第7話 勇者、進路希望「世界をやり直したい」
進路希望調査票の束をめくっていた俺は、ついに沈黙した。
「……世界をやり直したい?」
生徒の名前は、カイ。
時間魔法科の孤高の天才。
授業中はいつも時計を見ていて、模擬戦では“時間停止”で無双している。
でも進路希望欄には、こう書かれていた。
「世界をやり直したい。過去を変えたい。教育を、最初から作り直したい」
俺は職員室で、元・時空魔導士の歴史教師に尋ねた。
「彼、何かあったのか?」
「いえ、本人は真剣です。昨日の授業で“教育の起源”について、涙を流していました」
「……それ、俺も泣くわ」
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校長室にカイがやってきた。
制服の袖には、古代魔法文字が浮かんでいた。
「校長先生、僕は“時間魔法”で過去に戻りたいんです。
この世界の教育が、間違った方向に進んでしまった気がして」
「……過去に戻って、何をするつもりだ?」
「勇者制度が始まる前の時代に行って、“戦わない教育”を提案したい。
子どもたちが剣を持つ前に、言葉を持てるようにしたいんです」
俺は、ちょっと泣きそうになった。
でも、頭も痛かった。
「時間魔法って、そんな簡単に使えるのか?」
「理論上は可能です。ただし、校長の許可が必要です」
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その日の午後、時間魔法科の実験室で“過去視”の儀式が行われた。
カイは魔法陣の中心に立ち、俺は“教育者の記憶”を提供する役割を担った。
「校長先生の記憶を、魔法に流します。
あなたが教育に感じた“最初の違和感”を、過去に届けます」
俺は目を閉じた。
ブラック企業で、部下が泣いていた日。
「教育って、もっと優しくていいはずだ」と思った日。
魔法陣が光り、カイの瞳が過去を映した。
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放課後、カイが校長室に戻ってきた。
「校長先生、過去には行けませんでした。
でも、あなたの記憶を見て、今を変えることにしました」
「……今を?」
「はい。“世界をやり直す”んじゃなくて、“世界を育て直す”んです。
僕は、教育者になります。時間魔法で、子どもたちの“余白”を守ります」
俺は、深くうなずいた。
「……定時で帰れる日は、まだ遠いけど。
お前が時間を守ってくれるなら、俺は未来を信じる」




