僕が悪徳領主!?そんなぁ!僕はごく普通の高校生ですって~~~!!!!!
「フッ…貴様も悪いヤツだ…」
「いえいえ、ご領主様ほどでは」
豪華な装飾品で飾られた応接室。
そこにいかにもテンプレなセリフで悪い顔をする二人の男。
「さあご領主様、こちらは我が商社で特別に輸入したワインでして、ささ、一杯」
「ほう、気が利くじゃないか…なかなか良い香りだ。いただくとしよう」
脂ぎった顔の悪徳領主デノワルーノ(50)はグラスに注がれたワインを飲みほしたーーーー途端にドクン、と胸に動悸が走る。
「ウ……ウグッ…!!!!????」
その様子を見てワインを注いだ男は怪しげな笑みを浮かべる。
「これでこの領地の暗黒時代はお終いだ…デノワルーノ。前のこれまでの悪行の数々…人々の恨みをここで晴らさせてもらう!」
「き、貴様…!!!くッ…い、息が………!!!!グァァァ………!!!!」
デノワルーノは怒りに震えるも、激しい苦痛に呻き、床に倒れこんだ。
その瞬間、その頭髪の薄い頭に、パチンと何かが弾けたような感覚があった。
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スパイのアルは、冷めた目で倒れて動かなくなったデノワルーノを見た。
彼はデノワルーノと懇意の貿易商社に潜り込み、デノワルーノを暗殺する任務を任されていた。
「これですべてうまくいく………え!?」
アルは驚愕した。
もう動かないはずのデノワルーノが、その場にスッと直立していた。
その顔には苦しみの様子は無く…まるで表情が抜け落ちたようだ。
いや、表情が抜け落ちすぎて、目が点になっているといった方が正しい。
(あの猛毒が効かなかった…………!?!?!?!?!?そんなまさか!?!?!?)
アルはとっさに身構える。
デノワルーノはきょろきょろとあたりを見渡し、そして自分の手を見、自分の体を見た。
「な………なんだァアアア!?!?!?このたるんだ体はァァァ!?!?!?」
デノワルーノが絶叫した。
「あァァァ……!!!僕のッ!!!僕の美しい体がァァッ!!!!!
僕の上腕二頭筋!!!僕の大胸筋!僕のシックスパック!!!!皆どこに行っちゃったんだァァ~~~!!!」
デノワルーノは半狂乱になった様子で顔をゆがめて泣きわめいている。
「は!?」
アルは目の前の奇妙な光景に固まってしまった。毒が効かなかった代わりに脳にダメージを与えたのだろうか?ありとあらゆる任務をこなし、スパイとしての実績を積んだアルも、こんな狂い方をした人間は見たことない。なんだか様子が変だ…。
「あの!!!すみません!これ、どういうことなんでしょうか!!!???僕の美しい体、どこにあるか知りませんか!?!?ていうか、ここどこですか~~~~!?!?!?」
デノワルーノはものすごい泣き顔でアルに縋りついた。
「ヒャァ!!!!」
アルはびっくりして今までに出したことが無いような声を出してしまった。
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デノワルーノとアルは応接室のソファに向かい合って座っている。
しょんぼりした様子のデノワルーノは、頭髪の薄い頭を抱えて悲しそうに口を開いた。
「ちょっと状況が分からないのですが……信じてもらえないかもしれませんが、私はどこにでもいる、普通の高校生なんです。趣味は筋トレです。高校一年生のころは弱弱ボディだったんですけど、筋肉系youtuberさんに憧れて筋トレを始めて、3年生のころには結構イイ感じに仕上がってきたんですよ。でもちょっとやりすぎちゃったみたいで…最後の記憶は多分…トレーニング中の事故だったと思います…」
アルは混乱しつつも、何とか今の状況を整理しようとする。
