表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

……やばいかも……。

あれから半日。予想通り、昇ってきた太陽の光に撃たれた私の身体は、火に焼かれたような痛みを覚えた。

自分の身体を鑑定すると、状態異常火傷になっていた。状態異常耐性LV1を持っている筈なのに、流石はそれを大きく上回る光弱点LV3である。

予想と違ったのは夜の間に結構な距離を歩いたのに、街には着かなかった事だ。

そして荒野には遮蔽物が無かった。偶に大きな岩があるが、まだ太陽が低い位置にある間はそれで避けられても、高い位置に来たら防げなかった。

大体の時間だと、夜0時から歩き始め、朝五時から岩の陰で休憩、昼十二時に隠れられなくなる←今ここ。

と言った所だ。

リュックで出来るだけ光を防ぎ、防ぎきれない場所を日に焼かれながら、必死に歩く。何故かローブや服は日除けにならない。ちょっと穴を掘ってローブ覆って日除けしようとしたら、ローブを透過して日に焼かれてしまうし、服で隠れている筈の身体も焼かれてしまう。少しは減衰してるとは思うけど、リュックは透過しない事が救いだ。

街とまでは言わないから、遮蔽物がある場所まで行く為に、焼ける身体を我慢しながら足を動かしている。


約一時間後、限界を超え歩いた私は、やっと荒野を抜ける事に成功する。

荒野を抜けたその先は……見渡す限りの草原だった。


「Nooooooo!!」


せめて、せめて!森林であって欲しかった!!

マジでやばいよ!もう歩けないって!!

限界を超えていた私の足は動かなくなり、そのまま草原に倒れこむ。

うわー、これ死んだかも。

まだ、おそらく昼の一時か二時、日が落ちるまで四・五時間は掛かるだろう。このままだとマジで死ぬ。

唯一の好条件はポーションでダメージを食らわず、回復した事だ。

休憩中にそれを確かめた私は、ポーションを火傷箇所に掛けながらここまで歩いてきた。

ただ、ポーションセットLV1は初級ポーション10個で、ここに来るまでに使ったポーションの数は5個。それも限界ギリギリまで使わず節約した。HPが数値化されていないから、ギリギリかどうかは自分の感覚だけど。

どう考えても足りない。

ポーション以外で救命処置が出来ないか考える。

スキルで使えそうなのは、生活魔法と調合だろうか?

生活魔法LV1は火が出せる、水が出せる。

……火傷箇所に水を掛ける。うん、焼け石に水。役に立たない。

もしかして、LV2になれば土や光や闇を操れるかも知れないけど、LVを上げる前に死にそうだ。

調合は道具はあるけど、材料もレシピも無い。せめて材料があれば、なんとか頑張る気にはなるけど。

材料がなぁ……うん?材料?

そういえば確か……


初級ポーション 品質?

リクス草と水を調合して作られたポーション。


うん、やっぱり、リクス草だ。そして私の周りの草は……


リクス草

大陸の何処にでも群生している。どんな所でも育つ。


うん、リクス草だ。

……よし!希望が見えた!

いや、こんな目に見える範囲を埋め尽くす草がポーションの材料とは思わなかった。

後は作り方を試行錯誤するだけである。

何とか手持ちのポーションが切れる前に作らなくてはいけない。


調合道具セットLV1を取り出す。


石の乳鉢

少し固めの石を削って作られた乳鉢。


木の擂粉木

木を削って作られた擂粉木。


木の匙

木を削って作られた匙。


鉄鍋(小)

鉄で作られた小さな鍋。


……うん、取り敢えずやってみようか。

とはいえ、この道具でやれる事は乳鉢と擂粉木でリクス草を擂り潰して、匙で鍋に入れる。生活魔法で出した水と混ぜて、火に掛けて沸騰したら冷ます。後はポーションの空き瓶に入れる。

それ位しか手順思いつかない。もしかしたら沸騰させちゃいけないとか、温度管理が必要とか、リクス草と水の配分がかなり明確に決められてるとか、リクス草を先に乾燥させなきゃいけないとかあるかな?と思っていたら……


初級ポーション 品質? 

