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壁側男児ジーモン

今の身長は1メートルくらいだろうか。

この世界の5歳から7歳児の体格は、前世でのイメージとほぼ変わらないように思う。


エロインはベッドに腰かけて自室を見回した。

ドアは2か所。廊下へ出るものとクローゼットへの扉だ。大きな家具はベッド、机、小さい化粧台の3つのみ。タンスなどがない。

衣類は侍女がクローゼットから持ってきてくれる。



机に移動して自身の『持ち物』を見回した。

学習用の文具と、簡単なお絵描きができる絵具。

それから、おはなしの御殿から以前に持ってきた積み木の()パーツ。

人パーツは2つあって、どちらにも頭部に色が塗られていた。

前世の記憶が戻るまでは、普通の5歳児だったのだ。

こっそり積み木を持ち帰って、一番仲の良い女の子と自分のようにして遊ぶ。

画用紙に空想の部屋やお城、庭などを描いて、その上で人形遊びをしていた。


人型の頭部に塗られている色は、紫とピンク。自分とマユリエール嬢の色だ。

この異世界では、髪色のバリエーションが多くカラフル。



急に人形遊びをしなくなったら、大人の言動をしたらどう思われるだろうか。

また、周囲からの印象が変わることで困ることはあるだろうか。

例えば、中身が大人だと知れてしまうことでの不利益は……



キリっとした表情で身の振り方を検討していたら、セクシー(侍女)が服を持ってきた。


「今日はこちらのワンピースはいかがでしょう。水模様が素敵ですよ」


薄い水色に、雫型の刺繍が点々と散らばっている。めんこい。


「今日は雨だから雨のワンピースね!さすがセクシーだわ!」

満面の笑顔で侍女を褒めたたえた。


「髪飾りは、白かシルバーが合いそうですわ。お嬢様の紫色の髪とワンピースの、どちらにも合います」


セクシーが銀色のリボンを取って、鏡の前で色合わせをしてくれる。


「大人っぽくていいわ!これにするっ♪」


つい先ほど大人びた行動を控えるべきかの検討をしていたが、自分はまだまだ十分子供っぽい。

杞憂かと思い直した。






--------------------------------------


「エロリンさま!何しますー?♪」


この微妙に人の名前を間違えて呼ぶ子は、あの子だ。

元気いっぱい子爵レディー。ええと名前なんだっけ。


「ちょっとっ!エロインは私とあそぶのっ!!」


わが友マユリエール嬢が私の手をひっぱる。女児による女児の取り合いが勃発した!


「エロリンさま、おえかきしませんか?♪」


マユリエール嬢を押しのけて話しかけてくる。子爵レディーに悪びれた様子はない。

相手にされていないのをマユリエール嬢が感じ取ったのか、私をひっぱる力が強まる。


この状況は美味しいのでは…?

今こそ、一度は言ってみたいあれが言える時っ!!



「いけませんわっ…! 私のために争わないでっっ……!」



ちょっとオーバーに演じてみたら2人の女児にウケて左右からひっぱられた。

3人でお絵描きすることになった。



***



子爵令息のジーモンは、女児3人がお絵描きしているのをじっと見ていた。

エロイン様が他の女児と話していたところに、図々しくも他の女児が飛び込み一緒に遊びはじめる。最初は歓迎されていなさそうであったが、今はすでに仲良し女児3人といった様子だ。

