第19話 本当に新聞に載った!
数週間が過ぎた。
俺たちはあれから何度も試行錯誤を繰り返し、小春の祖母や近所の人に触ってもらっては、直して、また触ってもらって――。
ぎこちなかったアプリは、ようやく“日常に紛れ込める”くらいの形になっていた。
そして今日。
地元の小さな新聞の片隅に、俺たちの記事が載った。
――『高校生が方言アプリ開発』。
モノクロの集合写真。少しピンボケしているけど、そこには確かに俺たちが写っている。
記事の見出しの横には、記者の軽いコメントが添えられていた。
――「地元発の挑戦に期待。天才高校生? 将来が楽しみです」
「天才だってよ」
大哉がわざとらしく肩をすくめる。
「おまえのことだろ、誠」
「ち、ちがうって! みんながいたからだろ」
俺は慌てて首を振るが、顔が熱くなる。
「ふふ、でも……ちょっと誇らしいよね」
小春がそう言って新聞を抱きしめるように胸に当てた。
「オレの親父なんか、朝から電話しまくってんだぞ。『うちの息子が新聞に出てる!』って、漁師仲間にまでかけまくって……ほんと恥ずかしい」
大哉は苦笑しながら頭をかく。
「うちのおばあちゃんもだよ。『孫が天才高校生だって!』って、電話で親戚中に言いふらしてた」
小春は困ったように笑うが、どこか嬉しそうだった。
俺は記事を見つめながら、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
ほんの数行の記事。小さな写真。
大したスペースじゃない。地方の一面でもない。
でも、確かにここに――俺たちの努力の軌跡が残っている。
これまでの夜の勉強会。押しやすさを探した小春の指先。
方言を集めて回った大哉の姿。
初めてアプリが“返事”をしてくれた瞬間。
全部が、この小さな紙面に凝縮されているように思えた。
「……俺たち、やったんだ」
声に出すと、胸の奥からせり上がるような熱がこみ上げた。
それは仲間に向けた言葉でもあり、半分は自分自身への確認でもあった。
――その時だった。
『おめでとうございます。ですが、誤解しないように』
耳の奥に、久しぶりにリリアの声が響いた。
冷えた氷水を頭から浴びせられたような感覚。
胸の熱が一瞬で冷え、背筋が凍りつく。
『新聞に載っただけでは何も始まりません。今のままでは収益はゼロ。満足している場合ではありません』
リリアの無慈悲な声が突き刺さる。
「あっ....」
思わず声が漏れる。
「あの……いや、ホントはさ。俺ら、方言アプリを作るのがゴールじゃなくて……」
ここで俺は、さも“最初から俺が考えていたんだ”とでも言わんばかりに胸を張った。
「もっとこう、要望を聞いたり、暮らしに役立つ便利なアプリを作るのが目標だったんだよな! それに……し、収益化だって考えないと……!」
どや顔で言い切った瞬間、部屋の空気がピタリと止まる。
「「「…………あっ」」」
小春と大哉も同時に声を漏らす。
二人して同じタイミングで固まり、間の抜けた沈黙が流れた。
次の瞬間、全員の肩が同時に落ちる。
「……なんで今まで気づかなかったんだろ」
「完全に忘れてたな……」
「…そうだったぁ……俺ら、リリースしたとこで満足してた……」
苦笑とため息が交じり合い、妙に間抜けで温かい空気が漂った。
――次の課題が、もう目の前にある。




