第三話「声が教えてくれること」
「……また、全然頭に入らねえ」
通信制高校の課題。教科は数学。
ノートを開いて数式をにらんでみるけど、途中で頭が真っ白になる。
中学で病気になってから、勉強はまともにできていない。
俺は凡人。頭が悪いんじゃなくて、続けられないんだ。
そう、ずっとそう思ってた。
――そのとき。
『目を閉じてください。そして教科書を、一枚ずつただ見てください。理解しようとする必要はありません』
「……見るだけ?」
半信半疑だった。
けど、昨日も今日も“声”は俺を助けてくれた。
言われた通りにするしかない。
ページをめくる。眺める。
数式も文章も意味はわからない。
なのに、頭の奥にざわざわと何かが刻まれていく感覚があった。
記憶の断片が整理され、積み重なっていく……そんな妙な感覚。
『はい、それで結構です。今は私に学習させてください』
「……学習?」
自分が勉強してるんじゃない。
“声”が、俺の見たものを整理して覚えている――そんな気がした。
数十分後。
ふと視線を落とした問題が、なぜか解ける気がした。
「……あれ? この公式、なんでか使える」
試しに計算してみると、答えが合っていた。
「……これって……まるでスキルみたいじゃないか」
拳を握る。
凡人の俺でも、“見るだけ”で勉強が身についていく。
努力じゃなく、二人三脚で。
『その通りです。あなたが見なければ、私は学習できません』
声が静かに告げる。
俺と声が、一緒に成長していく――。
胸が高鳴った。
ただの通信制高校生の俺。
だけど、これからは違う。
「……次は、英語でも試してみるか」
そのとき、声がかすかに笑った気がした。
それが優しさか、不気味さか、俺にはまだわからなかった。




