今宮の一面
五話です
遅くなりましたが、宜しくお願いします
「本日はこれにて終了です」
「ありがとうございます」
こうしてお祓いを終え、俺は今宮の神社─|邑宮八幡神社─を後にした。
お祓いを終えるといつも体に乗っている重しが、少し取れたようなすっきりした気分になる。と、同時にひとつのモヤモヤが残る。
このままで良いのかな? 否、良くない。
「恩義を返したい、ですか?」
「そうだ。こちらにしてもらってばかりでは申し訳がない。だからこちらからも今宮に何かをしたいのだが何かあるか?」
「……」
そして今宮はしばらく考えるが何も出てこない。返事に窮しているらしい。
「いや、なになら無理に出さなくても良……」
「いえ、そんなことはありません!!」
目をカッと見開いては獲物を狩るサメのように食らいつく。
「ありすぎて、絞るのが大変で……」
「え?」
「あっ、ではこうしましょう! 今週の日曜日私と共にお出かけしませんか?」
「え? それぐらいは別に良いけど……」
「では、当日朝11時に中嶋駅前で集合しましょう!」
中嶋駅とは市の中心部に位置する主要駅の一つである。
「え、う、うん。了か………」
「じゃ、じゃあ朝11時に中嶋駅に! ではまたです!」
そうして俺は今宮にさっさとお社から出されたのだった。
それから2日後─デート当日─
俺はこの前の経験から少し早めの10:50に集合場所に到着した。まだ今宮は来てなかった。それから2分足らずの内に今宮が来る。
「すみません。お待たせしましたー」
そして初めて見る彼女の私服姿に俺はついドキッとする。ロングの黒髪に彼女にしては珍しい黒縁の眼鏡をつけ、ひらひらの白の上着に赤のミニスカートを履いていた。
「お、おう……今宮か」
「けっこう待ちましたか?」
「いや、いま来たとこだ」
「はあそうですか。それは良かったです」
そしてちらちらと見ていた俺の目線に気づいたか、彼女はじっとこちらを見る。俺はとぼけた声で訊く。
「どうかした?」
「いえ……。その………」
いつもならはっきり物事を言う彼女がこんなにごにょごにょと口ごもっている。いつもとのギャップに可愛い……。
俺も男だ。外れるのも覚悟の上。
「その………似合って……るよ」
「!」
「これが俺の言う言葉で合ってるかどうかは分からんが……」
「大丈夫です。問題ありません」
そう言っていつもの口調に戻ったと思ったら、俺の先頭に立って今宮はすたすたと今日行くスポットを案内してくれるのだった。
「まずはここです!」
そこはすごくおしゃれでsns映えする洋食屋さんだった。俺は少したじろぐ。
「こんなお洒落な場所、俺が入って良い場所か??」
「大丈夫です。既にリサーチは終えています」
そして俺たちはメンチカツランチを頼む。味はとても繊細で美味しいが、周りは女子が多く、キャッキャウフフとカメラ音が鳴ってあまりの緊張で細かな味が分からなかった。
「次はここです!!」
そこは県立美術館だった。今月は東山魁夷展であった。いや、確かにチョイスは高尚で良いのだが、近代絵画を見たところで正直良く分からない。言える言葉といえばせいぜい、
「山と海とのコントラスト(対比)がすごい」
そしてクラシックな木目調の柱があるモダンで老舗の喫茶店でしばらくのんびりとした後、町をぶらぶらと散歩する。
とても充実して有意義なお出かけだった。市内もなかなか味がある場所だ。
しかし……、
(なんか中身が見えてこない。中身が空っぽの豪華な宝石箱だ)
俺はそう思った。
「え?! 今日、臨時休業!?」
どうやら今宮が行きたかった最後のお店は本日お休みになったらしい。店の前の立て看板にそう書いていた。
「どうしよう、どうしよう」
今宮は周りをキョロキョロ見て、慌てふためく。ネットか何かで調べて開いてると思っていたのだろう。他の案がないところを見ると、自信はあったのだろうな。
しかしちょうど良かった。フレンチフレンチしたところは今の俺には胃が重い。俺は今宮に提案してみた。
「この近くにお前がよく行く落ち着ける店はないか?」
「え? しかし……」
「そこが良い」
「……」
そして今宮に案内してくれたのは駅寄りにある定食のある昔ながらの中華料理店屋さんだった。
「あら、結衣ちゃんいらっしゃい~」
「おー、結衣ちゃん!」
店の中にいるおじさん、おばさん達が仲よさそうに今宮へ声をかける。そして俺が中に入ると、あらっと嬉々とした声が聞こえる。
「今日はお父さんじゃないのね。あら、しかも二人で来たの? 良いわね~~。じゃあおばちゃん、今日はたくさん奮発するから!」
厨房にいる人良さそうなおばさんがそう言った。
「結衣ちゃん、そりゃあねーぜっ! おじさんと結婚してくれるって言ってくれたじゃね~か~」
「あんた! 余計なこと言う暇あったら、手を動かしな!」
「はいよっ!」
そう言ってここのご主人は大きい中華鍋でザーッとチャーハンを豪快に炒めていた。
俺がニコニコしてお店の中を観ていたら、今宮の顔が真っ赤っかにして恥ずかしそうに俯いている。
「すみません。年配さんだらけの賑やかしいところで」
「何を言う。人情味のある良い店じゃないか」
「ありがとうございます……」
「こんちわ~」
がらっとまた知らないおじさん達が入ってくる。
「あら、いらっしゃい。結衣ちゃんも来てるよ! しかも男連れ」
「えー、結衣ちゃん~~。あんまりだぜー! 俺と結婚してくれるって(以下略」
なにやら今宮は常連たちとも仲が良さそうである。と、しかし今は今宮の顔が赤々としており、今にも沸騰しそうである。
そして注文していたラーメン、チャーハンセット(めっちゃ大盛り!)をお店のおばさんが持ってきてくれた。ご飯の粒が卵で光っていてとっても美味しそうだ。
「召し上がれー」
「ありがとうございます!」
「おかわりもサービスしとくから」
「ありがとうございます! あの、ところでどうして今宮はこんなに皆さんと仲良しなんですか?」
「それはね、ここに来てよく私達の運勢を手相、顔相、星占いを使ってよく視てくれるのよ! 最初はただのお客さんだったけどね、うちの亭主が占い好きでね、それで今宮宮司と仲良くなったのよ~。で、神社の娘さんだけあって結衣ちゃんの占い、よく当たるの!」
話を聞いて俺はなるほどと深く頷いた。そりゃあ今宮の占いが当たるのは至極当然だし、それで常連さんとも仲良くなるのは今宮の良さだ。
俺はここにて初めて今宮本来の一面が見えたような気がした。
あっ、とふとさっき思った自分の言葉がよぎる。
──中身が空っぽの豪華な宝石箱だ。
そうか、だから俺は……、
「……先輩??」
「ん? いや、今宮がよく行くところをもっと教えてくれ」
「……」
今宮が硬直する。
「ん? 俺~……変なこと言ったか?」
「い、いいえ……」
彼女が目線をそらしながら少し優しく微笑んだ気がしたが、気のせいか?
「あ、後恩義の件だが……」
「それに関しては問題ありません。ご恩のお返しは今頂いたところです」
「え?」
俺の困惑をよそに、「うふふ」と笑う今宮だった。
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