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段取

東京に知り合いがいるわけでもないし、友達がいるわけでもない。

伯父も従姉妹も仕事しているから昼間は荷物の整理やパソコンいじる程度。

歩いて15分程のところにブックオフがあるし、神保町や秋葉原へ30分も

かからないで行けるのはありがたいけど、そうそう遊びまわっているわけにも

いかないから掃除を始めてみた。

元々が祖父の診療所兼住宅だった家を改築しているからいささか広い。

7LDKになるのかな?トイレは2ヵ所あるし、お風呂の他に

シャワールームや洗濯室まであるのは診療所の名残りらしい。

個人のスペースは除いて掃除機をかけて拭き掃除をして行く。

周りは寺町、すぐ近くは商店街がある本当の意味での下町だそうだ。

昼間でもさほど人通りのあるところではないし、夜になるとここが日本橋から5キロ

くらいというのが信じられない。あまり手入れされていない小さな庭があるから今度

いじってみようっと。

庭から道路に落ちた椿の花が気になったので道路を掃いていると

隣のお婆さんに声をかけられた。


「こんにちは。若いのにちゃんとお掃除するのね」


「こんにちは。いえいえ、ちょっと手が空いたもんですから」


「そんなことないですよ。家の孫なんか全然やらないで遊んでばっかり」


この前伯父に連れられて向こう3軒両隣にはご挨拶してるから初対面ではない

でもお孫さんは合わなかった。


「お孫さん?この前はお目にかからなかったようですけど」


「今、大学の関係で藤沢に下宿してるのよ。全然帰ってこないし

帰ってきてもすぐ出かけるの」


「下宿ですか。一人暮らしも苦手な人だと大変みたいですね」


「全然。今はコンビニとかあるじゃない。自炊もしないで何とか

なっちゃうみたいね。上の孫は筑波の研究所とかへ行ってこれまた

滅多に帰ってこないのよ。」


「男性はやっぱり外に出てしまうんでしょうね。

従姉妹達はまだこの家にいるみだいですけど」


「そうねぇ・・下の孫はよく亜美ちゃん由美ちゃんに遊んでもらってた」


上品に笑いながらお婆さんは続ける。


「7歳年下だから喧嘩にもならなかったわ。

上のは2歳下でよく勉強教えてもらってた」


「へぇ・・・そうなんですか。従姉妹は秀才だとは聞いてましたけど」


「少なくともあの2人が中学卒業したときより貴女のほうが綺麗よ。それじゃまた」


「失礼します」


お婆さんは待たせていた黒塗りの車で出かけていった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




家に帰ってコーヒーを淹れる。パウンドケーキを1センチほど切っておやつにしよう。

お菓子に不自由しない家だけど油断してると間違いなく太る。

夕飯の支度は冷蔵庫の中身で大丈夫だからご飯だけセットすれば後は

6時過ぎに作れば大丈夫だし筑前煮だけ作って味をしみ込ませとこうっと。

卒業式かぁ・・・今週末だけど本当は出たくない。

尊敬できない担任といじめてくれた奴の顔は見るのも嫌だ。

このまま東京へフェードアウトしたいな。伯父は何て言うかな。

とりあえず相談してみよう。


伯父と亜美さんが7時過ぎに帰宅した。由美さんは遅くなるみたい。

夕飯は好評だったので安心した。卒業式の話を切り出してみる。


「あの・・卒業式で秋田行くのも大変だし、制服も燃えちゃってるんで

式に出るのも恥ずかしいんですけど」


「前日に行ってホテル泊まりで翌日出席して帰るってことで考えてたんだが・・

飛行機とホテルは確保してあるし、制服ねぇ・・」


「何を着ていけば良いのか判らないし悪目立ちしたくないのも・・・」


「で、それが本当の理由?」


伯父が諧謔の篭った、それでいて真面目なような目をしてこちらを見る」


「えっと・・本当は担任といじめてくれた奴らにもう合いたくないのが本心です」


「・・・・あのさ・・・」


亜美さんが伊予甘の皮を剥きながら話し出した。


「別に私がどうこうしろとは言えないけど、このまま中学時代の負け犬引きずって

生きてくつもり?復讐しろとかやりかえせなんて自分が嫌な思いすることは

やらなくていいけどね。これからの自分がどこへ行くのか見せつけるくらいは

やっていいと思うよ」


もぐもぐと伊予甘を食べて続ける


「それに、これから高校から先、大学、社会人になったらもっと

陰湿で悪意のあるいじめに遭遇しないとも限らない。

その時に胸を張って弾き返した経験があるのと無いのとでは

心構えと対応の強さが全然違うはずだよ。

