表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄まんが道 ートキワ荘の青春ー  作者: ロッドユール
32/32

浪費

「いや~、頼んでみるもんだなぁ」

 守也氏が興奮気味に僕たちを見る。

「そうですね」

 美咲さんの部屋を出ると、僕たちはほくほく顔でお互いを見やった。まさか、一人一万円も貸してもらえるとは思っていなかった。

「とりあえず松葉に行ってラーメン食べようか」

 守也氏が言う。

「いいですね」

 それに僕と赤木氏が元気に答える。またすぐに漫画を描き始めないところが、僕はやっぱりダメ人間だった。

「でも、大切に使わないと」

 赤木氏が言った。

「とりあえずだよ。ラーメン食べてから節約すればいいんだよ」

 守也氏。

「そうですね」

「行きましょう」

 僕。松葉のラーメンの誘惑には勝てなかった。

「うん」

 僕たちは松葉に向かった。

「ラーメン三つね」

 松葉についてテーブルにつくと、さっそく守也氏がしのぶちゃんに言った。

「はい」

 しのぶちゃんはいつものように愛想よく答える。

「後、餃子も」

「はい」

「でも、やっぱり節約しないと」

 僕が、やっぱりなんか不安になって来て言った。やっぱり、僕は気が小さくマジメな人間だった。

「大丈夫だよ」

 しかし、守也氏は楽天的だった。一万円を手にして気も大きくなっているのだろう。まったく動じない。

「それに、ある時にちゃんと栄養つけとかないとな。いつまた食べれるか分からないんだから」

「そうですね」

 守也氏にそう楽天的に言われると、僕もそう思えてくる。それに、ただでさえ、お腹が空いている僕たちは、目の前の食欲には勝てなかった。

「うまい、うまいな松葉のラーメンは」

 守也氏が、ラーメンをすすりながら言う。

「うまいですね」

 僕と赤木氏も連動するように言う。松葉のラーメンは感動的にうまかった。すきっ腹にラーメンは、かなり強烈だった。

「でも、僕たちなんか、たかりですよね」

 僕がぼそりと呟く。

「石森氏、それは言っちゃだめだ」

 守也氏が言う。

「すみません」

「漫画が売れてから返せばいいんだ。今は耐え忍ぶ時なんだ。美咲さんも言っていただろ?」

「そうですね」

「そうだよ」

「今はラーメンを楽しみましょうよ」 

 赤木氏が言った。

「そうだ。うん、このラーメンを楽しもう」

 守也氏が勢いよく言った。

「はい」

 僕たちはラーメンを心行くまで堪能した。

「君たちは、いつも本当においしそうにラーメン食べてくれるから作りがいがあるよ」

 松葉の店主のおじさんが僕たちのテーブルにやって来て言った。昼時を完全に過ぎ、店は暇になっていた。

「はははっ、そうですか」

 僕たちは笑うしかない。お腹が空いていればそりゃなんでもうまい。そこに来ての松葉のラーメンだった。

「よかったら、これ食べてよ」

 それはザーサイとチャーシューとゆで卵だった。

「いいんですか」

「ああ、昼のあまりもんだけど」

「やったぁ」

 僕たちは喜んで食べた。

「じゃあ、ついでにビールちょうだい」

 守也氏がしのぶちゃんに言った。

「あ、いいですね」

 僕と赤木氏も、それに乗る。すぐに調子に乗ってしまう僕たちだった。

「なんか得しちゃったな」

 その帰り道。守也氏がつまようじ片手に僕たちを見る。

「意外なところで貧乏が福を呼びましたね」

 僕。

「でも、昼間っからビールまで頼んじゃって、結局出費は増えましたよね」

 赤木氏。

「大丈夫大丈夫、売れたら返せばいいんだよ」

 守也氏がやはり楽天的に言った。

「そうですね」

 僕たちは売れる当てもないのに、半ば現実逃避的に、守也氏の言葉に納得した。

 僕はその日、部屋に帰ると、さっそく息を吹き返した栄養満点の体で漫画を描くかと思いきや、そのまま寝てしまった。満腹になり、眠気が襲いかかると。それにあっさりと僕は屈した。あれほど漫画を描く意欲に燃えていたのに、見事に堕落している自分は、やっぱりダメ人間だった。


「何やってんですか」

 次の日、守也氏の部屋を訊ねると、守也氏が机に向かって何やら真剣な顔で何かを作っている。

「うん、ちょっとね」

「あっ、プラモデル」

 守也氏はガンプラを作っていた。

「うん、こればっかりはね」

「ザクですか」

「うん、ザクⅡね。ガンプラの基本だね」

「好きなんですね」

「うん」

 僕も中学生まではよくガンプラを作っていた。しかし、姉貴と母親の連合軍に、いつまでそんなことやってるのと説得されやめてしまっていた。

「僕もやってみようかな」

 なんだか久々に、僕もむくむくとガンプラ愛が湧き上がって来た。

「買ってしまった・・」

 そして、僕は商店街の模型屋を出て、商店街を歩いていた。ガンプラの箱を抱えて・・。

「貴重な一万円で、ガンプラを買ってしまった・・」

 なるべく安いのをと思ったが、それでも結局千五百円もしてしまった。しかも、接着剤と、ニッパーとヤスリも買ってしまった。

「何をやってるんだ僕は・・」

 自責の念にかられながら、僕は目の前のガンプラを見つめる。漫画も描かず、お金もないのに、一体僕は何をやっているんだ。そう考えずにはいられなかった。しかし、久々のガンプラの箱のその存在感は、僕を興奮させた。

「これで最後だ」

 そう、これから節約すればいいんだ。そう自分を誤魔化すように自分に言い聞かせた。

 しかし、一度陥った浪費癖というものはなかなかとまるものではない。しかも、三人一緒だとなおさらだった。つい何かかやと使ってしまう。

 しかも、ダメと言われると人はそれをしたくなる。もともと、贅沢志向のない僕だったが、禁欲を義務づけられたとたんに贅沢をしたくなる。世間から見たら大した贅沢ではなかったが。

「この世は誘惑が多過ぎなんだよ」

 守也氏がぼやく。

「そう、そうですよ。誘惑が多過ぎなんですよ」

 赤木氏も同意する。赤木氏も僕たちに感化されてガンプラを買っていた。赤木氏は、オーソドックスに初代ガンダムだ。

「そんなものに人間が勝てるはずないよ」

 守也氏。

「そうですよ」

 僕も続く。

 そして、僕たちは自分たちの煩悩を、社会のせいにして、現実逃避をしながら、またちょこちょこと浪費をするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