リクス草と水を調合して作られたポーション。


最初の一回で出来ちゃいました。

さっきまで死を身近に感じていたのに……

火と水を出すだけならMP消費も殆ど無く、リクス草は本当に見渡す限りにある。

瓶を作る事は出来そうに無いので、十個以上は一度に作れそうに無いが、リクス草だけ集めておけばいつでも作れる。

取り敢えず死の危険は回避された様だ。まあ、まだ街が何処かわかっていないけど。


まあ、取り敢えず、リュック一杯にリクス草を集めよう。

リクス草、リクス草、リクス草、リクス草、リスク草、リクス草……ん?何か変なの無かった?


リスク草

リクス草に外見が似ている草。身体が痺れる成分を持つ。


わお、こんなのもあるんだ。一応鑑定しながら採っといて良かった。

身体が痺れるかぁ、ちょっと試してみよう。

先ずは一口食べてみる。ちなみにこの身体になって初の食事である。この身体、お腹が空かないようで、食事は必要無いみたいだ。ただ、別に飲み食いが出来ない訳ではない。骨しか無い筈なのに、口から入れると何処かで消化されて、何処かに吸収されるみたいだ。

食べた結果は、別に何も起きなかった。状態異常耐性LV1で問題無くなるレベルの成分らしい。

なので今度は初級ポーションと同じ手順で抽出してみる。


麻痺薬 品質?

リスク草と水で作られた薬。触れた部分が痺れ、飲んだら身体中が痺れる。


これを試すのは安全な所に行ってからにしよう。効果が高かったら拙い。


……ポーションは作ったし、リクス草も集め終わった。

これで、気を紛らわす手段が無くなっちゃった。

死の危険は去ったとは言っても、日光によるダメージと火傷によるダメージは継続中だ。

ゲームで言えば日光によるダメージ1と火傷によるダメージ1を継続的に食らい、HPが一桁になったらポーションで回復を繰り返してるような感じだけど、現実でやるときつ過ぎる。

ある意味拷問じゃないだろうか?

せめて気を紛らわす物があれば良かったけど、足は満足に動かないし、やる事が無い。

ああ、何かないかなぁ。と考えていると、


ガサッ!


と音がする。そっちに目を向けると、犬が飛び掛ってきた。


「こんなのを望んだ訳じゃねーよ!!」


叫びながらも、動かない足を叱咤して、何とか立ち上がる。が、そこから避けるまで行動を起こせず、犬に組み付かれ倒された。

うん、こんな身体の状態じゃあ、体術LV3なんて意味無いな。

私は骨の一部に噛み付かれながらも冷静にそんな事を考える。

冷静で居られたのは、倒れた直ぐ傍にリュックがあり、実験体が向こうからやってきたからだ。

私はリュックから麻痺薬を取り出すと、骨に噛み付いている口の端から中身を流し込む。

数秒後、犬は地面に横になり身体を震わせていた。

えっと、鑑定しとこうか。


レッサーウルフ LV? 状態異常麻痺

獣族の血を少し持つ犬型の魔物。上位の魔物の下以外では単独行動を好む。


ふーん、やっぱり魔物がいたなぁ、まあただの犬っぽいから動物の範囲だけど。何で荒野では見なかったんだろう?あそこそんなに過酷なのかな?それとも偶然かな?

さて、麻痺がどれ位続くかも興味あるけど、麻痺を治す薬を作ってみようかな。

そして私は震える犬を放置して、調合を始める。


先ずは、麻痺薬をもう一個作っとこう。

さっきと同じ手順で麻痺薬を作る。

そして、回復薬だけど……こういうのって毒は薬、薬も毒って言うよね?

少量のリスク草を擂り潰して、水ではなく初級ポーションと混ぜる。それ以外の手順は一緒。

そして、完成。


解痺薬 品質?

