表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

公爵令嬢、田舎に引きこもる

初めの一歩。

これが重要なのだ。


「ティーネちゃん、今日のドレスはあなたの大好きなライムグリーンにレースをあしらったものよ」

「良い子でお茶会に出たら、帰りに好きな物を買ってあげよう」


頑なにベッドから出ようとしない私を、あの手この手で連れ出そうとする両親。

そう、今日はあの運命のお茶会なのだ。

死に戻って目覚めたのがこの日だったとは、なんとも余裕がないものだが、ここが肝心。

今日、この日を間違った選択のまま過ごせば、折角の死に戻りが無駄になる。


「イヤ!行かない。今日はすっごーく調子悪いの!」


毛布を被り両親から身を隠す。


「一体どうしたというのだ、ティーネ?あんなにお茶会を楽しみにしていたではないか?」

「王子さまにお会いしたいって言っていたじゃない」


この会話、もうかれこれ一時間以上は続けている。

ごめんなさい、お父さま、お母さま。

我が儘な娘に、いい加減折れてください。

蓑虫よろしく毛布を着込んでいると、側にいる両親から溜息が聞こえて来た。


「仕方がない。分かったよティーネ。今日のお茶会は欠席しよう。だが、また行きたいと言い出しても連れて行ってやらないぞ?それでもいいのかい?」


その言葉に、毛布を蹴飛ばして父に抱きついた。


「ありがとうお父さま!うん、絶対に行かない!王子さまなんて会いたくない!私をお城に連れて行かないで!」


満面の笑みで私が叫ぶと、両親は複雑そうに苦笑いをした。

こうして私は、最初の関門であったお茶会という名のお見合いを無事回避することができたのだった。




それからも、何度か王室主催のお茶会は催されたが全て欠席した。

他の貴族のお茶会にも参加しなかった。

一度だけ誘われた伯爵家のお茶会に出席したが、急遽、ギデオンさまがいらっしゃると分かるや、超特急で帰宅した。

それ以降、突然現れる殿下を警戒するのも面倒で、社交の場から足が遠のいた。

一年を過ぎた頃には病弱な公爵令嬢と噂されたが、大した話題作りにもならなかったようで、そのうち存在も忘れられていった。



私が7歳になっても、殿下の婚約者は決まらなかった。

取り敢えず、王子の婚約者という窮屈な役所は回避出来た。

が、しかし。

お友達と楽しく過ごすという新たな目標は果たせずにいる。

社交界から逃げているのだから、知り合う事すら出来ないのにお友達が出来る筈もない。

いっその事、田舎でお友達をつくった方が良いのでは?


そんな事を考えていると、父がニコニコしながら封筒を持って部屋にやって来た。


「これが何だか分かるかい?」


やたらニヤニヤする父を不審な目で見てしまう。

またどこぞのお茶会の招待状だろうか?


「王子さまからティーネ宛ての手紙だよ」


思わずヒュッと音を立てて息を止めてしまった。

二度目の人生、殿下とは一度もお会いしていない。

勿論、手紙のやり取りも一切無い。


浮かれた顔の父を睨む。

一体何が楽しいのか。


「王子さまのお誕生会へのお誘いだ」


ひっ。

折角、王家から遠ざかっているというのに、ここで近付いてなるものか。


「嫌。行かない。お断りして」


口をへの字に結んで拒絶する私に、父は笑いながら封筒を開けて中身を見せた。


『アンティエーヌ嬢、初夏の花々が芽吹く頃、いかがお過ごしですか?お身体の調子が思わしくないと聞き心配しています。気分転換に庭園のお花を観にいらしてはいかがでしょう。お会い出来る事を楽しみにしています。ギデオン・フィル・アルシアン』


何コレ?

一度も面識が無いのに、わざわざ私宛てに書くとか、良く分からない・・・。

招待客に一枚ずつ書いて送っているのかしら?

殿下は確か9歳。

まあ、文字の練習を兼ねているのかも知れない。

だが、アレやコレやの招待をお断りするのも面倒になってきた。


「お父さま」


溜息を吐きながら父を見上げる。


「何だい、ティーネ?行く気になったかな?」


殿下直筆のお誘いなら断れまいとでも思っているような表情だ。

ニコニコ顔の父に、私も満面の笑みで返す。


「はい。私、田舎に行きます」

「・・・は?」

「領地の田舎に行って療養してきます」

「どうしてそんなに外に出るのを嫌がるんだい?」


父の顔からは表情が抜け落ちていた。

私が王家に関わりたくない理由を話せば良いのかも知れないけれど、話したところで子供の寝言と笑われるのが関の山。

だから今は、敢えて黙っておくことにする。


「社交界が怖いんです。田舎でのんびりしたいの、お父さま」

「だが・・・」

「このままではお父さまにご迷惑をお掛けするばかりだし・・・ダメ?」


首をコテッとかしげ可愛らしくおねだりしてみる。

父は眼を閉じて大きく溜息を吐くと、目尻を下げて私を見た。


「そんなに人と会うことが辛いのだね・・・。分かったよ。暫くお祖父さまの領地で静養しなさい」


その言葉に歓声を上げてお父さまの腰に抱き着いた。


「ありがとうお父さま!大好き!」


二度目は早死にしないようティーネは頑張ります!


我が儘を許してくれた父に、心の中で誓う。

運命がくれたこの時間を幸せに生きるのだ。


その後一週間とかからず王都の屋敷を後にし、私は隣国との国境近い辺境伯地リプルに移り住んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