第6話 勇者、進路希望「校長になりたい」
進路希望調査票の束をめくっていた俺は、ついに固まった。
「……校長になりたい?」
生徒の名前は、ユウト。
戦術科の3年生で、冷静沈着。
模擬戦では指揮官役として活躍し、教師陣からの信頼も厚い。
でも進路希望欄には、こう書かれていた。
「将来、校長になりたいです。教育の本質を学びたいです」
俺は職員室で、元・魔王の倫理教師に尋ねた。
「彼、何かあったのか?」
「いえ、本人は真剣です。昨日の授業で“教育とは何か”という問いに、1時間語ってました」
「それ、教師でもやらないぞ……」
---
校長室にユウトがやってきた。
制服の胸元には、手作りの“仮・校長バッジ”がついていた。
「校長先生、僕に“校長業務体験”をさせてください」
「……なぜ校長になりたい?」
「勇者は、戦うだけじゃ足りません。
次の世代を育てることこそ、本当の使命だと思うんです」
俺は、ちょっと感動した。
でも、頭も痛かった。
「じゃあ、明日1日、校長代理を任せる。書類仕事も含めてな」
「はい! 全力でやります!」
---
翌日、ユウトはスーツ姿で登校した。
校長室に座り、書類の山を前にしていた。
「校長代理、購買部が“爆発するパン”を販売しています」
「校長代理、保健室のベッドがまた爆発しました」
「校長代理、魔王軍から“恋愛体験学習”の延長申請が来ています」
ユウトは、真顔で書類に印を押していた。
でも、昼過ぎには顔が青くなっていた。
「校長先生……書類、多すぎます……」
「それが現実だ。勇者より、校長のほうが命削るぞ」
---
放課後、ユウトが校長室に戻ってきた。
「校長先生、進路希望を修正します」
「おう。やっぱり勇者に戻るか?」
「いえ。“教育者”としての道を目指します。
でも、まずは“副校長”から始めたいです」
「……現実的だな」
ユウトは、仮バッジを外し、机に置いた。
「この学校を、もっと良くしたいんです。
校長先生の背中、かっこよかったです」
俺は、ちょっと泣きそうになった。
「……定時で帰れる日は、まだ遠いけど。
お前がいるなら、少しは近づくかもな」




