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八犬伝異聞録 蒼き牡丹   作者: 皆麻 兎
第三章 犬士達が集う一方で
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第9話 新たな敵

ここから第3章です!!

 水面に青い水が流れている―――――――――行徳を出発した私達は、4人目の犬士・犬川荘助を迎えるため、船に乗って川を上っていた。


 男だらけの旅って、初めてかも…


私は周囲の景色を眺めながら、ふとそんな事を考えていた。

丶大法師から伏姫と犬士の縁を聞いた後、私は信乃達と一緒に再び旅をする事となった。それは、法師様が主である里見義実さとみよしざねの元へ報告に戻るためである。今思えば、「皆と一緒の方が安心できるだろう」という、法師様の気遣いもあったのかもしれない。



「しっかし、誠におったまげたわ!馬鹿力しか取り柄のないこの俺に、8人もの兄弟がおったとはな…!」


舟の中で、小文吾は賑やかな声で話す。


「小文吾は、八犬士の中で…何番目くらいなんだろうね?」

「…?何の順番だ…?」

「…年齢としの順番が一番上か否かって事!」


私は信乃や現八が見守る中、小文吾と何気ない会話をしていた。


 小文吾かれって、すごく話しやすいし…気さくな人だな…


彼との会話をしながら、私はそんな事を考える。


「わしと小文吾が長禄3年(=1459年)。信乃こやつがその翌年に生まれたから…わしらの歳など大して変わらん」

「長禄って、西暦だと何年…?」


歴史が好きな私ではあるが、流石に八犬伝ここで使われている年号までは細かくてわからないため、不意に目が合った現八に尋ねる。

すると、物凄いため息をつかれた。


「まぁまぁ…。狭を含め、我らの年齢としが近しいのも…一重に伏姫様の力があってこその誕生に連なるが故だ。兎に角、それは物凄き縁なのであろうな…!」


微妙な空気を醸し出していた私と現八との間に入って、信乃は一言呟く。

その屈託のない笑顔を見て、私は「信乃は天然なのでは?」と考えていた。



 そして、舟で数時間ほど進んだ後―――――――――私たち一行は、武蔵国・豊島の神宮かにわ川の岸辺にたどり着く。


「…思えば、この地で村雨丸がすり替えられたのだな…」


私は彼の台詞をはっきりと聞いてはいなかったがーーー信乃は、この場所にたどり着いてすぐにポツリと独り言を呟いていた。


「もし…」


すると、背後から見知らぬ男に声をかけられる。

振り向くと、そこには舟長みたいな格好をした中年男性がいた。


「そなたは…姨雪代四郎与保おばゆきだいしろうともやすではないか…!」


その男を見た途端、信乃が懐かしそうな表情かおをする。


「知り合い…?」

「…ああ。大塚村におった際に、ちょっとな…」

不思議そうに首を傾げる私に対し、信乃が答えてくれた。

そして、自分の目の前にいるのが信乃だと理解した四郎という男性(ひと)は、何かを思い出したかのように、彼の元へ近づく。


「信乃様…。貴方が村を出て行かれてから、とんでもないことがおこりましたぞ…!!」

「とんでもない…事…?」

「実は…」



 姨雪代四郎与保おばゆきだいしろうともやすという舟長の話を聞いてから、幾何かの時が経過する。私達は、滝野川の弁財天・金剛寺にたどり着いていた。


「荘助さん…大丈夫かな…?」


三犬士と私は、このお寺の御堂の所に固まって座っていた。


神宮かにわ川で私たちは、四郎からとんでもない事実を聞かされる。それは、信乃や荘助が世話になっていた、大塚村の荘官である蟇六ひきろく夫妻が陣代(役人の名前)・簸上宮六ひかみきゅうろくに殺された事や、戻ってきた額蔵がくぞうこと犬川荘助が夫妻の仇を討ち取った事。しかし、夫妻殺しまでもが彼の仕業にされてしまい、冤罪で捕えられて獄舎につながれているという内容であった。

 まだ顔合わせをした事のない私や小文吾。そして、現八は顔つきが深刻になっただけであったが、荘助と義兄弟の契りを交わしている信乃は、いてもたってもいられないような表情かおをしていた。


