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この手で届かないものがある

 ユーリ・モニークは四大元素を小さな体に宿す類まれなる素質を持っている。しかし十三歳というまだ幼い年齢からか、膨大な魔力量と、臆病な性格も相まって恐怖や混乱に陥るとコントロールが上手く出来ないのだ。


「ひでぇコントロールだな……」


 幸太郎が相手をするボス格の男が呆れた。呆気に取られているのは全員で、ユーリのことを知っているアンナも、目の前で見た魔法の暴走にあんぐりと口を開けている。まさかここまでとは思っていなかったのだ。


「あぁあ~! 私ったらすいません~!!」


 どう考えてもユーリの魔法は戦闘の妨げになっている。本人も自覚しているせいか申し訳無さそうに肩を縮こませた。


「余所見させるには好都合よ!」


 始めに我に返ったのっは、やはり実戦経験豊富なセシリアだった。鋭い蹴りは男の顎にヒットし、打撃の振動が脳幹にまで伝わり地面に突っ伏す。ミリアリアも応戦しようとするが、ユーリの魔法で驚いた鷲は逃げてしまった。セシリアはミリアリアを守りながら男達との攻、剣を振り上げさせてももらえない。


「くっ、」


 普段なら力で押し負けるが、今はアンナの付加魔法と幸太郎の最大の武器である俊足を合わせれば小回りが利かない大男に負けるはずがない。しかし幸太郎の後ろにはアンナとユーリがいるのだ。思うように戦えず、焦りを見せる幸太郎に、アンナは叫んだ。


「私達は大丈夫だから!」


 アンナに攻撃する力はなくとも、相手の男達はセシリア達が相手をしている。こちらに向かってくる男達は殆どいなかった。

 しかし幸太郎は絶対にアンナから離れなかった。何があろうと守り通すという意志が瞳を強く輝かせる。


「アンナ! 絶対に離れるなよ!」

「幸太郎……」


 その時、身を寄せ合うアンナとユーリに駆け寄る影が視界の隅に写った。


「へへ!」


 安っぽいけれど皮膚を裂くには十分な剣はギラリと太陽に反射して、振るう刃に二人が写った。


「ユーリさん……!」

「アンナ!」


 剣から守るためにユーリを突き飛ばしたアンナと、そんなアンナを守るため振り向いた幸太郎。

 痛みに構えたがいつまでたっても。その衝撃はこない。その代わりに全身を包んだ存在に、ギュッと目をつむっていたアンナはそっと目を開いた。


「アンナ大丈夫か!?」

「幸太郎……!?」


 焦った表情の幸太郎に、アンナは一瞬ドキリとしてしまう。自分を抱きしめている腕は後が付きそうなほどアンナを力強く熱い。


(うそ、なんで私を守ってるの)


 ハッと我に返りると、カッ! と血が沸騰したように体が火照り、頬が色付いていくのを感じる。


「こ、幸太郎離して……! いった!」

「どこか怪我したのか!?」

「う、うで」


 アンナの腕には一筋の傷口から血が枝分かれするように滴り、服や地面にポタポタと落ちてはシミを作っていく。


「ユーリさんは!?」


 バッと顔を上げてユーリを見る。三角帽の鍔が表情を隠しているが、杖を持つ手が震えている。きっと恐怖で震えているのだ。

 そんな彼女に襲いかかる二人の男。アンナに傷を負わせた男と、幸太郎が対峙していた大男。二人は絶好の好機だと嫌な笑みを浮かべながら、一切の手加減なく振り上げられた武器。その二つがユーリの頭上に降ろされた。


「……!?」


 しかしその武器はもう少しのところで止まる。

 ユーリの周りに旋風が舞い、その威力はどんどん強まったと思ったら、大の大人二人を木枯らしのように吹き飛ばした。


「ぐあ!!!」


 ゆらり、とユーリは飛ばされた二人の男に近づき、大男の腹の上に乗る。


「…………ない」

「な、何言ってんだコイツ!」


 アンナ達にはユーリの言葉は届かないが、唇を動かしている。


「……お姉さまの柔肌を傷つけて五体満足で帰れると思わないでください」


 杖にはめ込まれた結晶石が見たこともないほどの光を宿し、ユーリは無表情で杖を男達の顔に近づける。


「この距離なら外す心配もありません」

「ひ、ひぃ!!」


 ボボボ、と炎の玉が現れる。


「さようなら、クソ野郎さん」

「うわああああ!」


 ボン! と空気を巻き込み爆発する音をさせて、男達の顔は揺らめく赤に覆われた。


「……殺したのですか?」


 セシリアの背中に隠れるように、ミリアリアが顔を青くした。


「あ、あ、兄貴ぃ!!」


 セシリア達が相手をしていた男達は鼻水まで垂らして大男の周りに集まる。


「……し、死んで……ない?」


 ファイヤーボールは男達の顔の間に当てた痕跡があり、二人は泡を吹いて気絶しているだけだった。

 ボスを撃退したユーリはというと、既に男達から離れ、アンナと幸太郎へ全速力で駆けてきていた。


「お姉さま~~~!! 私のせいでお姉さまの美しいお肌に傷が~~!」


 びえええ! と効果音がつくほど涙を流すユーリに、アンナは痛みも忘れてあやす。


「大丈夫だから」

「でも、でもぉぉ!」

(鼻水まで出てる……)


 美少女が台無しだ、と思いながらアンナはユーリにお礼を言う。


「ありがとうユーリさん。おかげで助かっちゃった」

「でもお姉さまに怪我を負わせてしまいました……」


 ピンク色の瞳がうるうると涙で滲み揺れる。


「大丈夫、こんなのすぐ治るから」


 アンナは怪我をした右腕に左手をかざす。すると白い光の粒子が傷口を覆うように集まり、次の瞬間には傷が綺麗サッパリなくなっていた。


「お姉さま、白魔法を使えるんですね」


 先程までしおらしかったユーリは驚きと歓喜を小さな体から溢れんばかりに表し、アンナを見つめる瞳がキラキラと輝く。


「だから、ね? 大丈夫」

「お、お姉さま~~!」


 アンナの手を握るユーリに、呆れた笑いを浮かべながら近づいてきたミリアリアとセシリア。


「とにかく終わってなによりですわ」

「さっきの男達は退散していったわ。通報もされてるだろうし、彼奴等が捕まるのも時間の問題でしょうね」


 セシリアは長い金髪を手で払い、ミリアリアは砂埃をはたく。


「ところで……お二人さんはそろそろ離れたら?」


 セシリアがチラリとアンナを見下ろす。なんのことだろう? と首を傾げたアンナは、自分今どんな状態か思い出して、緩急していた体がブリキの玩具みたいに固まる。


「あ、あ、ごめん! 重いよね! すぐ、すぐに離れるから! 大丈夫よ、私ってば丈夫なんだから!!!」


 幸太郎の胸をグイグイと押して、ようやく離れることが出来たアンナは額に浮かんだ汗を拭った。


「まあ、変な奴らに絡まれたけど、予定通りにマンチキンに行きましょ」

「賛成ですわ」

「あら、珍しく意見が合ったわね」


 にやつくセシリアからツンと顔を背けたミリアリアにアンナとユーリは頷いて、幸太郎も立ち上がって歩き出す。

 大通りに出れば日常に戻り、そう遠くないマンチキンまでの道のりを陣取るようにアンナの歩く幸太郎の顔をアンナは上手く見れなかった。それによって幸太郎の沈んだ表情も気付けず。


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