[7]魔王達の目的と絶望の縁に立つ少女
「派手な登場だね。魔王【イルゼータ】」
「着地をミスって大穴を開けてしまってすみません。アレイ様直々にお会い出来るとは光栄です。改めまして魔王連合の9つの鏡の1つ3番目の見通す鏡【イルゼータ】と申します」
ドレスを持ち上げ挨拶する。
「わざわざ3番目が来てくれるとはね。私はこの国の創造者【アレイ・セアフィーア】。これ以上の説明は不要だよね」
手を胸を当ててお辞儀をする
「イルゼータ、そこに居ると治す事が出来ないからこっちに来てくれないかな」
「分かりましたわ」
イルゼータがアレイの元に歩み寄る
「さぁ、万物よ甦れ」
アレイの一声でさっきまで壊れていた床が治る
「まあ!感服致しますわ!」
パチパチと手を叩くイルゼータにアレイは微笑み返してから声のトーンを落として聞く
「わざわざこちらに来た理由は5つ目の鏡 強欲の写し《クルセヴィア》の事で間違いないかな?」
「えぇ、そうですわ。でも勘違いして欲しくないのは私たちは敵対したいと言う訳ではないということ」
「それは私たちもそうだよ。互いに敵意がないのならお茶でもどうかな?」
「もちろん敵意はありませんわ。お互いの為の有意義な時間としましょう」
【地下アレイ邸にて】
「私の可愛いルーファの屋敷を借りる訳にはいかないからね。私の家で話し合おう。さ、座るといい」
「お招き感謝致しますわ」
2人の元にお茶と菓子が置かれる
アレイはお茶を1口飲んでからイルゼータに問いかけた
「クルセヴィアを殺したのはこちらだ。つまり9つの鏡を1つ破壊したことになるが君たちのトップはなんと言っているんだい?」
イルゼータは菓子を食べてから答える
「私たち9つの鏡の1番目 鉄壁の鏡【ロナード】は「クルセヴィアが死んだことは我々に取っては大きな事じゃない、だがクルセヴィアの身辺整理はこちらでやっておく」と」
「それは助かるよ。こちらとしてもクルセヴィアの城にある魔物の卵は面倒だったからね」
「はい。そしてこうも伝えられました「クルセヴィアがやらかしたことは重々承知している。戦った者の負傷者などがいればこちらが賠償金を払う。そして今回のことはこちらの落ち度が原因だ。だからこちらが全ての責任を持とう」とも」
「おや?それは随分とこちらを敵にしたくないように受け取れるが?」
「それはそうでしょう。古の蛇神ウエルと戦闘では名高いリード様、そして創造者のアレイ様がそちらにはいるのですよ。こちらは事を荒立てたくないのです。そして私たちはクルセヴィアの死は率直に言えばどうでも良いのです。クルセヴィアだけは魔王という各位にいながら勝手な事をしてきたのですから」
私の警告も聞かずにと小さく呟く
「そして他の魔王達はクルセヴィアの死もそうですが、彼自身に興味がありませんのだから小さなものが無くなった程度なのですわ」
フフと笑ってお茶をのむ
「それならクルセヴィアと戦って魔力切れをしている子がいるんだ。そしていずれ統括者になる子」
「っ!そんな!クルセヴィアに変わっていや、ロナードに変わって私が誠心誠意謝罪させていただきます」
イルゼータは椅子から降り片膝をつき胸に手を当て頭を下げる
「頭をあげて、椅子に座ったままでいいよ。それに勘違いしないでほしい。圧力をかけている訳ではないんだ。ただ、魔力回復があまりにも遅くてね。魔力を早く作り出す薬を頂けないかと思ってね。こちらでも作れるんだけど薬草の採取が難しくてね」
「それは……」
「言ってしまえばクルセヴィアが放った魔獣のせいだね。南の国はほぼ壊滅に近い状況下にある。だが珍しい薬草も取れるところだったんだが」
「それなら南の国の復旧と魔獣の滅殺に魔力回復のお薬をこちらからは提供させて頂きますわ。そうでもしないとロナードの名と共に9つの鏡に泥を塗ることになりますわ」
「そちらの意向がそれで良いのならお願いしたいところだ。だが薬は早めにしてくれると嬉しい」
「丁度持っているのです。必要であるのではないかと思ったものは全て持ってきてあるんですの」
箱を取り出して魔力回復の薬をアレイに渡す
薬瓶を持って軽く回すとアレイは満足そうに頷いた
「うん。純度も高いね感謝するよ」
「喜んで頂けて嬉しいですわ。南の国の復旧に向けての事もこちらで組んでそちらに送りますわ」
「何から何まですまないね。これならあの子も元気になるはずだ」
イルゼータは少し言い淀むが口を開く
