人間関係が煩わしいと感じた僕。突然ですが家出します(2)
家事苦手な女の人好きって人いますか?私は好きです
「す、少ない……」
札駅に着いた僕はふと残金が残りいくらか気になり、取り出して確認すると……入っていたのは一万円札一枚。高校生の所持金としては十分だと思うでしょ? 違うんだな~、ネカフェで過ごす事を考えるとこれじゃ一日過ごしたら終わりなんだな~。場所にもよるけど。と、いう事で────
「あの人を頼ろう……」
僕はスマホを取り出し電話帳からあの人の番号を呼び出した。電車代はICカードタッチで残金的な意味でダメージはあっても懐的な意味ではノーダメージ。札駅と家を往復する程度のお金はある。問題はリアルマネーの方だった。あの人だったら一日どころか向こう三年くらいは理由を聞かず、誰にも居場所をバラさずに匿ってくれそうだ。それに、アンジュの配信を荒らせるだけの設備も揃えてくれている
「家事押し付けられるけど……仕方ないか」
あの人は……家事が苦手だ。性別は……うん。語るよりも実際に見てもらった方がいいから言わない。あの話せるのは……特にないな。強いて言うならアンジュと同じVtuberやってるって事くらいかな?ただ、僕が配信荒らしだってのは知らない。UWОはあの人に勧められて始めたけど、配信を荒らすのは僕の意志。きっと汚部屋になっているんだろうなと絶望感を抱きながら僕はあの人に電話を掛けた
あの人に電話で家出した事と無期限で匿ってほしいという旨を伝えたところ二つ返事でOK。案の定、汚部屋を片付けるのと三食ご飯を用意する事を交換条件に出され、それくらい自分でやりなよと思ったけど、こっちは泊めてもらう身。僕はその思いをグッと飲み込み、了承した。というわけで現在、僕は札幌駅と大通り駅を繋ぐ地下歩行空間を歩いていた。
「信号待ちせずに大通り駅まで行けるのはいいんだけど……誘惑があるんだよなぁ……」
この地下歩行空間。地下だから当たり前だけど信号機がない。だから信号待ちする事なく大通り駅に行けるんだけど、誘惑もある。札幌駅側から入って少し歩いたところで右を見るとハンバーガーショップ等の飲食店が。しばらく歩くと喫茶店があるんだけど、そこはスルーしよう。で、さらに歩くとコンビニがある。そこのコンビニにはイートイン。そこで買ったお弁当なりカップ麺をその場で食べられるスペースがあり、油断しているとフラリと立ち寄ってしまいそうだ。特に空腹時なんかは大変だ
「ここを抜けた後も誘惑があるから少ない分、こっちの方がマシか」
ここから大通り駅に入るとダシのいい香りが漂ってくる。近くに蕎麦屋があるから。で、そのまま真っ直ぐ進むとすすきの駅なんだけど、そのすすきの駅に辿り着くまでにラーメン屋とかコンビニとかあるから地下歩行空間を抜け出したとしても誘惑は続く。違うのは店の数くらいだ。全部が全部コンビニと飲食店ってわけじゃないけど。携帯ショップや靴屋、アクセサリーショップといろいろある
「あの人、ちゃんとゴミ袋用意してくれていればいいんだけど……」
僕は一抹の不安を覚えながら大通り駅を目指した。そこからは適当な出口から出てテレビ塔に向かって歩いた。この大通り駅は出口が多いからね。見つけたところから適当に出て大筋で目的地に向かって歩けば着く。※僕は特別な訓練を受けています。良い子、悪い子、普通の子や観光に来た方は絶対に真似をしないでください
テレビ塔に辿り着き、ようやくあの人の家まで半分といったところだ。札駅は店が多いから便利なんだけど、何て言うのかな? 札駅に近いは近いんだけど、如何せん、中途半端に近い場所だと関東にいる人から見ると結構って距離になるのかな? まぁいいや。道民的感覚で言うところの少し歩く。結論を言うとね、テレビ塔はゴールじゃないんだよ。ゴールはその先なんだよ。という事で、テレビ塔をスルーし、僕はあの人の家を目指した
あの人が住んでるマンションに到着した僕はエントランスで部屋番号を入れた。自動ドアのロックが解除されると嫌な予感を抱きながらあの人の部屋を目指し、エレベーターに乗り、五階へ。
「来てしまった……」
エレベーターが五階へ到着し、エレベーターを降りた僕は我ながら面倒な生き方をしてるなぁと自分で自分に呆れていた。最初からありのまま振舞っていたらこんな事しなくて済んだのだと後悔している。それほどあの人の部屋は……
「後悔しても仕方ないか……」
今更後悔したところで今の生き方をすると決めたのは僕自身と諦めが付いたところであの人の部屋へ向かった
あの人の部屋の前に来て上の方を見るとプレートには“508 五味”と書いてある。いよいよもって僕は地獄の入口に来てしまった。ここで引き返す事も出来るんだけど……もう引き返せないところに片足を突っ込んでいる
「帰って来てるといいんだけど……」
電話した時はまだ職場にいるって言ってた。いや、エントランス開けてもらった時点でいるのは確定してるんだけどさ、これから地獄を見るの分かってるんだから現実逃避させてくれない?
