用事があると帰った僕。実は暴言Vtuberの配信を荒らします(2)
ゲスな感じにできました!
「はいー! “一生許さないかんな!!” 頂きましたぁ!!」
今頃はコメ欄で信者達が必死にアンジュを慰めていると思うと滑稽だ。これだから配信荒らしは止められない
『ブジャル!! オメェ! どんだけアンジュの事好きなんだよ!』
失礼な……。僕はお前の事なんて好きじゃない。
「しばらく無言で殺そう」
さっきはアンジュの決め台詞が出てテンション上がったけど、今の一言で興醒め。喋ってやろうと思ったけど、止めた。
『ねぇ~! ブジャル~! 何か言ったらどうなの? ねぇ!』
何かって何? 何言えばいいの? 的になってくれてありがとうとか?
「うるさいオバサン」
僕は先程と同じ方法で超粒子砲をアンジュ目掛けて放った。
“あなたがアンジュを撃破しました”
キルログにアンジュ撃破が表示された。学習能力がないと言うか、何と言うか……
『ねぇ!? ちょっと!! またぁ!? 宇宙から狙い撃ちとかほんと卑怯!! 正々堂々と戦えないんですかぁ~!?』
ヘッドホンを通じて再びアンジュの怒声が聞こえてきた。喚くしか能がないオバサンだなぁ……
UWОは行動可能な範囲がかなり広い。宇宙空間はもちろん、太陽以外の惑星全部にも行ける。特に地球は世界各国の大まかな都市に降り立つ事が可能だ。日本エリアだと東京を始めとした47都道府県の県庁所在地に基地が配置されている。他の国は挙げるとキリがないから今は日本だけ。機会があれば他も紹介しよう。
次に僕がアンジュ爆撃に使用した超粒子砲。今みたいに遠距離プレイヤーリストから選択して発射が楽なんだけど、中距離や近距離だったら武器リストから選択して撃った方が時間のロスが少ない。ついでに言うとこのゲーム実はPKが可能。
PK────本当はプレイヤーキラー。文字通り他のプレイヤーに対して何らかの目的で他のプレイヤーを攻撃するプレイヤーを指してそう言うんだけど、その行為をプレイヤーキル呼ぶんだ。どっちもPKと略すから使い方は同じなんだけどね。
「正々堂々と戦っても君負けるじゃん」
アンジュに届きはしないと分かっていながらも毒を吐く。僕の使っている竜人型の機体はスピード、パワー、耐久性共に申し分ない。遠距離戦、中距離戦、接近戦とどんな場面でも戦える。元々竜人型の機体は初期型でも他のに比べてスペックは高い。対してアンジュの機体は……おっと、これは対面した時のお楽しみにとっておこう。
「少し早いけど、メッセで煽ろう」
僕は吹き出しのマークをクリックし、リストの中からアンジュを選択。“BBAザマァww”と打ち込んで送信した。このゲームにはVC機能があるからそっちで煽ってもよかったんだけど、最初から喋ると面白くない。彼女はどんな反応を見せるか……楽しみだ
『はぁ!? ババアじゃないんですけどぉ~!! ババアって言った方がババアなんだよ!! クソガキ!!』
ババアなんだよ!! って言っておきながらクソガキって返すのは矛盾してるでしょ……。JKか二十代前半ならババアって言われてムキにならないでよね……
「ババアって……ブフッ! ぼ、僕が、お、送ったのは、BBAなのに……ふ、ふふっ、か、勘違いが、す、過ぎる……ブフォ‼」
怒り狂って返すアンジュに思わず噴き出した。僕が送ったのはBBA。断じてババアじゃない。アルファベッドだ。
「お、面白かったから、お、お礼にもう一発」
本日三度目の超粒子砲を発射。これも見事命中。ログにアンジュ撃破の文字が。
『ブジャル!! いい加減にしろよ!! 何なの!? アンジュ何か悪い事した!? 何もしてないじゃん!! お前、慰謝料チャージで百万投げろよ!!』
チャージとはこのVIDEO・POSTってサイトの課金システム。チャンネル登録者数に関係なく、リスナーはリアル配信で配信者にお金を使う事ができる。下は十円から上は五万まで。アンジュの要求通りチャージで百万投げるとなると五万のチャージを二十回しなきゃいけない。こんな奴に手間と金を掛ける価値はない
