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第1話 俺のダンジョン、不法侵入される

『ダンジョン展開(スプレッド)


 ずおおおおおおっ


 コマンドワードを唱えると目の前に広がる百メートル四方の砂地、ダンジョンフィールドの地面が波打ち出す。


「よしよし、イイ感じだ!」


 想定よりダンジョンフィールドの変化が早い。入念なウォーミングアップのおかげである。


 ドドドドドッ!


 轟音と共に目の前の地面に穴が開き、『ダンジョン』を生成していく。続いてダンジョンアプリを開き、脳内のモデルライブラリとリンク。イメージ通りのダンジョンが生成されたことを確認する。


「やっぱ、シブ監督の企画モノは反応が良いな。特に衣装の細部までこだわりが素晴らしい」


 何の事かと言うと、ビデオ映写室で先ほどまで視聴していた紳士向け動画(つまりAV)の事である。

 ……まあ待ってほしい。これには深い事情があるのだ。俺、尾路おみち 田井我たいが21歳はAVマニアではなくダンジョン生成者エディターである。なぜ俺が紳士向け動画の評論をしながらダンジョンを展開しているかと言えば、まずダンジョンの成り立ちから説明する必要があるだろう。


 今から四十年ほど前。突如ダンジョンを『生成』出来る人間が出現した。脳内に発現した『ダンジョンモデル』を現実に『展開』出来る能力者。

 当初は怪奇現象だと大騒ぎになったものの、ダンジョン内で出現する『モンスター』を倒すことで現実世界には存在しない有用・高価な素材が手に入ることが判明する。たちまち世界中でダンジョンブームが巻き起こり、ダンジョン生成者の能力を発現させた人間は引っ張りだこになった。


「つーことで」


 周囲に人影が無いか確認し、ダンジョンアプリで記録を取る。法律で決められた作業だが、ここが無人であることは分かっている。

 既に時刻は夜、ダンジョンフィールドの奥に見えるのは三階建ての立派な校舎とグラウンド。この施設の名前は私立兎島ダンジョンリゾート学園。二年ほど前、不覚にも特殊詐欺に引っかかり膨大な借金ごと()()()()になってしまったバブル時代の遺産である。


 既に完全下校時間を過ぎており、敷地内には誰もいない。


「よし、行くか!」


 問題が無いことを確認した俺は、ダンジョンの中に足を踏み入れた。


 入り口から入ってすぐに、広大な空間が広がる。ダンジョン生成者がダンジョン展開に使うダンジョンモデルは、通路や小部屋などの『エディットブロック』を組み合わせる事で自由にカスタマイズできる。だが、ダンジョン生成者の能力が発現した時に一つだけ『プライマリーブロック』と呼ばれる初期ブロックが付与される。その形は一人一人ユニークで、数十万のバリエーションがあるという。


「だけど、俺のは……」


 広大な、そう広すぎる「部屋」は一辺90メートルほどの立方体で、一辺100メートルの標準サイズのダンジョンフィールドはそれだけでミチミチ。

 拡張余地の少ないプライマリーブロックなのだが……。


「むしろ、都合がいいぜ!」


 とっとと借金を返済したい俺にとって、時間のかかるダンジョン探索なんて必要ない。ダンジョンをぱっと展開して一気にモンスターを狩る。狩り終えたらダンジョンを再展開して繰り返し。

 多数のエディットブロックを組み合わせて複雑なダンジョンを構成すればダンジョンランクが上がり、上位モンスターが出現しやすくなるらしいが、展開にも時間が掛かるしクリアにも手間がかかる。


 ズオオオオオッ


 大部屋の中に足を踏み入れると、大部屋の真ん中に赤色の格子模様が出現した。


「よし、Cランクだな!」


 格子模様の色で出現モンスターのランクが分かる。本日一発目から幸先がいい。


 キシャアアッ


 格子模様の中から染み出してきたのは、3体のゴブリンロード。様々な魔法を使いこなす上位ゴブリンで、特定の魔法で倒すと、エディットブロックを落とすことがある……などという細かい情報は俺にとってはどうでもいい。


「うらああああああああああああっ‼」

 ドガアアアアアアアンッ!