「悩んでても仕方ないか……」
僕は意を決し、インターホンを押した。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁい……』
スピーカーから聞こえたのはものすっごく気怠そうな女性の声。もしかしなくても寝てたな?
「陽人だけど……」
『あー、うん……今開けるから待ってて……』
「う、うん、よ、よろしく……」
もの凄く嫌な予感を感じながら僕は家主が出てくるのを待つ。声の感じからして寝てたのは確実。寝てるのは悪い事じゃないんだけど、その反動が……ね。
「陽人ぉ~、待ってたよぉ~」
出てきたのは下着姿で髪の毛がグチャグチャな女性。彼女の背後に見えるのは散らかった部屋。やっぱり……
「あ、うん。そんなに待ってないから大丈夫だよ。瑞樹 さん」
「そぉ~お~?」
「う、うん……」
この寝ぼけ眼で胸が大きい女性は五味瑞樹さん。彼女は僕の従姉で年齢は二十五歳。見た目だけはいいんだけど……昔からだらしない。以上説明終わり。他に説明する事っていったらこの人の父親が僕の父親の兄だって事くらいだから彼女自身の説明はこんなものでしょ
「とりあえず入って~」
「う、うん、お邪魔します……」
瑞樹さんに促され、僕は部屋の中へ。
リビングへ通されたはいいんだけど……
「やっぱり……」
僕は頭を抱えていた。来るんじゃなかった。玄関を見た時点で解ってはいたけど、思った通り汚い。リビング全体に弁当やカップ麺の残骸が散乱し、ゴミ袋が隅の方へ積み上げられている。絵に描いたような汚部屋。父さんや叔父さんが黙ってここに来ても怒らない理由がこれ。放っておくと彼女の部屋はゴミで埋め尽くされてしまい、定期的に片付けをする人間が必要だからに他ならない
「ご、ごめんねぇ~、お仕事と配信で忙しくて片付ける暇なくてさ~」
眠そうに目を擦り、言い訳をする瑞樹さん。ハッキリ言おう。仕事と配信の合間に片付けくらい出来るでしょ? アンジュもそうだけど、配信者って言うのは私生活だらしないのかな? そうじゃないよね?
「あ、うん。片付けはやっとくからさ、とりあえず荷物だけどこかに置かせてもらっていい?」
「うん。それと、片付けヨロシクー」
「了解」
瑞樹さんは一つあくびをするとそのまま寝室に入って行った。僕はそれを見届けるとリビングを出ていつも使わせてもらっている部屋へ向かう。ここには足の踏み場もない。当然の事ながら荷物を置く場所なんて存在しない
いつも使っている部屋の前に着き、そっとドアノブに手をかける。ここだけは無事であってほしい。そんな希望を抱きながら
「ここは無事だよね……?」
いくらだらしない瑞樹さんでも家全体を汚すとは思えない。さすがにここは綺麗なはず。
「マジでおじゃるか」
前言撤回。綺麗じゃなかった。ドアを開けた僕が目にしたのは部屋中に散乱した下着の山。ゴミ部屋じゃないだけマシだけど、これはこれでリアクションに困る。
「ゴミ部屋じゃないだけマシと思うべきか……それとも、警戒心が薄いと嘆くべきか……僕はどうしたらいいんだろう?」
普通の男子高校生ならこの光景を見てドギマギしたり、パンツの一枚でも頭に被るところなんだろう。慣れって恐ろしいもので、僕は微塵もそんな気が起きない。我が従姉のだらしなさに泣きたくなる
「ここから始めなきゃならないのか……」
僕は荷物を適当な場所に置くと散らばった下着を拾い始めた。
「はぁ……」
散らばった下着を拾い始めて少し。一通り拾い終え、部屋の中での作業は終了。この後、これらを洗濯機に放り込まなきゃいけないんだけど、問題が一つ。それは………
「ここから色分けしないといけないのか……」
色ごとの仕分け。別に僕のものじゃないから色分けしなくてもいいんだけど、洗濯した時に色移りしたら困る。分けておいて損はない
「こんなんで嫁の貰い手見つかるのかな……」
我が従姉のだらしなさに思わず将来に不安を覚える。だらしないって言葉で済ませているけど、本当は────
「家事の類が苦手なだけなんだよね……」
瑞樹さんは家事の類が大の苦手。一回お米を研がせた事あるけど、その時は悲惨の一言だった。洗剤を入れて研ごうとしたんだよ? これを悲惨って言わずして何という?
「もう僕が貰っちゃおうかなぁ……」
実の姉弟じゃないし、法律的には結婚しても問題はない。瑞樹さんが外で働き、僕が家事をする。外で働きたくないって人じゃないけど、彼女の家事スキルを考えるとこうする他ないと思う
「あの人の旦那になる人は大変だなぁ……」
まだ見ぬ瑞樹さんの旦那となる人に同情しつつ、僕は下着の分別を始めた
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました