パーティ結成
夕日が落ちて星が煌めく夜。静かになるはずの街はまだ眠らず、窓から明かりと笑い声が漏れていた。
「はあ~! やっぱり仕事後の食事って最高だわ!」
樽のジョッキに波々と注がれた麦酒を一気に煽るセシリア。ゴクゴクと喉が鳴り、プハァ! と飲み干すのを見届けるのは何度目だろうか。
「セシリアってお酒強いんだね……」
この世界での成人は十七歳だ。その頃になると酒も葉巻も許され、ギルドのAランカーへの昇格試験も受けられることになっている。
「へえ、セシリアはBランクなのか」
差し出されたギルドカードをしげしげと見つめる幸太郎に、セシリアは鼻を高くした。
「まあこの歳でBランクは私くらいでしょうね! 幸太郎とアンナはEランクってところ?」
ギルドには上から、S、A、B、C、D、E、Fとランク分けされており、上位ランカーは危険度に比例して報酬も多い。まだ成人したばかりのセシリアがBランクというのは珍しいことだった。
「セシリアは強いね。何歳からギルドに所属してるの?」
アンナは純粋な瞳でセシリアを見つめる。アンナも十六歳でオズ王国に来て店を営んでいるが、危険な冒険者を生業としている人間は生来稀有な才能を持った人間が多い。アンナにはそれがなかった。
「えっと……まあ十歳くらい? かな……」
歯切れの悪いセシリアだが、その歳の頃からギルドに所属していてもBランカーになることは珍しいことだ。やはりセシリアは才能があるのだろう。
「パーティーは二人だけ? 上を目指すならせめて三人はいないとこれから難しいわよ?」
「そうなのか?」
「えぇ。前衛に後衛、それにサポートの役割分担をしておくと楽に仕事をこなせるわ」
「そうか、それなら俺は前衛になるな」
ふむ、とうなずいた幸太郎は考え込んだ。
「後衛とサポートがいないな」
「あら、サポートはアンナでしょ?」
セシリアは四杯目となる麦酒に口をつけながら、アンナを指差した。
「私はギルド登録してないの。今回は初依頼だったから付いて行っただけ。サポートしたのはトトよ」
「トト? トトって、あのトト!?」
「知ってるのか?」
セシリアは思い出したように目を見開いた。
「知ってるも何も有名じゃない! 人の言葉が喋れる上に、その能力の高さで王都外の村を襲ったゴブリンを退けたって……」
トトは魔犬と愛玩犬のハーフなのだ。
愛玩犬の元に産まれたが魔獣の血を恐れた飼い主に捨てられ衰弱しているところをアンナに拾われた。普段のトトに闘争心はないが、親のように思っているアンナに危害が及ぶと魔犬の性質が現れる。そのことを知っているのはアンナとギルド長だけで、管理の意味もありギルドに登録されている。
「トト、そんなに凄いやつだったんだな。だから一人じゃ請け負えない依頼も受けられたのか」
「まあ依頼なんて受けないんだけどね」
トトは依頼を請われることもなければ請け負うこともない。ただ登録されているだけでドロシーの名物看板犬だ。
「トトがパーティーじゃないってことは、じゃあ幸太郎はソロなのね」
「まあ、そうなるな。俺としてもいつまでもアンナに甘えられないし、誰かパーティーを組んでくれる奴がいれば良いんだけど……」
そこで思いついたように、幸太郎とアンナは視線を彷徨わせ、酒のせいで赤らんでいるセシリアに止まった。
「な、なによ?」
「セシリアってソロだよね?」
アンナが確認する。
「そうだけど?」
「しかも強い」
幸太郎が頷いた。
「わ、私はソロで良いの! 一人のほうが気楽だし!」
セシリアは二人が何を言いたいのか分かったのか、幸太郎たちから逃げるように視線を泳がせる。
「セシリアは経験豊富でモンスターの知識もある。これ以上の頼れる人はいないよ!」
アンナはどうせ仲間になると分かっているのに、ここで逃してたまるか! という気持ちでいた。セシリアがパーティーメンバーになれば、幸太郎はたちまち可愛いセシリアに夢中になるだろう。そうでなくとも、セシリアが幸太郎に絆されれば原作通りだ。
「ね? そうでしょ幸太郎!」
アンナは圧をかけるように幸太郎を見つめる。
「あぁ、セシリアとパーティー組めたら助かる。頼もしい仲間になるだろうし、最高の師匠だな」
幸太郎の純粋な瞳に、セシリアは彷徨わせていた視線を止めた。
「ほ、ほんとに? 私が必要なのね?」
「もちろんだ。セシリアが必要だよ」
幸太郎は力強くセシリアを見つめると、彼女の頬は酔いとは違う朱色をほんのりと浮かべた。
「ま、まあ? 知り合いがすぐに死んだら後味悪いし? 私が先輩として教えてあげないこともないけど? なにせ私Bランカーだから!」
照れ隠しなのかツラツラと捲し立てるセシリアの言葉の中に隠れた了承の意味を、二人は聞き間違いではないことを確認するように顔を見合わせて頷いた。
「ありがとうセシリア! 幸太郎をよろしくね!」
「少しの間はセシリアに苦労かけるが、すぐに隣に立てる剣士になるから待っててくれ」
「わ、私の相棒になるなんて十年はかかるんだからね!」
「十年経ったら相棒になれるのか? それまで一緒にいてくれるんだな?」
「ち、違うわよ! 例えばの話よ!」
幸太郎はツンデレのツンの部分を遠慮なくぶっ叩き、セシリアの首まで真っ赤にさせる。表情は相変わらず無愛想だが、どんな言葉も前向きに捉え、真摯に返すところは、やはり主人公なのだと感じさせるには十分だった。
こうしてセシリアは仲間に入ることとなりアンナは安心した。
その心の中は、自分が脱ハーレム要員としての一歩を踏み出した安心感と、初心者同士のパーティーではなく、幸太郎をサポート出来る仲間が出来たことへの親心もあった。




