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第1話

 インフルエンサー専門学校、カリスマ専門学校、イケメン関西弁ゲーム実況者専門学校・・・


 世は大専門学校時代、その波がとうとう高校まで押し寄せていた。


 僕の通う高校ではなんと、冒険者を養成している学校なのだ。


 平日の内週3日は校舎で授業を受け、週2日は実習を行っている。


 中には僕のように実習日に喫茶店で英字新聞を読むような場合もある。


 女子大生のウェイトレスが黒い液体が入ったマグカップをテーブルに置く。


 ウェイトレスに一瞥(いちべつ)もくれずにマグカップを口元に近づけ、匂いを嗅ぐ。


 ココアを頼んだはずだが、ブラックコーヒーのようだ。


 しかし、表情を変えずにひと口飲む。


 ハードボイルドだろ?


 僕のような生徒はさておき、ほとんどの生徒は実習日に異世界に行き、魔術や武術そして環境や文化を学び、冒険をする。


 卒業生は進路に大学などを挟むことはあるが、最終的に冒険者として生計を建てる者が多いと言う。


 立派な冒険者になるために命懸けで切磋琢磨している生徒もいるが・・・


 稀に死亡事故が発生するこの高校では、冒険をしないことも大切なのだ。


 苦い。


 平日の朝に喫茶店でコーヒーを飲む、平和だ。


 そんな平穏な朝が突如として引き裂かれる。


「助けてくださいッ」


 近くで事件でも起きたのだろうか。


 やけに大きな声が聞こえる。


 でも僕はやっかいごとには関わらないことが良いことを知っている。学んだのだ。


 それに僕に人助け向けの力はない・・・いや、心配蘇生くらいなら手伝えるかもしれない。


「あのッ」


 声が近い。


 眼前に広げた新聞紙を下げると少女の顔があった。


 制服を着ている、どうやら同じ高校の一年生のようだ。


 さっきの声はshoutではなく、僕に対するwhisperだったのか。


「助けてくれませんか?」


 話を聞くしかなさそうだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 僕と少女は高校に向かって走った。


 喫茶店で話しかけられ、椅子に座るように促したものの、どうやらあそこ(校外)では話せない用件らしい。


「足速いんだな」


 下駄箱で分かれてから廊下を2人で歩く。


「私、前衛をやっているので」


「武器は?」


「これです」


 彼女は背中に背負った細長い布袋から刀を取り出した。


 剣士か。


「で、話はなんだ?」


「パーティメンバーがダンジョンで帰れなくなっているらしくて・・・」


「なるほど・・・」


 パーティ、冒険者は地球あるいは現地でチームを組んで冒険をする。


 目的やフィールドによって最適な人数があるため、1人抜ける・変更があっただけでも影響は大きい。


 この子は今日は別行動を取ったものの、救難連絡でも受けたのだろう。


 そして、2次被害を防ぐために一年生は単独では救援に向かえないことになっている。


 さらに二年生以上は、救援要請を断れないのであった・・・


 身支度を終えて、渋々ゲートの前に立つ。


 こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ扉だ。


 潜ると冒険者ギルドに転移する。


 木製の大きな建物で、酒場も併設されている。


 高校生の利用も多いため、スポーツドリンクもある。


 高校の自販機よろしく炭酸系は少ない。


 僕ら受付嬢に救援に赴く旨を伝えて、ダンジョンの中にワープさせてもらう。


「他の上級生はいなかったのか?」


 青の祭壇、通称はじまりのダンジョンは踏破が一年生の課題になるだけあって、基本的にあまり強い敵は現れない。


 その余裕もあり、少し話をすることにした。


「今日はレイドがあるようですので・・・」


 そうか、レイドか。


 レイドかあ。


 忘れてた。


「そうは言っても同じクランの人くらい・・・」


「亜美ちゃんが、同じパーティの魔術師の子が自分たちでクランを作ろうって・・・」


 そんな、一年生だけで、初心者だけでクランを作ろうだなんて、今日日オンラインゲームのニュービーでもしないぞ。


 一年生にだって、命の危険があることくらい説明があるはずだ。


「現地の人には頼まなかったのか?」


 冒険者は地球人しかいないわけではない。


 むしろ異世界人の方が数は多い。


「NPCの方ですか?」


 キョトンとした顔をされる。


「しかもなんで僕に・・・」


「お姉ちゃんに聞いたんです」


 ???


「まあいい」


 2人で岩壁に囲まれた通路を進む。


 耳に届くのは互いの足音のみ。


「あまり魔物がいませんね」


 後輩の疑問に軽く授業をすることにする。


「ダンジョンの魔物の用兵はダンジョンマスターがやる」


 僕だって"先輩"らしいことくらいするさ。


「はい」


「ゴブリンやスライムの一匹も出ないということはダンジョンマスターの異変を意味する」


「・・・・・・」


「マスター死亡時にはダンジョンの瘴気が薄くなるから、マスターは生きている」


「つまり?」


「誰かがダンジョンマスターと戦っている可能性がある。君、最近珍しい魔物とか見た?」


 後輩は僕の言葉にダンジョンの奥へ駆け出した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「悪魔?」


 最初に見つけたのは陰陽師の華だった。


「えぇ、山羊の頭をした人型の魔物で、式を飛ばしたら逃げ出したけど」


「私も見ました、物陰に隠れていたのでびっくりしてコレで叩いたらどこかへ行ってしまいましたわ」


 聖杖を指差す巫女の櫻子。


「なるほど、レアモンスターで弱そう。これなら全員揃う前に一度ダンジョンに行っても良さそうね」


 その判断が間違っていた。


「いたわ!」


 山羊頭の魔物はすぐに見つかった。


 鳥の姿になった華の式神が山羊頭の四肢に突き刺さり、私の火炎魔法が顔に命中する。


 悪魔は這々の体で逃げ出した。


 人型であるのに這って逃げ出す、見掛け倒しの敵に私たちは慢心していた。


 青の祭壇の最奥、つまりなんらかの神を祀った祭壇へ悪魔を追い詰める。


 待って、最奥には強敵が待ち構えているはず。


 山羊頭が二本足で立ち上がり片手を上げる。


「ふん、観念したのかしら?」


「サンビキカワルクナイスウジダ」


「こいつ、喋れるの!?」


 そして悪魔の身振りによって背後から魔物の群れが現れる。


 そこから先は激闘が続いた。


 普段のメンバーならば、いや、前衛がいなくてももう少しやりようがあったはずだ。


 しかし、油断から私と華が負傷し、櫻子の力を既に使ってしまった。


 祈祷師の力を温存できなかったことは痛い。


「華ッ救援は呼んだ?」


「さっきした!」


 そこから数時間は永遠のように長く感じた。


「亜美ッ、華ッ、櫻子ッ」


 名前を呼ばれて振り向くと、ゴブリンが二匹両断され、間に日本刀を持った少女が立っていた。


「菜摘、来てくれたのね」


「ゾウエンカ」


 華の式神によって足を止められていた悪魔が、山羊の鳴き声を上げる。


 石床を震わせる不吉な声。


 私たちを取り囲むように魔法陣が四つ浮かび上がり、中から魔物が生えてくる。


 牛の頭を持ち、腕が四本生えた人型の魔物。


 身の丈は3mほどだろうか。


「黒狼」


 華が呪符を放ると、呪符の墨が熊のような大きさの狼になる。


 漆黒の狼の式神が牛頭の魔物に飛びかかる。


 4人のうち1人の牛頭が先端に斧が付いた棒を振るう。


「あっ」


 2つに引き裂かれた黒狼が、灰になって消える。


 このまま自分たちは殺されてしまうのか。


 そう覚悟したときにダンジョン内に足音が響き渡る。


「流石に早すぎない?」


 ダンジョンの最奥に現れたのは、制服を着た男子高校生。


「よかった。霊体のやつはいないみたいだね」


 男子が指を鳴らすと祭壇が眩い光に包まれる。


 光が収まると、牛頭の魔物と悪魔が胸を抑えている。


「ヴゥ・・・」


 数分苦しんでから、5体の魔物は絶命した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ありがとうございました」


 刀を持った後輩に頭を下げられる。


「まあ、みんな怪我がないようでよかった」


 思ったより楽だったし。


「ありえない・・・」


 リーダー格の少女が呟く。


「ここはゲームの世界なんでしょう?さっきの悪魔、まるで知恵があるようだった・・・」


 一年生には、異世界を死の危険のある仮想空間と説明されている。


 だから後輩の中には異世界人をNPCだとか言っているやつがいる。


 ただ、ここは仮想空間なんかじゃないんだ。


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