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八犬伝異聞録 蒼き牡丹   作者: 皆麻 兎
第三章 犬士達が集う一方で
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第11話 荘助からの情報を元に

<前回までのあらすじ>

4人目の犬士・犬川荘助を迎えるために、武蔵国・大塚村へ向かう犬士達と狭子。そこで、彼が荘官夫婦殺害の濡れ衣で、処刑される事を知る。情報を集める一方で、狭子は自身を知る白髪の男・蟇田素藤らに襲われる。その場は何とか収まったが、彼は狭子に謎の言葉を告げて去っていく。

素藤の言葉に狭子が翻弄される一方、信乃達は彼の知人である舟長・姨雪世四郎の手助けもあって、荘助奪還を成功させる。

別れの際、世四郎が「荒芽山あらめやまに住む音音おとねという女子を訪ねよ」という助言をもらい、四犬士と狭子は追手から逃れるのであった――――



 とある場所にある古き寺――――――――そこに、水鏡を覗く一人の尼僧がいた。


「犬が…動き出している…!?」


尼僧は、目を丸くして驚いている。

その水鏡に映っていたのは、「義」・「信」・「孝」・「悌」の字が浮き出る、4つの蒼い玉だ。


「…古賀の足利公と関東管領・扇谷定正の和睦。めでたく、成立したぞ」

「…蟇田か」


紅い衣を身にまとう尼僧が後ろを振り返ると…そこには、蟇田素藤がいた。

素藤は、尼僧の表情を少し見た後にゆっくりと歩きながら口を開く。


妙椿みょうちんよ…。如何した?」

「なに…?」

「そなたの表情かおに、少しばかりか焦りが生じておる…」


余裕そうな笑みを崩さないポーカーフェイスのような表情をした素藤は、妙椿の顔を覗き込む。

図星だった彼女は、そっぽを向いてしまう。そんな妙椿を見た白髪の男は、見下ろすようにして呟く。


「里見を攻め滅ぼすために、足利と関東管領を和睦させるとはな…。しかし、そのような状態で彼奴らを滅ぼせるとも…?」

「黙れ…っ!!!」


素藤に真実を告げられ、妙椿は激昂する。


眉間にしわを寄せ、鋭い視線で睨みつける――――その表情は怒りと憎しみ。そして、焦りがにじみ出ていた。

そんな妙椿に怒鳴られても、素藤は顔色一つ変えない。


「里見家に殺された玉梓たまずさが怨霊・妙椿よ…。何を焦っているかは知らぬが、貴様も所詮は人間の女子だという事だな…」

「…ふん。貴様のような、混血の鬼に言われとうない」


その台詞を聞いた途端、素藤の表情が一瞬だけ曇る。

しかし、すぐに元の表情に戻る。


「…次は千葉家重臣の元へつかいを寄越すのであろう?」

「…そうじゃ」

「成氏公と定正の際は、俺とそなたで向こうたが…。あの男の元へは、そなたは行かなくても良いだろう」

「…く前に、籠山逸東太縁連こみやまいっとうたよりつらを連れて行く事だな」

「…承知した」


妙椿の言葉に返事をした素藤は、不気味な笑みを浮かべながらその場を去って行った。


「蟇田素藤…。底の知れん男じゃ…」


素藤が去った後、妙椿はポツリと呟く。

その後、彼女は自身の後ろにある水鏡の水面(みなも)がゆらゆらと揺れている事に気が付く。


「む…?」


不思議に思った妙椿は、手を水鏡に添えてからその水面を覗きこむ。

すると、そこには山道を移動する犬士達と狭子の姿が映っていた。そして、水鏡は狭子が持つお守り刀を映し出す。


「この娘は…」



「誰!!?」


山道を移動中、誰かに見られているような感覚を覚えた私は、後ろを振り返る。


「あれ…?」


しかし、周囲には草木しかなく、人の気配はない。


「狭…如何した?」

「…あ、ううん。なんでもない…!」


信乃の言葉で我に返った私は、彼らの方へ駆け出していく。


 なんか…すごく嫌な視線を感じたような気がする…。でも、気のせい…?


