第3話 勇者、進路希望「猫になりたい」
進路希望調査票の束をめくっていた俺は、思わず二度見した。
「……猫になりたい?」
生徒の名前は、ミレイ。
魔法科の優等生で、成績は学年トップ。
でも進路希望欄には、でかでかと「猫になりたい」と書いてある。
俺は職員室で、進路指導担当の盗賊先生に尋ねた。
「この子、何か悩みでも?」
「いえ、本人は真剣です。昨日も保健室で“猫化魔法”の実験をしてました」
「保健室で!?」
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保健室に行くと、ミレイが猫耳をつけていた。
しかも、しっぽも生えてる。
「校長先生、見てください! 猫化魔法、成功しました!」
「それ、魔法じゃなくてコスプレじゃ……」
「違います! 魔力で耳としっぽを生成してるんです!」
俺は頭を抱えた。
「なんで猫になりたいんだ?」
ミレイは、真剣な顔で言った。
「猫は自由です。誰にも命令されず、好きなときに昼寝して、好きな人にだけ甘える。
勇者って、世界を救うために戦わなきゃいけないじゃないですか。
でも私は、世界より“自分の幸せ”を守りたいんです」
俺は、ちょっと感動した。
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その日の午後、魔法科の授業に参加した。
テーマは「変身魔法の応用」。
ミレイは、猫化魔法のプレゼンを始めた。
「猫の耳は、音を360度拾えます。しっぽは、バランスを取るために重要です。
私は、猫の構造を魔法で再現し、勇者としての機動力を高めました!」
教師陣がざわついた。
「これは……猫型勇者の誕生では?」
「魔王軍にも“獣型部隊”がありますし、対抗策として有効かと」
俺は、進路希望調査票を見直した。
「猫になりたい」——それは、逃げじゃなかった。
新しい勇者の形だった。
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放課後、ミレイが校長室に来た。
「校長先生、猫型勇者として、進路希望を再提出します」
「おう。猫になりたい、じゃなくて“猫型勇者”な」
「はい! あと、昼寝時間は確保してください」
「……それは、要検討だ」
ミレイは、しっぽをふりふりしながら帰っていった。
俺は、進路指導室の窓から空を見上げた。
「勇者って、ほんと自由だな……」