「えー…私には少し単語が理解できないものもありますが…つまりあなたは…デノワルーノではない…と?」
「はい!僕の名前は出羽流乃です!偶然ちょっと似た名前みたいですけど、別人です!」
「今までの悪行…この地の領主として何をしたか、覚えていないのですか?」
「ええと、なんかモヤがかかったみたいに断片的な記憶が浮かぶような…頑張って思い出そうとするんですが…ああッ!そ、そんなひどいことをこの人は…!?ああッ!そんな暴飲暴食を…!!!」
デノワルーノは自分の記憶を思い出しながら冷や汗をかいたり悲しい顔をしたりと、みるみる表情を変えている。
アルは考える。
(どうも誤魔化して暗殺を逃れようとする様子にも見えない…しかし、人格が入れ替わった?まさかそんな…)
「あの…僕、これからどうすればいいんでしょう…?あなたは…あ!まだ名前を聞いてなかったですね!あの、お兄さんは何ておっしゃるんですか?」
「私ですか…私は………」
アルは、ハッと気が付いた。
「……あなたを殺しに来た暗殺者ですよ」
アルは冷ややかに言った。
そうだ。もう一度殺してしまえばいいじゃないか。
そういう予定だったし、それでこの混乱は解決だ。
デノワルーノはポカンとして、また絶叫した。
「そ、そんなぁ!!!僕、ただ筋肉を鍛えたかっただけなのに…バーベルに潰されて死んで、たるんだ体になって、また死ぬんですか!?!?!?イヤだァァァ~~~~!!!!!誰か助けてェェ~~~~!!!!!」
慌てふためいたデノワルーノは叫びながら逃げようと、もんどりうって尻もちをついた。
その時。
「旦那様!!!なにやら大声が!ご無事ですか!!!」
ドンドンと扉を叩く音が聞こえた後、警備兵が複数人部屋に飛び込んできた。
兵士が部屋を見渡すと、泣き顔になっているデノワルーノが一人、尻もちをついているだけだった。
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(館の警備兵は意外とやるな…あの時は暗殺チャンスを逃したが、まだ機会はあるだろう…)
警備兵が部屋になだれ込み間一髪で館から逃げたアルは、その後のデノワルーノの様子を観察し、暗殺をリベンジすることにした。
アルが門付近の木の陰に隠れて観察していると、警備兵の話し声が聞こえた。
「……で、俺たちが部屋に踏み込んだら、あの禿げ領主、泣きながら俺たちにお礼言ってたんだぜ」
「は~!?マジで!?そんなことあり得るか!?」
「マジマジ!『君たちは僕の命の恩人だよ~!!ありがとうゥ~~~!!!』って言ってた」
「いや誰だよ」
「だからあの禿げ領主だって!あの高慢ちきな領主が、信じられないよな~」
「いや、なんか…頭でも打ったんじゃねーの?お前が」
「なんだよ!!!信じてくれよ~!!!!」
後日、アルは執事室の天井裏に潜んでみた。
年老いた執事とメイド長が話している。
「あの、旦那様ですが…なにか頭のご病気などは考えられるのですか…?」
「医師に診てもらったのだが、分からないの一点張りだった。身体は健康だそうで、仕事をするのには問題ないということだ。まあ、仕事はほとんど我らに任せきり状態だったから、すぐに問題は起きないだろうが…」
「そうですか…。でも、なんと言いますか…」
「どうした?」
「はい、あの、今までの旦那様は…館の若いメイドたちにいやらしい……いえ、下心をお持ちになった目を向けられるのが常日頃だったんですが、最近は若いメイドの姿を見るや、恥ずかしそうに眼を逸らすんです。なんと言いますか、変わられましたよね」
そう言いながら、メイド長は首を傾げつつちょっと笑っていた。彼女は思春期を迎えた息子の様子を思い出しているのである。
