第5話 勇者、進路希望「魔王と結婚したい」
進路希望調査票の束をめくっていた俺は、ついに声を出した。
「……恋愛対象が魔王ってどういうことだ」
生徒の名前は、ルナ。
魔法科の2年生で、氷属性の使い手。
成績優秀、容姿端麗、校内人気ランキング第1位。
でも進路希望欄には、こう書かれていた。
「魔王と恋愛したいです。できれば娘さんと」
俺は職員室で、元・賢者の恋愛相談担当(そんな役職あるのか)に尋ねた。
「彼女、何か悩みでも?」
「いえ、本人は真剣です。昨日も魔王軍の家系図を調べてました」
「家系図!?」
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校長室にルナがやってきた。
制服の袖には、魔王家の紋章が刺繍されていた。
「校長先生、私は“魔王の娘”に恋をしました」
「……どこで出会ったんだ」
「去年の模擬戦です。氷の魔法で彼女の炎を止めたとき、目が合いました。
その瞬間、世界が凍って、燃えました」
俺は、ちょっと感動した。
でも、頭も痛かった。
「で、どうするつもりだ?」
「ラブレターを書きました。添削、お願いします」
俺は、ラブレターを受け取った。
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内容は、意外としっかりしていた。
「あなたの炎は、私の氷を溶かしました。
戦場で出会った奇跡を、平和の証に変えたい。
もしよければ、次の模擬戦では“手加減”してください」
俺は赤ペンを持ち、添削した。
「“手加減”じゃなくて“共闘”にしよう。あと、“平和の証”はちょっと重い」
「さすが校長先生……恋愛指導も完璧ですね!」
「俺の前職、営業部だったからな。口説き文句は得意だ」
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その日の午後、魔王軍との“恋愛面談”が設定された。
場所は、例の中立会議室。
魔王は、またスーツ姿だった。
「校長殿、今回は“人事”ではなく“縁談”ですか?」
「……そうなるな」
魔王は、娘の写真を見せてくれた。
炎属性、赤髪、ツンデレ系。
ルナの氷属性とは、相性最悪——いや、最高かもしれない。
「娘は、模擬戦で彼女の氷に感動したと言っていました。
ただし、交際には“魔王軍インターン”が条件です」
俺は、うなずいた。
「では、恋愛体験学習として、魔王軍に1週間派遣します」
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学校に戻ると、ルナが校長室に飛び込んできた。
「校長先生! 魔王の娘と、魔法通信アプリ交換できました!」
「異世界にアプリあるのか……?」
「魔法通信アプリです!」
俺は、進路指導室の椅子に座り、深くため息をついた。
「……定時で帰れる日は、さらに遠くなったな」




