第14話 工藤パンは即却下? 仲間と夢見るおしごと計画
「蒼護市を舞台に、凡人の高校生が“声”に導かれて動き出す物語です。今回から仲間との相談パートに入ります!」
前日のマリア先生の言葉が、まだ耳に残っていた。
「挑戦しなさい」――あの凛とした声。母親のようでもあり、厳しい響きを持つ言葉だった。
翌朝、俺は久しぶりに制服に袖を通し、通信制高校の登校日に向かった。数少ない“直接会える日”だ。普段は画面越しにしか会えない同級生と、こうして顔を合わせる時間は貴重だった。
◆
蒼護市の郊外にある校舎は、平日でも少し寂れている。廊下を歩くと、ちらほらと生徒の姿があるだけだ。
その廊下の角で、佐藤大哉と佐々木小春の二人に出くわした。
「おっ、工藤!」
大哉がいつもの調子で手を振る。
「ひさしぶり」
小春は控えめに笑った。
教室で数時間の授業を受けたあと、俺たちは自然と机を寄せて雑談を始めた。教科書より、話題は将来やバイトのことに移っていく。
「なあ……」
俺は、昨日から胸の奥でくすぶっていた思いを口に出した。
「俺たちでも、“仕事”とかできると思う?」
二人がきょとんとした顔をする。
けれど次の瞬間、案外真剣に考え始めた。
◆
「魚を配ればいいじゃん!」
真っ先に声を上げたのは大哉だった。
「父ちゃんの漁で余ってるのあるし、それ配ったら感謝されるぞ!」
「……いや、配るだけじゃ稼ぎにならないだろ」
俺がツッコむと、小春が小さく手を挙げた。
「せめて料理して売るとか? 干物とか」
「なるほどな」
確かに現実的ではある。でも俺が思い描いていた“何か新しいこと”とは少し違う。
小春はさらに言った。
「宿のお客さん、スマホ全然使えない人多いの。教えてあげたら喜ばれると思う」
「うーん……なんか、それバイトっぽいな」
「いやバイトだって稼ぎだろ!」
大哉がすかさず突っ込む。
「でも夢がないよね」
小春の一言に、大哉は「ぐっ」と黙り込んだ。
確かにどれもリアルだけど、“法人”とか“ビジネス”という響きからは遠い。
◆
「じゃあさ!」
大哉が急に声を張った。
「パン屋は? “工藤パン”とか!」
「「即却下!!」」
俺と小春が同時に叫んだ。
「……いや、それ絶対どっかで聞いたことあるし。やったら怒られるやつだ」
「“イギリスなんとか”とか出してる会社っぽくなるから」
「イギリス!? 関係なくね!?」
教室に変な笑いが広がった。大哉の迷走はいつも場を和ませてくれる。
◆
――『提案:近隣住民に有料でWi-Fiを再販するビジネスモデルを検討してください』
突然、あの“声”が脳内に響いた。リリアだ。
(いやいや、それ違法っぽいから!)
思わず口に出してしまった。
「おい、どうした工藤?」
大哉が怪訝そうに覗き込む。
「あ、いや……なんでもない!」
「また独り言……?」
小春の目が少し心配そうになる。
やばい。リリアの声に反応するのは、独り言みたいで危ない。
◆
結局、その日の勉強会――いや、雑談会は大きな結論を得られないまま終わった。
「まだ俺たちにできる仕事は見つからないな」
俺が言うと、二人は苦笑いしてうなずいた。
「でも、考えるだけの価値はあるかもしれない」
大哉は「まあな!」と笑い、小春は「次また考えよ」と小さく言った。
俺たちは軽く手を振り合って、それぞれの帰路についた。
◆
夜、自室でスマホを握りしめる。
俺は迷った末に、マリア先生にLINEを送った。
「先生、ちょっと相談があるんです」
送信を押した瞬間、心臓が跳ねる。
既読がつくまでの数十秒が、やけに長く感じられた。
数分後。
画面に文字が浮かぶ。
『もちろん。いつでも話していいのよ』
その優しい言葉に、胸の奥が少し軽くなった。
「……やっぱり俺、何か始めてみたいのかもしれない」
声にならないモノローグを呟き、俺は画面を見つめ続けた。
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