私は、歩きながらそんな事を考えていた。


「…しかし、あれだけの拷問を受けて生きておったとは…」


その後、上野国にある妙義神社にたどり着いた私達たちは、そこで休息を取っていた。

この台詞は、その時に荘助の傷の手当をしていた現八が呟いたものである。


「…おそらく、この玉のおかげでしょう」


そう言って、荘助は懐から文字の浮き出る水晶玉を取り出す。


 …「忠」…?


その玉を見た私は、浮き出てくる文字が「義」でない事に疑問を感じていた。


荘助の(いみな)は、”義任よしとう”だ。その漢字から判る通り、犬士の証である水晶玉には本来は”義”の文字が浮かぶはずだったからだ。

そして、穏やかそうな顔つきの青年は、話を続ける。


「獄舎に繋がれていた際…傷口にこの玉をこすりつけると、少しずつではありますが傷が癒えてきたのです」

「…お主が犬士ゆえに、できた事なのかもな…」


手当をしながら、現八はポツリと呟いていた。


「…なぁ、荘助」

「何ですか?信乃さん」


現八による応急手当が済むと、信乃が荘助に声をかける。


「その…浜路はまじ何処いずこにいるか、知らぬか…?」

「!!」


その台詞を聞いた途端、表情が固まる荘助を私は横目で見ていた。

信乃は、そんな彼に構う事なく話し続ける。


「お主を助けに行く前に、小文吾と大塚村まで偵察に出かけたが…。浜路の姿が、一向に見つからなかった」

「確かに、信乃が申すような女子は見かけんかったなぁ…」


真剣な表情で話している信乃の元へ、見回りをしていた小文吾が戻ってきていた。


「…小文吾。外はどうであった?」

「ああ!敵の気配もなさそうだし…。ここなら、しばしの間休めそうだ!!」


深刻な顔つきで話す現八に対し、小文吾は明るい笑顔で答える。


 浜路…か。蟇六ひきろく夫妻の養女で、信乃の許嫁…。でも、原作通りの展開でいうなら、彼女って確か…


この時、私は物語(さき)の展開を知ってはいたが、心臓が強く脈打っていた。

考え事をする私のすぐ近くにいた荘助は、苦しそうな表情をする。首を傾げる信乃がいる一方…意を決したのか、荘助は恐る恐る重たくなった口を開く。


「浜路様は…。円塚山にて、網乾左母二郎あぼしさもじろうに斬られ…亡くなりました…!」

「なに…!!?」


その台詞(ことば)を聞いた信乃は、目を丸くして驚く。


その驚き様は、今までに見たことないくらいの表情。そして、それが現実だと信じられなそうな表情かおだった。そんな信乃を見た私は、なぜか胸の痛みを感じる。

驚愕の事実を聞かされて固まっている信乃を見かねた現八は――――荘助に視線を向けて、話し出す。


「ところで、荘助。信乃や狭子の話だと、そなたは”義”の文字が浮き出る玉を持っているはずじゃが…?」

「…ああ!これですか…?」


現八の言葉で我に返った荘助は、”忠”の文字が浮き出る玉を手に取る。


「そう…。この玉は円塚山を通った際、浜路様の亡きがらの側にいた男が持っていた玉…」

「という事は…。その男性ひとが、犬山道節忠興いぬやまどうせつただとも…!?」


彼らの話を聞きながら、私はその名前を口にする。


「じゃが、なぜその男の玉をお主が持っておるのだ?」

「…おそらく、あの時…玉が入れ替わってしまったのでしょう」


不思議そうに尋ねる小文吾に、荘助は玉を見つめながら答える。


荘助かれの話によると——最初、道節らしき人物が浜路を斬ったのかと思い、刀を抜いて一騎打ちを繰り広げる。その誤解はすぐに解けたが、戦いのさ中で互いが持つ玉が入れ替わってしまう。