「…狭」

「なに…?」


すると、信乃が私に声をかけてくる。


「先の世から来たというそなたなら…今後、如何なる展開になるのかわかっているのではないか…!!?」

「ちょ…!」


信乃に両肩をがっちりつかまれて、私は身動きが取れなくなってしまう。

突然の出来事だったため、瞬きを何度かしながら私は驚く。


「おい!信乃…落ち着け…!」


すると、小文吾がその腕を私から引き離して落ち着かせようとする。

彼に抑えられた信乃の表情は、すごく辛そうに見えた。また、掴まれた両肩がほんの少しだけ痛かったのである。


 やっぱり、心配なのだろうな…。でも――――――


「ごめん…。なんとか…塚?とやらで、近いうちに磔の刑に処されるくらいしか、わからないの…」


私の台詞(ことば)を聞いた信乃は、やっと落ち着きを取り戻したようだ。


 …処刑されるのがわかっているのに…。どうして、私ってば場所も記憶していなかったんだろう…!


自分は歴史好きとたかをくくっていたが、狭子にもやはり限界はある。そのため、処刑の場所までは覚えていなかったのである。とはいえ、肝心な事を思い出せない自分に、強い嫌悪の念を抱く。


「…兎に角、わしら3人の内で交代をしながら様子を見に行こう。皆で行っては怪しまれるからな…」

「確かに…。小文吾やこいつはともかく、わしと信乃はお尋ね者じゃからな。捕まれば、今度こそ陽の目を拝む事が叶わなくなる故…」


小文吾と現八が真剣な表情かおで話している中、私は下を向いてうなだれている信乃の隣に座る。


「大丈夫!荘助さんだって、貴方と同じ“犬士”だもの!!そう簡単に殺されたりなんてしないわ…!」


そう言って、私は精一杯の笑顔で彼の事を見つめた。

信乃はそんな私の顔を見た後、横目で何か考え事をしていたが…すぐにいつもの真面目な表情に戻って口を開く。


「…そうだな。怯えていては、いざという時に動けん。…交代で偵察に向かえるよう、某が村へ参る道筋を伝えよう…!」


彼の台詞を聞いて、小文吾や現八が少しだけ安堵したような表情かおをしていた。



 そして、私たち4人が金剛寺を拠点として情報集めを開始して、2日ほど経過した。信乃は小文吾や現八に大塚村までの道のりを教え、半日くらいの割合で大塚村へ往復して情報集めを始めていた。

私はというと―――――――――「女子にそのような事はさせられない」とか、「村の連中に顔が割れない人間が一人いた方がいい」等を言われ、金剛寺で留守番をしていた。ただし、寺で呆けているだけでは退屈すぎるので、食べられそうな木の実や山菜を探すため、私は寺付近の山道を散策していたのである。


「湿気がすごいなぁ…!」


私は道端で見かけられる木の実などを拾いながら、独り言をつぶやいていた。


自分の記憶が正しければ、八犬伝においての現在いまは6月の下旬くらいになる。東京で言えば、梅雨が明けて夏の日差しに変わりつつある時期だろう。


 今日は信乃と小文吾が偵察に出かけちゃったから、現八と2人きりなんだよね…


私は、歩きながらため息をつく。

あまり気にした事はなかったが、信乃と現八は2人とも面構えが良い。現代でいう所の「イケメン」という部類かもしれない。ただ、気軽に話しかけてくれる信乃と違い、現八は少し無愛想なのだ。今日とて、自身が持つ十手や刀の手入れを淡々とこなしているだけだった。


 ぶっちゃけた話、こうやって外に出たのも…彼と二人きりであの場にいるのが気まずかったからなんだよね…。でも、とても本人にはこんな事は言えない…


歩きながらふと遠くの方で水の音を感じた私は、そちらの方角へも行ってみようと足を動かし始めようとしたその時だった。


「そこのお主」

「え…?」


斜め後ろくらいから、見知らぬ声が聞こえる。


狭子が振り向くと…視線の先には、白い髪と着物の柄とは思えない、風変りな小袖を身にまとう男が立っていた。


「…呼びましたか?」


余裕そうな笑みで立つその男性ひとを見た私は、何となく問い返す。


 白い髪…。外国の人かな…?でも、この時代はまだ南蛮人とかいないはずだけど…


ボンヤリとそんな事を考えていると―――――――男は、懐から何かを取り出して私に見せつける。


「旅の道中でこれを拾ったのだが…お主の物か?」

「あっ…!!」


男の左手に握られていた物を見た私は、表情を一変させる。

群青色をしたその小さな物は、私が行徳へ向かう途中で落としたと思われる、高校の生徒手帳であった。私は、急いでその男の側へ駆け寄る。


「それ、確かに私の物です…。ありがとうございます!!」


男から手帳を受け取った私は、満面の笑みを浮かべながら礼を述べる。


 もうすぐ卒業だから、必要のなくなる物だけど…思い出のプリクラとか貼ってあるから、やっぱり持っておきたいもんね…!


