部活
親しくなったグループごとに教室を出て行く。文科系でやってみたいと思う
部活動は無いし、体育系でも中学からやってきたのは無い。
入学式から親しくなった2人と見に行くことにして教室を出た。
「かすみー、何から見る?」
「うーん微妙なのばっかり。瑞恵と貴美は?」
プリントを見ながら瑞恵が言う
「音楽、美術系は才能無いからパスかな。オーケストラとか軽音はある程度
弾けないと大変そうだし、美術は中学で諦めたしなぁ・・・」
私も続けて
「雑草研究とか物理地学はパス。というか興味の対象になりそうなのが無いね
野球とか男子だけだしサッカー、テニスみたいに走るのやだし。陸上は論外。かすみは?」
「漫画とかアニメとか・・あ、オタクってほどでもないけど好きだよ
クラブ活動としては無いしね。出ないで済むのって無いかなぁ」
「それ無理っぽいよ。うちで言われたけどレギュラーになりたければ
体育系だと中学で部活のありそうなのは避けたほうがいいって。
追いつくまでに高校の部活終わるからやめとけって」
「それはあるかも。中学でなさそうなのってダンスと弓道?
社交ダンスならやってみたいけどそうじゃないし。時間つぶしに
茶道部なんてどう?これから見学でお茶飲めるかもしれない」
「正座苦手なんですけど・・・」
「とりあえず見るだけ」
きゃいきゃいと会話しながらクラブごとの展示を見て廻る。生物研究とか
雑草研究で取り囲まれて勧誘されたり、165超えてる都大会出場経験ありの
かすみが女子バスケに拉致されそうになったけど振り切って逃げた。
うーん怖いところだ。
熱心に勧誘してるのは存続や予算に関係してるんだろうか。
でもクラスの子に聞いてる限りでは強制的な囲い込みはしていないみたい。
「貴美はどうするん?」
「んー、バレーバスケは身長不足。剣道もやったことないし
リーチで決定的に不利だもん。水泳は日焼けしそうだからパス
卓球やバトミントンは嫌い。走る系も苦手。ダンスは興味ないし
できれば個人でできるのがいいかな。」
「後は弓道部かぁ・・屋上だけど行ってみようよ」
屋上へ上がると見学者が多数。着物と袴に憧れるのは女子比率高いようだ。
射場で弓を引いてる横で着物袴姿で説明してくれてる。後から見てたら
声をかけられた。
「何人かまとまったら説明しますからちょっと待っててください」
着流しで下駄を履いた男子が静かに言った。前のグループに
説明してる女子の声だけが聞こえる。矢が放たれて弦を放れる音と
的に吸い込まれたときの音が響く。実際に弓を射るのを間近で見るのは
初めてなので観察してると耳の後まで弦がきてるんだ・・
「お願いしまーす」
声がかかると矢を回収しに着物と袴の男子が的のほうへ歩いていく。
「ということで説明は以上です。入部希望の方は放課後いつでもかまいませんから」
説明していた女子がこちらを向いて頷いた。ぞろぞろと前のグループが下へ降りていくと
先ほどの男子が説明を始めた。
「えー始めまして。引退した3年生ですが今日は説明役として出てます。
名乗るほどのもんじゃないんで自己紹介は無し」
創部は昭和30年代、入部してから的前(実際に的に向かって矢を射る)までに
3ヶ月程度かかること、道具類はクラブのものを使えるが道着、袴、矢は自前で
それにかかる費用と合宿、昇段試験の費用は必要なこと、女子でも男子でも
体格、体力によるハンデは無いし、経験者が入部したことはほとんど無いこと、
今練習してるのは2年生でちょうど1年目なことなどを説明してくれた。
「で、建前はここまで。実際には形から入るから最初で飽きる人が多いし見ての通り
4人同時に射れる射場しかないから1.2年生で20人以下が望ましいんだけどね。
何年か前に部員100名越えたことがあって悲惨なことになったそうだ。入部したけりゃ
適当に放課後にきてぐぁっ・・・・」
さっき説明していた女子が説明役の頭を叩いてる
「先輩っ!そのやる気の無い説明で私達がどれだけ苦労したか考えてくださいっ」
「痛ぇなぁ・・んなんやる気のある奴だけ残るのは毎年なんだからさぁ
俺の説明で入部したおまえら、練習量だけはここ10年で最高レベルになったろ?」
「部員の獲得は予算の獲得!今年は備品の入換と屋根のペンキ塗りがあるんですから」
「とうちの主将が申しております。つーことで説明終了です」
