第12話 図書館の勉強会と小遣いの話
蒼護市立図書館の二階。
窓の外にはまだ薄い雪が残り、午後の光が白く差し込んでいた。
暖房の効いた静かな閲覧席に、三人分のノートと教科書が並ぶ。
今日は、大哉と小春に頼まれて勉強を見てやる日だ。
……とはいえ俺自身、別に教師をやりたいわけじゃない。ただ、声――リリアの指示通りに進めれば、自然と効率的な授業になる。
机に座った瞬間、小春がそっと顔を上げた。
「……なんかいいことでもあったの?」
控えめな声。視線はノートに落としたままなのに、俺の表情の変化をきっちり捉えていた。
……まだ知り合って間もないけど、よく気づくな。純粋にすごいと思う。
「……まあ、ちょっといいことがあってな」
答えると、向かいの大哉がすかさず身を乗り出してきた。
「おいおい! 何だよそれ! 女か!? 女だろ!」
「ちげーよ!」
「じゃあ何だよ。今日どうって言ったって、そんな短時間で何ができんだよ?」
ぐいぐいと顔を寄せてくる大哉。
観念して、俺は小さく息を吐いた。
「……SNSの投稿をちょっと手伝ったんだよ。そしたら、報酬が入った」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、机をバンッと叩いて大哉が叫ぶ。
「はぁ!? なんだそれ! そんなので金になるのかよ!」
「……なるんだよ」
小春が少し驚いたように目を瞬かせて、柔らかく言葉を添える。
「すごいね。誠くんがやったことが、人の役に立ったんだ」
「う……うるせーよ」
正面から褒められると、妙に照れくさい。
俺はそっぽを向いてノートを開いた。
「いいなぁ!」と大哉が続ける。
「俺も欲しいゲームあるんだよ! そういうので稼げたら最高じゃん!」
小春も、ほんの少し声を上ずらせながら言った。
「わたしは……実家の手伝いがあるから、お小遣いに困ってるわけじゃないけど……でも、そういうのちょっと羨ましいな」
彼女らしい、控えめな感想。
俺は慌てて言い返す。
「いや、そんな簡単なもんじゃないぞ。案件探すのも手間だし、全部がうまくいくわけじゃない」
「ふーん……」と大哉は腕を組んで考え込む。
そして――急にニヤリと笑った。
「だったらさ! 三人でやればよくね? チームで商売! 誠がSNSやって、小春が頭使って考えて、俺が広報担当! 最強じゃん!」
「はあ!?」
思わず声が裏返った。
小春は目を丸くして――それでもすぐに視線を伏せ、頬をかすかに赤らめながら答えた。
「……わたし、そういうの自信ないけど……。でも、もし本当にやるなら……ちゃんと計画立てないとダメだよ」
「計画とかいいって! ノリだよ、ノリ!」
大哉は笑い飛ばしながら俺の背中をバンバン叩いてくる。
「お前らなぁ……」
ため息をつきかけたとき、頭の奥に冷たい声が響いた。
『共同での活動にすれば効率的です』
「うるせー、今は黙ってろ」
心の中でリリアに返す。
だけど――仲間二人の笑顔を見ていたら、否定する気力も薄れていった。
その後はちゃんと勉強に戻った。
小春が控えめながらも的確に場を仕切り、ノートに要点を書き出す。大哉は元気に質問を投げ、俺はリリアのサポートを借りながら説明する。
笑いと真面目さが混じった、不思議に居心地のいい時間。
勉強会が終わって図書館を出る頃には、夕暮れが街をオレンジ色に染めていた。
「なあ誠!」と大哉が隣で笑う。
「やっぱやろうぜ、三人で! 絶対面白いって!」
小春は横歩きしながら、小さな声で付け加える。
「……わたしは、サポートくらいなら……」
俺は呆れたように笑った。
「……まったく、お前らな」
だけど胸の奥では、何かが確かに膨らんでいくのを感じていた。
――三人でやるのも、悪くないかもしれない。
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次回は【11時50分更新予定】です。どうぞお楽しみに!




