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ドレスめくり

次の日、エロインは自分の状況を考察する。


前世の記憶を持って目覚めたとき、公爵令嬢エロインとしての記憶はばっちり頭の中にあった。

中世の時代を感じさせる装飾、魔法やモンスターの存在。

まだ5歳児だからか、それらを見たり触れたことはない。

いや魔法については触れたことがある。魔道具というものが生活のなかにありふれているから、不思議に思ったことがなかったけれど。


逆に前世の記憶をよく覚えていない。大人としての知識や考え方があるにもかかわらず、人生の細部を覚えていなかった。家族構成すらも。

確か子供が5人、夫が3人…4人いた気がする。

あれ?生きていた国では『一夫一妻』が基本だったはず。この記憶もあやしいわね。

前世について、強く思い残すようなことは何一つ思い浮かばなかった。だから覚えてないのかしら。

精一杯生きて大往生した人生だったのかもしれない。そんな謎の満足感があった。




「セクシー、今日も赤いのがいいわ!」


侍女のセクシーは未婚でまだ若い。大人の女性というより少女といった感じだ。


「では、こちらの花のようなドレスにしましょうね」


昨日着たワンピースドレスは赤を基調に白い襟ぐりがワンポイントの、すっきりしたデザイン。

今日のものは同じ赤系統だけど、腰から下のスカート部分がふわっとしてフリフリしたタイプ。

揺れると、スカートの内側の白いフリルが見えて華やか。そして可愛い。


「それにするっ!セクシーはやくはやく!」


逸る子供の心にさからわず、思いのままセクシーを急かす。

大人の考え方を持っていても体が子供だからか、情動がせわしない。

抑えるべき場ではわきまえる自信があるので、自分のテリトリーでは好き勝手をするようにしていた。


「ふふっ…今日のおリボンも白がよさそうですが、透かしが入ってドレスに合うものにしましょうね」


白レースのリボンにきまった。今日もナイスチョイスだ。

この侍女のセンスを信頼している。


セクシーは他のメイドと比べても私と歳が近いからか、『おはなしの御殿』であった話や、友のマユリエール嬢の話など、なんでも楽しく聞いてくれた。

楽しい話が好きで明るい娘だ。


そして彼女の名前についてだが、故郷では訛りが入って『セクシー』ではなく『セクスィー』という発音で呼ばれるそうだ。地元では珍しい名前でもないとのこと。

どうでも良いことのように思われるが、私にとって重要なことである。



なぜ、その名前が恥ずかしくないのか。






--------------------------------------


「エロエロインインッ!今日は何してあそぶ?」


インッって力をこめないでいただきたい。

私を呼ぶのは友、マユリエール嬢。現在は親友といっていい。


さて何して遊ぼうか。

大人の目線を持った今なら、すでにエロインとして知っていることも新しい視点で見れて楽しいものだった。


「誰も使っていないから、『合わせ絵』で遊びましょ」


『合わせ絵』というのは、木のブロックに絵が描かれている積み木のことだ。

うまく組み合わせると絵が出来上がり、完成系は一通りではない。


例えばここに低木のような絵がかかれた長方形のものと、一本の少し背の高い木の絵が塗られた同じく長方形のものがあるが、これらを四角にバランスよく配置する。そして中央にお花が塗られた積み木をおけば、ちょっとした公園のできあがりだ。

四角をかたどらず、まっすぐ配置したら緑豊かな街道のようにもなる。


合わせ絵の積み木は前からあって、みんな遊びつくしているものだった。

今日はたまたまなのか誰も使っていない。と思って部屋を見渡すと、部屋の中央に子供たちの塊ができていた。王子たち二人そろって何か話しているようで、そのまわりを令息令嬢たちが取り囲んでいる。



今なら全パーツが貸し切りだ!

