁ。残念。
「さて、お前達はどうしようかな?とは言いつつももう決めているけど」
少し離れた所に三人の武器を置くと、馬の残りの一頭に乗る。
「じゃあ、何とか武器の所まで頑張れよ。魔物が来る前に行けないと死んじゃうぞ?」
これで、時間稼ぎも出来るし、意気投合した子分Aも殺さなくて済む。馬も無いからリルちゃん達を追い駆けるのは無理だろう。
三人は騒いでいたけど、無視して馬を出発させる。
私がある程度離れた後、縛られた身体を何とか動かして武器の方に向かう三人が見えた。
馬が手に入った訳で、これで一気に街とかに向かいたい所だけど、騎乗スキルを持たない私にはちょっと操作が難しい。馬なんて乗った事無いし。ただ、ある程度乗れはする、多分体術スキルのおかげだと思う。
あの三人への質問でこの辺の街と国の情報は得る事が出来た。
この草原を中心として、北に荒野、北西に死霊族の国、西に鬼族の国、南西に獣族の国、南から東に掛けて人間族の国、北東にドワーフの国らしい。リルちゃん達は東の方の人間族の街、名前はリアゴから、ドワーフ族の街、名前はトリアスに向かっていたらしい。
さて、何処に向かうか、先ず鬼族は無い。それと荒野は嫌だ、馬があるからと言ってもわざわざ戻りたくない。
訊いた限りでは、ドワーフ族も人族も死霊族と戦争中では無いらしい。ただ、人族と魔族は何度も戦争やら何やらしていて、余り仲が良くないらしい。
人間族の街でも魔族冒険者の姿を偶に見るけど、余りいい顔はされないらしい。他は殆ど奴隷だそうだ。
だとすると、獣族の国か。
でも、獣族の国っていまいちイメージが沸かないんだよね。確かウルフとかだったし。獣人の国ならわかるけど、獣の国ってどんな感じ?家とかあんの?ただの縄張り的な感じじゃない?
……よし、決めた。人間族の街に向かう事にした。それもリアゴじゃなくて、南の方の街に行く。
別に考えがある訳じゃない。というか考えるのが面倒になったので、棒を立てて倒れた先に決めただけだ。西に倒れなくて良かった。まあ、多分倒れてたらやり直してたけど。
向かうは人間族の街。良い顔されないらしいけど、別に何もしてないのに捕まったり、襲われたりはしないだろう。……しないよね?
さて、私は今度こそ休める場所を見つけられるでしょうか?
無理でした。……はあ。
南に向かってるとどんどん遭遇する魔物が増えていったんだよね。
「おっ、角兎が三匹居る。複数でいる魔物初めて見たなぁ」
こちらを見付けたら掛かって来たので、馬を降りて相手する。
こいつ等は弱い。角だけ気を付けるようにして、倒していく。
ただ、三匹も居るから手加減するのが面倒なので、殺すつもりで手刀を当てる。
結果、初めての殺しを体験した。そして、三匹殺した所で種族LVが2に上がった。
「やっぱり種族LVは殺す事で上がるのか。これからはなるべく魔物は殺すようにした方がいいかな?」
一応殺した角兎は、血抜きだけしてリュックに入れておく。
それが終わって再び進むと、次は犬四匹と遭遇。
「おお、また複数か、南の方は魔物が多かったりするのかな?」
犬四匹も無傷で殺すと、血抜きしてリュックに入れる。が、一匹入らない。
仕方ないので、埋める事にした。他の三匹も然程必要無さそうなので全部埋める。
「リュックの容量は後犬三匹分かぁ、まあリクス草が一杯入ってるからなぁ」
ちょっと減らそうかなと考えながら進んでいると、魔物の群れが見えて来る。
今迄会った事のある犬に兎に馬に蚯蚓、初めて見る蛇に鳥によくわからないもの。
百を余裕で超える魔物の群れがいた。見た感じ犬が一番多いだろうか。
「……ああ、そういえば犬って上位の者の下以外は単独行動するんだっけ?四匹の犬を見た時に警戒するべきだったなぁ」
ただ、私はそこまで慌てる事は無かった。何故ならその魔物達は殆ど私に背を向けていたからだ。
「あれが目的の街かな?城塞都市って感じか?そういえば此処って、草原で色んな種族の国と隣接してるんだっけ。砦みたいな感じかな?……よし、決めた」
その魔物達の向こう側に高い壁と門が見えた。そして、人間が必死で魔物の侵攻を防いでいる。
それを見た私は頑張った、今迄は襲われてからの反撃で魔物を倒していたけど、街を守る為に積極的に魔物を倒した。……まあ、街を守った事で好印象を与えようという打算からだけど。
とはいえ、いくら何でもこの数の魔物に囲まれたらやばい。
なので、ちょこちょこ周りの魔物を倒しつつ、人間達から然程離れて居ない場所で魔物を相手していた。
「きゃあ!」
そんな私の耳に悲鳴が聞こえる。目をやると、犬の体当たりに女の子が持っていた剣を弾き飛ばされて、倒されていた。少し離れた所で戦っていたようで、他の人達が助けるには遠い。
私は即座に駆けると、噛み付こうとしていた犬にドロップキックをする。
おお!こんなに素晴らしいドロップキックが出来るなんて、流石は体術LV3!