リスク草と初級ポーションを調合して作られた薬。麻痺を治す。


……簡単過ぎないかな?こんなの何のスキルも持たずに出来そうだけど。それとも調合LV1を持ってるから成功しているのかな?

まあ、いいや。早い所成功しなかったら、犬が自然に治っちゃうだろうし。

さて、飲ませてみますか……


解痺薬を飲ませると、直ぐに痺れが治り犬は立ち上がる。

そして犬はこちらを睨み付けてくる。

ただ、威勢は良くても怖がっているのがバレバレだ。

なので、私は麻痺薬を取り、掛ける振りをする。

すると犬は直ぐに逃げ出した。


噛まれた所に初級ポーションを掛け、再び拷問状態に戻る。

……もうちょっと犬と遊んでれば良かったかなぁ。テイムLV1とかのスキル取っとけばなぁ。望んではいなかったけど、もう一回来ないかなぁ。



あれから、数時間。魔物も出て来ず、もう何も起きないままだった。

私は我慢、ポーション、調合、我慢、ポーション、調合を繰り返し、やっと夜が来た。

火傷も夜になって数分で治り、初級ポーションで身体を全快させる。

さて、出発しよう。次の日が昇る前に何処か遮光出来る所を見つけないと。

と思っていると、この世界二匹目の魔物に遭遇する。二匹目の魔物は荒野の方からやってきた。


タイラントリザード LV?

竜族の血を宿す蜥蜴型の魔物。成体になると全長が20mを超す。


……は?

私を目指して走って来る魔物は20mとまでは行かずとも10mは優に超している。大きさ的には子供らしい。

いやいや、こんなの蜥蜴じゃねえよ!恐竜だよ!!子供とか関係ねえよ!!


「ひぃぃぃぃぃぃ!!」


私は必死で逃げる。日が落ちた後で本当に良かった。

とはいえ、暴君蜥蜴は足も速く、このままでは追い付かれそうだ。いや、私の足が遅いのかな?


「何か使える物無いかな?ええと、何かあったっけ?」


体術……無理!舞踊……意味無し!調合……やる余裕無い!アイテム……効きそうに無い!気配察知……もう、目に見えてる!生活魔法……やってみるか。

私は周りの草に火を点けながら逃げる。そして、火と煙で姿を隠すと、身体を沈め方向転換し横に逸れて身を隠す。

気配察知より気配隠蔽が欲しかったと思いながら、必死で心を沈め気配を無くそうと努力する。

夜で暗かった事も味方し、火の周りを見て回った恐竜は私を見付ける事が出来なかった。

恐竜が諦めて荒野に戻るのを確認し、一息吐いた。

……ふう、この世界命の危険あり過ぎ。調合が簡単だったり、何も法則とか知らないのに魔法が使えたりするのに、アンバランス過ぎる。いや、逆にバランス取れてるのかな。

ただ、今迄不運だった私に運が向いてきたようだ。

恐竜から逃げる時に、草が直線的に無くなっている部分を見付けた。あれは道に違いない。

ちょっと通り過ぎてしまったけど、あれを辿れば街か何かに着く筈だ。

私は決してもう一度恐竜を引き寄せないように注意しながら戻って道に合流した。


さて、道は荒野があった方とは直角に草原を横切っている。右に行くべきか左に行くべきか。

まあ、悩んでも答えはわからないので左を選んだ。何故左かと言うと左が西だからだ。

出来るだけ太陽が昇るまでの時間を長くしようというこの思い、わかって頂けるだろうか?