へーこの人が主将なんだ。漫画の弓道部員そのもの、美人だけどきつそうな人。
ダッシュして逃げる3年生を2.3歩追いかけて立ち止まり溜息をついてこちらを
振り返る。
「あれが去年の主将。いつもあの調子でやる気の無い説明で2年生は幽霊部員含めて10人しか
いないから入部するチャンスよ。よろしくね。何か質問ある?」
「実際に的に向かって射るのには3月くらいかかるのは本当ですか?」
とかすみが聞く
「そうね。そのくらい。飛び道具だし危険な部分もあるから。見てれば分かるけど和弓の場合
矢が弓の外側にあるでしょ?落ちたらどうなるか考えてみて」
「えっと。。初歩的な質問ですけど耳の後に弦がきてますが耳に当たったりしないんですか?」
と私も聞いてみる
「ちゃんと骨法・・形というか動作ね、とれないと耳とか胸とか二の腕内側とかに当たる
ことがありますよ。弦ってまっすぐ弓に向かって戻るわけじゃないから耳と二の腕は本来は
当たらないはずなんだけど、最初のうちは当たることもある・・痛いよ」
この人も脅かしてやる気を減らそうとしてる気がするんだけど。
「そうそう、胸に当たる場合もあるけど、そこは胸当てでガードするから大丈夫。」
なんだかなぁ・・お礼を言って下の階へ降りると自販機コーナーの横でさっきの男子が
コーヒー飲んでる。目礼して通り過ぎようとしたら呼び止められた。
「どう?感想は?まぁ彼女がカリカリしてるのも俺がやる気の無い説明してたのも
訳ありでね。嘘はついてないから許してくれい」
にやっと笑って頭を下げてきた。3年生なのに妙に素直というか・・・
瑞恵が聞く
「訳ありって?」
「彼女からすれば男が欲しい。俺からすれば後輩の試練が面白い」
「はぁ?」
笑いながら先輩が付け加える
「あぁ、性的な意味で欲しいんじゃないよ。今の2年は幽霊部員除くと女子4人
男子が2人。団体戦は3人が1組だから2年で1チーム組めないんだ。最低でも
男子4人いないと出場しても総合点できつい。女子は2人でも大丈夫だけどさ。
だから男、男ってわけ。去年は俺が説明してたんだけど男どもに不評でなぁ
女子の比率が元々高い部だけど今の2年で残った男子が少ないのよ。
主将はいい子だけどちょっといや、かなり性格的にきついんだな。おまけに責任感
強いから新人が入ってくる時期の運営のプレッシャーで気持ちに余裕が無い。」
「で、先輩はそれを見て面白がってる・・・と」
「半分はそうだね。でも彼女を主将に指名したのは俺だから半分は責任感かな。
ま、入部したければどうぞ。他の部活に比べるとやや経費高め。だけど
精神修養もできる部活はそんなには無いから入部してみる価値はあるよ。
自分に合わないと思ったら3月で辞めれば余計なお金かからないしね。
ところでちょっと手を見せてくれないかな?」
私を見て先輩が言う。何だろ?敵意とか危ない感じもないので黙って掌を差し出した。
「ん・・ひっくり返して甲も見せて」
触るつもりは無いらしいので黙ったまま見せる。
「ん・・何だろうね。剣道柔道でもないし、空手、弓道でもない。歩き方みてると
何か武道やってると思ったんだけど。まぁ、もしうちに入部したら教えてちょ。
ほんじゃお疲れ様でした~」
先輩はそのまますたすたと階段を降りていった。
歩き方だけで何か武道やってるかどうか分かると師範が言ってたけど
やっぱ分かるのかな。。ん?でも先輩ってまだ17?18?だよね?
そんなこと考えてたら瑞恵が目をきらきらさせて聞いてきた。
「ねーねー!何か武道やってたの?」
「昔ちょっと護身術を習ってて」
あまり詳しく話すと面倒だから言葉を濁す。
「へー、部活ってわけには行かないよね」
「うん」
かすみはなにやら呟いてるし・・・
「うーん着流しの先輩!萌えたかも。でも3年生じゃ引退してるしな・・」
「「かすみちゃ~ん・・・ひょっとして一目惚れ?」」
「いやいやいやいや、萌えと惚れは別物なんですよ。これが」
「「ふーん」」
中庭に出ると茶道部が野点やってる。女子ばっかりだと思ってたら
男子の見学者もちらほらと。かすみが驚いた顔で指差しながら
「ねぇ、あの主人の席でお手前やってる人さっきの弓道部の前主将だよね?」
「え・・・???」
確かに彼だわ・・着流しだったのはこっちでも勧誘するため?
あの人って何者?クラスの集合時間が迫っていたのでその場を
離れて教室へ戻った。
この学校の生徒もやっぱり変