そして、その犬と周りの魔物を片付けた後、まだ倒れたままこちらを凝視していた女の子に手を出す。
「大丈夫?」
「きゃあー!!」
そして、女の子は犬に倒された時以上の悲鳴を上げ逃げていった。
……はあ。
その数十分後、人間達は魔物の街への侵入を防いだ。ほんの少しは私の活躍も影響したに違いない。
一回り大きな犬を兵士さんが倒した所で少し残っていた魔物達は逃げていった。
そして、勝利に沸く人間達に紛れ意気揚々と私が街に入ろうとすると、
「おい!そこで止まれ!」
兵士さんの一人に止められる。それも武器を向けて。
さっきまで、戦っていた事による興奮とかもあるだろうし、私は仕方ないかと思い手を上げ誤解を解こうと言葉を尽くす。
「えっと、私は無害な冒険者ですよ?」
「貴様、死霊族だな?……まさか、さっきの魔物達はお前が……」
「え?いや、私もその魔物達と戦っていた……」
「くそ!この堅牢な街を魔物を使って落とそうとするとは……」
「え?え?勝手に納得しないで私の話も聞いて貰えません?」
「だが!この私が居るからにはこの街は落とさせん!覚悟しろ!」
結果は、私は街に背を向けて逃げていた。
というか、私が魔物と戦っている所見ていた人も居た筈なのに誰も助けてくれないし、なんで私が魔物を操って街を襲わせた事になるの?あんなの説得するの無理に決まってる。
はあ、これからどうしよう。
この近くの人間族の街は多分もう無理だろうし、また北に戻るのもなぁ。馬も置いてきちゃったし。
……仕方ない、獣族の国を目指そう。
人間族の街から逃げ出してから西に進み、獣族の国を目指した私は、日が落ちる頃森林に入った。
光弱点のLVが下がった私は、もう日光に当たっても気にしてない風だったけど、定期的にポーションで回復はしているし、以外と小さな痛みがずっと続くのってイラつく物だね。
そんな私もやっと遮光出来る場所に辿り着いた。ある程度大きい木が茂っているので、光を防げると思う。まあ、着いたの日が落ちた後だけど。
さて、何処からかはわからないけど、多分もうすぐ獣族の国の中だと思うけど、
「我等が獣族の国に何用だ?」
突然聞こえる声、声がした方に目を向けるとそこには狼が一匹。
「……えっと、さっきのは狼さんが言ったのかな?」
「当たり前だろう。それで何用だ?」
やっぱり狼さんが喋ったらしい。見た目は狼そのものなのに、その口から言葉が出る不思議。念話とかの方が良かった、違和感半端無い。
「おい、いい加減に答えろ。追い出されたいのか」
私が違和感に苦悩している間に、狼さんはキレそうになっていた。
「すみません。えっと、私はただの冒険者で、別に用とかは無いんですけど、休める場所とか欲しいなぁと思っています」
(……怪しすぎるかな?失敗したかも)
「……ふん、まあいい。付いて来い」
そう言うと、振り返って先に進む狼さん。私はそれを慌てて追い駆ける。
そして、着いたのはコンクリートで作られたような小さな家だった。狼さんがその家のドアを器用に開け中に入っていく。
私も中に入ると、そこには床に敷き詰められた絨毯とテーブル、ランプや本棚もあり、普通に前世の家の部屋を思い出した。違うのはどれも背が低い事だろうか。
狼さんはランプに火を点け、座布団を私に渡すと、
「少しそこで待っていろ」
と奥のドアを通って行った。
「やっぱりここは狼さんの家なのかな?狼さんが誰かのペットとかじゃないよね?」
私が座布団に座って、部屋をあちこち観察していると、狼さんが戻ってくる。
狼さんは水晶玉?を口に銜えていて、それをテーブルの上に置くと、自分も座布団を置いてその上に座る。
「先ずはこれに手を置け」
言われた通りに手を置くと、水晶が少し光り、直ぐに消える。
「ふむ、初入国か問題無さそうだな」
「えっと、これ何なんですか?」
「これは『魔力鑑定』の魔法具だ。個々の魔力は少し違いがあり、魔力の鑑定により判別が可能だ。そしてこれはこれまで鑑定した魔力を全て記録していて、幾つかある『魔力鑑定』の魔法具とそれを共有している。お前の反応だと、初入国という事がわかる。この『魔力鑑定』の数値を調べる事でこの国で犯罪を犯した者等はこの国には入れない様になっている」
「凄い高性能ですね」
「当然だ。我が国の天才魔法具師ノクトールの作品だからな」
「へえ、そんな方が居るんですか。えっと、じゃあ私はこの国に入って良いって事ですか?」
「いや、まだだ。後は入国料だな。銀貨一枚が必要だ」
「はい、ではこれを」
銀貨一枚を渡すと、替わりにカードを渡される。カードには番号が振ってある。
「それは、入国許可証だ。その番号はさっき計った『魔力鑑定』の数値だ、魔力量とは別だから成長や進化等をしても値は変わらないから、それで個人の識別が出来る。必ず無くさないようにしろよ、それを持っていないと不法入国者として捕まるぞ」
「はい、わかりました」
「よし、もう夜だから寝床を一晩貸しても良いが、お前は死霊族だからな、どうする?」
「いえ、夜の内に動こうと思います」
「そうか、じゃあ行っていいぞ。此処から一番近い街は南西の方角に一時間程行った所にある」
「わかりました。ありがとうございます」
家を出る所まで見送られて、狼さんが指差した方向に向かって歩き出す。
狼さん家が見えなくなった所で大きく深呼吸する。
「……凄すぎない!?何あれ!えっ?えっ?あれ普通なの?」
あの狼さん、多分入国管理官みたいな職業の方なんだろうけど、途中から相手が狼だと言う事を忘れてしまいそうになったよ?