自分の手の中に戻ってきた手帳を見て、私はそんな事を考えていた。


「…して、娘よ」

「はい…?」


この時、何も考えていなかった私は、ふと男の顔を見上げる。


「!!?」


突然、白髪の男は私の右腕を強く掴む。


「痛っ…!!!」


私は、痛みの余り思わず顔をしかめる。

それもそのはず――――――――数日が経過したとはいえ、瀕死の信乃を助けるために入れた刀の斬りこみが、未だ痣となって残っていたからだ。


「先の世から来た娘よ…。“未来”とは、如何なるものか…?」

「えっ…!!?」


“先の世”という言葉を聞いた途端、私の表情が強張る。

驚きの余り、身体を硬直させている私に対し、男は左手で私の頬に触れる。その時、触れられた感触が冷たかった。


「!!!」


すると、狭子の首筋に鈍い痛みが走る。

その後、私の頬から手を放した男の指には、紅い血が少しだけついていた。


「ふむ…。悪くはない味だな…」


指についた血を舐める男の表情かおを見た途端――――――私は、全身に鳥肌が立つ。


「吸血…鬼?でも…そんなはず…」


ひどく怯えていた私は、頭の中が真っ白になっている中、その台詞を口に出す。

しかし、吸血鬼は西洋の歴史や創作物フィクション等で登場する生き物。室町時代後期にあたるこの時代で、こんな事はありえないはずである。


「狭!!!」


聞き覚えのある声を聞いて、私は我に返る。

声のした横の方を振り向くと、刀を構えた現八がいた。


「現八…!」

「…犬が来おったか」


現八を見た途端、男は視線を地面へと向ける。


「何っ!!?」


すると、刀を弾くような音が周囲に響き渡る。

何かに弾かれた現八は、2・3歩後ろに下がって間合いを取る。

彼の前に立ち塞がっていたのは――――――――紺色の長髪をポニーテールのように結い、少し肌蹴ているが忍のような格好をした男だった。


「てめぇの相手は、俺様がしてやるぜ!!」


長髪の男はそう言い放つと、手に持っている忍び刀を振りかざす。


「くっ…!!!」

「現八っ…!!!」


忍び刀を受け止める彼は、苦い表情をしながら場所を次々と移動していく。

本来、脇差は忍び刀より重いため、敵の攻撃を受け止めるのはさほど難しくないはずだ。しかし現八は、まるで強い打撃を受け止めたようなつらそうな表情をしていた。


「貴方は誰!!?一体、私に何の用があって来たの!!?」


私は白髪の男の腕を振り払おうとしたが、力が強すぎてとても振り払えない。


「俺は、蟇田権頭素藤ひきたごんのかみもとふじ。今は…な。とりあえず、覚えておくがいい」

「“今は”…?」


そう白髪の男は名乗るが、後半の「期間限定」というような台詞に対し、私は首を傾げた。


「蟇田素藤…!!?あの館山城の城主か…!!」


戦いのさ中、彼の名乗りを聞いた現八が驚いていた。

しかし、素藤はそんな彼の台詞(ことば)に対し、全く聞いていない様子で話し出す。


「先の世から現れ、蒼き光を放つ娘よ…。どうだ、俺と共に来ぬか?」

「っ…!?」


この瞬間、私の表情かおは何を口にすればよいかわからず、戸惑ってしまう。


 この男性ひと…私の事を知っている…?


そんな考えが狭子の頭の中によぎる。同時に、言葉では言い表せないような違和感を覚えていた。

しかし、息もつかせぬ戦いを繰り広げる現八を見た途端、悠長に考える余裕がない事を自分に言い聞かせる。


「何、おかしな事言っているのよ!!行くわけないに決まっているでしょ!!?」


恐怖に押しつぶされそうだった私は、必死で強気な口調で言い放つ。


「…活きがいいな。だが…」

「あっ…!!?」


白髪の男が一言呟いた直後、私のうなじの部分に衝撃が走る。


一撃を食らった私の身体は、その場で地面に崩れようとする。そして、右腕だけが吊り上げられている状態になってしまった。


「おい…!!どうした!!?」


現八の叫び声が聞こえるが…私の身体はいくらか麻痺していて、すぐには動かせない。


「少しおとなしくしてもらった…。さて…共に来てもらおうか…!」


勝ち誇ったような表情かおをした素藤は、私の身体を抱えてその場を去ろうとする。

現八は、敵と戦っているのに精一杯で、そんな素藤を止められない。


 怖い…。誰か、助けて…!!!