「百万の価値なんてないのに……」
パソコンの画面を前にして僕は深い溜息を吐く。SNSじゃ自分に意見した人をイタズラに晒し、配信じゃ他人の悪口か暴言しか吐かない。人を不快にさせ、ネットのオモチャとなり果てたコイツに百万なんて大金を投げる人間がいると思ってるのなら笑えない。
『聞いてんのか!! ブジャル!! 慰謝料チャージで百万投げろよ!! 絶対だかんな!!』
怒気を孕んだ声で金を要求するアンジュは痛々しく、どうやったらここまでお金に汚くなれるのかと疑問に思う。
「はぁ……、人に金要求するくらいなら働いたらいいのに」
彼女に投げ銭────お金を払う人はゼロじゃない。一回の配信で一人~二人いる。金額はその時によってまちまち。一人の人が五千円のチャージを二回する事もあれば一万円をチャージする事もある。大物配信者だったら複数の人が少額でも投げてくれるから合計したら彼女に投げられる額よりも多くなる場合がある。要するに塵も積もれば山となるって事。アンジュの場合はチャージする人がいないから当てはまらないんだけどね
配信を荒らし始めてからしばらく。パソコンの時計に目を向けると19:00と表示されていた。一時間の間で僕はただ宇宙空間から超粒子砲でアンジュを爆撃し、メッセで煽るってのを繰り返していた
「そろそろVC点けた方がいいかな?」
同じ作業をしてると飽きが来る。僕はアンジュを爆撃してはメッセで煽るという作業に飽きていていた。彼女の方も爆撃される度に「卑怯」「チャージで百万投げろ!!」の繰り返し。怒ってる方を見れば語彙力が少ないなぁと感じてしまう。荒らしている方からするとさすがに一時間も同じ方法で撃破され、煽られてるんだから学習しろよと小言の一つも言いたくなる。途中、彼女を擁護するコメントもあったみたいだけど、配信を見てない僕がその内容を知る由もない。猫なで声で“ありがちゅ~♡” って言ってたから励ましの類みたいだけど。僕以外の荒らし勢が未だに登場してないだけ今日は運がいい方で、運が悪いと配信開始と同時に荒らしがうじゃうじゃいるからね
『はぁ、どっかに変な人いないかなぁ……』
VCを点けようかと迷っていたところにアンジュが溜息交じりに言った。口論弱い上にプレイヤースキル低いクセにPKしたがる。身の程知らずというのは彼女のためにある言葉だ
「変な人が来るのをお望みなら遠慮なく……」
彼女の要望に応えるべく、僕はメニューから“全体通信”を選択。マイクをオンに切り替え、そして……
「よぉ!! クソババァ!! 相変わらず弱ぇーな!! オイ!! 何? お前みたいなブスにだ~れが百万投げるかよ!! 自分の価値正しく理解しろよ!! ババア!!」
思いっきり煽った
『はぁ!? クソガキが何か言ってるぅ~! 耳から血が出てきたんですけどぉ~!』
「クソガキじゃありません~! ガキだとしても外に出て働いてるだけお前よりマシですぅ~! お前の仕事なんですかぁ~? ニートですかぁ~? こんなしょうもない配信してる暇あったら働いてくださ~い!」
我ながら幼稚な煽り方だ。でも……
『あー! あー! 何言ってるか聞こえな~い! アンジュ、クソガキの言葉って分からないんだぁ~! ごめんねぇ~!』
図星を突かれ、腹が立ったのだんだろう。アンジュが言い返してきた
「オレがクソガキだったらお前ただのゴミニートじゃん!! は・た・ら・け! あっ、ババアだからどこも雇ってくれないか。お前、この前SNSで彼氏募集してたもんな! 三十後半でまだ彼氏いないもんな!! 彼氏どころか家に引き籠ってるから出会いすらないか! ごめんねぇ~」
『彼氏くらいいますぅ~! 毎日毎日しつこくデートのお誘い来ますぅ~! クソガキとは違うんですぅ~!』
「彼氏いるならなんでゲームしてんの? ねぇ? ねぇ? オバサン」
『うっせぇ!! クソガキ!! 黙れ!! あーあ! 耳から血が出てきたぁ! 治療費百万チャージで投げろよ!!』
「投げませ~ん! 貴女に百万使うくらいなら彼女に使うんで嫌で~す!」
