表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

消失

 いつから配信を窮屈に感じるようになったか。

 それはきっとリスナー達を意識しはじめてからだ。

 まだ暑さが猛威を振るう昼時とは違い夜になると一気に肌寒くなる。

 夏終わりの秋の気候。


 特にマンションの屋上は風が強く一層寒く感じる。

 だけど、今の私にはちょうど良い寒さでもある。この肌が痛く感じるくらいの寒さを今の私は無意識に欲している。


 私が借りているこのマンションの屋上から見えるスカイツリー。

 絶景も絶景。SNSに投稿すればそれなりに『いいね!』が貰えるレベルで、それを独り占めしている私は贅沢だろうか?


 答えはきっとイエスだ。だけど、ならなぜ誰もこの屋上に居ないのか。

 答えは簡単で単純に飽きてしまったからだろう。

 

 きっと、見たことない人はこの絶景に絶句し、そしてここに住むとなればもう中々来る事はない。


 オーロラだってしょっちゅう見ている人からしてみれば虹と変わりはない。

 配信者も同じだ。

 最初は楽しく思えても、同じような配信を続ければ人は自ずと離れていってしまう。だからYouTuberは常に企画をたてなければいけない。


 そして、終には迷宮に入ってしまい、面白さだけを求めてしまうばかりにモラルを見失う事が多々起き、謝罪動画や引退する者が相次ぐ。


 私も経験のある一人だった。数を増やすことに必死になってしまい自分が楽しむことを忘れて謝罪をする流れは気を付けていてもなりうる事態。

 人気が出れば必至とも言える。

 YouTuberやVTuberが、『自分が楽しむ事を前提にすることを忘れてしまう』これこそ迷宮入りの第一歩なのである。


 それ以降私は、会社の先輩などからアドバイスを貰ったり、一緒に考えてもらったりなど一人で抱え込む事を出来るだけ控えた。

 しかし、今回はそのアドバイスによって起こってしまった炎上騒動だ。


 今までFPSに手を出したことがなかった私は先輩から誘われた事をきっかけに配信で生放送することに決めた。

 そのゲーム配信で慣れていないばかりに倒れている敵に銃を撃ち込むミスをする。これをゲーム界隈では『死体撃ち』という立派な煽り行為として認識されていた。


 先輩からやってはいけない行為の一つとして教えられていた私はその場ですぐに謝罪をするも、3時間の配信で6回の死体撃ちを行ってしまう。

 内心ビクビクしていた私だったがコメント欄は


 『初心者あるある』

 『俺もやったことある』

 『最初はしゃがんでるのか倒れているのか見分けつかない。』


 など、初心者である事をしった上でのコメントが多く流れていることに安堵してミスを含めて楽しんでしまった。

 それが甘かった。

 数年も続けておいて忘れていた。

 アンチと言う存在は些細な事すら大事にする存在であることを。


 『大人気VTuberが死体撃ち!?信者達の擁護に度重なる死体撃ちに謝罪なし。』 


 次の日にはTwitterなどのSNSで私の行為が問題と持ちきりになっていた。

 謝罪はあれど反省の色が見られない事が問題であると。書かれていた。確かに、コメント欄にもあった様に初心者だから大丈夫だと思ってはいたけれど反省していない訳じゃない。


 なんて言ったところで意味なんてないし、むしろ火に油を注ぐだけ。

 会社には1ヶ月に何時間とちゃんとしたノルマがある。

 スケジュール的に厳しい時もあるけれど皆も配信は好きだし大抵は余裕な場合が多い。

 だけど今のようなモチベーションの時に配信をしなければいけないのは辛い。


 こう言う時が何よりこれも仕事なのだと現実を叩きつけられる。

 ポケットの中で鳴る携帯電話。

 恐らくマネージャーからだと思うけど、もう何度も無視をしてしまっている。出ると怒られると分かっているからなおのこと出たくない。


 そっとしといてほしくても炎上を起こしたからには謝罪と経緯を語らなければならない。

 配信を付けたコメント欄は容易に想像が出来る。

 擁護派とアンチ派による戦争。

 アンチによる攻めコメントは腹が立つし、逆に擁護してくれるのはありがたい。


 だけど、正直な話、どちらも鬱陶しくてしょうがない。

 あのコメント欄を見なくてはいけないのかと思うとこの贅沢な夜景を見て夜を過ごしたくなる。


 その明かりの中に私の配信を待っている人が多くいるだろうけど、明かりだけならとても綺麗だ。


 『もうしんどいなぁ。』


 些細な事から始まった炎上騒動。

 こんな事で起こるならこれからも揚げ足を取られて燃やされるだろう。

 これは私がやりたかった配信なのだろうか。


 そう思った瞬間、私は配信者を辞める事を決意した。

心の何処かで配信開始ボタンを押すことを恐れている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