もしかして、獣族って皆あんな感じなのかな?言葉遣いは悪かったけど、今迄会った誰よりも理性的だった気がする。
そして、部屋の家具等の素晴らしさと、魔法具の凄さ。家を見た時からちょっとおかしいなと思っていたけど、狼じゃなくて狐とかだったら化かされてないか疑うレベルなんですけど!?
うわぁ、この今直ぐ戻って土下座して謝りたい衝動!どうしよう!?
……ふう、落ち着くんだ私。謝った方が逆に失礼になる。
そう、これから行く街で会う獣族さん達に対して、一人の人間として相対するつもりで行く事にしよう。
そして、約二時間後、私は宿に来ている。
あの後言われた方に歩いていると街に着いた。
門には門番が居て、夜でも対応してくれた。ちなみに門番は狼と馬だった。
入国許可証を見せたら、快く門を開けてくれて、良い宿も教えてくれた。
お勧めの宿、その名は『コッコの宿屋』。
一泊食事二食付で銀貨五枚。一泊五千円って考えると銀貨一枚千円、銅貨一枚十円位かな?
店主は鶏で料理人も鶏。鶏って獣族なのか?と思ったけど、鳥族は選択肢にも無かったし、鶏も獣族なんだろう。
そして着いたら直ぐに夕食を出してくれた。お腹は空かないけど、興味があったので食事代も払って出して貰ったんだけど、これマジで上手い。
鶏がどうやって調理してるのか気になったし、この鶏の唐揚げみたいな料理の材料はなんだろうと気になったけど、一口食べてみて、この上手さの前にはそんな事どうでも良くなった。
私は夢中で唐揚げ定食風の料理を口に入れる。
「なあ、それどうやって食ってんの?」
そんな私に、口元を覗き込みながら声を掛けて来たのは客の一人で人狼さんだった。
「さあ、私もわかんない」
「自分でもわかんないのかよ!ははははっ!」
何が面白かったのかわからないが、爆笑する人狼さん。
私はそれを殆ど無視して、料理を味わう。
「ごちそうさまでした」
「おお、良い食べっぷりだ。食ってるのかわかんないけど、くくっ」
私が食べ終わる頃、やっと笑いが治まった人狼さんが再び声を掛けて来る。
「なあ、お前死霊族だよな?この国に何しに来たんだ?」
「いや、別に目的はないよ。強いて言えば安息を求めてかな?」
「なんだそりゃ?うーん、じゃあこれからどうするつもりなんだ?」
「まだ、何も決めてないけど、一通り見て回って決めようかなと思ってる」
「ふーん、そういえばお前此処に入る時見てたけど、武器とか持ってないよな。魔物とかどうしてんの?」
「一応この手足が武器だね。格闘家になるのかな?」
「ほう……なあ、俺と勝負しねえか?」
「勝負?」
「おう、俺も手足が武器なんだよ。と言っても爪を使うけどな」
「へえ、面白そうだね。でも私疲れてるんだよね、明日じゃ駄目かな?」
「全然良いぞ、じゃあ明日な。楽しみにしてるぜ」
そう言って食堂を出て行く人狼さん。
……そういえば、名前すら訊いてないや。何故か戦う羽目になったけど、まあいいか、面白そうだし。
私も鶏の料理人さん、名前はクックさんにご飯のお礼を言って部屋に行く。
遮光を求めて来た訳だけど、結局基本的に朝起きて夜寝る生活をする事にした。光魔法による大ダメージもあった事だし、せめて光弱点LV1まで下げて置きたいと思ったからだ。日光ダメージに関してはなんとか我慢しよう。
別にそれだけなら寝なくても良いんじゃないと思うかも知れないが、寝なくても良いが寝ないと疲れが取れ難い気がするのだ。
旅の時とかなら寝ないで居るのもありだと思うが、こういう街に居る時は、一日何時間か寝ようと思う。
それに、美味しい食事も思ったより自分にプラスになっているようなのだ。
食事も睡眠も必要では無いけど、重要ではあるみたい。
食事、睡眠ときたら後は……性欲?そういえば死霊族ってどうやって繁殖してるんだろう?
そんなどうでも良い事を考えながら、この身体で初めての眠りに着いた。