「ああ、どういうわけか、すっかり変わられたな…。といっても、いつ元に戻られるか分からないぞ。気を引き締めてお世話し、ご様子を報告してほしい」
「ええ、かしこまりました」
また後日、アルはキッチンの下働きに成りすまして様子をうかがう。
そこでは館のシェフとメイドが困惑顔で話し合っていた。
「旦那様のオリジナルレシピぃ!?これからの食事はこれに変更する…って、本気か!?」
「ええ…今までは贅の限りを尽くした料理ばかりでしたのに、こんなに少ないお料理をお出ししていいものか、私も何度も確認しました。旦那様は『この体をなんとかしたいんです。僕の我がままでお手数をおかけしますが、お願いします!』とのことでした」
「いや誰だよ」
「ええ、私も思いました。ですが、旦那様のご命令ですから…」
「ほんとにこれを作って良いのか…?後から叱られたって困るぞ…」
昼食の時間が終わって、シェフがメイドに恐る恐る聞いたところ、彼が作った『鶏むね肉と野菜の蒸し料理ゆで卵添え』は、デノワルーノに非常に好評だったという。
また後日、アルは領主デノワルーノの部屋の天井裏に隠れた。
壁には『逆境からの復活を!取り戻せ筋肉!』と書かれた紙と、一日のトレーニングスケジュールらしきものが貼られている。
部屋の中央ではデノワルーノが懸命にスクワットをしていた。
「30ッ!31ッ!32ッ……!!!まだまだァッ!!!」
辛そうな表情で汗をかきながら、太った体を懸命に動かしている。
そこに、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「失礼いたします、ご領主様。お加減は………旦那様!?」
入ってきた老執事はトレーニングに励むデノワルーノに驚愕した。
「あ、セバスチャン、すみません、ご心配をおかけして…。まだ気持ちは落ち着きませんが、とりあえず悩む前に筋トレをしておこうかと思ったんです」
「さようでございますか…?」
老執事はよく分かっていない顔だが、とりあえず連絡事項を伝えることにした。
「旦那様に決済の確認書・公共工事についての計画書・他領主との外交についての予定表等の書類がございますが、これらはいつも通り、各部署の長に任せてもよろしいでしょうか?」
「あ、僕の仕事のことですね。僕には判断できませんのでお任せします…。その…すみません、僕がなにもわかってないから、他の人たちにお仕事を押し付けちゃってるんですよね…?」
しおらしく頭髪の薄い頭を下げるデノワルーノに、老執事はやや慌てた。
「い、いえ、そんなことは…!」
そもそもデノワルーノは仕事を丸投げにするタイプの領主だった。その上で、小細工をして横領や職権乱用を行い人々に多大な迷惑をかける…というのが常だったのだが、部屋で大人しく筋トレをしているだけであれば、誰も迷惑は被らないのであった。
「あの、貴族らしい暮らしをさせてもらっている僕ですが…領主である以上、仕事もしなければならないですよね。記憶が抜けてしまっているのか、仕事の仕方が分からないのですが……どうか僕にもできる仕事をさせてもらえませんか?必要なことは学んで、今までに起こってしまった問題を解決したいです」
殊勝なデノワルーノの申し出に、老執事は驚いた。
これまで仕事を放りだし、贅沢な生活におぼれていた悪徳領主とは思えない。
(旦那様は本当に変わられた…というより、別人になられた…?今まで何を進言しても聞き入れず、民衆を虐げて笑って眺めているだけだった旦那様から、このような純粋なお考えが出てくるとは…。これはもしや、神様が起こした奇跡なのでは…?)
老執事は目の前のデノワルーノのピュアな瞳を見つめた。
(私も老い先短い身…どうせならこの旦那様と共に領地を立て直し、民衆のために残りの人生を費やすのも良いではないか…!)