積み木の入った箱を持って部屋の隅っこへ向かった。

マユリエール嬢は最初はつまらなさそうにしていたが、もくもくと積み木を並べるエロインに続いて次第に夢中になっていった。



草や樹木パーツが沢山あったので、エロティカーナ公爵邸の庭を再現してみようとおもう。

部分的にデフォルメして、記憶にある庭の構成を組み立てていく。

外周から積み木を置いていき、花壇エリアを二か所つくる。屋敷と花壇を結ぶ道には等間隔に木パーツを置いていった。



「ここ、フェルデのいえー!」


庭の敷地に不法侵入された。積み木をばらばらと乗せられる。


配置していた草木ブロックが押しのけられ、建物らしきパーツが積まれていった。

それは2階建てのようだ。


エロインは心の広い少女である。ちょっと自分の積んでたものが崩されたからといって怒ることはない。大人の余裕でマユリエール嬢が積むのを手伝ってあげた。

ーー たぶん庭が完成したあとにやられていたらキレていた。



「フェルデって?」

「庭にはフェルデがいるんだよっ!」


積み木をよいしょよいしょと積みながら、フェルデの家とやらについて聞いてみる。おそらく庭師の小屋だとかではないだろうか?


「2階があるんだよっ!」


階段パーツは積み木で作りやすい。何も塗られていないブロックを段階的に置いた。これだけでマユリエール嬢から「すごーい!」と喜んでもらえる。

実際とはだいぶ異なる建物の構成となるが、階段の先に小さく2階部分を作ってあげた。


「すごいすごいっ!2階だー!」


それっぽく見えればいいのだ。今エロインはマユリエール嬢(5歳児)からの褒めに上機嫌だ。これは楽しい。


マユリエール嬢は残りの積み木から何かを探すと、2階にちょんと置いた。人パーツだ。これは球体と円錐形が合わさった人っぽい造形となっていて、男か女まではわからないが人物パーツとして使えるものだった。


「それがフェルデさん?」

「ちがうよー。フェルデは庭にいるよ」


そこでマユリエール嬢はこそこそっと私に近寄り、小声でしゃべる。ナイショ話だ。


『2階には小さい子がいるんだよっ!』

『フェルデさんの子供?』

『わかんない。みんな知らないっていうの。本当は近寄っちゃだめなの』


なにそれ怖い。幽霊の類ではなくてヒトコワ系の可能性もあるな。機会あればマユリエール嬢宅に突撃しよう。


『誰も知らない子なの?』

『みんな見たことないんだって。フェルデさんの家には行っちゃいけないの。でもいるんだよ!』

わたしより小さかったよっ!と自慢げに2階の人影情報を追加した。



その時。



ーーーガシャガシャッ ガラーン! コロコロ…



積み木の世界が襲撃された!走ってきた児童に。



あの元気いっぱい子爵レディーだ!

あ"あ"ん?? とついガラ悪く睨んでしまいそうになったが、積み木にぶつかった子爵レディーの表情にはっとする。ヤバいこれは泣くぞ……!




 ーー 猫がシャーッ!ってしたら口に指を入れると回避できる ーー

突然前世の微妙な記憶がよみがえった。別の衝撃をあたえることでの回避……!




パっと見で子爵レディーに大したダメージはない。ふんわりドレスのスカート部分が巻きあがって少しドロワーズの一部が見えている。積み木を崩したことについてか、転んだことについてか、どちらかのショックにつられて泣き出しそうな気配を発している。


エロインは瞬時に状況を悟り、すばやく子爵レディーのドレスをめくった…!!!


「見~えたっ!」「キャー!!」


エロインは笑顔全開で子爵レディーを辱める!子爵レディーはいいリアクションだ!

そしてすぐに立ち上がり仕返しされた。


「もーっ!!」「きゃ~~っ!♪ えいっ!見~えた!!」「きゃーああ!!☆」


仕返しされたあとは、別の令嬢のドレススカートをめくった!

悲鳴が黄色い。これは喜んでいるっ!!

確かな手ごたえを感じてエロインは室内を飛び回り、いろんな女児のドレスをめくりはじめた。


貴族子女のドレスは、複数スカートを着てかさねたものだ。

白やベージュなどの色味が薄いスカートを内側に着て、一番上に色の濃いものや凝った刺繍のスカートなどをかぶせるのだ。これを狙い、一番上のスカート布地だけをめくるように心掛けた。


「いや~~!☆」「えいっっ♪」「アーーンッ!♪」「ていっ♪」「きゃああーーっ!☆」


かたっぱしから女児のドレスを軽くめくる。

がっつりドロワーズが見えるまではめくらないから、下に履いているスカートがチラっと見える程度だ。前世でのスカートめくりではパンツと素足が見えるまでめくるものだった。比べると大分ひかえめではある。しかしここにいる子供たちにとっては驚愕の域であった。

おはなしの御殿では起こりえない事件が、今発生している!


そのうち、めくられた女児が近くの子のドレスをめくるといった感じで行為が広がった。最初の子爵レディーも「めくる側」になって楽しんでいる。


そして伝播するスカートめくりっ!!いやドレスめくりだろうか。



エロインはめくる前に女児の表情を確認する余裕があった。本気で嫌がっていたらやめる。だがしかし、そんな女児はいなかった。いつしか逃げるのみの塊ができあがる。エロインが追っかけるときゃーきゃー逃げた。


あまり動かず、ドレスの前を押さえてエロインを凝視している子たちがいる。

エロインはロックオンした。

これは明らかに『めくられ待ち…!』ーー「や、やめっ「ていていっ♪」キャーーッッ!!☆!」「イヤーァッー♪!」


この子達は逃げ惑う軍団に無事合流できたようだ。ヤダー!とか言いながらとても楽しそうで何よりである。


「キャアーハハハハハッッ!♪!♪☆ えいっっ…ていっ…!!」

子供特有の奇声を発しながら駆け抜けた。




ちなみに、男児はというと。

一緒になってめくる子はいないが、面白がって逃げている側に混ざる子たちと、壁側で固まっている子たちの二極化が見られた。興味深い。

これがお育ちの差か。壁側男児はおそらく、『女児の体や服に気兼ねなく触れてはいけませんよ』と教育されているのだろう。おませさんめ。






おっと先生と護衛の大人たちが多く駆けつけてきた。そろそろ引き際だな。



「皆様ーーーーー!!!!お静かに!走ってはなりませんっ!お静かにーーッ!!」


先生ごめんなさい。騒がしくして。





この時、乱痴気騒ぎを壁側で固まって見ていたうちの一人。

子爵令息のジーモンは高鳴る鼓動に胸をおさえて事態を見ていた。


弟は一緒になって駆け回っている。

ドレスをめくりまくっている女児の後を追っかけているようだ。

と、そのときドレスをめくっていた女児がふりむき方向展開をする。女児の後方にいた令嬢たちは、急に自分たちが追われる対象となってきゃーきゃーと悲鳴をあげて散らばった。


弟はきゃーと騒ぐ令嬢たちと一緒に騒いでいるが、ドレスではないのでめくられる対象とはならない。また続けてドレスをめくる女児の後を追って走っていった。とても楽しそうだ。


たくさんの児童たちが部屋の中をぐるぐると走り回る。その中心に令嬢はいた。

確かあれは『エロイン公爵令嬢』ではなかっただろうか。

ジーモンは両親から、おはなしの御殿では、それぞれの人となりを見るべき場だと聞いていた。

公爵令嬢があんなことをして大丈夫なのだろうか。ひどい罰を受けたりしないだろうか。


ふわり、どこかの令嬢のスカートがめくれて内履きの下着が見え隠れする。

高鳴る胸の鼓動が鳴りやまない。令嬢を心配してなのか、ドレスがめくれてしまうのを見たからなのか、長男として弟を呼び戻すべきなのに動けないからなのか、一体自分が何故こんなに高揚しているのかが分からなかった。



