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変身?

「さ、出かけるから。行く時は眼鏡でいいけど、コンタクトも持って来て。」


家を出て銀座へ向かう。姉妹揃ってなんだか嬉しそうにきゃいきゃいしてる様は

どう見ても20代前半にしか見えないんです・・伯父は書類の整理や書き物が

あると言って家で荷物を受け取る係を志願してくれた。銀座の裏通り、ビルの3階に

目的の美容室はあった。いかにも・・というか敷居が高くて入りにくいオーラを発散

しているけど彼女達は私の手を引いてためらわずに扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


受付に座っていた中年の店員さんが立ち上がりにっこり笑って迎えてくれた。


「3名で予約をお願いしています滝沢です。」


「はい、承っております。通常のコースがお2人とお1人様は初めてだそうで」


「ええ。この子ですけど、父から話は通っているようですね」


「オーナーを呼びますので少々お待ちください」


受付脇のソファーに座って待つこと数分・・・

奥からかなり派手目なおじさんが出てきた


「いらっしゃいませー 亜美さん、由美さん。お父さん元気?」


「今日は。父は相変わらず元気ですよ。今日もよろしくお願いします。で、この子が貴美です」


「よ、よろしくお願いします」


思わず噛んだ。


「ふむふむ・・・お父さんが自慢するだけのことはあるね。ちょっと鏡の前へ」


髪の毛を梳きながらだんだん目つきが変わってきてるんですけど・・・


「30年近く美容関連の仕事してるけどこの髪色は2人目だね・・絶対に染めたら駄目

悪いんだけどカットモデルやってくれない?私が一番似合うと思う髪型にしてみたい。

料金は無料にするけど、終わってから2時間位の撮影になるかな」


「え?私がモデル??」


亜美さんのほうを見ると由美さんと何やら話してる。話がまとまったらしく


「エステも予定してるんですけど、そちらも含めてやっていただけますか?」


「ああ、もちろんもちろん!! 徹底的にやりたい。一髪やらせろ・・と下品に言ってみる」


「貴美ちゃん、この際だから徹底的にやってもらったら?加畑さんに直接カット

してもらえるなんて、普通じゃまずありえないんだし。高校生の髪型って範疇で

お願いしてみなさいよ」


あの・・3人がかりで説得に乗り出しているとしか思えないんですが。


「でも、どんな髪型か指定できないんですよね?」


「学校で短くするの禁止されてたのかな?そのまま伸ばすだけで痛んだ部分もそのまま

になってるからねぇ・・古い言い方だと貞子ヘアーになっちゃってる。それが全体に

どーんと重く圧し掛かってるからね。短くして爽やか系が似合うね。」


専門家も周りの人もショートが似合うと勧めるし、生活も変わるから髪型も変えるのかな。


「それじゃショートでお願いします」


「出来る限り可愛くしてあげる」


加畑さんはにっこり笑って矢継ぎ早に指示を出す。


「亜美さん由美さんは特別コースにマッサージ付けて、貴美さんには特別コースと脱毛の

無料サービス券5枚付けて、フェイシャルは念入りに、店長が施術して。上のスタジオ4時から

押さえて。カメラマン呼んで。塞がってる?小スタでも大丈夫だから何とかして。貴美さん

はなるべく早くカットに回ってもらうから脱毛は2人付けて」


「こちらへどうぞ」


受付の人に促されて別のフロアへ案内された


「まず、全身の無駄毛処理から始めます。そちらの更衣室で下着も脱いで

ロッカーの中にあるパンツとガウンに着替えてください」


ぱんつがハイレグで毛がはみ出しそうなんですけど・・・しかも紙でできてる使い捨てだし

ガウンを脱いで施術台に乗るとタオルをかけてくれた。


「最初に手足の産毛からやりますね。薄いからさほどの変化はないように感じるかもしれないですけど両脇とVゾーンはその後。」


「腋毛って脱毛するとその後まったく生えてこないんですか?」


「いいえ、今休眠状態の毛根から発毛しますから。でも4,5回続けるとほとんど生えてこなくなるのが普通です。Vゾーンも心配しないでください。

水着を着てはみ出さない程度にします。お顔は元々色白で美白の必要もないで

しょうけど、産毛の処理とフェイシャルで老廃物を取り除きましょう」


寝て顔にタオルをかけたまま2人がかりでマッサージされてるとしか思えないんですけど。

でも気持ちいい。ふんわりとした気分で人の手で触られるのは初体験かも。両手をバンザイする格好にされて両脇の処理が始まった。


