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転生したら校長だった件   全校生徒が勇者でした  作者: 双鶴


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9/10

第9話 勇者、進路希望「勇者を辞めたい」

 進路希望調査票の束をめくっていた俺は、ついに黙り込んだ。


 「……勇者、辞めたい?」


 生徒の名前は、セナ。

 剣術科の2年生で、模擬戦では常に上位。

 でも進路希望欄には、こう書かれていた。


 「勇者を辞めたいです。戦いたくありません。誰かを傷つけるのが怖いです」


 俺は職員室で、元・魔王軍の心理カウンセラー(今は生活指導担当)に尋ねた。


 「彼女、何かあったのか?」


 「いえ、本人は真剣です。昨日の模擬戦後、剣を地面に突き刺して泣いていました」


 「……それは、辞めたくもなるな」


---


 校長室にセナがやってきた。

 制服の袖には、剣の紋章が消えかけていた。


 「校長先生、私はもう、勇者じゃなくていいですか?」


 「……理由を聞かせてくれるか?」


 「模擬戦で、友達を傷つけてしまいました。

 勝ったのに、嬉しくなかった。

 私、誰かを守るために剣を持ったのに、いつの間にか“勝つため”に振ってたんです」


 俺は、胸が痛くなった。

 それは、俺がブラック企業で感じていた“違和感”と同じだった。


---


 その日の午後、緊急の教育方針会議を開いた。

 議題は「勇者制度の再定義」。


 教師陣がざわついた。


 「勇者を辞めたい? そんな希望、前代未聞ですぞ」

 「だが、彼女は間違っていない。戦うことだけが勇者ではない」

 「教育とは、“選ばせること”ではないのか?」


 俺は、黒板に大きく書いた。


 『勇者とは、誰かのために立ち上がる人間のこと』


 「剣を持たなくても、声を上げることも、手を差し伸べることも、勇気だ。

 ならば、彼女は“勇者を辞めたい”んじゃない。“別の勇気”を選びたいんだ」


---


 放課後、セナが校長室に戻ってきた。


 「校長先生、進路希望を修正します」


 「おう。どう書き直す?」


 「“勇者を辞めたい”じゃなくて、“誰かの心を守る人になりたい”って」


 「……それでいこう。お前は、もう十分勇者だよ」


 セナは、剣の紋章が消えた制服を見て、少し微笑んだ。


 「ありがとうございます。少し、肩が軽くなりました」


 俺は、進路指導室の窓から夕焼けを見上げた。


 「……定時で帰れる日は、見えないけど。

 でも、こういう日があるなら、悪くないな」


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