桶の中に入れた水を手でかき混ぜる、今のこの部屋はその再現だ。

令嬢が動く方向にまわりの児童たちも動く。エロイン令嬢がこの部屋の中をかき混ぜていた。









***




おはなしの御殿には、貴族の子女たちへ教えを説く人物が複数いる。

そのうちの一人、フランソワーズは頭をかかえた。


今日は午前中はみんなで歌を習い、午後は長めの自由時間となっていた。

自由時間では、椅子や机などがない遊具が沢山おかれた部屋を開放している。

いつもは、そこでお話や遊具での遊びができるようにしていたのだが……




にこやかに子供たちを眺める。いつもの風景だ。しかし事件は突然起きるものーーー


ーーーガシャガシャッ ガラーン! コロコロ…


部屋の片隅で、合わせ絵で遊んでいた女児のところで何かあったようだ。

側使えに指示して様子を確認してもらう。


遠目に、たいしたことは無さそうだと安堵したのもつかの間。

次の瞬間、部屋には貴族子女の騒ぎ声であふれかえった。ほんとうに一瞬だった。



騒ぎの実態は、お互いにドレスをめくりめくられる女児(5〜7歳児)の集団。

縦横無尽に駆けずり回る子供たち。今までに見たことのない騒ぎが勃発している。


護衛で控えている騎士に応援を頼み、王子たちの無事を確かめる。

壁側で二人そろって固まっていた。良かった。

まず王子たちを部屋の外へ連れ出し、部屋の様子が見える位置で応援が来るのを待った。




部屋の外へ連れ出された王子のうちの一人が、床に散らばった積み木に目をやる。

崩されていない合わせ絵の、庭の一角をじっと見つめていた。






***



全力疾走して気持ち良い脱力感につつまれる。

エロインは先ほどまでの自分を振り返った。

たった一人に泣いてほしくなかっただけで、全員を巻き込んでしまった。やってしまった。

これから反省会だ。


おはなしの御殿にいる貴族の子息は全員あつまり、椅子に座っている。

先生による優しいお説教がはじまった。



「皆様、ここでは走り回ってはなりませんよ。お怪我をされてしまっては大事ですからね。お約束をちゃんと守れる人は、返事をしましょうね」


「「「「「「「 はーい 」」」」」」」


全員が返事をしたようだ。ちょっと間延びした「はーい」が大合唱となった。


ただ、ちょっと態度が悪い子がいるようだ。

みんなで返事をした後も、クスクスと先ほどの騒動の余韻を引きずっている様子。

元気いっぱい子爵レディーである。


この子は大人たちが駆け付けた後も最後までドレスめくりをしていた。

元気なのは良いが、ちょっと悪目立ちするタイプである。



少し思うところがあり、エロインは挙手した。


「エロイン様、どうされました?」


「はい。わたくし皆様へ謝罪をしようと思います」


「ま、まぁ謝罪だなんて。エロイン様は何も悪くございませんよ!」


先生は私がドレスめくりを主導しているのを見ているが、騒ぎの原因となる人物を明確にしようとしていない。おはなしの御殿だけでの出来事に収めるつもりだろうか。


しかし、婦女子の衣装を乱すことがはしたないことだと知っていながらドレスめくりを首謀し、群衆(5〜7児)を煽ったのは事実。そして私は存分に楽しんだ。

これによって誰かが割を食うのはいただけない。

護衛の騎士や、私に煽られてドレスめくりをした子爵レディーだとかが。

立場の兼ね合いで、処罰の対象というのが後からでてくるかもしれないしね。予防策を張っておこう。

そのために私が名乗り出て謝罪するのだ。




謝罪する内容の構成としては、


・ドレスめくりについての謝罪

・ドレスをめくってしまった原因と経緯

・ドレスめくり再発防止策

・総合的な謝罪


こんなところだろうか。



「先生、ありがとうございます。しかし私としては、ここにいる全員へお詫びをしたく思っております」


先生は心配顔でこちらを見るが、そのまま謝罪へとつなげる。



「私エロイン・エロティカーナは、レディの皆さんの『ドレスめくり』が大変楽しく、つい夢中になってしまいました。大変申し訳ございません」


まず、悪いのはエロインだというところをハッキリさせる。

落ち着いて少し間をつくり、ぐるっと周囲の表情をチェックした。



「ドレスをめくるというのは大変いけないことです。いけないですが、ドレスは一枚めくってもまだスカートがあります。このため、1枚だけめくるなら大丈夫 と思ってしまいました」