心療内科は臨床まで少しやっただけの新米だけど

医者としてアドバイスできる」


「逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ・・・アニメのセリフだが、

俺も同意見だな」


伯父が紅茶を入れながら話す。ティーカップに注ぎ分けて勧めてくれた。

同じ葉を使ってどうしてこんなに差が出るのか不思議な一品。


「悪目立ちいいんじゃない?式の練習に参加していないんだから動作なんざ

ばっくれりゃいいだけの話だし、相手の目を見て帰ってくるだけで

効果あるはずだよそれに・・」


「でも、担任まで一緒になってやってるんですよ?警察沙汰も口裏合わせて

無いことにするような相手です」


「担任って、どんな奴?具体例を挙げて説明してくれないかな?」


「日教組のバリバリ、竹島が韓国領土だって教えてるくらい。

えこひいき凄いのが特徴でしょうか」


「ふん・・よくいるタイプだな。また最後にいじめられるのが怖いのかな?

実際問題として卒業式の最中にどうこうは無理だろ。

問題は前後だが前は教室に集合してから式次第だから時間的に無理。

終わった後で担任も含めて問題を起こしてくれればそれはそれで

楽しいことにしてあげるよ。

挑発するわけじゃないけどその程度で切れるようなら扱いやすい」


「でも、伯父さんが悪者になるようなことがあると困るし・・・・」


「あぁ、それはない。危ないこともしないし、家族を守るのは当たり前の

義務でしょ。大人がやらなきゃならないことってのがあるんだから

心配しないで任せとけ」


えぐえぐと泣いていたら何やら2人で話していた。


「ほんじゃ、行ってみよう。中学の制服はいらないようにする。

何を着るかはちょっと待って」


「ただいまー あー疲れた  ・・・って何で泣いてるの?」


由美さんが帰ってきて状況不明でぽかんとしてる。

赫々云々と亜美さんが説明しながら自分の部屋へ戻っていった。

由美さんが部屋着に着替えて降りてきた。

スーツらしきものがハンガー付きで袋ごと渡された。


「スーツってのもまだ無理があるし、作ってる標準服は間に合わないでしょ。

お古だけどこれ着てみて。高校卒業した時に身長155だったから今の貴美ちゃんと

3㎝しか違わない。問題は胸だね。

スカートの長さは規定が無いからちょっと短いかも。おねえちゃんのスカートのほうが

長いかな。上着は後輩にあげちゃって無いんだって」


「つかねぇ・・ボタン全部持っていかれて涙目で上着くれと言われたからね。

Yシャツは新品が届いてるでしょ? さくっと着替えて見せて」


部屋に戻って着替えてみる。このスカート・・・膝上15㎝になるけど

いくらなんでも短くない?亜美さんのスカートは膝上5㎝。

これでも中学の規定より短いんですが。上着を着てみる。

ウエスト、肩幅、袖丈は問題なしだけど胸周りがちょっときつい。

身体の線がもろに出てる感じ。白いソックスを履いて居間に降りる。


「あの・・こんな風になりましたけど」


居間の姿見にローファーを履いて映してみる。


「うん。デパートでお仕着せ着たのより全然良いよ。まぁ、選択肢はこれしかないな」


伯父が目を細めながら褒めてくれる。


「きゃ~~~~~っ!可愛いっ!私達にもこんな時代があったのねぇ・・」


「ふん・・・髪型まで統一して学校で混乱引き起こしてたのが何いってんだか

ああ・・そうだ忘れてるのがあるぞ」


伯父は自分の部屋へ行ってすぐ戻ってきた。


「これを付けなさい」


渡されたのは七宝焼の校章。


「私達のはもう塗装仕上げになってるんだよね。お父さんのは下地が臙脂で

私達の時代は明るい色調なの。

貴美ちゃんのはもっと明るい朱色に近いのになるかもしれないけど、

古いのが重みがあっていいよね」


「学年章とかクラス章は無いから。これだけが識別になるかな。

夏場は略章付けない奴も多いから何処の生徒か不明になるんだな・・・これが」


「一番無難で、一番見た相手に嫌味になる服。新品じゃないけど

これで胸張って卒業式♪」


涙が出てきてえぐえぐが止まらなくなった。


「ありがとうございます・・・」


「もう泣くな。顔を上げて胸を張って行こう。中学の連中が絶対

きることが無い服だし今年の卒業生が公立高校でナンバーワンの実績

作ってくれたからね。嫉みと陰湿な連中をぶっとばすつもりで・・・な」


部屋に戻っても涙が止まらなかった。


いけませんねぇ・・・誤字脱字。

修正しました。

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