「体毛が薄いんですね。施術するほうも楽です。Vゾーンもほんのちょっとで終わります。

2ヶ月間隔くらいで通ってくださいね。3,4回で1年さぼれるかも。さ、うつ伏せに」


背中もゆっくりしたペースで撫でられるのも気持ちいい。癖になりそうなのが怖いけど。

顔を触られるのも何となく不安だったけどやっぱり快感。つるつるになった顔にクリームを

塗られ服を着て美容室へ戻った。



通された椅子というか・・・個室なんです。

6畳くらいの部屋に必要な器具がセットされてる。


「せっかくの個室なんですが申し訳ないけど見学者が沢山出入しますから。

オーナーの実技みんな見たいしカットして落ちた髪の毛はくださいね。

店長もこの色の地毛は見たこと無いそうです。」


全体をブラッシングしながら女性の美容師さんが説明してくれた。


「さて、始めましょうか。さっきも説明したけど基本的にショート。高校生というよりも

爽やか系のイメージでまとめます。ロングからショートにするから切る部分はまとめて切って持って帰れるようにしますね。つけ毛に使えるから保管しといてください。」


眼鏡を外されてカットが始まった。この時点でもうほとんど見えないけど髪の毛をまとめて肩にかからない長さでざっくりカット。前髪から始まって両サイド、後、全体へとはさみが入る。

後では手の空いた美容師さんが入れ替わり立ち代り見学してる。その人達に向かって


「縦にはさみを入れれば今風に軽く仕上がるんだけどね。

この髪質の場合には独特の光沢との兼ね合いがあるから難しい。

全体に軽く、しかも光沢を強調したいからこの切り方を使ってる」


「全体に梳かないと髪の毛が多いから軽く仕上がらない。

でも爽やかに光るようにするにはこう・・」


「カットして落ちた髪の毛見てごらん。本当の意味で碧の黒髪ってのがこれだ。

落ちた髪の毛は貰うことになってるから少しずつ持ってって」


なんだか物凄く複雑なカットしてるみたい。カットが終わってシャンプーブロー。

ごく軽くお化粧してもらってから鏡の無い別の部屋でコンタクトを付けるように言われた。

加畑さんが正面から見て


「うん。これでよしっと。ここ10年での最高傑作。別人28号・・・ふるっ」


元の部屋に戻って鏡を見る・・・・




「これって私・・・??」





普通の美容室に出ると美容師さん達が一斉に驚いた表情でこちらを見る。

いきなりぎゅっと抱きしめられて固まってしまった。


「きゃ~~~~~~っ! なんて可愛い生き物なのっ!」


「おねーちゃんずるいっ!私も!! 可愛い~~~っ!碧よ!碧の黒髪!!」


左右からむぎゅっと抱きしめられて動きが取れない。

加畑さんが笑いながら止めさせてくれた。


「まぁまぁ・・髪の毛は地色ですよ。

カットで虹色というか烏の濡羽色に光るのを強調してるけど。

可愛いのは貴美さん本人。シャンプーとコンディショナー、

ヘアクリームしか使ってないし。

帰りに用意しときますから持って帰って使ってください。それじゃ撮影お願いします」


上のフロアへ移動して撮影がはじまった。モデルなんて経験無いし写真を撮られることも

さほどあったわけではない。こっち向いてとか上向いてとか笑わせられたり服を着替えたり

結構大変。セーラー服とかブレザー、見たことも無い制服でも撮影した。スタイリストの人ってサイズが合わない服でも見えない位置で安全ピンで留めてあってるようにしてしまうんだ・・

後で聞いたら制服は有名私立お嬢様学校の制服ばっかりですって。

ちゃっかり由美さんが画像貰う話をしてたみたい。その他ワンピースやミニスカートから

ゴスロリ風の服まで今まで着たことが無いのを次々と変えて撮影された。


「はい、終了です~ お疲れ様でした~」


やっと撮影が終わってほっとしていると今回撮影したのを雑誌に使う許可が欲しいとカメラマンに言われた。美容室の広告ならかまわないけど雑誌はどうなんだろうな・・・と考えていたら


「モデルデビューするわけじゃないから大丈夫じゃない?

反響あってもスカウトお断りって条件で」

「そうねぇ・・もし掲載されてもモデル不詳にしてもらえば?雑誌は送ってもらうことで」


などと肯定的な意見があったので掲載はかまわないけど人物不詳で

掲載することでOKを出した。



撮影が終わって外に出るとそろそろ暗くなる時間。

なんだかすれ違う人がちらちらこちらを見てる。

亜美さん由美さんは美人の上に双子だから目立つんだろうな。


「こらこらっ、ヒールで膝曲げて歩かないっ!

つま先から蹴り出す感じで胸を張って歩くの。こう・・」


見本を見せて貰いながら銀座の裏通りで歩く練習。きれいに歩くのも大変だ。

でも頭が軽い。首筋がすぅすぅして寒いけど振り向いただけで髪の毛がふわっと

舞うのが自分ではっきり分かる。

伯父さんが出てくるそうなのでそれまで時間を潰すことになった。


「それにしても髪型と眼鏡でこんなに印象変わる子も珍しいわねぇ・・

男供がみんな注目してるし。通常はコンタクトでかまわないけど眼鏡も

1つ買い換えないとね。眼科の処方箋持ってる?」


「注目されてるの亜美さん達ですよー私なんて・・・」


「うんにゃ。視られてるの貴美ちゃんだよ。この先まっすぐの眼鏡屋へ行く

けど何だったら試してみる?10メートル先を他人のふりして歩けばすぐ分かるから」


確かに・・見られてる。視線を感じるけどどうして?今までごく普通に歩いていて

注目されるなんてなかったのに。男女問わず私を見てるのを感じるんですけど。


「凄い凄いっ!男だと3割くらい振り返ってるよ!女性でも注目してる人沢山いるし!!」


「うーーーん。これってやばいかも・・渋谷あたりだったらナンパされまくりじゃない?」


眼鏡屋に到着すると姉妹そろって興奮した声をかけてきた。街中で声をかけられたことって

キャッチのおねーさんくらいしか経験ないんですけど。

あれこれ眼鏡を試してみるけど、今持ってる黒縁のは確かに似合わない。でも不細工に見えるからこれはこれでいいのかな。縁なしのチタンフレームがベストと店員さんも含め意見が一致したので買ってもらった。


「入学祝ね。出来上がったら自分で取りに来て。使い捨てのコンタクトは自分で買えるようになったら自分で払って」


でも3ヶ月分一緒に払ってくれてるんですケド・・・・

伯父さんがやってきてひと目見るなりぽかんと口を開けたまま固まった。


「加畑から聞いてはいたけどここまで変わるんだ・・・すげー」


「そんなことないですよー中身は変わってないし」


「いや、自分の価値に気が付いてないんだよ。亜美由美のときも美形だと思ったけど

何というか男が放っておかないタイプというか。亜美由美が若い猫の雰囲気だとすれば

貴美ちゃんはげっ歯類の雰囲気があるんだな。ヤマネとかモモンガとか・・・」


「そうそう。絶対やばいと思うよ。砂糖に群がる蟻のように男がわらわらと・・・」


亜美さんが酢豚を取り分けながら言った。


「絶対付き合えとか言われるタイプ。今まで男の子と付き合ったことある?」


由美さんが炒飯を掬いながら聞いてくる。


「いいえ。中学で全然そんなことなかったし、田舎でうるさかったですし」


「はぁ・・・絶世の美女ではないにしろ間違いなく美少女の範疇なのに免疫なしかぁ・・」


「「「んー困った」」」


何も声を揃えることもないと思うんだけど、そんなもんなのかなぁ?

青菜炒めを食べながらロックの紹興酒を少しだけいただく。


「亜美さん由美さんだって美人だし大変だったんでしょ?」


「こいつら中二までヤンキーだったから。

高校生相手にどうなるって玉じゃなかったんだよ」


「え?嘘でしょ? だって国立の医学部現役で入ってるんだからそんなのってあり?」


「このおやじは人の黒歴史をそうやってばらすんだからもう・・・」


亜美さんが苦笑しながら呟く


「ま、事実だからね。偏差値38からの都立普通科受験。お父さんの家庭教師のお陰だった。

貴美ちゃんもお父さんに習うといいよ。凄いから」


由美さんが杏仁豆腐食べながら付け足した。


「あのなぁ・・お前らの時でも授業の中身が変わってて苦労したんだぞ?今時の高校で何やってるか全然知らんし、もう時代遅れだろ」


「そんなことないよ。どこで何が分からなくなって躓いてるかを見つけてそこを指摘できるって今にして思えばとんでもない才能だよ?しかも相手のレベルまで降りて教えられるのは。東大の理Ⅲは伊達じゃないでしょー」


「ふん・・家から歩いて通える一番近い学校が芸大か東大だったからだ。お前らはバス通学だったよな」


「浪人はしたくなかったし、私立は論外。ちょっとへたれたのは事実だけどさぁ・・・

やっぱ総合大学のほうが良かったかなと今はちょっと思ってる。」


「ま、お前達が選んだことだからな。肩書きは変わらないし大丈夫だろ」


「あの・・・家から近いのが大学の選択基準だったんですか?それで東大と東京医科歯科?」


「そうだけど、何か?」




この人達絶対ちょっと変・・・・

 

変な家庭の変な家族紹介はそろそろ終わり。

次からいじめられていた芋虫が華麗な蝶々に変身する・・・かな?

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