嘲ながら煽られたせいかアンジュは怒りで完全に我を失っていた。本当は彼女なんていないけど、このBBAにお金使うくらいなら……ね? 別の事に使った方がマシ
『はっ、お前の彼女なんてどうせあれだろ? 二次元とか3Dだろ?』
「痛々しい妄想ばかりしてるオバサンと一緒にしないでもらえます? あまりにブサイク過ぎて妄想か二次元でしかモテないクセに彼氏いるとか滑稽なんですけどぉ~!! 笑えるぅ~!」
『ブーメラン百個くらい刺さってますけどぉ~? アンジュはモテますぅ~! デートの誘いたくさん来て困ってるくらいですぅ~!』
「はっ、チャーシューみたいな腹してるクセにモテるとか勘違い乙で~す! 寝言はその腹みてから言えよ! 何ならコメ欄にいるみんなに聞いてみれば~? 私太って見える? ってなぁ! どうせ囲いしかいねぇから答えは決まりきってるだろうけどなぁ!! ねぇ? コメ欄の囲い共、聞こえてますか~? あなた方のアンジュちゃんが苦しんでますよ~? 助けなくていいんですかぁ~?」
配信主が配信主ならリスナーもリスナー。煽り耐性がないのは知ってる。アンジュを煽るとどうなるか? それは────
『ワレェ! アンジュたんをバカにしてんじゃねぇぞ?』
囲いの一匹が釣れる。それらしきオッサンが乱入してきた。無理してドラマとかに出てきそうな強面口調だけど、実力がものを言うゲームの世界。口調が強くても全く怖くない。ついでに言うとオッサンと断言はできない。ボイチェン使ってるかもしれないからね
「おっ、出たな! プリンチ! 雑魚のクセに粋がるアンジュの囲いその一!」
プリンチ。アンジュの囲いの一人で口調は強面。その割にゲームは弱い。以上説明終わり。雑かもしれないけど、この人に関係なく、彼女の囲いは全員口では威勢のいい事言ってゲームは弱いから説明する事がない。
囲い────配信サイトで、放送主の熱烈なファンや自分を特別扱いして欲しいがために過度な接近を試みる人たちを指すネット用語なんだけど、あんまりいい意味で使われる事はない。むしろ蔑称に近い意味で使われる事が多い。簡単に言ってしまえばオタサーの姫とその周りにいる男ってところかな。囲われる人=女、囲い=男ってわけじゃないけど、一番分かりやすいかなと思う
『ワレェ! 黙って聞いとれば好き勝手ぬかしやがってからに! 潰しちゃるから待っとれのう!! ワレェ!!』
待っとれと言われてもねぇ? 僕が今どこにいるのか知らないクセに……
「はいはい、待ってる待ってる。だから早く来てね? オジサン?」
と、言いつつ僕は……
『また超粒子砲かよ!! ブジャルほんと卑怯!!』
アンジュに超粒子砲を撃った
『卑怯な真似しくさんなや!! ワレェ!! 男らしく戦えや!!』
アンジュ撃破により、プリンチ激怒。待ってるとは言ったけど、撃たないとは一言も言ってない
「オジサン、オレの名前ブジャルだよ? 大人しく待ってるわけないじゃん! バカなの?」
僕のアカウント名であるブジャルの由来はイタリア語で嘘つきのブジャルドから取ってる。言う必要はないと思うけど、僕は嘘吐きだ。ネットでもリアルでも
『ブチ殺すぞぉぉぉぉぉぉぉ!! ワレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!』
『クソガキふざけんなぁ!!!!』
プリンチとアンジュの怒声を帯びた叫び声がうるさくて僕は思わずヘッドホンを外した。時間を見ると二十時を回っており、哀れなオジサンとオバサンをおちょくってるのも面白そうだったけど、夕ご飯を食べなきゃマズい。持って来たジュースとポテチには手を付けてないけど千夏さんがせっかく作ってくれたんだ、食べなきゃ失礼だ。
「殺せるものなら殺してみなぁ? あっ、ごめーん。彼女が呼んでるから一端落ちるね。バイチャ~」
最後にプリンチを煽り、パソコンの電源を落として部屋を出た
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました