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第8話 初めての共昂(リンク)

「さぁて、始めましょうか」


 簡素なパイプ椅子に座った加恋が、すっと目を細める。

 ローライズのショートパンツから伸びるふとももの白さが、照明を反射して俺の目を灼いた。


(ごくりっ)


 思わず生唾を呑み込む。

 四畳半ほどの小部屋の中で、私服姿の加恋と二人っきり。


 ファミレスで契約書にサインをした俺は、そのまま美崎さんの運転する水陸両用車に放り込まれ、俺の学園……私立兎島ダンジョンリゾート学園のダンジョンフィールドを訪れていた。


 元々在籍生徒数が数十人の学園である。土曜日なこともあり、敷地内には人がいない。


『本日の午前中はお嬢様はオフですので、ダンジョン探索をお願いします。なぜ先日のダンジョン探索で出現モンスターと獲得素材が劇的に向上したのか。詳細なデータを取りたいのです』


 とは美崎さんの言だが、一つしかない学園のダンジョンフィールドの前には、真新しいプレハブ小屋が建っていた。


『ここで、加恋お嬢様と様々な行為をしてからダンジョン生成を行っていただきます。実験ですので、行為の詳細にまで口は出しませんが……お嬢様の嫌がることをし、傷ものにしたら……分かってますね?』


 ドラゴンすら消滅させそうな視線で睨まれた。つまり本番はNGという事だ。

 神戸港に沈められたくはないし、俺にも事情があるからそんなことをするつもりはない。見た目はヤンキーとはいえ俺は意外に紳士なのだ。


「とはいえ、何をすればいいんだよ」


 小屋の窓は目張りされており、照明は暗め。

 どこからか甘い匂いが漂ってきて正直落ち着かない。

 本番NGの〇〇しないと出られない部屋とか、正直無理ゲーである。


「ふふ、そうですね」


 すっ、と長い脚を組み替える加恋。思わずその様子を目で追っていた。


「あは♡」


 蠱惑的な加恋の笑みに、ドキリと心臓がはねた。


 ◇ ◇ ◇


 ばくばくと心臓が早鐘を打つ。

 悪役令嬢モードの加恋だが、その内心は限界に近かった。


(ちょっと美崎ぃ! いきなり過ぎますって!)


 トラくんと正式契約を結んだ後、トラくんのマイダンジョンを探索(なんかイヤらしい響き!)をすることは美崎から聞いていた。いきなり色々するのは怖いし、今日も人間椅子を試して……くらいに考えていたらこれである。


(扉と窓には外カギが掛かっています!

 くぅぅ、どうしたら、どうしたらあああああああああああっ!?)


 焦りとドキドキが際限なく高まっていく。


(あっ——————)


 ぷつり


 次の瞬間、加恋は第一の扉を……開眼した。


 お嬢様として過ごしてきた16年と少し。長年抑圧された欲望のせいかもしれない。

 床に正座する、屈強な男の子。赤黒メッシュの髪の毛は典型的なヤンキーで、筋骨隆々の肩に厚い胸板。でも、その眼差しはどこか優しくて。設計デザインされたお嬢様でしかない自分を変えてくれるのでは、そう直感したのも確かだ。


(彼と、わたくしが共昂リンクするなら……)


 長年コンビを組んだダンジョン生成者が至るという、頂き。

 もし彼とわたくしがそこにたどり着くことが出来るとしたら。


(まずは……相香スメル


 加恋はそっと、履いていたスニーカーを脱ぐ。白いフットカバーも同様に。


「ふふ」


 どんどん高まる高揚感と、冷静な思考。加恋はそっと素足になった右足をトラくんの方に差しだした。


 ◇ ◇ ◇


「は!?」


 突然始まった加恋の『行為』に、息を呑む。

 スニーカーとフットカバーを脱いだ加恋が、右足を俺の方に伸ばしてきたのだ。


(う、うわ)


 綺麗に爪が手入れされた、ほっそりとした足の指。

 染み一つない足の甲に、柔らかそうな足裏。

 今日は少し気温が高かったせいか、ほのかに湿気を含んだ足からは、甘酸っぱい匂いが漂ってきて……。


 どくんっ


 瞬間、俺の感覚が無限に引き延ばされる。


(こ、これは……!)


 人間椅子にされた時と、同じ感覚。


 ずきんっ


 脳内に格納された、ダンジョンモデルが動いた気がした。


 すっ


 加恋の右足が、俺の肩に乗せられる。

 ほっそりとしたくるぶしが、俺の顔の横にある。


「お、おおおおおっ!?」


 ダンジョンモデルに気を取られ、一瞬忘れていた感情が一気に蘇る。

 認めたくないが、俺は……。


「そうですね、せっかくですからわたくしの足を舐め……」


 加恋の桜色の唇が、三日月を描く。その申し出に思わず頷こうとした瞬間。


『はいっ、そこまで!』


 ばーんっ


 美崎さんの声が響き、プレハブ小屋の壁が四方に倒れた。


「「うぎゃ~~~~っ!?」」


 俺と加恋の悲鳴が、誰もいないダンジョンフィールドに響き渡るのだった。


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