そうだよね。たくさんあるもんね。スカート。

ほんのり ー許してあげようよー という雰囲気を周囲から感じる。



「しかし大変楽しかったので、またやってしまいそうです」



「えっ!?」と声がいくつかあがった。



「そこで、また同じようなことをしないように、対策を考えたいと思います」


先生がホッとしたように相槌をしてくれる。


「反省ができるのは素晴らしいですね。エロイン様。…ドレスめくりをしないようにするために、色々考えてくださるのですね」


先生は、今ここで私に対策案がなくても良いように会話をつなげてくれた。できた大人である。

だがいくつか案があるので、その一つを話してみようか。



「はい。色々考えてみようと思います。…そのひとつなのですが、

『ドレスめくり大会』という競技をつくるのはどうかと思っています」



フランソワーズは、はっとして令嬢を見つめる。



「ドレスめくりは楽しいです。とても楽しかったです。しかし、女性の服をみだしたり、むやみに触っては破廉恥ですので、やってはいけないこととなっています。

であれば、見られても恥ずかしくなく、触っても良いとするにはどうすれば良いか考えてみました」


子供たちは、????といった表情だ。


「『ドレスめくり大会』では、見られても良いかわいいズボンなどを着て、その上にスカートをはきます。女性にむやみに触るのはなりませんが、触らなくてもドレスはめくれますし、女性どうしなら少しさわっても大丈夫だと思います」


子供たちの表情が、おお… という風にかわっていく。


「組に分かれて、ドレスをめくるのを競うたたかいです。すばやく動いて、ふわっとドレスをめくり、より多くめくれたほうが勝ちとなります」


おおお……!! 感嘆の声を出す子もチラホラ。よし。手ごたえを感じる。


「ドレスがめくれたかどうかは、『審判』を置くとよいでしょう。審判はしっかり見ていないといけません」


合法で女性の腰まわりを凝視して良い職務である。



ごくり、、とフランソワーズが尋ねた。

「エロイン様。審判は、女性ですよね…?」



「どうでしょう……。ドレスがどのあたりまでめくれた(・・・・)かをしっかり見極めないとならないので、すばやい動きも目で追える者でないとなりません。『ドレスめくり大会』は、楽しくドレスをめくる競技としたいので、審判についてもしっかり考えてみようと思います」



ちょっと気になる未来の展望を話しておいてから、謝罪のしめくくりをする。


「まずはレディのみなさまの可愛いドレスをめくってしまったことをお詫びし、同じようなことが起きないように誠意努力を重ねてまいりますので、本日のことはどうかお許しくだされば嬉しく思います。ご容赦くださいませ」




そう言って子供たちへ礼をした。先生へも。護衛騎士みなさんへも。








--------------------------------------




夜になって、子爵令息のジーモンは考えていた。


審判。

あのような騒ぎをじっと見ることができる立場。


ーすばやい動きも目で追える者でないとなりません。ー


動くものをとらえる力。

以前に父から教わった動体視力のことだろう。


動体視力を鍛えないとなれない立場。


ジーモンは人並みの体力、運動神経だ。

剣や武道に力を入れる意識はまったく持っていなかった。

父からも、体を鍛えるよりも人を見る力を鍛えよと言われている。


自分は長男だから将来が決まっている。

商学や経営学を学び、いつか子爵家を継ぐ嫡男なのだ。

今までそれを嫌に思ったことはないのに、むしろ恵まれているとさえ思っていたのに、今日はじめて自分の将来が決まっていることに不満のようなものを覚えた。






次の日の朝、朝食後に父と弟が連れ立って庭先へ向かった。

少し運動もできる広場で、何かしている。


「父様!とれました!」


父が何か球体のものを投げ、弟がそれを網のようなもので受け止めている。

とても楽しそうだ。


「父様!これで『動体視力』がつよくなりますか!!?」




あいつ、審判になる気かっ!??









[あとがき]

マユリエール嬢はドレスめくり騒ぎの際に、逃げる側できゃっきゃしてました。一番仲良しのエロインが急に活動的な子になって楽しいし嬉しく思っています。

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