笑里、少し災いに見舞う
四話です
宜しくお願いします
「え、笑里!? ……が、どうしてここに!?」
笑里が意味深に笑いながら言う。
「なんかおかしいと思ったから、後を付けさせてもらったのよ。それで、こんなところで何しているの?」
「そ、それは……」
「あなたには関係ないことです」
「ふ~ん……」
今宮が牽制する。二人は黙ってじっと互いを見ている。不穏な空気だ。二人の視線からバチバチと聞こえてきそうだ。
「ここにいても仕方ないわ。帰ろっ」
そう言って笑里が鳥居の方に俺の手をぐいと引っ張る。
「おい、離せって!」
俺は手を強引に払いのける。笑里は俺からの抵抗にいたく驚いた。空気がぴりつく。
「!」
「もう別れたんだから、お前には関係ないだろ?」
「私は承諾してない!」
笑里が叫ぶ。珍しい。いつもよく笑っている彼女がここまで真剣に怒ることはあんまりない。いや、そもそもこいつが悪いんだけど……。
「は、何を言って………」
「もう二度としないから!」
その場がしんとなる。聞こえるのは神社の林の中にいるひぐらしの鳴く音ぐらいだ。いや、そんな風流なのを聞く余裕さえ俺にはなかった。
ほ、本当かよ? いや、ダメだ! その言葉を信用しちゃあ!
「また女難の相が戻ってきてますよ」
「え?」
今宮が警告する口調で俺の後ろから話す。
え? まじ? それはヤバい…。
俺は笑里から距離を取る。
「ちょっと、なんで離れるのよ!?」
笑里が不満そうにぐぐっと俺に詰め寄ってくる。そしたらその間に今宮がすっと即座に手を差し込む。
「……なに?」
「本人が嫌がってるじゃないですか。離れて下さい」
「……巫女の格好してるけど、あなたただの巫女じゃないわね」
「はい。私は弓道部の後輩です」
「へえ、弓道部のねー……」
「……」
笑里は彼女を見、そして俺をちらっと見てふっと笑う。
「じゃあまだ半年も経ってない関係ね」
「はい」
「じゃあ、コージは何の食べ物が好きで、何に興味を持って、いつも何のユーチューブを見て、学校の運動の何の競技が苦手だったのか知ってるの?」
「………」
「そんなに口をつぐんじゃって。可愛いわね」
「……確かにそこまでのことは私には分かりません。でも困ってる人が近くにいたら、自分の損でも気にせずに迷わず助けにいく姿を私はよく知っています」
「今宮……」
「……」
笑里は苦々しげな表情に変わる。
「じゃあ何? あなたならコージを笑顔にさせられるの?」
「はい。私なら出来ます」
「ふーん…」
笑里は不敵に笑う。
「なんであんたはそこまでコージに肩入れするの? ねえ、どうして??」
「それは……」
今宮が初めて口ごもる。俺からは彼女の表情が見えないが、肩が少し揺れている。
「おい笑里、止めろよ! 今宮が困ってるだろ?」
「……!」
笑里は顔を中央に寄せてブスッとする。
「とにかく笑里は帰れ。俺は今からお祓いをしてもらうんだよ」
「え……どういう意味?」
「先輩は今かなりの女難の相が憑いているのです」
と今宮がそう言うと笑里は、
「ぷっ、あーははははっ」
と大声で笑う。
「なによそれ馬鹿らしいわw そんなの迷信よ!ww 今どきそんなのあるわけないじゃないww」
そうあまりにも小馬鹿にするように高らかに笑うもんだから、今宮が隣でむむっと頬を膨らませていた。
そしたら彼女はふいっと軽く大幣を振るう。
「けどちょっと気になるからしばらく見学させてもらうわ。うふふ、楽しみだわw」
そう言って笑里は鳥居の方に向かったのだった。そしたらきゃっ、と下の方から声が聞こえてきた。10段ぐらい階段があるから落ちたのかと思って慌てて見に行くと、階段から少し歩いた参道のところでコテンとこけていた。
頭からこけたのか、お尻を上にして純白の少しだけ布面積の少ないパンツが全開に見えていた。
笑里はハッと気づいて恥ずかしそうにスカートを直して、そそくさと走り去ったのだった。
「……」
「行きましたね」
「お前……なにかしたか?」
「いいえ、別に?」
今宮はこっちを向いてふふっと笑う。
「それでは始めますので行きますか、先輩」
「お、おう…」
彼女はそう言って鼻唄交じりに俺をお社の中へ連れて行くのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価頂けてとても励みになってます!