人間関係が煩わしいと感じた僕。突然ですが家出します(1)
唐突な家で
アンジュの配信を荒らしてから一夜明けた翌日の放課後────。
「陽人! 今日は暇だよな?」
「陽人君! 今日こそはデートしてもらうよ!」
「あっ! ズルい! 抜け駆けすんな! 陽人はアタシとデートするの!」
昨日と同じくクラスメイトに囲まれていた。昨日はアンジュの配信を荒らすため、誘いを全て断った手前、今日は断れない。でも、女子二人の誘いに関してはどちらかを断らなきゃいけないから面倒臭い
「ひ、暇だけど……」
三人から顔をズイっと寄せられた僕は少したじろいだ。遊びに誘われるのはいいんだけど、顔を近づけられるのは勘弁。怖いし
「ならよ! 男だけで遊びに行かね? ゲーセンに新台入ったんだよ!」
「はあ!? 陽人君は私と二人きりでカラオケに行くの!!」
「バカな事言わないで!! 陽人はアタシと二人でパフェ食べるのよ!!」
アンジュとプリンチよりはマシか……。僕は自分にそう言い聞かせ、言い合う三人の同級生に気付かれぬよう教室を……
「どこ行くんだ? 陽人? 大親友の俺を置いてくわけじゃぁねぇよな?」
「陽人君? 私と二人きりでカラオケ行きたくないの?」
「そんなにアタシとパフェ食べに行くの嫌なのかしら? 陽人?」
出て行けませんでした。席を立とうとした瞬間、三人に見つかった。運よく見つからなかったとしても他の同級生に捕まり、彼らと同じ争いが起こるのは明白。
「はぁ……」
僕は言い争いを再開した同級生達を前にそっと溜息を吐いた。こんな事になるなら調子に乗って人助けなんかするんじゃなかった……後悔したところでもう遅いけど、せずにはいられなかった
言い争いの末────
「陽人ー! お前もなんか歌えよー!」
「陽人君! デュエットしよ!」
「陽人はアタシとデュエットするの!」
言い争っていた三人と僕は新札幌駅から少し歩いたところに位置するゲームセンター。僕達はその中にあるカラオケ店に来ていた。補足として他のクラスメイトも来たがってたんだけど、女子二人に睨まれて泣く泣く諦めてた事を言っておこう
「あー……えっと……」
スマホでアンジュの動向を監視していたところで不意に声を掛けられ、答えに困る。良識があり、表じゃキチガイを演じてても裏じゃまともだっていう人なら監視なんかしない。でも、あのVtuber────いや、Vtuberモドキは違う。アンチや自分の気に入らない奴の動向を監視し、自信のSNSアカウントで晒す。さも自分が被害にあったかの様な感じで晒すから悪質だ。
「なんだぁ? さっきからスマホばっか見てよぉ~、推してるアイドルでもいんのかぁ~?」
「そ、そんなんじゃないよ。ただ、気になる事があって調べてただけ」
強引に肩を組みダル絡みしてくる男子にサッとスマホを隠し、苦笑交じりに返した。クラスじゃ男女分け隔てなく愛せる男として通ってる僕が裏じゃ暴言Vtuberの配信を荒らしてますとか口が裂けても言えないし、絶対にバレたくない。
「ホントかぁ~?」
「本当だって。ちょっと気になる事があったから調べてただけで推してるアイドルなんていないって」
「ほ~ん」
厭らしい笑みを浮かべながら顎に手をやる男子。そう言えば彼の名前なんだったっけ? 確か────
「ちょっと! 止めなさいよ! 甲谷!」
そう、甲谷だ。こうやと書いてかぶとやだ。苗字は思い出したけど、下の名前は……
「蓮! いい加減にしないとお姉ちゃんに言いつけるわよ!!」
そうそう、蓮。コイツの名前は甲谷蓮。新学期早々僕の評判を聞いて絡んできたお調子者だ。完全に思い出した。で、この女子二人が……
「男同士の友情に口出すなよな~、長村、丈達」
そうだったそうだった。快活で胸が普通サイズな方が長村で目つきがキツく胸が大きい方が丈達だ。苗字は思い出せたんだけど……名前は……何だったかな? 思い出せないや
「甲谷が陽人君にダルがらみするからでしょ!」
「そうよ! 連にはお姉ちゃんって彼女がいるんだから! 陽人盗らないでよ!」
僕は二人のものじゃないんだけど……。表向きは苦笑を浮かべ、困っている体を装う。内心じゃまたかと呆れていた。というのも、この長村と丈達、ついでに甲谷もだけど、困っていたところを助けた一握りに過ぎない。いつ、どこで、どんな風にかは忘れちゃった。ただ、助けたら懐かれた。他のクラスメイトも似たり寄ったりだったから名前なんて覚えてなかったんだけどね
「ダル絡みなんてしてねぇよ! 俺は親友として陽人の推しアイドルが気になっただけだ!」
親友……かどうかは置いといて、僕には推してるアイドルなんていないんだよなぁ……。配信を荒らしてるVtuberモドキはいるけど
「アンタがそう思ってるだけよ! 陽人は蓮の事親友だと思ってないかもしれないでしょ! 優しい陽人は蓮を傷つけるから言わないだけで!」
「はぁ!? 俺と陽人はちゃんと親友だ! 莉子こそ勘違い乙!! 麻子姉ぇと陽人は別腹なんだよ!」
丈達の下の名前は莉子だったんだ……。すっかり忘れてた
「甲谷が陽人君を親友だと思ってるのは勝手だけど私の好きな人盗らないでよ!」
甲谷と丈達だけでも収拾つかなくなってきてるのに長村まで参戦しないでよ……僕はただ、アンジュの動向を監視してただけなんだから。
「はぁ!? 長村が陽人好きだったなんて初耳だぞ!?」
「始めて言ったもん! 莉子ちゃんも初耳だよね!?」
「知ってたわよ! 事ある事にチラチラ見てたら誰だって気付くっつーの! 気付いてないのは鈍感でバカな蓮だけよ! 他の連中はみ~んな知ってるわよ! 結菜が陽人の事好きだっただなんてね!」
「「はぁ!?」」
驚愕の真実に驚いたみたいな顔をする長村と甲谷。対して鼻を鳴らす丈達。彼女の言い方だと僕は長村に好かれているらしい。そして、目で追っていたらしい。甲谷の事をバカだと言ってたけど、彼と同じく長村からの好意に気付かず、今初めて知った僕もバカだ
長村による衝撃のカミングアウト後。カラオケから暴露大会になった。順番は長村→甲谷→僕→丈達の順。僕以外の三人はハイテンションで聞いてる方がドン引きするような事を暴露してたけど、僕は当たり障りがない範囲での暴露に留めておいた。Vtuberモドキの配信荒らしてますとか口が裂けても言えないよ
途中から暴露大会になったカラオケ大会が無事に終わり、時間も十五時という事で僕達は家路に就いた。
自宅に着き、玄関のドアを開け、中へ入り、ふと二足の女性ものの靴が目に留まる。
「義姉さん達帰って来てるんだ……」
僕は義姉さん達に遭遇しないよう、昨日と同じくただいまも言わずに部屋へ向かった。
「はぁ……」
部屋に着き、ドアにカギを掛けるとカバンを放り投げ、ベッドに倒れ込んだ。千夏さんもだけど、義姉さん達とも顔を合わせたくない。もちろん、父さんとも。
「何で今日に限って帰りが早いんだよ……。それに、甲谷といい、丈達といい、長村といい……」
滑稽だ。ちょっと助けただけで犬のように僕の周りに集まってくる。滑稽としか言いようがない
「バカばかりだなぁ……」
ドイツもコイツもバカだ。この世には100%の善意なんてない。どこかに下心がある。僕みたいに醜い本性を隠すために人助けをする。お礼が欲しくて人助けをすると理由は様々。例えば、ボランティア活動。アレが一番いい例だ。お金は取らなくても単位の為にやっている、単位は関係ないけど、してやってるという優越感に浸りたい。無料のだと思惑は大体こんな感じ。だけど、有料のだとお金の為。この一言に尽きる
「家出ようかなぁ……義母さん達と顔を合わせるの嫌だし」
義母さん達は嫌いじゃない。かと言って好きでもない。ただ気に入らないだけ。本当の母さんも父さんも気に入らない。詳しい事は機会が来たらちゃんと話すけど、とにかく気に入らない
「ゲーム……って気分じゃないや」
アンジュの配信があるならUWОに潜るんだけど、カラオケ中に青い鳥が目印のSNSを確認したら配信の告知はなかった。あったのは自分の身内と僕に対しての不平不満。
「煩わしいから家でしよう!」
僕は勢いよく起き上がり、ベッドを飛び出すと大急ぎで私服に着替え、クローゼットから一番大きいカバンを取り出すと財布、スマホ、着替えを詰め込んだ。
「よし! 準備完了!」
荷物を詰め終わった僕はそっと部屋を出て、忍び足で階段を降り、玄関へ。
「ぬるゲー過ぎて草」
家を出た僕は所々雪が残る道を平和駅に向かって歩いていた。階段を降りる時は足音がしないよう細心の注意を払ったからバレなくて当然だったけど、玄関開けた時にバレなかったのは意外だった。自室にいても施錠、開錠の音やドアを開け閉めする音が聞こえるって言うのに誰も気づかない。ぬるゲー以外の何者でもない
「さて、どこ行こうかな」
家を出たはいいけど、具体的にどこへ行こうかは決めてない。とりあえず札幌駅に向かう電車に乗るつもりだけど、そこから先どうするかは何一つ決まってないのだ
「札駅に着いてから決めよう」
新札幌駅周辺は栄えてはいる。けど、札幌駅に比べるとまだまだ。ゲームセンターへ行くにしてもネカフェへ行くにしても歩かなきゃならない。札幌駅もゲームセンターやネカフェに行くには歩かなきゃいけないのは同じだ。地下歩行空間があるだけ札幌駅の方がマシだけど
「さよなら、アホ連中」
僕は空へ向かって毒を吐いた。煩わしい人達とおさらばできる。これほど清々しい事はない
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました