第23話 中二会社、産声を上げる
あれから数日後。
俺たちは、ついに「会社をつくる」という一歩を踏み出していた。
目の前に広げられた登記書類。そこに必要事項を書き込んでいくのだが、問題は最後に残った「商号」の欄だった。
「え、名前? 会社の名前ってこと?」
ペンを握ったまま、思わず固まる。
『はい。商号は必須です。未記入では登記できません』
リリアが相変わらず冷静に告げる。
……名前か。
こういうの、俺が一番苦手なんだよな。ペットの金魚に「金魚」って名づけて、呆れられたのを思い出す。
けど、ここで悩んでも仕方がない。勢いで行こう。俺のセンスを信じろ。
「よし……《オメガシステムカンパニー》!」
堂々と書き込んでやった。カッコいいじゃん、厨二っぽくて。
提出はマリア先生が忙しいながらもまとめてやってくれた。資金援助もしてくれるし、銀行口座の手続きも先生のサポートでスムーズに進んだ。俺たちは順調に、法人化の道を歩んでいる。
さらに、中古とはいえ高性能のPC数台と、小型サーバーまで手に入った。机の上に並べると、もう俺たちの旅館の離れは「ただの相談部屋」じゃなくなっていた。
小春の両親も「いい経験になるなら」と快く了承してくれ、旅館の離れを会社住所として使えるようにしてくれたのだ。
俺たちの“拠点”が、ついに形になり始めていた。
だが――人手不足は深刻だった。
法人化の手続きは順調でも、開発や運営を考えると明らかに人数が足りない。
俺たちは蒼護市内の高校生を対象に「仲間募集」をかけることにした。
「高校生限定! 未経験でも歓迎!」
大哉が勝手にチラシを作って、蒼護駅前で配ったらしい。お前、行動力だけはすげえな。
そして数日後。
旅館の離れに、一人の男子が面接にやってきた。
「初めまして。成田俊といいます」
黒縁眼鏡に、きちんと着こなした進学校の制服。姿勢もよく、言葉遣いも丁寧。
一見して「優等生」ってやつだ。
俺たちみたいな通信制高校生からすると、別世界の住人に見える。
「経験は……正直あまりありませんが、やる気はあります」
控えめにそう告げる彼を、俺たちはとりあえず受け入れることにした。
猫をかぶっているのか、それとも本当に大人しいのか――その時の俺にはわからなかった。
法人登記完了の通知が届いたのは、そのすぐ後だった。
届いた書類を見た瞬間、大哉が爆笑する。
「な、なあ誠……これ……マジでそのまま出したのかよ!? 《オメガシステムカンパニー》って……ダッサ!」
「だ、だって急ぎだったし!」
小春も困ったように微笑んでいる。
「……ちょっと恥ずかしいかも。それに“カンパニー”で登記すると“カンパニー株式会社”で会社会社になっちゃうよ……」
俺は必死に言い訳する。
「後で変えればいいし!」
その時、マリア先生が申し訳なさそうに口を開いた。
「ご、ごめんなさい。急がしくて私もあまり見ていなくて……ただ、その商号変更には三万円の費用がかかりますので、しばらくはこのままでお願いできると……」
「……っ!」
先生を責めるわけにはいかない。俺は頭を抱えて叫んだ。
大哉は腹を抱えて笑っているし、小春は気まずそうに目を逸らす。
結局「じゃあ次はみんなでちゃんと決めような」と約束させられ、俺は泣きそうになりながら頷くしかなかった。
名前問題で一騒動あったものの、法人としての形は整った。
ただ――まだ大きな問題が残っている。
「うーん、このまま開発するのはいいけど、運転資金はもう少し欲しいなぁ……」
サーバーの前で頭を抱える俺に、リリアが冷静に囁いた。
『クラウドファンディングを実施するのが有効です』
「クラファンか……」
俺がそう呟いたとき、大哉がすぐさま乗り出してきた。
「それ、いいじゃん! 友達めっちゃ多いし拡散は任せろ! 俺にやらせてくれ!」
俺はSNSや呼び込みには自信がなかった。だから、その役割は大哉に一任することにした。
すると成田が、少し控えめに口を開く。
「企画や文章はサポートできますので、必要ならお声がけください」
そのとき、成田の瞳が一瞬だけ鋭く光ったように見えた。――まるで、何かを計算しているように。
その夜。
旅館の離れに再び集まった俺たちは、机を囲んでアプリの新規企画を練り始めた。