その行動力の高さをうらやましく思いながらも、行動力というか本当にただ図々しいだけかもな、と考え直した。


その図々しい女児は、マグネッタ子爵家のカーリン嬢だ。


同じ子爵家で、特に目立った話を聞かないごく普通の貴族だった。

確か少し年上の兄弟がいたはずだ。マグネッタ子爵令息を見たことがある。

カーリンとちがって、騒ぎ事を好まない落ち着いた性格だったように思う。



「エロリンさま~♪雨のみずいろ、ここにあります~」

「あら、絵の中でも雨を降らすのね。それもまた良しだわ」


今日のエロリン様のお召し物は、水色のワンピースだ。昨日の赤いふわっとしたドレスと違って、だいぶ落ち着いて見えて……清楚だ。

父から教えてもらった『清楚』という言葉を思いつく。こういう時に使うのだろうな。


3人の女児たちは、それぞれ画用紙に絵をかいてそれを繋げようとしている。

少し近づいて何の絵なのかを覗き見た。


エロイン様は空の上の雲のようだ。

カーリンはお城。

もう一人の女児は小屋なのか家なのか、何かの建物だ。


場所が違う3つの絵を繋ぎ合わせて、人型の積み木をのせている。紙の上で人型を動かして、おままごとのようなことをしている。

残念ながら、自分は混ざれないような遊びをしていた。男子はおままごとをしない。


「おしろでお茶かいしましょ~♪」

「フェルデさんの家に来て!」


2人の女児が、エロインが手に持つ人型を誘う。


「わたくし、雲の上で雨乞いダンスをするから下界には降りられないわ。」


雨ごい?何やら自分の知っているおままごとではなさそうだ。


「もう降ってるからフェルデの家にいこう!」

「あめの日はお茶かいがいいよ~」


2人の女児はめげない。


「いいえ、雨乞いは大事なのよ。ほら、踊るわ!」


そういってエロイン様は人型の頭部を下にして、くるりと回した。…すごい!ものすごい回っているっ!!


「きゃー!クルクルしてますぅ!!」

「エロエロ、すごーいっ!」

「ふふっ…私が雨を降らしているのよ」



ふと気づくと、自分以外にも多くの児童がエロイン様たちを見ていた。

遠巻きに見ている子も含めると、三分の一ほどの児童の視線を集めている。

昨日までは王子たちに群がっていたのに、ドレスめくりの事件から『エロイン・エロティカーナ公爵令嬢』が気になって仕方がないのだ。


ーー今日もまた何かをするのではないかーー


そんな期待をこめた視線だった。

自分はあのとき壁側でじっとするしか出来なかったが、本当は一緒になって駆け回りたかったのかもしれない。



「マユリのはそんなに回らないよー?」

「カリンのもまわらないです~」


カーリンともう一人の女児も人型を回してみようとするが、うまくいかない。




「僕にかしてっ!!」


男児が割り込んだ!…と思ったら弟だ!!!!


「こうして、こう…!」


弟のヨナスタンは、人型を横に倒して中央あたりに指を置き、もう片方の手で人型の頭をはじいて回転させた。


「ちがうよー!エロエロは逆さまで回ってエロエロするんだよー!!」

「嘘でしょエロエロって、ちょっ、何ー」


エロイン様が何か抗議されていたが、先ほどマユリと自称していた女児に「やってみて!」と人型を押し付けられていた。

彼女はエロイン様よりずっと家格が下なのに、まだ高位貴族への礼儀を知らないのだろうか。


エロイン様が人型を回す。やはり良く回る。


「エロエロエロ…ーー「「エロエロエロエロエロエロエロー…」」

マユリ嬢が回転に合わせてエロエロと口に出している。カーリンも真似しだした。

人型が回り終わって倒れるまで、エロエロの二重奏もつづいた。


ーー後になってジーモンは回想する。今思えばこの時から、クルクル回るのをエロエロと言い始めたのだったな。ーー



「ほらねっ!」


マユリ嬢が誇らしげにヨナスタンへ向かって威張る。


「お、俺もやってみる」


僕から俺になってしまっている。家に帰ったら注意しないと。


「よーしっ!こうやって……いけっ! エロエロエロエロエローー」


高位貴族への礼儀も、しっかり教えておかないといけないようだ。



そのあと弟は、そのまま女児の遊びに参加しだした。

おままごとは男はやってはいけないのに、ためらうことなく遊んでいる。


ジーモンは弟に注意するべきかどうか、思案顔でウロウロと周りを歩いていた。

自分もエロイン様との会話に加わりたいが、男子が女児の遊びをしてはならない。

でも話したい。ソワソワした心が収まらなかった。




「エロエロしたらフェルデの家にいくー」

「そうね。フェルデさんちへお邪魔するわ。」


エロイン様の取り合いは、マユリ嬢が勝ち取ったようだ。

カーリンは悔しそうなそぶりもなく、ニコニコと便乗している。

フェルデさんの家とやらが描かれた紙に、3つの人型が置かれておままごとがはじまった。

しれっと女児の遊びに乱入した弟は、自分も人型の積み木を持ってきてフェルデさんちとやらに乗せた。カーリン以上に図々しい…!!

