どうせならこの秘密も着飾ってしまおう
ストーカー事件から一夜明けて、このことは職員どころか冒険者たちにまで知られることになった。自衛や対策のマニュアルが作られ、衛兵では夜の警備体制を見直された。
被害者であるラナはギルド長から休むように言われたが、ラナは首を横に振って今日も仕事へと精を出す。やってくる冒険者を笑顔で迎え入れ、依頼者の相談や冒険者の斡旋をして次から次へと舞い込む仕事をこなしていた。
そんな中――
「幸太郎さん!」
セシリアとミリアリアを連れてやってきた幸太郎に、ラナは今日一番の笑顔を浮かべた。
「お疲れ様」
相変わらず幸太郎に愛想はないが、それでもラナは笑顔を崩さない。少しでも幸太郎の昇格のためになる依頼を提案しようとしていると、幸太郎はサッと一部の依頼書を貼る掲示板に出されていた一枚の紙をラナに差し出した。
「あ、もう決めているんですね」
少し残念な気もしたが、幸太郎が決めた依頼に興味はあった。
「えっと……」
依頼書に目を走らせたラナは首を傾げる。
「あの、この依頼ってEランクですけど……? 幸太郎さんならもう少し難易度の高いものでも……」
幸太郎の後ろでニヤニヤするセシリアとツンと顔を背けているミリアリア。
「貴方そのお顔なんとかなりませんの? いやらしくてお隣を歩けませんわ」
丁寧に整えられた髪を指先でクルクルと遊ばせていたミリアリアが、セシリアの表情を見て眉を顰める。
「元からこの顔よ! アンタこそその言葉遣いなんとかならないの? 聞いてるだけで鳥肌立つわよ!」
「あら! なんて失礼なのかしら! 野蛮ですわ! 幸太郎はどうして貴方とパーティーを組んでいるのかしら?」
「あたしが一番始めのメンバーなんだからね! パーティーではあたしが一番幸太郎のこと分かっているの!」
セシリアがフフン、と笑うと、ミリアリアは顔を歪めてあからさまに不快だと訴える。
「時間は関係ありませんわ。幸太郎はそんなもので人を判断する者ではありませんもの!」
「なによ!」
「私の言うことに間違いがありまして!?」
ガルルル!
今にもキャットファイトが繰り広げられそうだというのに、当の幸太郎は宥めることも咎めることもせず、他人事のように受付を待つ。
「あの、幸太郎さん大丈夫ですか?」
ラナが背後を心配していると、幸太郎はラナの心配を任務に対してと受け取ったのか、コクリと頷いた。
「数は多いだろうけど、この森はアンナがよく行くから。モンスターに遭遇したら大変だろ」
(あ……)
ラナの頭の中にこれまでの幸太郎の姿が走る。そして幸太郎の行動の起因に誰が関与しているのか理解すると、自然と笑みが浮かんだ。
「わかりました。それじゃ手続きパパっとしちゃいますね!」
ラナは慣れた手で流れるように手続きすると、未だ喧嘩をしているセシリアとミリアリアを連れた幸太郎に「頑張ってくださいね」と手を振って見送った。
(そういうことか~)
脱力して間延びした溜息が上がる。
失恋、とは思わない。何故なら幸太郎だって無自覚だろうから。
(ふふふ、教えてあげないもん)
意地悪だろうか? しかし元々自分は打算的で意地の悪い女だった、と思い直す。
折角初めて抱いた恋心なのだ。さっさと諦めるのは勿体ない気がした。