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過ち
しかし神は大きな過ちを冒していた。
人に与えた本能。ここに恐怖という概念を入れ忘れていたのだ。
弱肉強食の世界において恐怖とは即ち死。この死に対する恐怖を人は持ち合わせていなかったのである。
捕食する為には狩りが必要。狩りを行う為には武器が必要。ただ欠落しているのは、恐怖心。多勢に無勢であっても、臆する事なく戦闘を開始するのだ。
戦闘と言っても、原始的な武器での戦闘となる。言語を用いない人にとって、一度乱戦になると敵味方の分別はほぼ皆無となる。しかも後方からの投石支援など、敵味方がわからないのだから、全くの無意味な攻撃であった。その為人は、鋭く尖った木の棒や大きく削られた無骨な石の塊で肉弾戦をする以外、戦闘方法を知らなかったのであった。
戦果は多くが引き分けとなった。いや、引き分けと言うよりも、負傷者、死者が続出し、双方が痛み分けという形で、動かなくなった肉塊を持ち帰るというのが精一杯だったのである。