老執事は胸に手を当て、静かに礼をとった。
「かしこまりました。では、後日領地経営について確かな知識のある、信頼できる者を呼ばせていただきます。今後のお仕事を進めるうえでの参考にしていただければ幸いです」
そう言って、老執事は部屋を出た。
この様子を天井裏からじっと見ていたアルは悩んでいた。
(あの時ヤツが言っていたことは本当のようだ…人格が別物になっている。「コウコウセイ」というのは何のことか分からなかったが、あの純粋さ…どうやら子供のようだ)
アルはもともと『虐げられた民衆を救うため、悪徳領主デノワルーノを暗殺する』という任務を請け負っていた。彼には「汚れた仕事は引き受けるが、純粋な善人には手を掛けない」という自分で決めたルールがあった。
果たして、今のデノワルーノは暗殺しなければならない悪徳領主なのか。
アルはひとまず、デノワルーノが別人のようになった旨を依頼主に相談することにした。
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依頼主に相談したところ「そんなわけあるか」と一蹴されたアルは、再びデノワルーノの館に来た。
(可哀そうだが仕方ない…せめて楽に死なせてやる)
そう決心し、アルはデノワルーノの部屋の天井裏に潜んだ。
部屋には少しだけ体が引き締まったデノワルーノが、机に向かい様々な書類と向き合っていた。
そばには仕事のサポートをする専門家らしき男が立っている。
「ええ、この書類はこちらの印が必要です。ちなみにこの数字は…」
デノワルーノは真面目に仕事に取り組んでいるようである。
その時、ドアが突然開いた。
「お父様~!!!」
部屋になんとも可憐な10歳くらいの女の子が入ってきた。
「お嬢様!お待ちを!旦那様、お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません!」
あとからメイドが少女を追いかけ部屋に入ってきた。
「お嬢様、どうか淑女としてふさわしいおふるまいを…!」
「ええ、そうよね。ごめんなさい、お父様。今日のお出かけで、とても可愛いクッキーを見つけて、お父様にお土産に買ってきたの。早くお父様に見せたくて…」
そう言って、娘は可愛い袋に入ったクッキーを、デノワルーノに差し出した。
「お嬢様、しかし…(旦那様、食事制限をされているのでは…!?)」
心配そうにメイドはデノワルーノを見ると、彼はニコニコと嬉しそうにクッキーを受け取った。
「僕にくれるの!?ありがとう~!!!」
デノワルーノはにこにこと娘の頭をなでてあげた。
「それじゃあお父様、お仕事頑張ってください!」
そう言って、娘はまた走って部屋を出るのだった。メイドが慌てて追いかける。
「お嬢様、お待ちを~!!!」
「…なんとも愛らしいですね」
デノワルーノの傍らの男、領地経営の専門家モノシリーはしみじみと言う。
「モノシリー!娘を狙ったって、まだまだお嫁には出しませんからね!」
「いえ決してそういう意図では!」
モノシリーが思うのは、以前は子供のことを気にも掛けなかったデノワルーノが、すっかり溺愛レベルで娘を可愛がり、娘もまた『面白いお父様』を慕っている光景が愛らしい、ということであった。
「僕も信じられませんよ。あんな可愛い娘を、以前の僕は放ったらかしにしていたなんて…。」
当初デノワルーノは老執事から「娘」がいることを聞かされて「僕に娘が…!!!」と初めは驚いていたが、会ってみると意外と簡単に打ち解けたし、可愛かった。
「また大車輪やって~!って言われちゃうんだけど、あれ腰が痛くなっちゃうから、もうちょっと体を引き締めてからかな~」
とデノワルーノは笑いながら言う。
デノワルーノの妻であった女性は、あまり良い人物ではなく、子供を置いて早々に家出してしまっていた。娘のことはメイドたちが懸命に面倒を見ていたが、親に見捨てられたと感じていた彼女は、部屋に引きこもりがちだった。そこへ性格が一新したデノワルーノが来て、たくさん話し、たくさん遊び、今の仲良し親子になったのだった。
「旦那様とお嬢様の仲が良くて、何よりです。ところで、ご記憶があやふやとのことですが、お嬢様の婚約については…」
「えッ!?!?!?」
「お嬢様は、ヨウジヨラブ伯爵(60)へ嫁がれるということでしたよね。たしか、多額の資金を援助してくださるという約束で」
「すみません!それ早急に!!!取り消します!違約金払うので!!!」
天井裏に潜んでいたアルは、そっとその場を離れた。
それから、潜む先々でデノワルーノを褒める言葉が耳に入った。