 上位魔法であるグランバーストを連打し、一瞬で殲滅する。


 カラランッ


 あとに残ったのは、虹色に光るコインのような物体。


「プラチナメダル×3か。まあまあだな」


 ひとつ10万円ほどになるダンジョン素材で、持ち運びやすく換金も楽だ。


「次っ!」


 プラチナメダルを拾い、ウエストバッグに入れた俺は急いで地上に戻る。入念なウォーミングアップ(意味深)とバトルのお陰で、脳内は興奮物質で満たされている。


「うおおおおおおおおおっ!」


 溜まった煩悩を吹き飛ばす勢いで、俺はダンジョン探索を繰り返した。



「う~っし! 今日も潜ったぜぇ!」


 一時間後、6度のダンジョン探索を終えた俺は凝り固まった肩の筋肉をほぐしていた。


「実入りは200万くらいか。まぁ悪くねぇな」


 ココから必要経費である『お店代』と各種回復アイテム、スキルのローンなどを引く必要はあるが、150万円ほどが今日のアガリとなる。

 ……普通ならプロ野球選手もびっくりの日給ではあるが、20億を超える借金を抱えている俺である。利子分を引き、少しずつでも元本を減らせているのは悪くないと言えるのだが。


「さて、ちょっとだけ」


 このペースで借金完済までどれだけかかるのか。ヤバい事実からは目をそらし、俺は大部屋の端に座り込む。探索を終え、興奮は収まっているがこのままではどうにも気持ち悪い。


「それにしても……なんで俺だけ」


 ダンジョン生成者の脳内に存在する『マイダンジョン』で獲得できる素材は、探索者本人の能力値やモンスターを倒した実績、変わった所では自身を応援するファンの数など、様々な要因で変化するのだが……。


()()()()()()()()って何だよ……」


 駆け出し時代、ダンジョン研究者である伯父さんに鑑定してもらった結果がこれである。


「あのオヤジ、笑いをこらえていたもんな」


 しかも、ただエロイことをすればいいという訳ではないらしく、俺の”ユニーク”な特性にはまだ分からない事も多い。


「ちっ、まあいいや。処理しとかないと健康に悪いしな」


 実家にはもちろん俺の部屋もあるのだが、ウチは八人兄弟姉妹の大家族。特に無事メスガキに成長した妹共が突撃してくるのでタチが悪い。


「今日のオカズはやっぱ、これだな!」


 数多のブックマークからセレクトしたのは、さらさらとした金髪とサファイアのような瞳を持つ超絶美少女のサムネイル。次期ダンジョン生成者業界のエースと目され、能力の発現前だがアイドル的人気を獲得しているスーパー一軍女子。さらに日本トップのダンジョン関連企業である綾瀬川コンツェルンの一人娘という超キラキラお嬢様。


 俺みたいなチンピラとは済む世界の違う、いわゆる上級国民というヤツだ。


「この目つきと……ケツがいいんだよなぁ」


 お嬢様らしく、ひざ丈の白スカートと黒タイツというお清楚特盛セット。だが俺の目はごまかせない。スカートでは隠し切れないデカケツと、程よい肉付きの長い脚。素晴らしい。


「さてさて」


 俺はクラウドに保存したお嬢様のコラ画像を開こうとして……。


 ガタッ


「‼」


 その時、何者かの気配と小さな足音が聞こえた。


「誰だ‼」


 ショートソードを抜き放ち、気配の方に走る。


(モンスター、か?)


 今までこの大部屋以外でモンスターが出たことはない。警戒しながら、大部屋に繋がる狭い通路を覗き込む。そこにいたのは……。


「……は?」


 薄暗いダンジョン内でもキラキラと輝く金髪。サファイアのような碧眼。抜群のスタイルを持つ上半身を、ピンクを基調としたブレザータイプの制服で包み、膝丈の白スカートに黒タイツ。足元は傷一つないコインローファーを履いた、気の強さの中に少しだけあどけなさも併せ持つウルトラ美少女。


「ウソだろ……」


 たった今俺がオカズに使おうとしていた、綾瀬川 加恋エルフィード(あやせがわ かれんえるふぃーど)その人だった。


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