「その不躾な質問ですがよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「アレイ様が仰るその子にどうやって薬を渡す予定なんですか?それとあの子とは?」
「転移魔法があるだろう?それを使う。そしてあの子はマレーア国の令嬢だよ」
「……そうですか。ですが、転移魔法を使えるのは流石といったところですね」
「褒められたものじゃないよ」
「さて、私はここら辺で失礼致しますわ。この事をはやく他の魔王達に伝えなくてはなりませんから、お見送りは要りませんわ。それではまたいつか会う日まで」
イルゼータはドレスを持ち上げ頭を下げてから居なくなる
イルゼータが居なくなってからアレイは言う
「初めからワープで良かったんじゃ……フフ焦っていたんだろうね」
……………………………………………………
【北の国の馬車にて】
軽快に走る馬に引かれる馬車の中は1人と一匹が寝ていた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『早く逃げるのよ。■■■このままじゃあなたも殺されてしまうわ』
『さぁ、■■■様こちらに』
執事に無理やり部屋から追い出され裏へと連れられる
『やだよ!お母様お父様!僕を1人にしないで』
『■■■様この馬で逃げるのです。早く』
執事は少年を馬に乗せて馬を走らせた
『そんな!みんないなくなっちゃうの……』
何日たっただろうか馬を走らせていると寒波のせいか雪がどんどんと積もっていく。しばらく一緒だった馬もだんだん走れなくなり朝を迎えた時には冷たくなっていた
少年は馬の墓を作ってから1人で歩いて行った。宛も分からず目的地さえ分からない
前も右左も分からずにただひたすら歩き続けた飲まず食わず眠ることもせずただひたすらに歩き続けるが辺りは1面真っ白で凍った動物、凍った植物を見て少年は涙をこぼす
『僕に力があれば何か違っていたのかな』近くに生えている木に背中をあずけ少年は目を瞑った…………
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「んっ」
リードは目を開けて軽く伸びをする
「全く嫌な夢を見たな。寝た気がしない……」
窓に目をやるとちょうど昼くらいだろうか
「はぁ、」
窓辺に肘を付いて外の流れゆく景色を見る
(綺麗とは感じなくなったのはいつからだろう。悲しさもただあの時の微かな怒りは忘れてない。はぁ、なんだかなぁ)
はぁ、とため息をつく
「リード起きていたのか。我はよく眠れたぞお主は………聞かないことにしよう」
「察しが良くて助かるそれにもう着く頃だ」
馬車がちょうど止まってドアが開く
「「おかえりなさいませ。リード様」」
「こんな歓迎いらないって俺ルシアに言ったよな?」
すると横からルシアが現れる
「リード様おかえりなさいませ。あのソフィー様は?」
「我の中におる!」
「そんなことより!こんな歓迎しなくていいって前もって言っただろ。それにお前も分かったって言ったよな?」
「そんな怒ることないじゃないですかリード様。それにこちらに魔力回復のお薬が届いてますよ。それにソフィー様がウエル様の中に居るというのは捕食した方なのでしょうか?」
リードは軽くあったことを話した
「そんなことが、、、。分かりました。こちらにすぐソフィー様を運んでください」
「分かった」
ルシアの案内で部屋に入ると既に手入れされていた
「ウエルそしたらソフィーをこのベッドに寝かせられるか?」
「とても言い難いことなのだが、ソフィーは我の中から出たくないようじゃ。拒否反応を示しておる」
「というと?」
「外という明かりにもう当たりたくない。そんな感じが受けてとれる」
リードは魔力回復の薬を持って問う
「ウエルに直接この薬を飲ませればソフィーの魔力切れを治す事は出来るか?」
「それは出来るがこの子の為にならぬ。」
「困ったな……」
「あやつとの戦いで相当なショックも受けたようだ」
リードは少し悩んだあと「あ、」と思い出したように部屋を出る
「お主何か良い作戦が?」
「あぁ、上手くいくかは分からないが試す価値はある」
「何をする気じゃ?」
「俺の記憶を飲めるように錠剤状にする」
「リードの記憶を……」
「あまり晒したくない過去だが、これでソフィーが少しでも外に出たいという気持ちがあれば俺が強引に引っ張り出す」
「前から思っていたがお主は大胆じゃな」