しかも、その上で人型を回し始めた。


「ここはエロエロしちゃだめなのっ!」

マユリ嬢に怒られていたが。




***


「フェルデさんはおいくつなの?」

「えーと、おじいちゃんくらい」

「お庭のお仕事をしている人?」

「そう!お庭にいつもいるよ」


マユリ嬢とエロイン様との会話から、フェルデという人物はマユリ嬢の屋敷の庭師か何かだろうと予測する。


「マユリエールのお庭はどんな感じ?」

「すっごい広いよ!エロインでもエロエロできるよ!」

「いえしませんけど、」

「僕んちの庭でもエロエロできるよ!」


(ヨナスタン)が会話に割り込んだ! 弟よ、我が家の庭はエロイン様のお屋敷と比べたら、おそらくずっと狭いぞ……!!



「昨日、ボールキャッチをしたんだよ!僕、動体視力が強くなったかも…」


なわけないだろう!たった1日で。


「動体視力だなんて、難しい言葉を知っているのね。」

「うん。父様に教えてもらったんだ!」


ヨナスタンは自慢げだ。

ヒヤヒヤしながらエロイン様と弟の会話を盗み聞く。


「ボールキャットってなぁに?」

「ボールキャッチだよ。父様がボールを投げて、網でとるんだよ」

「あらそれ、楽しそうね」



今なら、ボールキャッチの話などをしながらエロイン様との会話に入っても良いだろうか。

はじめまして、弟がお世話になっています…ーといった挨拶をして、自分も自己紹介してお話しても良いだろうか。

子爵家が公爵家に、どのように声をかけていいのかが分からなかった。

ジーモンが緊張しながら一歩を踏み出そうとしていると…



「じゃあうちに来てみんなでボールキャッチしようよ!」

「えー!マユリの家じゃないの?」

「お邪魔していいのかしら?」

「ボールキャットします~♪」


「いいよ!みんな来てよ!エロエロしよう!」

「いえほんとエロエロはしませんけど、ボールキャッチはしてみたいわ」

「マユリも行くー!」

「ボールキャットでエロエロする~♪」




我が子爵家に令嬢たちが来る流れになった……っ!!!






--------------------------------------


公爵邸に帰宅して、エロインは今日出会った児童たちのことを思った。

子爵令嬢のカーリン・マグネッタ。

子爵令息のヨナスタン・サンエード と 兄ジーモン・サンエード。


3人とも、今日はじめて会話した。

今まではマユリエール嬢とばかり遊んでいたので、ほかの児童と交友関係がほぼ無かったのだ。

カーリンもヨナスタンも向こうから私に興味を持ってきたようだが、ジーモンは弟が粗相をしないか心配で私たちへ声をかけたのかもしれない。

ーー失礼。エロイン様への突然のお声がけ失礼します。… と、とても礼儀正しく言葉遣いもしっかりしていた。7歳児なのにもういっぱしの貴族令息だ。おませさんめ。



「セクシー、お友達の屋敷へ遊びに行くことになったわ。何か用意することってあるかしら?」

「マユリエール様のお屋敷でしょうか?」

「いえ、サンエード子爵家よ。おはなしの御殿にジーモンとヨナスタンという兄弟で来ているの」

「新しいお友達ですね! ーええと、子爵家の方でございますね。どのような集まりでしょうか?」

「ボールキャッチという遊びをみんなでするの」


ボールキャッチですね!楽しいですよね。子爵家への手土産ですが、自分だけでは決めきれないので少々おまちくださいね。

と言って侍女あずかりとなった。おそらくお父様と侍女頭へも報告と相談をするのだろう。

幼いころから、交友関係はきっちり見られているはずだ。


手土産は、こちらから提案しても良いかもしれない。

ボールキャッチをしにいくのだから、丸いクッキーのような焼き菓子とかどうかしら。

いや、もっとインパクトある品物のほうがよいだろうか!?




とにかく、当日はエロエロ言われないように注意をそらしたい。









[あとがき]

次回みんなでエロエロします

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