第9話 エロステータス
「うう、あともう少しでしたのにぃ」
「いやいや、何処までするつもりだったんだよ」
「……ぽっ」
「そこで頬を染めんな!」
加恋の筆頭侍女である美崎さんに強制的に『行為』を中断させられた俺たちは、ひとまずダンジョンに潜っていた。
美崎さん曰く、加恋はまだ16歳なのでR-18は駄目らしい。どの辺が境界線だったのか、詳しく教えて欲しい。
「なんか、どっと疲れたぜ……」
結果的に興奮と足のだるさが残ったままの俺は、いつもの大部屋に足を踏み入れる。代わり映えのしない、俺のマイダンジョンだ。
ズオオオオオオッ!
「さて、今度は……」
赤い格子模様に彩られて出現したのは。
「おっ!!」
キシャアアアッ!
青い肌を持つ、アルテマゴブリン2体。Bランクのモンスターである。
「じゃあ、さっそく」
これ位なら、グランバースト二発で退治できる。
「うらあああああああああああっ!!」
どかーん!!
『行為』を途中で中断させられた俺の爆炎魔法は、いつもより冴えていた。
◇ ◇ ◇
「こ、これほどまでとは!」
桟橋に泊めた水陸両用自動車(軍用払い下げ)の中で、収集した情報に驚きの声を上げる美崎。
「ブロック数が2とはいえ、ダンジョンの展開速度が45秒?」
タイガ様のマイダンジョンは、ブロック数2のFランク。
とはいえ、彼のプライマリーブロックは90立方メートルもある大部屋。このサイズのダンジョンを45秒で展開できるなんて、信じられなかった。
「3000回に及ぶ探索回数が、展開と格納プロセスを最適化した? いえ、それにしても……」
速すぎる。通常、このサイズのダンジョンの展開・格納には数時間かかるのが普通だ。それゆえ、1日に何度もダンジョン探索するなんて発想自体がない。だがこの青年は。
「一日に何度も探索を繰り返すことで、ランクの低さをカバーしている」
お嬢様から聞いた時は、見間違いなのではと疑ったほどだ。
彼の話では、何とか効率的に借金返済をしようと編み出した技、とのことだが。
「興奮度に比例して報酬が向上する点も本当ね」
正直、お嬢様があれほどアブノーマルな行為に及ぶとは想定外だったが(真っ赤になり鼻血を出した美崎は、慌てて行為を制止したほどだ)彼の脳内に格納されたダンジョンブロックに、共昂現象が確認された。
本来なら、十数年のキャリアを持つベテランダンジョン生成者と厚い信頼で結ばれたバディの間でしか発生しえない特大のブースト現象だ。
「……エロはすべてを超越するという事?」
そんなバカな。お手軽すぎるだろ。お嬢様の筆頭侍女を務めつつ、ソコソコ上位のダンジョン生成者として活動して来た美崎でも発生させたことはないのに。
あれか、処女なのがいけないのか。だってだって素敵な王子様が現れないんだもん。世界が悪い、きっとそうだ。世界は革命されるべきなのだ。
「うぅ、それはともかく」
危険な方向に行き始めた思考を頭を振って切り替える。
「ダンジョン報酬を変化させるタイガ様の感情パターンは、だいたい掴めたわね」
まだ一部不明確な部分があるが、時間を掛ければ解明できるだろう。
「ふむ……」
それに加え、加恋お嬢様の情動が波及する形で影響していることも分かった。
「これで、お嬢様に能力が発現したら……最高のコンビになれるかも。そうしたら」
当主である綾瀬川驕司の娘とはいえ、それだけで綾瀬川グループの後継ぎになれるほど甘くはない。ただでさえ能力の発現が遅れていることで、お嬢様の立場は親族内でも微妙になっているのだ。筆頭侍女である美崎の力だけでは守り切れないほどに。
「いいわね」
お嬢様がタイガ様に興味を示したときはどうなるかと思っていたが、想定外の好影響がありそうである。
「さて、どうせならこの情報をステータスに組み込みましょう。
ステータス名は……そうね」
最近お嬢様が手を出しているドージンゲーというジャンルで見たことがある。あまり深く考えないまま、美崎はその名称をダンジョンアプリの拡張機能に打ち込んだ。
◇ ◇ ◇
「加恋お嬢様、タイガ様、ダンジョン探索お疲れさまでした」
数回のダンジョン探索を終えた俺たちを、ふわふわタオルとスポーツドリンクを手にした美崎さんが出迎えてくれた。ちなみに本日の実入りは700万円ほど。加恋と折半になるとはいえ、いつもよりはるかに多い収入だ。
ダンジョン下僕生活も悪くないかもしれない……加恋と色々できるし。
カネとエロ(未遂だけど)の前に男は無力である。
「ふふ、ありがとう美崎。それで、トラくんの情報は取れましたか?」
「はい、滞りなく。それにしても、とてつもない逸材ですね。加恋お嬢様の見識には驚くばかりです」
「んふふふふ、そうでしょうそうでしょう!」
「……最初は歪んだ性癖が暴走して、援交でも始めるのかと心配しましたが、意外に正気だったのですね」
「うおいっ!? 筆頭侍女!」
じゃれ合い始めた二人は年の離れた姉妹のようで微笑ましい。
「という事でタイガ様。タイガ様のエロ度……こほんっ、感情の動きがどのようにダンジョン報酬に影響するか、ステータス化することに成功しました」
「!? マジですか!」
美崎さんから伝えられた驚きの情報に、思わず目を見開く。
自分でも色々調べてみたが、事前に見る紳士向け動画のジャンルで変化することぐらいしか分からなかった俺である。伯父さんに相談しようにもなかなか捕まらないし。
「プラグインを送りますので、ダンジョンアプリにインストールしてください」
「ありがとうございます!!」
流石は綾瀬川グループで加恋の筆頭侍女である。
俺は特に疑うことなく、送られてきたパッチファイルを実行する。
ピピッ!
電子音が鳴り響き、ダンジョンアプリ内のステータス情報が更新される。そこには……。
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氏名:尾路 田井我
年齢:21歳
ダンジョンランク:F
エディットブロック:2
HP:1090/1200
MP:0/280
攻撃力:320
……
ダンジョン展開回数:2,938
■エロステータス■
尻技:1回
足技:1回
手技:0回
露出:0回
M度:78
バブみ度:5
発射回数:0回
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「ぶうううううううううっ!?」
エロ同人みたいな、恥ずかしすぎる情報が追加されていた。
「いや、ちょっと、美崎さん、これっ!」
抗議の声を上げようとするが……。
「あ、プラグインを消そうとするとアプリごとロックされますのでご注意を」
「ウイルスすぎる!?」
「ぷぷぷ、ご愁傷さまです、トラくん」
「もちろんお嬢様の分もありますよ? 私の権限でアプリに組み込んでおきました」
「のおおおおおおおおっ!?」
俺と加恋の悲鳴が、昼下がりのダンジョンフィールドに鳴り響いた。