「作戦は伝えたからあとはその店に行くだけだ。ウエル多分俺の首に巻きついてるだけだと吹っ飛ぶ可能性があるから俺の服の中に入ってくれ」
「うむ、分かった」
屋敷を出ようとするとルシアに止められる
「どちらに行かれようと?」
「すぐ戻るから屋敷を頼んだ」
すると強い風が巻き起こりリードは目の前から消えていた
「うわっ、しっぽの毛が乱れちゃった。全く!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「とんでもない速さじゃの。楽しいのじゃ」
「急を要するからいつもより早く走ってるけど、、、あ、ここだ」
リードが剣を取り出して地面に突き刺して速度を落とした
器用に剣をしまってから驚く市民に見つかる前に路地裏に入っていった
「もう終わりか、楽しかったのに」
「露骨な感じで悲しまないでくれ。さ、目当ての店に着いた」
「ふむ、普通の外観をしておるな」
リードはその店のドアノブを回し入っていった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
店に入るとリードは奥の方に声をかける
「店主様は居るか?」
ガタガタと奥の方で音がしたと思ったら小さい子供が慌てて出てきた
「まぁ、リードちゃん!それに蛇のお友達も一緒なのね。今日はどうしたのかしら?」
「この白蛇様は蛇神ウエルで、この子がフェアリテルのツキミ」
「もう!違うでしょ!《ツキミちゃん》でしょ?」
プイッとそっぽを向いてしまう
リードはしばらく言い淀んでいたが「あー」といって口篭りながらいう
「つ、ツキミちゃんに依頼があってきたんだ」
「まあ!そうなのね!どんな依頼かしら?」
ツキミにあったことを掻い摘んで話す
「ん〜。そんな事情があったなんて、分かったわ!うち頑張るからね。リードちゃんはこっちにきてウエルちゃんはお茶でも飲んでてね。さぁお仕事よ妖精ちゃん達!」
物陰から出てきた妖精が器用にお茶を注ぐ
「さ、行くわよリードちゃん!」
リードの手を引っ張って奥へと進む
「さぁここに座ってね」
リードは言われた通りに座る
ツキミは棚に並べられた薬瓶を手に取りそれらを抱えて近くの机に置いた
「うん!準備はバッチリよ!そしたらリードちゃんの記憶を薬にしていくわよ。目を瞑ってそしたら届けたい記憶を少しでもいいから思い出すのよ。大丈夫思い出せなくてもちゃんと薬となるわ!」
言われた通りに目を瞑り記憶を辿る
ツキミは手をリードに向けて少しの呪文を話すと光が現れた。ツキミはその光を空瓶に入れるとリードに話しかける
「もう大丈夫よ。そしたら調合するからさっきの所でお茶でも飲んでいてくれるかしら」
「あぁ、分かった」
先程いた所に戻るとウエルが人の姿でお茶を飲み妖精達と会話をしていた
「つまりここは記憶を思い出させたり、他者に見せたりすることができる場所なの。大切な思い出とかをまたみたいとかお客さんの要望に応える所なのよ」
「でも記憶は繊細なのよ。私たち妖精は手伝うことしか出来ないけどここの店主のツキミちゃんは私たちの進化系のフェアリテルなの。でもフェアリテルでも専門があったりするのよ」
「ふむ、そうなると記憶のカケラを扱うのは難しいってことかのう?」
「そうよ1歩間違えれば残っていた記憶も消してしまうからとても繊細な技術が必要なのよ」
近づくと妖精達がリードの周りを囲うように椅子に座らせる
「お疲れ様なの。愛用の紅茶を今入れるから待っててね」
「あぁ、急がなくていいからな」
「ふふ、リードちゃんは相変わらず優しいの」
1人のフェアリテアがリードの額にキスをする
「記憶を薬にするようだが体調に変化はないか?」
「その心配はない。ツキ…ツキミちゃんがそこはちゃんとしてくれたから」
「それなら安心じゃのう」
しばらく沈黙が続くがリードが口を開いた
「ウエルちゃんは良かった思い出、もしくは心に残っている思い出をまたみたいと思うか?」
「我はそう思っても見ようとは思わんな。生きていればまた思い出は生まれる。ひとつの思い出に執着はしないのじゃ」
すると紅茶を入れ終わったフェアリテア達が戻ってきた
「それもひとつの考えなのよ」
「ひとつの思い出に囚われないのもまた一興なのよ♪」
フェアリテア達はクルクルと回って共感を示してくれる
「リードちゃんの為に下ろしておいた茶葉どうかしら。少し前にミツキちゃんが街で買ってたのよリードちゃんが来たら紅茶を出してあげてねって言われてたの」
