弓道部部長で俺の無二の親友でライバル 三鬼由華登場!!
六話です
宜しくお願いします。
北高、弓道部。
静寂した空気の中、弓を引くと嬉嬉…と聞こえてくる弦の音、そして放つ矢がパーンと的に中り、静けさが喝采に変わる音。
いま俺は高校の土曜日の朝練に来ている。
いちおうレギュラーメンバーで、団体では主に三番の場所を死守している。
そんな中る音が鳴り響く中、俺も射位(※弓道者が弓を持って引く所)に立って弓を引く……のだが、三鬼がやたら俺のことじーっと見る。どうもあやつが俺のことを好きになったようなのだ。
三鬼由華。弓道部部長にして、俺の部の友人であり、的中数を競い合う最大の敵である。
しかも彼女はかなりのしっかり者で、肝も座っており、テキパキと部の指示をしては皆を先導するリーダー肌。部長になるために生まれてきたようなやつだ。
そんな彼女がどうも俺を妬いてると思う言動があれやこれやと最近増えてくる。
いつもははっきり気持ちを言う彼女が、例えば昨日はむこうから話しかてきけた割に内容は薄く、ツンツンして最後はぷいっとしたり、一昨日も今宮と話してたら、三鬼に声をかけられて行ってみると、「別に。たんに呼んだだけ」と言ってすたすたと去る。
この前だってそうだ。女の子と話していたら、ぐいっと袖を引っ張ってその子から引き離していた。
これは何かある。俺が女子と仲良く話すのが嫌なのだろう。
前はそんなことなかったのに? どうしたのか? 何がきっかけで俺のこと………ふふふ。いや、恋したのなら仕方がない。あいつも可憐な乙女だ。恋の一つ、二つはするであろう。いや~参ったねー。こりゃあ!!
しかしすまない三鬼よ。お前は無二の親友ではあっても、恋人になるのはちと違うような気がする。うん、そうだぞ、そうだそうだ。
「ぐふふ」
「なに変な笑い方してるんですか、先輩」
「今宮か」
「はい」
「いや~、それが少し困ったことがあってだな~」
困り事とは無縁の陽気な声が出てるからか、今宮は冷ややかな目でこちらを見る。
「それで、今宮はどうかしたか?」
「少し気になることがありまして。部長のことなんですが」
「お前もそう思うか」
「ええ。部長にまとわる“気”がやたら燃えさかる炎のように見えるんですよ」
これで確定したな。あいつは俺のことが好きなのだ。
「そ、そうか。そうか! それは困ったねーー」
「それ……本当に困ってます?」
今宮が下から覗くようにこちらを見る。眉を下げ、種を食うリスの如く少し頬を赤らめぷくっと膨らます。
「えーと、今みy……」
「やたら愉しそうだね、二人とも」
「わっ!?」
「ぶ、部長!」
俺らの間にぬっと三鬼が入ってきた。ニコニコと表情は笑っているが、明らかに目は赤く燃えて全然笑っていない。
「今村、最近今宮と仲良く話しているみたいだな」
「お、おう。今宮には色々と助けられてるからな」
「へえ、どんなことで?」
「えーと、今後の恋愛について、とか?」
笑里と別れたのは三鬼にはもう既に伝えてある。
「ふ~ん。でもそれは私でも相談出来ることじゃん」
「先に今宮に相談しちゃったからさ」
「なんで私が先じゃなかったのよ?」
「細かい事情を今宮が知ってたから」
「なんで?」
おい、三鬼しつけーー!
「せ、先輩が哀しそうだったのを町でたまたま私が見かけたものですから」
「……。ふーん、そうなんだ」
いまだに笑顔だが目は笑っていない……。
「それじゃあ、私はちょっと今宮に用があるから、お前は巻き藁にでも行って弓でも引いてろ」
三鬼はそう言って俺と今宮を引き離すのだった。
女子の嫉妬にはほとほと困るぜ。
そして部活後いつものように今宮の社に行く。お祓い終了後、今宮に部活でのことを訊く。
「三鬼にどんなこと訊かれた?」
「いえ、普通の雑談をしただけです」
はえ、それだけ?
「他には?」
「いえ、何も」
そうなんだ。ふ~ん?
俺たちは社を出て、外の赤い日射しを見ながら参道に行くと、誰かが仁王立ちで立っている。太陽の加減で見えにくい。
「え? 部長!?」
先に気づいたのは今宮だった。俺も後から気づく。
「三鬼!?」
「なんでこんなに親しい関係になってると思ったら、二人でこそこそと密会してたのね!」
「あ、いやそれは……」
そして三鬼は怒りの顔で一目散に俺の方に近づき、俺の腕をグイッと引っ張る。
「今すぐ今宮から離れなさい!!」
三鬼はけんか腰だ。もうこれは後には引けない。三鬼が今宮に何かを言う前に俺がちゃんと気持ちを伝えないと!!
「待て三鬼!」
「なに?」
「お前の気持ちは確かに嬉しい。しかしすまない三鬼。お前の気持ちには答えられない。俺はお前とは付き合えない」
「は? 何言ってんのあんた?」
「え?」
「なんで私があんたみたいなのと付き合わないといけないの?」
え?
「あんたとは仲の良い無二の友人で、部の最大の敵あってもそれ以上でもそれ以下ではない!」
え?
「ほらさっさと今宮から離れて」
じゃあ、何の妬きもちなんだ??
「私は今宮が好きなの」
えーーーーー!? そっちーーー!??
「私の可愛い大事な後輩をこんな馬鹿男に渡せるはずないじゃない!!」
あー、え~~??
そっから後は三鬼の今宮に対する愛情についてをくどくどと聞かされる羽目になるのであった。
なんだ。すべては俺の誤解だったのか。すんげえ恥ずかしい。
俺は頭を垂らしながら三鬼と最後の鳥居を潜る。今宮とはもう最初の鳥居で別れた。
「今村ー」
「?」
「彼女を哀しませたら承知しないから」
「?」
今宮を? 俺が? なんで?
俺が不思議そうな顔でいると、ため息交じりに「馬鹿ね」と呆れ笑いをしながら、三鬼は自身の家路へとひとり漕いでいくのだった。
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