最終話
レオナルド皇子は有言実行の男だった。
お父さんとお母さんと一緒に暮らしたいと言った私の夢を叶えるために、本当に引っ越して来た。
そしてこの窓の丸い小さな家と帝国とを忙しそうに行き来している。
「トリー、ごめん」
「え? 何がですか?」
「トリーが成人したら婿入りをしたいと言ったんだけど、お義父さんをはじめ、ミドルトン家のみんなに断られた」
シャーロット帝国の次期皇帝が小国の貴族に婿入りするなんて、あり得ないのだ。
「婿に来てくれる人と結婚したいと言いましたが、それは私のわがままです。だからそれは忘れてください」
「俺はトリーの願いは全て叶えたいんだ」
「今こうして、ここで過ごしてくれているだけで嬉しいです。遠いのにいつも通ってくれて感謝しています」
恐らく私がこうやって親元で過ごせるのは成人までの三年間だろう。
お父さんもお母さんも大事だ。でもレオナルド皇子のことも同じぐらい大事に思っている。
だから、三年間を大事に過ごそうと思う。
私はそう思っていたのだけれど、レオナルド皇子は予想の斜め上をいく。
「いいこと思いついた」
「え?」
「国土が広くなりすぎて隅々まで目が届かなくなっていてね、東をミシェル、西を俺。西の拠点はここにしよう」
「はい?」
「三年後、楽しみにしてて」
「え?」
ニコニコと笑ってそう呟いたレオナルド皇子。
私はこの時何を言っているのか、よくわかっていなかった。
三年後に、あの時の呟きの意味を知る。
「しかも、理由が、同居するためなんて」
「何か言ったトリー?」
「いいえ、何でも」
「ほら、笑って手を振って」
本日シャーロット帝国を東西に分け、それぞれ皇女と皇子が統治すると国民に向けて大々的に発表。
私の住む小さな国はいつの間にかシャーロット帝国の一部になった。
このタイミングで、ミシェル皇女とポールお兄ちゃん、私とレオナルド皇子の結婚も発表し、国中お祭り騒ぎだ。
城の上から見渡す限り人でいっぱいで、みんな明るい顔でこちらに向けて手を振っている。
私が小さく手を振ると、歓声が大きくなった。
「トリー、愛してるよ」
甘い甘いとろけそうなその声で、そんなこと言うから頬が火照る。
レオナルド皇子は、直球でいつも愛を囁いてくれる。
私はいつもそれを受け止めてばかりだ。
だからたまには、私からも。
「レオ、私も愛してますよ」
金魚のように口をパクパクとさせたレオは、感極まって私を抱きあげた。
それから時は流れ。
国土が広く隅々まで目が行き届かなかったシャーロット帝国は、東西に分けたことにより、小さな問題にも目を向けることができるようになり、結果、国は栄えた。
オリバー兄さまは、東西を行き来して商売をして大成功。
小国の伯爵家だったミドルトン家は今は、帝国の公爵へと大出世、ブライアン兄さまは忙しそうに働いている。
ミシェル皇女とポールお兄ちゃんが治める東では、国境沿いでずっと続いていた争いを夫婦そろって出向き終結させたり、騎士の学校を建てたりと、良い噂を聞くたびに私は嬉しくなる。
そして、西では。
「ごちそうさま」
「トリーどうしたの?」
「お腹いっぱいなの」
「お腹いっぱいって全然食べてないよ。それに今日はトリーの好きなリンゴ鶏だよ? いつもならいっぱい食べるのにどうしたの?
「うっ」
レオは、思わず口を押さえた私を心配そうに眉を下げ見ている。
とりあえず笑って誤魔化そうとするのは私の悪い癖だ。
だから笑って誤魔化さずに、私は言った。
「赤ちゃんができたと思う」
驚きのあまり言葉がでないらしい夫。
「でもね、まだ安定期ではないから、お父さんやお母さんには言わない方がいいと思うんだけど……って、聞いてる? おーい」
ブンブンと顔の前で手を振ってみても反応がなかったのに、次の瞬間叫んで大喜び。
その声を聞きつけて部屋に来たお父さんにもお母さんにも結局その場で報告することとなり、みんな喜んでくれた。
これまでの人生、修羅場に遭遇して前世を思い出したり、帝国の皇子様に求婚されたり、誘拐されたりいろんなことがあったけれど、私は幸せだ。
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