だけど、私のその努力は無駄に終わった。その半日後、私はまだ草原に居た。

東から昇ってくる太陽、そして遮蔽物の無い私の周り、二日目の拷問が始まる。



少し時間を遡る。

左へ道を進んだ私は、数時間後狙い通りの結果を迎えた。

民家が見えたのだ。私は喜んでそこに向かった。

そしてそんな私に飛んでくる矢、私は慌ててそれを避けるが、どんどん飛んでくる。

避けるのは無理と見た私は、何とか体術と舞踊を駆使してそれを弾き防ぐ。やっとこの二つのスキルが活躍した。LV3にしたのにここまで全く役に立たなかった二つのスキルが報われた瞬間だった。

ただ、スキルは報われても私はピンチだった。どう見ても十人以上の弓手に囲まれている。矢を弾きながら周りを観察すると、草むらに身を隠した人影が見えた。こんなのに気付かないなんて数分前の私は浮かれ過ぎである。気配察知も全然使いこなせて居なかった。

数十、いや百本以上の矢を弾いた所でやっと矢が飛んで来なくなった。途中防ぐのに失敗して、二本だけ矢を食らっている。ただ、骨の身体に矢は効果が低いようで、そこまでダメージは無い。物理耐性の効果もあるかもしれない。

そして、襲撃者が姿を現す。


ゴブリン LV?

鬼族の第一階級。色々な鬼に進化する可能性を持つ。


角を頭に持つ多様な色の肌を持つ子供が、丁度十人立ち上がり私の前方と横を扇状に取り囲んだ。全員が恐怖と怒りが半々に混ざった様な顔をしている。

人影が見えて、矢で狙われた事から、魔物では無い事は予想していたけど、人族でも無く魔族だった。

もしかして、同じ魔族でも種族が違えば敵対しているんだろうか?


「あの、ごめん!私は戦うつもり無いんだけど!」


私の言葉にゴブリン達全員が反応した。ゴブリン達の顔の怒りが恐怖を上回った。


「ふざけるな!そっちから戦争を仕掛けて来た癖に!」


やばい、二つの種族は戦争中で、しかも死霊族が侵略者らしい。

ゴブリンの意見しか聞いてないので真実かはわからないけど、鬼族側がそう思っているのなら今の状況には真実かどうかは関係無い。

……こうなったら、もうこれしかない。

三十六計逃げるに如かず!

私は、弓を置いて短剣を構えたゴブリン達を横目に、道を反対方向に走って逃げ出した。

私を囲む時に後ろを空けていた事からも判る様に、ゴブリン達の目的は私を殺す事では無く、私から村を守る事だったようだ。

逃げた私を追ってくる事は無く、私は無事逃げられた。


初めての知的生物との遭遇で色々な事がわかった。

良い事は、言葉が通じる事、体術LV3と舞踊LV3は思ったより優れている事。

悪い事は、鬼族と死霊族は戦争中な事、この辺りは鬼族の国な事。

おそらく荒野の反対側が死霊族の街なんだと思う。

多分ここから死霊族の街に行く為には、鬼族の領域を通るか、荒野を通るしか無いと思う。もしかしたら、他の道があるかも知れないけどそんなの探してたら日が暮れる、いや日が明ける。

でも、荒野は暴君蜥蜴が怖い。絶対あいつのせいで他の魔物を見なかったんだと思う。

そして鬼族の方もかなり危険だ。

多分、さっきの十人であれば、私は勝てたと思う。100Pで強化した私は思ったより優れているようだ。

でも、進化した鬼族が他に居ないとも限らない。というか絶対居るだろう。強化していても、私はLV1の第一階級のスケルトンだ。絶対進化した奴、それも複数とかになると勝てないと思う。


そして私は選んだ。道を東に向かう事を。

荒野も鬼族も怖い私は道を東に進んだ先が、私の予想と違い死霊族の国、もしくは敵対していない国に繋がっている事に賭けたのだ。

……臆病者と笑うがいいさ!



そして、今に戻る。結局夜の間に他の街に着く事も無く、草原を出る事も出来ず、私は光に焼かれている。

ああ、こんな事なら半日使って身体全部が隠れる大きい穴でも掘ってれば良かった。

再び、我慢、ポーション、調合、我慢、ポーション、調合、偶に魔物、ポーション、調合と繰り返す私。

今回は偶に魔物も襲ってきた。犬や角が生えた兎、足が六本の馬やら、大きい蚯蚓等が居た。

六足馬は中々強く苦戦したが、最後は麻痺薬を使う事で勝った。

ちなみに、どの魔物も命は奪っていない。全部逃がしている。

別に殺す事に抵抗があるわけでは無い。ただ、なんとなくだ。

まあ、犬とか角兎は自分のスキルの確認も兼ねて、ダメージ与えたらポーションで回復してやるを繰り返したりしている内に、怯えて逃げていってしまったりした訳だけど。

日光と火傷の痛みにイライラして、八つ当たりした訳ではないよ?