「そうなのか」
リードは1口紅茶を飲むと難しい顔をしてから一気に飲み干した。それをみたフェアリテア達は困惑してリードの周りをあたふたするように飛ぶ
「お口に合わなかったかしら……?」
「温度間違えちゃった?注ぎ方間違えちゃったのかしら」
「うぅごめんなさい。上手く出来なくて」
フェアリテア達がしょんぼりしたようにリード見るとリードの目からは1粒の涙がこぼれるとだんだんと溢れていった
「もしかして火傷しちゃった?…痛い?」
どうしようどうしようと慌てるフェアリテア達の騒ぎを聞いたツキミが慌てて駆け寄って来た。そしてリードの状況を察したのか奥の部屋へと連れていく
フェアリテア達は紅茶のカップを片付ける
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
《奥の部屋にて》
「あの紅茶を一気に飲んだのがいけなかったのね。あの紅茶にはその人の無くした感情を増幅させる作用があるの。でも知ってて飲んだでしょリードちゃん」
ベッドの上に2人で座りツキミはリードの背中を擦る
「1口飲んだ時は飲むのやめようと思ったけど勝手に身体が動いた感じがした。それに俺の無くした感情って悲しみということが分かって良かったのかもな」
「悲しみというより泣くことだと思うのよ。憶測で話す事になるけどきっとリードちゃんは泣いても意味がない、泣いても変わらないって思っていくうちに泣く事が出来なくなってしまったのよ。うちはそう思うわ」
「はは、いつから泣かなくなったんだろうな」
「リードちゃんが統括者になってからは泣いたことないのかしら?」
「思い出せる限りでもそんなことはなかった。…………で、これいつ効果きれる?今悲しくもないのにただただ涙出てくるだけで変な感じなんだけど」
「先にリードちゃんの為に薬を作らなくちゃね」
そういい近くにあった木の器とスプーンを手に取った
「調合は簡単よ。まずはリードちゃんから少し記憶の感情を貰うね」
「あぁ、別に構わない」
「まずは喜びの感情を小さじ1杯、それから幸せな感情を大さじ1杯、最後にうちのとっておき!大好きという感情のカケラを1粒。そしたらこれらを大切に混ぜるのよ♪」
丁寧に混ぜていくと煌びやかな光が合わさりやがてひとつの丸い形になった
「うんうん!上出来ね♪これはあめだまのお薬」
ツキミは出来上がったあめだまをリードの口に入れる
「噛み砕いちゃダメよ。喜び、幸せ、大好きという感情を感じる事が大事なの、それじゃうちはさっきの薬の調合してくるからここで落ち着くまでいるといいわ♪それから妖精ちゃん達には説明しておくからね」
ツキミは手を振ってカーテンを閉めて出ていった
あめだまをなめているうちに涙は段々と枯れていって涙が出ることはなくなった。そしてあめだまのお陰なのか心にいつの間にか空いていた穴にも寄り添うかのような感覚がした
「小さい頃の記憶はない…けどいつか思い出せたら」とリードは小さく呟きそれから手のひらを見つめて拳をギュッと作ってからすっと立ち上がり閉められたカーテンを開けその場から離れると丁度小袋を持ったツキミと出くわした
「あら!もう大丈夫なのね良かったわ♪」
「迷惑かけたなツキミ……ちゃん」
「ふふよく言えました!」
2人でまたいた場所に戻るとフェアリテア達が小さな手でリードの頭を撫でる
「あの紅茶にあんな効能があったなんて知らなかったわ。嫌な思いさせちゃってごめんなさいなの」
「フェアリテアちゃん達のせいじゃないわ。うちがちゃんと伝えてなかったのが悪いのよ」
「それじゃあリードちゃんはまた来てくれるの?」
「また来るよ。だから心配しなくていい」
フェアリテア達は喜んでぴょんぴょんと跳ねる
「ふふふ、フェアリテアちゃん達嬉しそうね。あ!そうだ薬はこの袋に入ってるから今渡すわね」と言って先程持っていた小袋をリードに手渡してからカウンターの方に行き紅茶の茶葉をいくつか持ってきた
「これはリードちゃんのお薬よ。あまり眠れてないでしょう?それに疲れも溜まってるわ上手く誤魔化してもうちにはお見通しなのよ」とウィンクした
「助かるよ。ココ最近アイツの雑務を片付けていたら夜更かし続きでさぁぁ。はぁ、怒っても仕方がないか」
ため息をつくリードにツキミは困ったように笑って茶葉を入れた袋を渡す
それを受け取ろうとしたらツキミに指をギュッと握られた
