第4話 勇者、進路希望「農業やりたい」
進路希望調査票の束をめくっていた俺は、またしても目を疑った。
「農業……?」
生徒の名前は、ガルド。
剣術科のエースで、模擬戦では毎回トップ。
でも進路希望欄には、堂々と「農業やりたい」と書いてある。
職員室で、元・賢者の理科教師に尋ねた。
「彼、何かあったのか?」
「いえ、本人は真剣です。昨日の模擬戦後、畑に向かって剣を振ってました」
「畑に!?」
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校庭の裏にある、放置された畑に行くと、ガルドがクワを持っていた。
しかも、魔力で土を耕している。
「校長先生、見てください! “土属性剣術”で畝が完成しました!」
「それ、剣術じゃなくて農業魔法じゃ……」
「違います! 剣の力で土を育てるんです!」
俺は頭を抱えた。
「なんで農業やりたいんだ?」
ガルドは、真剣な顔で言った。
「戦いばかりじゃ、心が荒れます。
でも、種をまいて、芽が出て、実がなる。
それって、命を育てることじゃないですか。
俺は、命を壊すより、育てたいんです」
俺は、ちょっと感動した。
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その日の午後、理科教師と一緒に“農業科”の設立会議を開いた。
テーマは「魔法と農業の融合」。
「火属性で焼き畑は可能か?」
「水属性で灌漑システムを作れるか?」
「風属性で種まきの効率化は?」
「光属性で光合成を促進できるか?」
教師陣がざわついた。
「これは……勇者農業革命では?」
「魔王軍にも“食料部隊”がありますし、対抗策として有効かと」
俺は、進路希望調査票を見直した。
「農業やりたい」——それは、逃げじゃなかった。
新しい勇者の形だった。
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放課後、ガルドが校長室に来た。
「校長先生、“農業科勇者”として、進路希望を再提出します」
「おう。農業やりたい、じゃなくて“農業科勇者”な」
「はい! あと、収穫祭の予算ください」
「……それは、要検討だ」
ガルドは、クワを肩に担いで帰っていった。
俺は、進路指導室の窓から畑を見つめた。
「勇者って、ほんと育てる力もあるんだな……」