旦那様が優しくなられた。旦那様が仕事を真面目にするようになった。旦那様が家令の横領を発見した。旦那様が謎の体術で盗人をやっつけた。旦那様の生活を参考にしたら筋肉が増えた気がする。などなど。
短期間の間に、デノワルーノは館内の人々から評価されるようになっていた。
彼の仕事ぶりについて今はまだ領地には伝わっていないが、いずれ領民の暮らしが変わっていけば彼の評判は上がるだろう。
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それからしばらくして、デノワルーノ(52)が治める地は非常に豊かになった。
しかも彼は肉体改造に成功し、今では筋骨隆々なボディを手に入れた。
薄かった頭髪はすっかり無くなってしまったが、たくましい体とスキンヘッドは非常に良く似合い、威厳たっぷりな頼もしい姿となっていた。
すっかり領主としての仕事ぶりも板についた彼は、現在自分の部屋で書類仕事に取り組んでいる。
「ふ~、さて、書類仕事も片付いたし!午後は視察を兼ねたランニングと…」
デノワルーノが椅子から立ち上がろうとしたその時、天井の板が外れ、男が降りてきた。
「え!?な、何!?」
「…お久しぶりです、ご領主様」
そこにはかつて自分の命を狙った男、アルが立っていた。
「あなたは…!!!ま、また僕を殺そうと…!?」
デノワルーノが驚き、身構えた瞬間、アルはその場に跪いた。
「申し訳ありませんでした、ご領主様。心より謝罪いたします」
アルははっきりと通る声で、デノワルーノに謝罪した。
以前アルがデノワルーノの暗殺任務を受けた際、数々の証拠や領地の現状を目の当たりにし、デノワルーノが悪だと思い込んでいた。
実際彼は小賢しい悪行は重ねていたものの、実態は操り人形といったものに近く、黒幕は別にいたのだった。
デノワルーノの娘と婚姻関係となる予定だった、ヨウジヨラブ伯爵。
伯爵はデノワルーノを消し、娘と婚姻を結んだうえで領地の収益を吸収するつもりだったのだ。
アルは、正義の行いと信じ込まされて、デノワルーノを暗殺する寸前だった。
「しかし、あなたは別人になり、この領地を立て直した。私はもう少しであなたを殺し、あなたの娘や家来、領民を悲しませるところだった。本当に申し訳なかった」
ヨウジヨラブ伯爵はすでに別の罪で捕らえられ、今のアルは雇用関係から解放されている。しかし、アルは領主殺害未遂の罪で処刑されることを覚悟して、ここに来たのだった。
しかし、アルに掛けられた言葉は思いもよらないものだった。
「そうだったんですか…いえ、あなたが言うように、以前の僕は殺されても仕方ない人間だったんだと思います。それでも、この体の中に、あなたは僕の人格をちゃんと見てくれていたんですね。僕のことを認めてくれて嬉しいです」
アルが驚いてデノワルーノを見ると、彼は優しく穏やかに笑っていた。
「皆、僕のことを記憶喪失とか神の奇跡とか言うんですよね。今は僕自身もすっかりデノワルーノで馴染みましたけど、デノワルーノじゃなくて、僕…出羽流乃が中にいるっていうことは、実はあなたしか知らないんですよ」
デノワルーノは寂し気に言う。
「暗殺しようとしたことは、内緒にします。あなたがそういう職業の方ということもわかりますが、この時代の倫理観とかモラルに、僕の時代から口出しするのもおかしいですし、僕個人としてはあなたを咎めることはしません。その代わりといっては何ですが…僕の話し相手というか、友達になってもらえませんか?」
「と、友達!?」
「だって、僕が初めてここに来た時、あなたは話を聞いてくれたじゃないですか。良い人だなって思うんです。…ちょっと物騒だけど……でも、今のあなたには僕、負ける気がしませんし」
「いや、良い人とかそんな(照)……って、はァ!?」
「そんなにやせ細っちゃって……苦労したんですね。前はなかなか良い筋肉だったと思うんですが」
「」
アルは言葉が出なかった。しかし言われてみれば、デノワルーノの仕事以来、自分の仕事に自信がなくなってぐだぐだしてたおかげで、体が以前よりも弱ってしまった。対して、デノワルーノは筋トレで体を磨き続けて美しい筋肉が輝いている。
「友達になってくれますよね!」
「…はい」
アルは口を引きつらせつつ、デノワルーノの友達になることにしたのだった。
「もう降参だわ……あんたスゲーよな…」
「え~!そんなそんな!僕はごく普通の高校生(元)ですって~~~!!!」
「僕のことは、ルノって呼んでくれたら嬉しいな!!!」




