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二十三

 翌朝、私はミシェル皇女と一緒に鍛練場へと歩いている。


 いつも朝食後に軽く体を動かすポールお兄ちゃんに、レオナルド皇子はもちろん、シャーロット帝国から来た護衛の人も一緒にということになったそうだ。


「ポール様が剣を振るう姿を見てみたいと思っていたので、とても嬉しいです。ポール様は強いですか?」

「はい、騎士団長をしているだけあって、剣の腕はなかなかだと聞いております」


 実は私は、ミシェル皇女とこうして二人で話すのは初めてだ。

 ミシェル皇女は、可愛いと言うよりは美人だ。

 スラッとして姿勢がよく、立ち姿が綺麗な女性である。


「トリーと呼んでもいいですか?」

「もちろんです。あ、鍛練場が見えました」


 鍛練場には思ったよりも人がいる。

 レオナルド皇子と、護衛の人、そして剣を片手に嬉しそうなポールお兄ちゃん、ブライアン兄さまも、オリバー兄さまもそこにはいた。


 私に気づいたオリバー兄さまが駆け寄ってくる。


「助かった」

「何がですか?」

「手合わせするって言ってるんだけど、僕はやりたくなかったから。トリーが来てくれてよかった」

「兄さま強いのにもったいないです」

「僕は強くないよ」

「いえ、オリバー兄さまには剣が当たらないと聞いてますよ」

「だって、当たったら汚れるでしょう?」


 オリバー兄さまは汚れたくないという理由で、剣を避けるのが誰よりもうまいそうだ。

 そういうところもオリバー兄さまらしくていいのだけれど。


 軽く剣を合わせているのはウォーミングアップらしいけれど、ポールお兄ちゃんはとても嬉しそうに笑っている。


「まあ、ポール様がとても嬉しそうですね」

「そうですね、強い相手と手合わせをしたりする時が一番幸せと言っていました」

「一番幸せ?」

「はい、戦ったことのない相手との手合わせは楽しいそうで、相手が強ければ強いほど嬉しいそうですよ」


 ポールお兄ちゃんはワクワクしてたまらないという様子で、少年のように笑っている。


 手合わせが始まって、しばらくした時だ。

 ミシェル皇女がポツリと言った。


「ポール様は、私の前ではあのように笑ってはくださりません」


 その言葉にハッとしてミシェル皇女を見たら、なぜか満面の笑みだ。


「私は今まで生きてきて、こんなに剣術をしていて良かったと思ったことはありません。オリバー様剣を貸してくれますか?」

「え? いや、刃は潰してますが、危ないですよ。重いですし」

「問題ありません」


 スッと剣を持った、ドレス姿のミシェル皇女は、鍛練場の中へと歩いていく。


「ミシェル皇女、こちらは危ないですよ」


 そう言ったブライアン兄さまを制したのはレオナルド皇子だった。


「おや、ミシェル、剣術はやめることにしたんじゃなかったのかな?」

「気が変わりました。ポール様、手合わせをお願いします」


 ポカンと口を開けたお兄ちゃんは、言われたことの意味を理解して、困惑していた。


「さあ、構えてくださいませ」

「一体何を」


 キンと刃と刃がぶつかる音がして、驚いたのはこの場にいるミドルトン家の皆だった。

 とくにポールお兄ちゃんは一番驚いていると思う。


「ポール様、構えがなっておりませんよ」


 そう言って笑うミシェル王女が、剣を繰り出す。


「ポール様には言っていませんでしたが、私、剣術が得意なんです」

「待ってください、剣を女性に向けるなんて」


 防戦一方のポールお兄ちゃんは、困惑したままのようだ。


「ポールさん、手を抜いてたらやられますよ」

「な、え」


 レオナルド皇子のその言葉に、反応したお兄ちゃんだけれど、自分から仕掛けることはなく、守りに入っていた。


「ポール様、本気でいかせていただきます」


 そこからは、凄かった。

 ミシェル皇女の剣さばきが凄すぎる。

 最初は余裕で防いでいたポールお兄ちゃんだったけど、だんだんと追い詰められているのがわかる。

 思わずと言った感じで、切り返したお兄ちゃんは、自分で自分に驚いた様子だったけれど、次の瞬間嬉しそうに笑った。


「本当にお強いようですね」

「はい、ですが剣術は辞めるつもりでした」

「辞める?」

「はい」

「なぜですか? こんなに才能があるのに」


 二人話しながら剣を打ち合っていたけれど、大きく剣を薙ぎ払い、一歩下がったミシェル皇女が不敵に笑う。


「男性は自分より強い女性は嫌いでしょうから」


 わかりやすい挑発だけれど、ポールお兄ちゃんはまんまと乗せられたようだ。

 そこからは、二人で笑いながら打ち合っていた。

 レベルが高すぎてどちらが強いかとかは私にはよくわからないけれど、二人は楽しそうだ。


「ポールおじさん楽しそうだね」

「そうですね、ものすごく生き生きとしてますね」

「あの二人合わないかもと思ってたけど、お似合いかもね」


 確かに、私も同じことを思った。

 ポールお兄ちゃんの心からの笑顔に、ミシェル皇女も嬉しそうだ。


「危ない」


 ドレスで手合わせは無理があったのか、倒れそうになったミシェル皇女を支えるポールお兄ちゃん。


「ポール様、お転婆な女性はお嫌いですか?」

「いいえ、剣術ができる女性は素敵だと思います。ですが、ドレスでは危ないですよ」


 ポールお兄ちゃんはスッとミシェル皇女を抱き上げた。


「ポール様降ろしてください。私は重いのです。その……筋肉質なので」

「筋肉があるのはいいことです。それにミシェル皇女はとても軽い」


 そんなことを話している二人の距離は縮まったように見える。

 そうして、少し汗をかいているミシェル皇女とともに私も鍛練場を後にする。


「ミシェル皇女、すごくかっこよかったです」

「……実は私、昔から女性にモテるのです」


 わかる。

 剣術をしているミシェル皇女は、女の子にモテそうなカッコいい女子だ。


「でも男性は、守ってあげたくなるような女性の方が好きでしょうし、ポール様に出会って剣術も辞めて、私なりに女性らしくしようと努力していましたが、やっぱり駄目ですね。剣を握った瞬間楽しくなってしまって」


 そんなことを話しながら二人そろって屋敷に近づいた時、屋敷の方が妙に騒がしいことに気づいた。


「あら、この声はまさか、お父様?」

「え?」


 ミシェル皇女のお父様は、シャーロット帝国の皇帝だ。

 小国の伯爵家の屋敷に帝国の皇帝が来るなんて普通ではあり得ない。

 けれど、娘と息子が来ているのだから訪問する理由はバッチリだ。

 

誤字脱字報告して下さった方ありがとうございました。

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