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Phantom Buster MIYU  作者: ともゆき
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第5話

「…どうやら、アイツらしいな」

「そうね。瀬川美由、彼女は前からそうじゃないか、と思っていたんだけど」

「だろうな。彼女は何も言っていなかったようだけど、彼女以外考えられないな」

「…それで、一体どうするつもりなの?」

「決まっているだろう。邪魔者は始末するしかない」

「…全く。あんな可愛い女の子までやらなきゃいけないなんてね…」

    *

 例の事件――美由のクラスメイトが美由に襲い掛かる事件――から数日が過ぎたある日のこと。

 美由が高校に来て、HRの終わりかけた時、不意に担任が、

「あ、そうだ。そういえば今朝、三上先生から連絡があって、今日は急用が出来たので休ませて欲しい、とのことだった。そのため、今日の1時間目は自習と言うことになる」

 それを聞いた瞬間、生徒がざわめきだした。

「…どうしたんだろう、三上先生」

「急用って何だろうね…」

 と、

「静かに! とにかく今日の1時間目は自習と言うことになる。いいな」

 そういうと担任の教師は教室を出て行った。

 だが、事件はこれだけではすまなかった。


 さらに昼休みが終わり、午後の最初の授業が始まろうとしていたときだった。

「次は…冴木先生の授業ね」

 その名前を聞いた美由は顔をしかめる。

 三上と冴木の二人が扮してから半年経った今でもどうも馴染めなかったのだ。そのせいかどうか知らないが、三上や冴木の授業となると結構美由が当てられることが多いのだ。

 幸い今日は三上が休みという事でその心配はなかったのだが…。


 そんな事を考えていると、始業のチャイムが鳴って間もなく、教室には別の教師が入ってきた。

 一体何事か、とその場に居た生徒達全員が思った。

「…今日の冴木先生の授業ですが、実は今朝、冴木先生から今日は休ませて欲しい、と言う連絡がありました。ですので、今日の授業は自習とします」

「え〜?」

 その瞬間、なんとも言いようのないどよめきが起こった。

「…そういえば今日、三上先生も休んでたよね」

「珍しいわね。一日に2回も自習があるなんて…」


 その自習中のとき。

(…それにしても…)

 美由はふと思った。

(…なんでふたりとも急に休んだんだろう…)

 いや、勿論偶然なのかもしれないが、美由にはそれがどうも「偶然」とは思えなかったのだった。

 先日の生徒達が大量に休む事件の時は美由が妖魔を退治してからはそういった出来事も無くなったのだが、とは言えあの時何故突然生徒達が大量に休んだのか、美由自身色々と調べてみたのだがわからない部分が多かった。

 さりげなくあの事件の際に美由に襲い掛かってきた生徒達に聞いても――美由の友人である千恵の時と同じように――何も覚えていない、と言っているのだ。

(…もしかしたらまだあたしの知らないところで、まだ何か起こっているんじゃ…)

 そこまで考えた時、終業のチャイムが鳴った。

「あ…、終わりか…」

    *

 そしてその夜のことだった。

 美由たちはTVのニュースを見ていた。

「…それでは次のニュースです。今朝早く、都内の駐車場でPBの遺体が発見され、警察が捜査を始めました」

「…PBの遺体ですって?」

 思わず由紀子が声を出した。

「…なんか最近増えてきているな」

 義和も言う。

 そう、義和の言うとおり、最近美由の住んでいる街の周辺でPBが死体で発見される、と言う事件が次々と起こっていたのだ。

「…そうね。確かにPBの仕事と言うのも場合によっては命を落とすこともあるから危険ではあるけれど、こうも命を落とす人が多いなんて…」

 由紀子が言う。

「何だか聞いた話だと、死体はどれもこれも胸を一突きにされていたそうだが、どうもそれが刃物とかそういったもので突かれた様な傷じゃないらしいんだ」

「どういうこと?」

 美由が聞く。

「うん。お父さんも話を聞いただけだからよくわからないんだが、杭だかそういったようなもので突かれた様な傷らしいんだ。そんなので突かれたら、まあ、間違いなく即死だな。PBといっても中身は普通の人間だからな」

「怖い…」

「そうなると、かなり手強い相手であることは間違いないだろうな。よっぽど心してかからないといけないだろうな」

「美由も気をつけなさいよ。あなたはまだPB初めて2年も経っていないんだからまだまだ不慣れな部分も多いんだし、その、胸を刺されて死んだPBの中には二十歳位の女の人もいた、って話よ」

