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凡人の俺にだけ“声”が聞こえるようになった件 ―地方創生チート始動―  作者: バグ製造機
高校生出会い編

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第五話 雪と霧と、この街の匂い

 朝方まで降り積もった雪で、道はすっかり白に覆われていた。

 玄関の戸を開けた瞬間、頬を切るような冷気が流れ込み、胸の奥から思わず吐息がこぼれる。吐いた息は白く膨らみ、すぐに空気に溶けていった。


 向かいの家の玄関先では、おばあちゃんが小さな体でスコップを振るっていた。

 積もった雪に立ち向かうその姿は、頼もしさよりも、むしろ危なっかしく映る。


――『非効率です。高齢者の労働力は消耗が激しい。業者に任せるのが最適解です』


 いつものように、頭の奥に響く冷たい声。

 俺は少しだけ眉をひそめた。


「……そうかもしれないけど」


 そう答えながら、玄関の脇に立てかけてあったスコップを手に取った。

 ザク、ザクと硬い雪を削り、道を開けていく。


 体はだるい。

 けれど、不思議と嫌じゃなかった。


 向かいの家の玄関先で雪をかいていたおばあちゃんがこちらに気づいた。


「あら、誠くん。手伝ってくれるのかい?」


「ええ。俺がやりますよ」


 そう答えると、おばあちゃんはほっとしたように笑った。

 その一言が、胸の奥をじんわりと温めた。


――『感情は効率を阻害します。しかし、資源としての利用価値はあります』


「利用……って言い方は好きじゃねえな」


 口ではそう言いながらも、雪をすくい上げる。

 非効率だとわかっている。時間も体力も食うだけの作業だ。

 けれど、こうして誰かと並んで雪かきをするのは、この街の冬の風景だった。


 スコップが雪を割る音、遠くから聞こえる除雪車のエンジン音、そしておばあちゃんの短い息遣い。

 その全部が、俺には懐かしいものに思えた。


 俺は、この空気を知っている。

 この匂いが、嫌いじゃない。


 しばらくして、作業を終えた俺たちは玄関先で腰を下ろした。

 おばあちゃんが台所から急須を持ってきて、湯呑みに温かいお茶を注いでくれる。

 手の中で器を包み込むと、指先にまで温もりが広がった。


「誠くん、親御さんは都会で働いてるんだったかね?」


「……まあ、そんな感じです」


 曖昧に答える。

 本当は、もう何年もまともに話していない。俺を置いて、どこで何をしているのかもわからない。

 いや――俺自身も、知ろうとしなくなっていた。


――『血縁に価値はありません。必要なのは環境と資源です』


 声は冷たい。

 でも、俺の中には違う想いがあった。


「……俺は、この街が好きだ。雪も、霧も、不便も。ここが俺の居場所なんだ」


 湯気に包まれた湯呑みを握りしめながら、俺は静かにそう思った。


 ◇


 雪かきのあと、体はぐったりとだるかったが、不思議と心は軽かった。

 道端にはまだ高く積まれた雪の山が残っている。

 小さな頃、どこかで似たような雪景色を眺めた記憶があるような気がして――思わず胸がざわついた。

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