「手袋破れてるじゃないどうしたのかしら?それに手袋に血もついてるし指にも微かに傷が残ってるし」
「魔王クルセヴィアの金糸に触れたらこうなった。」
「金糸に触るなんてなんてことしてるのよ!毒の浄化は?していないのなら今すぐこっちにくるの!」
「毒は大丈夫なんだけど、あの、ちょっ」
ツキミはカウンターに乗ってリードを強く揺さぶる
「ああ、ごめんなさいなのよ。でも毒が大丈夫なら良いのよ。でも手袋はそのままじゃダメでしょう?」
「というか言われなきゃ気が付くの遅くなってた。ありがとうツキミ、ちゃん」
「良いのよ。でも手袋がないと確か射撃魔になっちゃうのよね?」
「え?」
「ん?」
「誰が手袋取ったら射撃魔になるって?」
「リードちゃんがなっちゃうんじゃないの?」
「俺、手袋取ったて普通だよ。誰そんな噂流したヤツは」
「いつだったかしら、うーんと確かイリヤちゃんが3ヶ月前に来て…」
「分かった。とりあえずアイツの息の根止めてくる」
颯爽と去ろうとするリードの服をツキミとフェアリテア達は掴む
「ダメよ。とりあえず落ち着くのよ!」
「若い者は血の気が多いのう」
「そんなこと言ってないでウエルちゃんも止めるのを手伝うのよ」
致し方あるまいとウエルが白大蛇の姿へと戻りリードを縛り付ける
「こら!暴れるでない!」
「変な噂を流したアイツを俺は許さない。それに3ヶ月間の間に定着しているし」
「聞いた時はビックリしたのよ。でも……」
「国民の中では銃を乱射する俺を想像出来てその上定着もされた…とツキミちゃん達も」
「う、」
「っ!」
ツキミとフェアリテア達は押し黙る
「ウエルもう離してくれ。暴れたりしないから」
ウエルはするっと離してくれた
「はぁ、定着してるならそれでいっか、それにこんなことしてる場合じゃないし」といいながら変えの手袋を懐から取り出し指輪も取っていくと元に戻ったが手で左右色が少し違ってしまっていた「両方変えるか」と言うと左も変え始める
「よし、それじゃツキミ、ちゃん会計は?」
「お会計はないのよ。今日は私のせいでハプニングが起きちゃったから」
そう言って首を振った
「そういう訳にはいかない。だからきちんと払う」
「う〜ん。そう言われても困るのようちの落ち度だったんだもの」
ツキミがそう言う困った顔で言う
「ウエル」
フェアリテア達と憐れむウエルを呼びつけた
「なんじゃ?」
ガッシャーン/
振り返ったウエルのしっぽが花瓶に当たり花瓶が割れた
「はい。弁償代と諸々」
お金を置くと同時にウエルを掴んで店を出た
「お主は相変わらずじゃのう」
「あれ?ウエルも察したんじゃないの?」
「我のは偶然じゃ」
「ふ〜ん?ならいいけど」
屋敷が近づいて来るにつれて速度を落とし徒歩へと変わった
「前にミスって屋敷の壁とか破壊したらルシアに長時間のお説教食らったからウエルも気を付けて」
「ルシアというのはあの九尾のメイドのことかのう?」
「そうだ。あのもふもふしたくなるしっぽをもつ九尾は俺の側近だ」
屋敷に辿り着くとソワソワと行ったり来たりしているルシアが目に入る。
そしてこちらに気がつくと猛スピードでやってきた
「やっと帰ってきた主!」
「ルシアすまんが構っている暇は無いそれじゃ」
ルシアの横を通り過ぎて屋敷のドアを開けソフィーへとあてがった部屋に入る
「ウエルは薬を飲む覚悟よろしく。じゃあ準備するから」
「その宣告はいらぬじゃろ!苦いのか?」
「俺の記憶だけど味は分からないよ少なくとも美味しくないことは分かる。まぁ、飲んだことないから分からない。あ、ついでにこの薬は噛み砕いてこの水で飲み込む事」
「…………」
「さて、準備完了。そして少しでも外に出たいという気配があれば俺が強引にでも引っ張り出す
この算段でいいな?」
「うむ。そしたらこの記憶の錠剤を噛みこの水を飲む」
「合ってる」
「でも強引に引っ張りだすというのはどうやるのじゃ?」
「その薬には俺の精神が入ってるだから目を瞑って精神統一すれば行けるって訳」
「そんなことすればお主は………分かっておるのじゃな。ではこの薬を飲むぞ」
「あぁ」
ウエルはひょいっと記憶の薬を口に入れて噛み始めた粉々になったのを感覚で感じその後に水を飲んだ。
色々な感情が巡る……。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
《███✕✕??██?》
「___?……?███?███」
(誰の声?)