「わかってるわよ」

 そんな親子の会話をしている前でTVがニュースを続けていた。

「…また、この場所では先日も死後半年以上経過した、と思われている白骨死体が発見されており、警察では事件の関連を調べています」

「…この事件もそのひとつかしら」

「まさか、いくらなんでもそんなことはないだろう」

    *


 その翌日。授業のチャイムが鳴り、教室に昨日のことが何もなかったかのように三上が入ってきた。

「きりーつ! 礼!」

 そして生徒が座るとある生徒が、

「…三上先生、どうしたんですか?」

「…どうしたって?」

「いえ、昨日急に学校を休んだりするから」

「ああ、それか。…いや、大した事じゃない。あくまでも先生の私用だったから、君たちは心配しなくていい」

「そうですか…、いや、冴木先生もお休みだったからどうしたのかな、って思って」

「ああ、その事も冴木先生に心配しなくていい、と伝えておいてくれ、と言われていたよ。…それじゃ授業を始めようか」


 そのときだった。

「…!」

 美由は全身にあの「悪寒」を感じたのだった。

「…? どうした、瀬川」

 三上が美由に聞いた。

「い、いえ、何でもありません」

 口ではそういったが、美由は何か得体の知れない不安を感じた。

(…なんだろう、この感覚は…、それに…三上先生の目…)

 そう、美由は三上が話しかけてきたとき、自分を見る目に何か冷たいものを感じたのだった。

(…三上先生のあたしを見る目、何か普通の感じじゃなかった。一体どういうことなの?)

 そのときだった。

(…まさか!)

 美由はひとつだけ思い当たる可能性があった。

(…ま、まさか、そんな馬鹿なことはないわよ…)

    *

 そして翌日の朝のことだった。

 登校前に少し時間があった、という事で美由は何気なくTVをつけた。

「…それでは次のニュース。先日発見された2体の白骨死体の身元が判明し、捜査を始めました」

「ふうん…」

 ところが次の瞬間、美由が創造もできなかった事をそのニュースキャスターは言った。

「…警察によるとこの二人は、都内在住の三上公平さんと冴木法子さんの二人と見られており、警察では二人が何らかの事件に巻き込まれたと見て捜査を始めました」

「…三上と冴木、って…、ウチの学校の先生と同じ名前じゃない」

「…また、三上さんと冴木さんはこの春に都内の高校に赴任の予定であり、警察では関連を調べております」

 そして、その死体で見つかった、と言う二人の顔写真がTVの画面に映った。

「…え…、嘘…」

 思わず絶句する美由。

 そう、その二人の顔写真は紛れもなく、自分の学校の教師である三上公平と冴木法子の写真だった。

(…ま、まさか、そんなことは…)

 この二人は間違いなく、昨日自分が授業を受けた教師である。その教師が半年も前に死んでいたのか?

(…これって、一体どういうことなの…?)

 ニュースが終わったあとも美由は暫く呆然としていた。

「…美由、どうしたの?」

 そんな美由を見て由紀子が話しかけてきた。

「う、ううん。なんでもないの。行って来ます」

 そう言うと美由は玄関を飛び出していた。

    *

「美由、おはよう」

 クラスメイトが美由に話しかけてきた。

「あ、お、おはよう」

 慌てて挨拶を返す美由。

「…どうしたの、美由? なんか考え事しているみたいだけど」

「うん? い、いや、なんでもないの」

 美由は他人を不安にさせたくない、と思ったからか「例のこと」については話さないでおこうと思ったのだった。

 いや、勿論今朝のニュースを見ていた生徒もいたかもしれないが、しかしまだ何の確証も得ていないこともあるし、自分の考えもまだまとまっていないところがあったからだ。


 暫くしていると教室に冴木が入ってきて、授業が始まった。

 今朝のあのニュースを見てからだろうか、美由は冴木や三上が何だか得体の知れない人物に思えてきたのだ。

 勿論、あのニュースはたまたま同姓同名の人物の死体であり、写真と言うのも見ようによってはそっくりなものに見えてしまう部分もあるのだろうが、しかしそんなに偶然が重なるだろうか?

(…一体、三上先生や冴木先生、って何者なんだろう…)

 美由はその日、授業が終わるまでこの事を考えっ放しだった。

    *

 その夜。

「お父さん、お母さん、ちょっといい?」

 そう言うと美由は義和と由紀子と共にリビングルームに座った。

「…一体どうしたんだ?」

「ちょっと気になることがあって…」

「気になること?」

「…実はね…、三上先生と冴木先生のことなんだけど…」

「…確かお前の学校の先生だろ? その先生がどうした?」

「実は…」

 そう言うと美由は今朝から思っていた事を義和と由紀子に話した。


「…それは本当か?」

 思わず聞き返す義和。

「…まさか同じ名前で容姿も全く同じような人の死体が見つかるなんて…」

 由紀子も言う。

「うん。だからあたしにはどうも偶然には思えないのよ」

「しかし、だとしたら、どうしてそんな事をやったんだ?」

「よくわからないけど、もしかしたらここ最近のPBが殺されている事件となんか関係があるんじゃないか、って思って…」

「…そうかもしれないが、大丈夫なのか? ここまで来るともうお前の手には負えなくなるかもしれないぞ」

「でもあたしの学校の先生だもん。どうしても放っておけないわよ」

「…まあ、お前がそこまで言うなら調べるのは構わないが…」

「本当に気をつけるのよ」

「うん。わかったわ」

    *

 そしてその次の日の夕方だった。

 校舎の外れにある体育倉庫の扉の前に美由は立っていた。

 そして辺りを見回すと扉を開け、その中に入っていった。

 薄暗い室内にはどこの高校でもあるようなハードルやバレーボールに使うネット、ボールなどが置いてある。

 美由はその体育倉庫の片隅に近づくとボールが入っているかごの奥に手を入れるとその中から一振りの剣を取り出した。そう、例の神剣である。いつもは家に置いてあるのだが、今日はどうしてもやりたい事があったために、家から持ってきたのだ。

 勿論いくら美由がPBだと言うことをみんな知っているとは言え、こんなものを持ち歩いていたら何を言われるかわかったものではないから、今日は早めに学校に来て体育倉庫の中に隠しておいたのだ。

 そして美由は辺りを見回すと体育倉庫を出て、駆け足で校門の外に出た。

 そして物陰に隠れると、校門の様子を伺っていた。


 それからどのくらい待っただろう。

「…出てきた…」

 美由が呟いた。

 そう、校門から三上が出てきたのだった。

 美由はその後を悟られないように着いて行く。

    *

 どのくらい歩いただろうか。

 不意に美由は三上の姿を見失ってしまった。

「…しまった!」

 美由は三上を見失ってしまった場所に来ると辺りを見回す。

「…さっきまではちゃんとつけていたのに…」

 そう、このあたりは相手を見失うほど複雑に道が入り乱れている訳でもないのに、どういうわけだか、見失ってしまったのだった。


 と、そのときだった。

 不意に、美由のかけている神鏡の宝玉が光った。

「…これは…」

「…何をやっているんだ、瀬川?」

 美由の背中で聞き覚えのある声がした。

 慌てて後ろを振り向く美由。

「…み、三上先生…」

 そう、美由の目の前に三上公平が立っていた。

「…何をやっているんだ、瀬川?」

「い、いえ、なんでもないです」

「なんでもないだと? それが人を尾行していたものの言う言葉か?」

「尾行、って…」

「…お前がついてきていたのは途中からわかっていたんだ」

「う…」

 それを聞いた美由は黙り込んでしまった。気づかれていたとは美由も考えていなかったのだ。

「瀬川、やっぱりお前、PBだったのか」

「そ、それは…」

「あの学校に教師として来た時、何か得体の知れない感覚があったんでね。それから色々と調べてみたら、どうやら学校にPBがいる、と言うことがわかったんだ。そしてお前がPBだと言うことがわかったんだ」

「じゃあ、三上先生は…、い、いや、あなたは本当の三上先生じゃないんですよね?」

「…そうか、そこまでわかっていたか」

 美由は神剣を抜こうとした。

 と、そのとき後から何者かに手を抑えられて、逆手にねじ上げられてしまった。

「い、痛いっ!」

「無駄な抵抗はやめなさい、瀬川さん」

「その声は、冴木先生…」

 そう、冴木法子が美由を後から捕まえていたのだ。

 彼女は女性とは思えない力で美由のねじ上げた手に力をこめる。

「…!」

 その痛さに悲鳴も出ない美由。

 それを見ていた三上がゆっくりと近づく。

 次の瞬間、美由の鳩尾に三上の拳が当たった。

「…うっ…」

 美由が足から崩れ落ちる。

 しかし、美由の「本能」がそうさせたのだろうか、無意識の内に、自分の首にかけてある神鏡の紐を引きちぎると、それを遠くに放り投げていた。

 おそらくそれを見つけた誰が助けに来てくれるであろう、と思って。


「…おねが…い…、だれ…か…たす…け…て…」


 そして美由は気絶してしまった。


(第6話に続く)


(作者より)この作品に対する感想等は「ともゆきのホームページ」のBBSの方にお願いします。

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