……ごめんね、犬さんと兎さん。


そして、夜がやってきた。

そういえば、私はお腹も空かないけど、眠くもならない。別に眠る事が出来ない訳では無さそうだけど、眠らなくても大丈夫そうだ。今の私の状況からすると、かなり有り難い。

さて、そろそろ、日光に焼かれるのは勘弁して欲しい所なので、何とか遮光出来る場所を探そうと思う。

私は道に沿って、ジョギング程度のスピードで東に進む。


途中、道が分かれていたりする事もあり、その時は直感で適当に決めて道を選んだ。

こういう時直感スキルを持っていたら、正解が選べたりしていたのだろうか?いや、どちらかというと幸運スキルか?

結果的に私は道を間違った。この時別の道を選んでいたらどうなっていただろうと未来の私は振り返る事になる。

……とか言ってみたりして。そんな事は別に無いよ?いや、無いとは限らないけど、今の私にはわからないだけだけど。


そうやって適当に分かれ道を選び、進みながら数時間、もう直ぐ太陽が昇ってくるという時間になった。

私は草原を出る事が出来ず、また拷問が始まるのかと憂鬱になる。

そして、私を照らす朝日、半ば諦めてリュックでの防御すらせずそれを眺めていたら、ある事に気付く。

光による痛みが小さい。

痛みに慣れたのかな?と思っていると、暫く光に当たっても火傷にもならない事に気付く。

まさかと思い、ステータスを開く。


キリィ

種族 死霊族 LV1 

階級 スケルトン(1)

HP F  MP F

STR F  VIT F  DEX F  AGI F  INT F  MEN F

スキル 体術LV3、舞踊LV3、生活魔法LV1、強化魔法LV1、調合LV1、鑑定LV1  

耐性 状態異常耐性LV2、闇耐性LV1、光弱点LV2、火弱点LV1、物理耐性LV1、魔法耐性LV1


おお!状態異常耐性がLV2に上がって、光弱点がLV2に下がってる!地味にVITもFになってる。

種族LVは上がってないのに、耐性も能力値も行動で上がる様だ。

二日間の拷問は意味があったらしい、それが何より嬉しい。

このまま光から隠れず我慢していれば、いずれ光弱点が無くなるかもしれない。状態異常火傷にはならないみたいなのでそっちのLVはもう上がらないだろうけど。

私は、身体中が痛いのを逆に喜び、両手を広げ日光を浴びた。……Mでは無いよ?


そんな喜びの絶頂に居る私の耳に、喧騒が聞こえてくる。

その方向に目を向けると、普通の馬が引く馬車がこっちに向かって逃げていて、それを馬に乗った男三人が追い駆けている。

その男達と馬車を引く御者を鑑定すると、


人間 LV? 職業?

人族。能力が平均的で低い。


うん、見ればわかる。

そんな事を考えている間にも馬車は私が居る方に近付いている。

さて、どうしよう?見た感じ男達は兵士とも盗賊とも冒険者とも取れる格好をしている。

定番では、馬車の中は王子様か姫様でそれを襲う盗賊から助ける場面だと思うけど、もしかしたら馬車の方が犯罪者とかかも知れない。御者は普通の人に見えるけど。

此処は放っとこうかな?と思った所で、馬車の中の人の姿が偶然見えた。


可愛い!