しかも、入れ替わりに気が付いたのは、大塚村にたどり着いた頃だったという。


「後から思い出したのですが…その男が持っていた刀。信乃さんが、お父上より託された刀そっくりでした」

「…村雨丸…!?」


浜路の死を聞かされてから呆けていた信乃は、今の言葉を聞いた途端、顔に血の気が戻ってくる。


「…成程。という事は、その道節という男が5人目の犬士であり…信乃が足利公に献上しようとしていた、本物の村雨丸を所持しておるという訳だな…」

「はい。ただ…その男は旅人のような風貌をしていたので、居場所の特定がしづらいですね…」

「あのー…」


真剣な表情で話す荘助・現八・小文吾の間に、私はこっそりと話に入ろうとする。


「狭子殿…でしたね?如何されました?」


そんな私に、荘助は笑顔で応えてくれる。


 荘助って…何だか、見ていると癒されるような表情かおするなぁ…


この時、内心でそんな事を考えていた私は口を開く。


「えっと…。その道節って男性ひと、一族を関東管領・扇谷定正に滅ぼされた人なんです…。だから今は、その仇討のために旅をしているはず…」


彼らの視線が私に向き、少し緊張しながら自分が知っている事を話す。


「仇討か…。成程、名は体を表すとはこの事を言うのじゃな…」


私の言葉を聞いた現八は、ポツリと独り言を呟く。


 現八…。もしかして、道節の”忠”という文字が「君主に仕える道」という意味があるのを、知っているのかな?


私は、ふとそんな事を内心で思っていた。


「ん…?これは一体…?」


あれから数分が経過した頃、荘助が古ぼけた鏡を見つける。


「鏡…?でも、なんで神社に鏡なんか…?」


不思議に感じた私は、荘助の近くに行って、埃をかぶった鏡を見つめる。


「狭殿…!!?」


すると突然、私の身体が蒼く光りだす。

その場にいた荘助や、光る私を見た犬士達の表情が一変する。


「え…?ど…どういう事…?」


なぜ、自分の身体が光に包まれているのかわからない私は戸惑う。


「狭…。その鏡、何かを映し出していないか…?」


鏡の異変に気が付いた信乃が、私にそれを伝える。


「これは…?」


犬士や私が見守る中…鏡は、山道を進む一人の男を映し出していた。


「!!?この男…!!!」


坊主頭をし、腰に立派な鞘のついた刀を下げた男を見た途端、荘助の表情が変わる。

しかもこの男性は、私が古賀ですれ違い、見失った人物と全く同じ顔をしていた。


「この男です!!わたしが、円塚山で遭遇したのは…!!!」

「なに!!?」

「…思い出した!!!」


3人の犬士が驚くのとほぼ同時に、私は大事な事を思い出す。

豆鉄砲を食らったような表情かおをした彼らに構う事なく、私は口を開く。


「村雨丸を手にした道節は、定正を討つために…白井城近くで鷹狩り帰りの彼の元へ行くんだった…!!!」

「!!!」


私の台詞ことばを聞いた四犬士は、信じられんと言わんばかりの表情を見せた。

しかし、少しの間だけ黙り込んだ後、全員が納得したような雰囲気になる。


「白井城…。ここから、割と近い場所にある城じゃな…」

「これで、道節の居所と目的がわかったか…。でかしたな、狭子…!!」

「…うん!!」


この時、信乃が私に明るい笑顔を見せてくれた。


 許嫁を失って沈んでいると思ったけど…大丈夫そう…だよね?


彼に褒められた狭子は、そんな事を思いつつも内心はとても嬉しく感じていたのである。



 こうして私達は、5人目の犬士・犬山道節を迎えるために白井城付近へ向かう事となる。そこで、戦国の世で避けては通れない出来事を目の当たりにするとも知らずに――――――


いかがでしたか。

今回は、大きな展開前の一休み的な回となりましたね。


ここでようやく、5人目の犬士・犬山道節や、信乃の許嫁・浜路の名前を出せました。

あとは、妙椿と素藤との絡みとか…。この作品で必要な情報を、一気に書いたかんじがします。


原作の話をしますと、妙椿と実際の素藤が手を組んでいた事は本当です。この作品でも、原作と違った形や目的ではありますが、何やら悪巧みをしているのは原作に似せているつもり。

また、妙義神社で荘助が見つけた鏡…。あれは遠眼鏡といって、そこから犬士達が道節の姿を確認するといった具合。

ただ、本作では狭子の持つ力?によって、この遠眼鏡を使用できた…という設定にしました。


さて、次回は道節が定正を討つための一部始終が明らかになります。

原作で言うと、犬士達もその場に遭遇する事になるのですが…

そこで、どんな展開が待っているか?

次回をお楽しみに♪


ご意見・ご感想などあれば、よろしくお願いします(^^



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