私が恐怖の余り、心の中でそう叫んだ時だった。


「狭っ!!!」


聞き覚えのある声と共に、刀と刀のぶつかり合う音が周囲に響く。

気が付くと、私を連れ去ろうとした男の目の前に、偵察へ行っていた信乃の姿があった。そして、素藤はそんな彼の一撃を刀で悠々と受け止めている。その様子は、居合で刀を抜きだす瞬間の体勢に似ていた。


「ふん!!!」


素藤が刀を強く振ると、信乃は後ろに引き下がる。


「狭も現八も…無事か!!?」


冷や汗をかいている信乃の側に、小文吾もいた。


「貴様…何者かは知らぬが、その娘をどうするつもりだ!!?」


信乃は、刀を構えながら白髪の男に言い放つ。


「…俺は、面白い物が好きだからな。それに、お前ら犬共にこやつは過ぎたもの。故に、連れて帰る…それだけの事だ」

「ふざけるな!!!」


今の台詞を不快に感じた信乃は、白髪の男に斬りかかろうと、走り出す。すると…


「なっ…!?」


信乃の刀が、何者かの素手によって止められる。


 この男性ひと…!!?


彼らのやり取りを見つめていた私の視線に入ってきたのは、こげ茶色の短髪で、漆黒の小袖をまとった男だった。

素藤と信乃の間に入って刀を受け止めた男の表情(かお)は、こんな状況にも関わらず、平然としていた。


「素藤様。そろそろ参らねば…。妙椿みょうちんも痺れを切らしております」

「え…?」


首筋の痛みが消えぬ状態であったが、“妙椿”という名前を聞いて私はそれに反応する。

すると、男は私を地面に下す。


「…逃げるのか!?」


刀を構えたまま、真剣な表情で信乃は彼らを威嚇する。

立ち去ろうとしていた白髪の男は、彼の方へ振り向いて口を開く。


「俺は、お前らほど暇ではないのでな…。それに、確認が叶った以上…もうこの場所に用はない」


男が呟く中、こげ茶色の髪をした男や現八と対峙していた忍の姿がいつの間にか消えていた。

首の痛みが少しずつ消え、ゆっくりと起き上ろうとする私。男は犬士達を見渡しながら、口を開く。


「…近い内にまた、相見(あいまみ)える事となるであろうな。それと…」


そう呟く男の視線は、地面に座り込んでいる私の方へ向く。


「“染谷純一”…とやらを、俺は知っている」

「!!!?」


意味深な台詞ことばを告げた素藤は、霧のようにその場を去っていった。


敵が立ち去り、私の元へ犬士達がかけ寄ってくる。しかし、白髪の男が最後に述べた台詞が頭から離れない、狭子なのであった――――――――――――


いかがでしたでしょうか。

今回、八犬伝に出てくる様々な地名とかが出てきましたよね!!

これによって、彼らがどのような移動を続けているか、わかるかと思います。


そして、待ちに待った悪役登場!!!笑

原作においては、関東管領や玉梓が悪役になるのですが…今作における悪役は、素藤と、連載前から考えていたのです!!

彼のモデルはゲーム「二世の契り」に出てくる山本勘助。

キャラ設定のために書いたイラストにも、その面影が…


今後、判明していく事なのですが…。素藤を含む、今回出てきた敵は皆、ただの人間ではないです。

狭子は「吸血鬼?」とか呟いてましたが、半分正解なかんじ。

彼らは、日本のはるか古来から住む鬼。しかし、今回出た3人は西洋の鬼の血を少し引いている…というのが、作者の考えた設定でございます。

この辺りは話すと長くなるので、今日はここまで…。


そして、本題に戻りますが…

4人目の犬士・犬川荘助は狭子が言うように、処刑を控えているという絶体絶命の状態。

彼を救助できるのであろうか??

そして、次回辺りで、思わぬ人物が活躍を見せます。

その辺りを踏まえたうえで、お読み戴けると幸いです。

私も八犬伝の登場人物をどう登場させようか…と試行錯誤しながら書いてますので、よろしくお願いします!!


ご意見・ご感想があればお願いします★



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