それは可愛い女の子だった。


そして、その直ぐ後に男の一人が放った矢が馬車を引く馬に当たり、馬車が転倒する。

私はそれを見ると同時に飛び出す。いや、姿が見えると同時に身体が動いていた。

私は馬を降りて転倒した馬車に向かう男達の前に躍り出る。


「その顔、死霊族か。俺達はお前に用は無い。其処を退け」

「悪いがそれは聞けないな」

「……おい、あいつの鑑定が出来るか?」


私が強気に返すと、警戒し始めた先頭の男が他の二人の内の一人に尋ねる。


「出来るっす、LV1のスケルトンっす」


それを聞くと先頭の男は呆れた様な顔をして私の方を向く。


「三対一で自信満々だからどれだけの実力者かと思ったら、只の馬鹿か。お前等早くその馬鹿を退けろ」

「おう!」「はいっす!」


一歩後ろに控えていた二人が前に出て来る。一人は剣、もう一人は槍を持っている。

私はその二人に間に飛び込む。

二人はその私に対して剣を振り、槍を突いて来る。

私はその剣と槍を片手ずつで抑え軌道を変えると、相打ちさせる。

そしてそれに驚いている所を手刀で気絶させる。


「なっ!こいつ等はLV15だぞ!それが一瞬でやられるなんて、てめえもしかして偽装スキル持ちか!?」


LV15だったらしい。思ったより上手く行った。体術と舞踊スキル大活躍である。

ふははは!可愛い女の子は私が守る!盗賊なんかに渡しはしない!(盗賊と決まった訳では無い)


「ふっ、諦めてこいつ等を連れて引けば、追いはしないぞ」

「ちっ、これは高いから使いたくなかったんだがな、仕方ねえ」

「え?」

「食らえ!」


そいつが懐から取り出したのは丸い石だった。

そして、そいつの言葉と共に石から光が放たれ、私は光の奔流に飲まれる。


「うぎゃああああー!!」


熱い!痛い!熱い!痛い!熱い!熱い!痛い!!

光は私の身体を容赦なく焼き尽くす。

光が治まった時、私は死の一歩手前だった。前に瀕死まで我慢したとか言ってたけど、あんなの全然瀕死じゃなかった事を知った。

私は満足に動かない身体を必死で動かしリュックから初級ポーションを取り振り掛ける。


「ちっ、これで死なないとは。階級も偽装してやがったのか?まあいい、止めを刺してやる」


剣を持って近付いてくる男。

ポーションも効き目が薄く、身体は殆ど動かない。

剣の間合いに入り、斬られる!と思った時、剣が飛んで来た。


「「は?」」


私と男の声が揃う。

その剣は男に向かって飛び、男はそれを剣で弾くがその勢いに体勢を崩される。

チャンス!

私は再び自分の身体を鞭打つと、リュックから麻痺薬を取り出し男に振り掛ける。

麻痺薬は男の身体を痺れさせ、男は剣を取り落とす。

そして、ありったけのポーションでなんとか動けるレベルまで身体を治すと、痺れて動けない男を手刀で気絶させる。


やっばい、マジで危なかった。油断し過ぎたな、あんな魔法を使えるなんて。

多分光弱点がLV2になってなかったら死んでたし、魔法耐性LV1が無くても死んでたと思う。

運が良かったな。何か援護もされたし。

ん?そういえば、あの剣なに?

私は剣が飛んで来た方向に目をやる。

そこには血を流しながら、手を伸ばした格好で倒れた女の子がいた。

やっばい、忘れてた!この娘が見えたから助ける気になったんだった!

私は急いで初級ポーションを作ると女の子の傷に掛ける。すると傷は治り、女の子も気絶してるだけで命に別状は無さそうだ。

危なかった。最初の目的を忘れてた。


でも、やっぱり可愛いなぁ。

怯えてる顔と気絶した顔しか見てないけど、笑ったらもっと可愛いだろうなぁ。

うん、可愛いは正義だよね。


私は、男達三人をそいつらの着ている服で縛り上げると、女の子を膝枕しながら目覚めを待った。

ちなみに、馬車が横転した時に気絶し、軽傷ながら怪我した御者の事に気付いたのは、女の子が目覚めた後だった。

ごめん、私の親切心は男には発揮されないんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