私は確かめる為に目を開けた
「っ……!」
目の前にはメラメラと燃え上がる炎に屋敷が呑まれそうになっている
そして1人逃げる者をのみ残して屋敷は燃え
人が無惨にも死んでいく
(何なんなのこれ…私の記憶じゃないわ)
やがて何も無くなりその映像は終わった
「どういうこと…」
すると後ろから気配がし振り返るとそこには少年がいた。
背格好は幼いが服はきっちりしているのでお金持ちの家の子だというのは分かった
「さっきの見たでしょ?」
そう言って隣に座る
「さっきの…」
「お屋敷が燃えて全部無くなった……君は?」
「私?」
「君はどうしてここにいるの?」
「私は……私はもうここから出ないよ」
「どうして?」
「失うのが怖くなったの」
「僕は全部失ったよ。両親も執事もメイドも家族、家と呼べるモノ全て目の前で無くなったんだ」
少年は顔色も変えずに言う
「それは………」
「でも、君は?」
「私?」
「君は失うとしても失いたくないモノ守りたいモノがあるよね」
「そうね。確かにあるわ……でもどうすれば」
「君はもうひとりじゃないよね」
「前よりかはそうね」
そう言うと少年は立ち上がった
「今は下を向く時じゃないでしょ?」
「………」
「それに失いたくないモノも今はたくさん出来たでしょ?」
「私は………わ、たし、は………強く、ないから、守りたくても、、守れない、、、、」
(あの時クルセヴィアと戦ったときどんなに私が弱いか、どんなに愚かな存在だったかを理解した)
「でも君は諦めなかったでしょ?負けそうになってもそれを打ち返した」
「私は、、失わない為に強くなりたい。強くなって守られるだけじゃなく守りたい!」
すると私の足元から光が輝く
「じゃあね」
「ありがとう!」
少年はニコっと笑って手を振ると闇に消えていった
『ここか……っ!!!』
声がした上の方を見るとヒビが入ってやがて大きく割れる
「ソフィー!」
「リード!!」
私はリードの手を掴むように手を伸ばした
「捕まえた!全くめんどくさい次期統括者サマだな」
私の腕を掴むとそのまま外側に引っ張り出された
「うわぁぁ!」
ボフツ/
ふかふかのベッドに落ちる
「ベッドの上でやって良かった。床だったら多分、痛い」
「私、その、」
軽くソフィーの頭に手をポンと置く
「よくやったと思う。誰も失ってないだろ?」
「えぇ、そうね、ほんとだわ」
涙を浮かべて笑うソフィーにリードもウエルもホッとする
(それにしてもあと時の記憶の断片は少なくとも俺の記憶ではなかった。一体どういう事だ……ツキミがわざとそうする理由も分からない。まぁ、結果が良ければそれでいいか)
「上手くいったのう。ほれソフィーこれを飲むと良い魔力回復の薬じゃ」
瓶を受け取ったソフィーは困ったように俺に視線を送った
きっと彼女は薬の味を気にしているのだろう
「苦くも不味くもない。ほんのりと甘いだけだ」
そう答えると意を決して一気に飲み込んだ
「あ、ホントだ。ほんのり甘いしそれに体が軽くなる感じがするわ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こうして私は暗闇から抜け出すことに成功した
私の為に尽力してくれた人達には頭が上がらない
私はこうしてまた立ち上がり越えられる壁があることを知った