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八犬伝異聞録 蒼き牡丹   作者: 皆麻 兎
第三章 犬士達が集う一方で
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第12話 戦の世における理

 上州・白井――――――この場所を一つの行列が通り抜けていた。

「関東管領じゃ・・・!」

扇谷定正おうぎがやつさだまさ様のお通りだ・・・!」

行列を見つけた人々は、次々に地面へ頭をひれ伏す。

幾人もの人々がその周囲を取り囲む中、関東管領の行列が通り抜ける。鷹狩りの帰りである定正は、狩猟する服装をし、馬にまたがっている。そして、連れの家来が彼の弓矢を携えていた。


「お頼み申す!!」

その時、一人の人間によって行列の足並みが止まる。

そこには、刀を自分の目の前に差し出し、こうべを垂れている青年――――――犬山道節忠興いぬやまどうせつただともの姿があった。

「お主、何奴じゃ!?」

そんな彼を見た定正の忠臣・巨田助友おおたすけとも

彼は、鋭い視線でひざまずく浪人を睨む。しかし、それを物ともせず、頭を上げた道節は口を開く。

「はっ!拙者、山中与太郎と申す者。この度は、()の足利家の宝刀・村雨丸を、関東管領殿に献上致す所存で、参上つかまつった…!」

「ほぉ…」

助友は道節の目の前に置かれている、村雨丸に視線を移す。

「どうぞ、お納めください…!!」

「…待て」

刀を欲したと判断した道節は、村雨丸を持って定正に近づこうとするが、助友がそれを制止する。

「…もし、その村雨丸が本物ならば…人を斬った際に、水が迸ると聞く。…そうだな…」

何か良いものはないかと、辺りを見渡す助友。

「…試しに、こやつを斬ってみよ」

「へ…!?」

定正の家臣は、そう言って地面にひれ伏していた老人を指さす。

「…承知した」

それを聞いた道節は…一瞬だけ考え込んだものの、すぐにそれを承諾した。

彼は鞘から村雨丸を取り出し、その刃先を地面に座り込む老人に向ける。

「…御免」

「ひ…ひぃぃぃぃぃ…!!!」

刀を両手で握りしめた道節は、少しずつ相手ににじり寄っていく。

殺される事を知った老人は、全身が震え恐怖に飲まれていた。

そして、刀を構える音が静かに響く。

定正や助友が見守る中、老人を睨みつける道節。しかし―――――――――――

「ひひぃぃぃぃーーーん!!!!」

馬の鳴き声が聞こえたかと思うと…一瞬の内に、定正が落馬していたのだ。

彼の家来達が目を見張る中、地面には定正を押さえつけている道節の姿があった。そう、彼は一族の敵である扇谷定正に復讐するためにこの白井の地でその機会をうかがっていたのであった。

「扇谷定正っ!!!!某は、貴様に滅ぼされた豊島の忠臣・犬山道節忠興!!!」

定正の首筋に刀を近づけたまま、彼は荒々しい声で名乗る。

「名刀・村雨丸の切れ味…己の身で味わうがいい!!!」

そう言い放ったのとほぼ同時に、道節は定正の喉笛を切り裂いた。

その瞬間――――血が迸り、その返り血が彼の顔面や服に飛散する。

「君父の敵…今、討ち取ったり…!!!」

少し息切れをしてはいたが…念願の目的を果たした道節は、立ち上がって刀を振り下ろす。

刀についた血を弾くために振るったその一振りにより、周囲に水がほとばしった。

本当ならば、これで終わりのはずであった。しかし―――――――――――

「…愚かなり!犬山道節忠興いぬやまどうせつただとも!!!」

「何!!?」

主が殺されたにも関わらず、高々な声であざけ笑う助友。

それを見た瞬間、道節の表情が一変する。すると、助友は、地面に横たわっている定正を見ながら、口を開く。

「そこにいるのは、偽首(=影武者)よ…!」

「!!!」

「某は、関東管領・扇谷定正様の家臣、巨田助友おおたすけとも!あの方の御命を豊島の残党が狙っていると聞いて、罠を仕掛けておいたのだ…!」

助友がそう言い放つ周囲で、その場にいる兵士達が全員刀を構える。

「くっ…!!」

地面に倒れている男をちゃんと目にし、影武者だと気が付いた道節の表情が曇る。彼の周囲には多くの敵兵が存在し、まさに八方ふさがりの状態に陥ってしまう。



 …何か嫌な予感がする…

私は歩きながら、ふとそんなことを考えていた。

休息のために立ち寄った妙儀寺を出た私たちは、5人目の犬士・犬山道節を迎えるため、白井城近くまで来ていた。これまで通ってきた円塚山よりは楽な道のりだが…時代が時代なだけに、山道が険しい事に変わりはない。草履を履いているとはいえ、足に豆ができそうなくらい、これまで歩いてきたようである。

「ん…?」

「荘助…如何した…?」

目を細めながら、遠くを見つめる荘助を見て、信乃が彼に声をかける。

「信乃さん…。何やら、あそこに人が集まっているようですね!」

「…そういえば、心なしか刀の交える音も入り混じっておるような…」

「刀の音…」

信乃の台詞を聞いた私は、その場で考え込む。

「…っ…!!?」

すると突然、私の視界に一枚の写真のような映像がいくつか入ってくる。

それは、坊主頭をし、多くの兵士を相手に立ち回っている青年の姿だ。風貌は至って普通だが、狭子はその青年が現代で何度か夢に出てきた人物だという事に気が付く。

「まさか…!!」

「狭!!?」

何かに思い当った私は、全速力で走り出す。

小文吾の声が聞こえたが、それに返事をする余裕はなかった。

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

山道の中を走る狭子。

そして、荘助の言っていた刀と刀の交じり合う音が更に大きくなる。

「あっ!!!」

その場にたどり着いた私は、目を見張った。

それは、つい今しがた頭の中に流れ込んだものと同じ―――――坊主頭をした青年が、多くの敵に囲まれていた。

「何奴!!?」

「っ…!!」

すると、私の姿を見た一人の兵士が、近くまで走り寄ってくる。

その台詞に反応した坊主頭の青年も、こちらをちらっと向く。

「…浜路!!?」

この時、彼が何て言ったのかはわからなかったが…青年は、私を見て声を張り上げていた。

「まさか、貴様…あの浪人の仲間か!!?」

「えっ…ちょ…!!?」

私の目の前にいた兵士は、刀を構えながら、少しずつ歩み寄ってくる。

兵士が持つ刀が、陽の光の反射によって輝き、その刀身は私の姿を捉えていた。

今まで、このような緊迫したシーンはドラマや映画でしか見たことがなかった。しかし、今自分の目の前で起ころうとしているのは、まさに“殺し合い”の瞬間。そのあまりのリアルさに、身体を硬直させる狭子。


そんな彼女に目も暮れず…刀を構えたまま一歩ずつ歩み寄る兵士が、刀を振り上げた瞬間…

「うっ!!?」

斬られると思った私が目を閉じた瞬間、男のうめき声が聞こえる。

気が付くと、兵士の胸に矢が突き刺さっていた。

「あ…!」

私がすぐに後ろを振り返ると、そこには弓を構えた現八の姿があった。

「狭!!!」

その後、それに続くかのようにして、信乃・荘助・小文吾が走り寄ってくる。

「貴様ら…何者じゃぁっ!!?」

私達の姿を見つけた巨田助友おおたすけともは、声を張り上げる。

「…わしらは、名乗るほどの者ではござらん。…だが…」

「おお!!俺たちは、兄弟を見捨てたりはせんからな!!!」

「何!!?」

多くの兵士が私たちを取り囲む中、現八と小文吾は堂々と言い放つ。

「…何奴!!?」

「犬山殿…。御怪我はございませんか…?」

「お主…!!?」

道節と背を合わせる形で現れた荘助に、彼は目を丸くして驚く。

「詳しい話は後です。…助太刀致す」

「…かたじけない」

荘助は何やら低い声で呟いたようだが、私には聞こえなかった。

そして、その呟きに答えた道節は、何かに同意しているような表情をしていたのであった。

「ええい…討ち取れぃ!!!」

すると、助友の一声を合図に、兵士達が犬士に斬りかかろうと襲いかかってくる。

「はっ!!!」

それに対し、刀を抜いて立ち向かう犬士達。

「皆…!!!」

気が付くと、そこは一つの戦場となっていた。

暴れ猿のような勢いで、向かってくる兵士を斬り倒す信乃。目にも止まらぬ速さで刀を振るい、返り血を浴びても顔色一つ変えない現八――――――――戦っている犬士達の表情かおは、まさに“人殺しの”を宿していた。

「これが…戦…」

自分が想像していたモノより、はるかに血なまぐさく…恐ろしいものだと実感する狭子。

それこそ、自分がどれだけ恵まれた時代にいたのかが手に取るようにわかるくらいであった。

「何だって、こんな…」

私は、その恐ろしい現実を目の当たりにし、心にため込んでいたものが少しずつ吐き出されていく。

「なんで…なんで、こんな時代に来るはめになったのよ!!?」

気が動転した狭子は、想いのたけを言い放つ。

私の黒い瞳は潤み、今にも泣きだしそうだった。しかし、そんな私の事なんてお構いなしに、敵は刀を振り上げて襲い掛かってくる。

「ぐはっ!!!」

何とか、その一閃を避けた私は、敵の腹目がけて強い蹴りを一発放った。

みぞおちに一発入った敵は、その場で地面に倒れ伏す。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

何とか、敵を一人倒した狭子。

地面に倒れる敵を見下ろしながら、息切れをしていた。

“生きるために戦う”。“られる前にる”―――――――この事実は、この戦国の世では逃れられない事なんだな…

改めて私は、女子高生として生きる平成ではなく、戦国の世にいるという実感がわいてきた。

「でも…どうして、私なんだろう…?」

潤んだ瞳で辺りを見回すと…関東管領の兵士達と戦う犬士達の姿が目に入ってくる。

階段から転げ落ちる前に響いてきた声…何度も見た八犬伝の夢。そして、私が“先の世から来た”事を知る人物―――――これまで起きた不可解な出来事が、走馬灯のようにして頭の中を駆け巡る。


「それは、俺様や蟇田に巡り合うためだからじゃねぇか?」

「えっ…!?」

この時、私の背後に図太い声が響いてくる。

「!!!?あなた…!?」

声の聞こえた方角に振り向く狭子。

その視線の先にいたのは…紺色の髪を持つ、忍びの風貌をした長髪の男――――金剛寺で現八と対峙し、後に“鬼”の一人だと判明する男が立っていたのであった―――――――


いかがでしたか。

今回のエピソードは、五犬士が集結する前に描かれている”仇討騒動”といった形になります。

今作では、狭子が自分から首をつっこみに行った状態ですが、原作でもこの騒動に犬士達は巻き込まれています。


さて…突然現れた男は、言わずと知れた蟇田素藤の仲間。

なぜ、彼がこの場にいるのか!!?

また、敵に囲まれた犬士達は、その場をうまく切り抜けられるか!?

そして、次回以降で音音も登場するかんじになるでしょう!

そこで意外な事実を明かされるかも!!?

…次回をお楽しみに★


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