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夏休みが差し迫った僕。クラスメイトの進路相談に乗りました

進路相談する相手間違えてるでしょ

 ある日の教室。気が付けばもう七月の後半。あと数日もすれば夏休みで浮かれている同級生達を眺めながら僕は長期休みをどう過ごそうか考えていた。一応、トップカーストにはいるものの、創作物の様にいつも人に囲まれているわけじゃない。トップカースト=常に人に囲まれていると思った人、残念だったね


「夏休みかぁ……」


 高校二年ともなると夏休みの時期に入るとどうしても考えさせられる事がある。言わずと知れた進路。まだ二年だと思っていたら大間違い。時は無情にも過ぎ去っていくものなんだから


「夏休みがどうしたんだ?」


 漠然と夏休みの過ごし方を考えてるところに暑苦しい顔が突然目の前に現れる。毎度お馴染み甲谷だ


「どうやって過ごそうか考えていたんだ。進路の事も考えなきゃいけないしね」

「進路って……陽人よ、気が早すぎやしないか? まだ二年だろ?」

「そうだけど、夏休み明けには進路希望調査出さなきゃならないわけだしさ、今からちゃんと考えておかなきゃ」

「それもそうだな。進路……進路か……」


 何も決めてなかったんだろう。甲谷は顎に手を当てて考え込む。いきなり進路って言われても困るのは無理もない。僕だって将来の事何も決めてないんだから


「進路どうしようっかなぁ……」


 考え込む甲谷を横目に僕も進路について考えるけど、具体的に何をしたいのか全く思い浮かばない。だけど、アンジュみたいにはなりたくないとは思っている。SNSでの動きを見る限りあのオバサンは人が寝てる時間帯に活動し、人が活動している間に寝ている節がある。被害に遭ったVtuber達へ濡れ衣着せてる書き込みを見ると時間帯はどれも明け方。コイツ限定で言うと働いてないから人が寝てる時間帯に平然と嫌がらせできるんだろうと思う


「進路……進路どうしよう……」


 ふと甲谷の方へ視線をやると憔悴しきった顔で虚空を見つめていた。余計な事しちゃったかな? 夏休みが始まってすらいないのに進路の話をするのは酷だったか……


「はぁ……」


 憔悴しきっている甲谷に僕は溜息しか出ない。漠然とでもいいからせめて進学か就職かは決めておこうよ……


「陽人。って、蓮の奴どうしたの?」

「何か疲れ切ったというかやりきった顔してるよ?」

「一生分の知恵を使ったみたいな感じだね!」


 呆れた顔の丈達と苦笑を浮かべる長村、遠まわしに甲谷をバカにする夢乃。この女達も多分進路について何も考えてないんだろうなぁ……


「進路の事を考えてたらこうなったんだよ。何も考えてなかったらしくてさ」

「「「進路……?」」」

「うん。進路」

「「「ふ、ふ~ん……」」」


 進路の話をした途端に目を逸らすだなんて……夢乃達も自分の進路について何も考えてなかったの? 冗談でしょ?


「もしかして夢乃達も進路どうするか考えてなかったとか?」

「「「あ、いや~……あ、あはは……」」」

「何も考えてなかったんだね……」

「「「うっ……! はい……」」」


 僕だって具体的な将来像は持ってないから人の事は言えないけど、この四人を見てると呆れてものも言えない。二年の夏休みなんだからせめて就職か進学かだけは決めておこうよ……


「どこへ行くかってのはまだ具体的に決めなくていいと思うけどせめて進学するのか就職するのかは決めておいた方がいいんじゃない?」

「「「は、はい……」」」


 ここで始業ベルが鳴り、抜け殻の様になった甲谷達は自分の席へ戻って行った






 地獄のような授業が終わり、放課後。僕は────


「はるとぉ……俺、進路ど~しよ~」

「はるとく~ん、たすけてぇ~」

「陽人……アタシを見捨てないで……」

「はると……進路……」


 ゾンビと化した甲谷達に捕まっていた


「僕じゃなくて進路担当の先生にしなよ……」


 僕だって何も決めてないのに相談されても困る。進路関係の相談は担当の先生にだね……って今の甲谷達に言っても無駄か


「だってよぉ……」

「陽人じゃなきゃ相談できないわよ……」

「陽人君しかいないんだよぉ~」

「陽人じゃないと嫌~」


 頼る相手間違えてるでしょ……


「僕だって何も決めてなんだけど……」


 困った人達だなと思いつつ僕は甲谷達を引き連れて教室を出た






「言っておくけど僕だって進路はまだ何も決めてないからね?」


 進路に悩める甲谷達を引き連れやって来たのはお馴染みのカラオケ店。本当は静かな場所の方がいいんだろうけど、僕達が相談事をする時は毎回カラオケ店。うるさいから話し合いにならないとは思うけど、こういうのは慣れた場所でするのが一番いいよね


「マジか……」

「ウソでしょ?」

「ちょっと意外……」

「陽人も決めてないの?」


 意外そうな顔をする甲谷達。学校で進路の話はしたけど、決めてあるとは一言も言ってない。どうして僕の進路が決まってると思ったのかな?


「嘘じゃないよ。僕だって進路は何も決めてない。とりあえず進学するつもりではいるけど、どこの大学、専門学校に行くかは決めてないよ」

「「「「そういうのを決まってるって言うんだよ!!」」」」

「うおっ!?」


 いきなり身を乗り出して怒鳴らないでよ……


「ズルいぞ! 一人だけ!」

「そうよ! どうしてアタシに相談してくれなかったの!?」

「陽人君の薄情者!」

「陽人! ズルいよ!」


 こういうのを理不尽って言うんだよね。進学するって決めてあるだけでここまで言われるとは思ってなかったよ


「ズルくないズルくない。さっきも言ったでしょ? 進学するって決めてはあるけど、具体的にどこに行くかは決めてないって」

「そうだけどよぉ……俺なんか進学か就職かすら決めてないんだぜ?」

「アタシも……」

「私も……」

「私もだよ……」

「あのねぇ……」


 高校二年の夏休みなんだからそれくらい決めておこうよとは口が裂けても言えなかった。この後、時間いっぱいまで甲谷達の進路相談に乗り、出る頃にはヘトヘトになっていた






 余計な仕事をした僕は言うまでもなくクタクタになって帰宅。案の定、瑞樹さんも恋紋さんも当然、凛瑠葉さんもまだ帰って来てない


「本当に疲れた……」


 僕は靴を脱ぎ捨てるとそのまま自室へ向かう。進路にアンジュと僕には何かと課題が多すぎる。アンジュの方は放置してても問題ないだろうけど、進路の方はそうもいかない。自分の将来がかかっているんだから。自分の事ですらてんやわんやしてるのに人の事を気にしている余裕は……ないんだよねぇ……






 自室に入るとカバンを適当な放り投げ、ベッドへダイブ。考え事する時は天井を見上げながらに限る


「進路かぁ……」


 改めて一人で自分の将来について考えると自分がどうしたいのか分からないんだと痛感する。甲谷達には進学するって言ったけど、大学にするか専門学校にするかまだ何も決まってない。自分が将来何になりたいかすら決まってないんだから進学先を決められるわけがないよね……


「将来か……」


 普通の高校生に将来何になりたいかと聞いてちゃんと答えられる人は何人いるだろうか? 幼い頃から将来の夢がある人くらいだろう。僕には将来の夢がない。何となく彼女作って何となく結婚して何となく老後を過ごす。そんな在り来たりなビジョンを描いていたんだけど、いざ目の前に差し迫ると自分で自分が分からなくなる。僕は誰を好きになればいいのか、どこの大学、専門学校に行けばいいのか……何もかもが分からない。瑞樹さんと付き合ってるのだって何となく告白されたのがキッカケ。本当に彼女が好きなのかと聞かれると即答できる自信はない


「僕はどうしたいんだろう……」


 自分が何をしたいか分からないまま僕の意識は夢の世界へと遠のいて行った





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます

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