9つのお題より:『鉄籠の中の妖精たち』
▼頂いたお題
ハーブ園
オムライス
プリズム
永久機関
塩
弾幕
右目
薪
グリニャール試薬
※プリズム:光を屈折させる透明角柱?
※弾幕:多数の弾丸を一斉に発射し、弾丸の幕を張ること? 大量のばらまき。接近阻止や殲滅に使う?
※薪:燃料として用意された木や木材、廃材?
※グリニャール試薬:反応を見るために必要なチェック薬品? ちょっとそのまま使うのは難しかったため、お題上では【試薬】という扱いに。
▼創作したもの(約2245文字)
労働者階級たる下級市民として、劣悪環境の中で働き蟻のように都市へ奉仕してきた主人公。いつか上級市民権を獲得し清潔な場所で料亭を営むことを夢見ている。
しかし、この世界ではひとは生まれた場所に応じて役目が課せられ、下級市民は死ぬまで下級市民。親や兄弟はそれでも夢を叶えようと違法業に手を伸ばし、罰せされ追放処分となった。
才能や努力が評価されることはなく、都市法は絶対の真理。夢を抱いてもそれが叶うことはない……でも主人公は未熟故に諦めきれずにいて。
いつものように工場へ赴き、謎の鉄製品を加工する仕事をして帰ってきた、ある日のこと。
主人公は街で行き倒れている上級市民の学者らしき人物を助けた。学者は主人公に謎の【試薬】を手渡し、遺言を残して息絶えてしまう。
その後、政府からの追っ手に襲撃される主人公。その過程で、主人公は破裂した謎の【試薬】を浴びたことで、機械以上の高度な演算を行う能力を獲得。副作用で【右目】の色が変貌してしまう。異質な力に戸惑い、扱いこなせずに気絶した主人公は、そのまま政府の者に拉致される。
主人公は遥か上層にある、絵に描いた楽園のような場所へと連れて行かれる。
そこには花のような3人の少女が暮らしていた。彼女達は、光を増幅させ膨大なエネルギーを生み出す特殊な【プリズム】を体内に備え、ある機械の動力となる人型エンジンだった。
主人公は、この少女達の体内の【プリズム】の質を高めるべく、【右目】に得た測定能力を用いて様々な実験を行うことを強制されることになる。
かくして、ひとつの館で三人三様の個性をもつ少女たちと生活を共にすることとなった主人公。過酷な実験の合い間にあるささやかな日常を通じて、少女達と絆を深めていく。
やがて少女からの提案で「客が少女3人しか来ない料亭」を営むことになり、違ったかたちではあるものの、念願の夢を叶えた主人公。その後も母の形見であるレシピの【オムライス】を作り上げる夢を叶えたり、親兄弟の夢であった【ハーブ園】を少女達と共に設営するなど、充実した日常を送っていく。
やがてついに少女たちの育成は完了してしまい、政府の者に引き渡すこととなる。その過程で主人公と少女たちは喧嘩をし、そのまま別れてしまうことになった。
主人公は、手【塩】に掛けて育て、絆を結んできた少女たちが姿を消したことで、改めて孤独と彼女達の存在の大きさを認識し、意気消沈する。
そんな中、少女達が残した手紙を発見した主人公。そこには、最後まで自分を玩具のように弄び、可愛げをみせることがなかった少女達の、素直な感謝の気持ちが記されていた。
喧嘩別れをしてしまった彼女達にただ一言謝りたくて、主人公は効果が切れかけている【右目】の力を酷使して監視網を突破していき、少女達が送られたという禁断の外の世界へと足を踏み出す。
そこは、浴びたものを【塩】の柱に変える光線を放つ、白と光で構成された怪物に、人間の作った鉄巨人が立ち向かっている戦場であった。
外の世界は都市よりもさらに過酷な場所であったが、主人公はそこで生き別れになっていた親兄弟と再会することができ、世界の真実を知らされる。主人公たち下級市民が都市で作りあげていた鉄製品は、あの鉄巨人の部品だったのだ。そして少女達は、あの鉄巨人に搭載される、使い捨てのエンジンであることも。
主人公は、少女達が消耗品として消費される【薪】に過ぎない、儚い存在であったことを知る。かけがえのない命ひとつも、【弾幕】のように大量にばら撒かれ。白い怪物の放つ光へ対抗するため、星屑のごとく燃え尽きながら戦う、無数の鉄巨人と動力源の少女たち。
そんな戦場を前にしても、主人公の決意は変わらない。
主人公は危険を顧みず、地獄のような戦場に飛び出て、つい少女達を探し出す。しかし彼女達は既に戦いで命のほとんどを燃やし尽くし、今にも朽ち果てようとしていた。主人公が告げた謝罪の気持ちと、3人を失いたくないという真っ直ぐな想いに少女達は感化され、愛しい彼を守るために最期の力を振り絞って融合し、敵を撃退する。
主人公は朽ち果てた鉄巨人の中から少女達を救い出そうとするが、そこに3人の姿はなく、代わりに3人の残滓を感じさせる一人の少女が抜け殻のように残されていた。彼女に触れると、3人が残した想いが主人公の心に伝わってくる。それは甘い感謝の言葉ではなく、いつものように手厳しい罵倒であり、叱咤であり、そして切なそうな願いでもあった。
旧来のものとは違う【永久機関】を持つ新型の鉄巨人が、新たに戦線へ投入され劣勢の戦況を覆していく陰で。3人の少女がそれぞれの力の残りかすで作った、新たな命である少女を抱え、主人公は密かに都市へと帰還していく。
下級市民としての今まで暮らしていた場所は既に失われており、周囲には知り合いもいない。また汚い工場に出て、錆び付いた機械のよう働く生活に戻り、明日の糧も保証されない不安定な日々を送ることになる主人公。
けれど、その心は孤独に苛まれてはいない。
なぜなら、【薪】のように燃え尽きた3つの命の灰から生まれた、新しい命である一人の少女を預かっている身であるからだ。
誰かさん達のように乱暴でわがままでいじっぱりで、計算高くて賢しくて、自分を玩具のように弄び、でも誰かさん達とは違って少しだけ可愛げを見せられるようになった、その少女と主人公。
二人は並んで手をつなぎ、階層都市の雑踏街へと姿を消していく。
▼他タイトル案
燃え尽きた鉄巨人の受胎
楽園も命も灰になりて
灰燼と燃焼の果て
人型動力源の灰燼
鉄と炎と灰色の命
灰の中のエンブリオ