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朝から修羅場に巻き込まれた僕。放課後は同級生の相談に乗る事になりました(2)

なんか濡れ衣を着せられそうな予感

 聞いてくれ。そう言って甲谷は深呼吸すると再び口を開いた。彼女絡みで僕が適任の相談など想像もつかない


「陽人────いや、莉子達はVtuberってのを知ってるか?」


 Vtuber────知らないわけがない。従姉がそうで僕が周囲の人間に隠している事に関係大有りのワード。彼の口から出てくるのは意外だった。ここまでの道中、甲谷の彼女……麻子さんが配信活動してるのは聞いたけど、まさかVtuberとして配信してるとは思いもしなかった


「僕は単語だけなら聞いた事あるけど、夢乃達はどう? 聞いた事ある?」

「私も陽人と同じで単語だけ……」

「アタシも……」

「わ、わたしも……時々テレビに出てきててそういう形で活動してる人がいるっていうのは知ってるけど……名前が売れてる人の事しか知らないなぁ……」


 女性陣の反応は僕と同じもの。僕の場合は口を滑らせるとウッカリ余計な事まで言いそうだから単語だけって事にしたんだけど、まさかVtuberが身近にもう一人いるとは……世の中って狭い


「そ、そうか……」


 僕達の反応を見てガックリと肩を落とす甲谷。僕は嘘だけど、夢乃達は本当に単語だけしか聞いた事ないと思う


「ご、ごめんね? 夢乃達は分からないけど、僕はあんまそういうの見なくてさ……単語だけなら聞いた事あるし、長村さんの言うように時々テレビに出てくるような有名どころしか知らないんだ」


 何も悪い事はしてないけど、とりあえず苦笑交じりで謝る。肩を落とされたままじゃ話が前に進まない


「謝らなくていい。本題はここからなんだからよ」

「「「本題?」」」

「それって来る途中に言ってたやつだよね?」


 甲谷の相談内容を全く知らない夢乃達は頭に疑問符を浮かべる。僕は聞いてたから触り程度だったら知っている。結論から言うとこれは高校生で技術ゼロの僕達にはどうにもならない。技術を持ってる人か警察や弁護士なら特定可能だとは思う。まずは詳しい話を聞いてみよう


「ああ……」

「詳しく話してくれないかな? 僕達でよければ力になるからさ」

「陽人……」

「陽人の言う通りよ。何ができるか分からないけど、話すだけ話してみなさい。お姉ちゃんが困ってるのを聞いて妹としては放っておけないわ!」

「莉子……」

「わ、私も力になるよ!」

「うんうん! 困った時は助け合いだよ!」

「五ケ谷……長村……」

「みんな力になるって言ってくれてるんだしさ、話すだけ話してみてよ」


 技術も知識もない僕達にできる事なんてないと冷たく突き放すのは簡単だ。だけど、僕は今まで形だけとはいえ困っている人を助けてきた身。やれるだけの事をしてあげたいと思う


「じゃ、じゃあ、遠慮なく相談させてもらうぜ!」

「「「ドンと来い!」」」

「うん」


 自身の胸を叩く夢乃達と柔和な笑みを浮かべる僕。女性陣は本当に甲谷の力になろうと努力するんだろうけど、僕は違う。身の丈に合わないなと思ったら適当な理由を付けて見捨てる。僕の思惑など露知らず甲谷は「お、お前ら……」と言って目に薄っすらと涙を滲ませていた


「麻子姉ぇの配信のコメントにアンジュってVtuberが誹謗中傷に来たんだが……」


 目元の涙を拭った甲谷の口から出たのは僕にとっては馴染み深い名前。昨日も配信を荒らしたVtuberの名前だった。誹謗中傷……アンジュの奴、そこまで堕ちたか……


「「「アンジュ? 誰?」」」


 馴染みのない夢乃達は疑問符を浮かべる。当然だよね。有名なVtuberしか知らない彼女達がアンジュの名前を出されたところで“ああ、アンジュね~”とはならない


「アンジュ? その人もVtuberなの? というか、僕達は麻子さんって人の内容やVの時の名前すら聞かされてないんだけど……」


 アンジュの話に関しては僕は聞かなくてもいい。彼女の悪名は一部じゃ有名だ。複垢使ってSNS内でアンチを監視し、晒上げるのは当たり前。他にも動画のコメント欄では被害者面して誹謗中傷をし、挙句、こちらも複垢使って彼女の配信を垂れ流す配信をしている人のところへ突撃など挙げればキリがない。僕が気になるのは麻子さんのVtuber活動の内容と配信時に使っている名前。配信の中身は興味ないけど、名前は分からないと困る


「わ、悪い……」

「別に謝る事はないんだけど夢乃達を見てごらん?」

「あ……」


 甲谷が夢乃達の方へ目を向け、やってしまったと言わんばかりの顔をする。僕もそちらを見ると彼女達は案の定、口を開けて呆けていた


「ね? いきなりアンジュって言われても困るでしょ?」

「す、すまん……」

「とりあえずさ、落ち着いて一から話してよ。まずは麻子さんのVtuberしてる時の名前と配信の内容から」

「わ、分かった……」


 どっかの小学生名探偵の気分が少しわかったような気がする。人を誘導するのって大変なんだね


「ゆっくりでいいから最初から話して。まず、麻子さんのVtuber名から」

「お、おう。麻子姉ぇのVtuber名は園田綾(そのだあや)」

「うん。それで活動内容は?」

「ゲーム配信と雑談、後は歌だ」

「で? そのアンジュだっけ? その人が何の配信をしてる時に何を書き込んできたの?」

「う、歌枠の時に歌下手くそなクセにアンジュのリスナー盗るな! 泥棒猫! って……」


 完全な言いがかりだ。麻子さんの歌は聞いた事ないけど、アンジュよりかはマシだと思う。うん、絶対にマシだ


「そっか……でも、麻子さんって人の配信を荒らされるのと君は何の関係があるの? 彼氏だから心配するのは解かるけど、麻子さんだって万が一に備えてモデレーター付けてるでしょ? 荒らしが現れたら対処できたと思うけど?」


 VIDEO・POSTにはチャットを管理するモデレーターと呼ばれる人達がいる。なり方は簡単で配信者の方から指名されさえすれば誰だってなれる。本当は配信でお知らせを流したりできるみたいだけど、代表的な役割はコメント管理だから今はこれをメインとして話を進めようと思う。そっちの方が麻子さんの配信が荒らされる事と彼がどう関係あるのか聞き出しやすいだろうし


「俺、麻子姉ぇのチャンネルでモデレーターやってるんだ」


 僕はこの一言で合点がいった。自分が推してる配信者……それも彼女の配信が荒らされたとなると気分が落ちるのも少し解かる。だけど、分からない事が一つだけある。その前に……さっきから一言も喋ってない女性陣に確認が先だ


「なるほどね。ところで夢乃達は今の話で状況を理解できたかな?」

「何となくね。お姉ちゃんが配信をしている事とアンジュって人に荒らされた事くらいは理解したわ」

「私も……」

「同じく……」


 丈達ら女性陣はちゃんとではないけど、状況は理解できたらしい。今の話を纏め、僕なりの見解を言わせてもらうと麻子さんの枠に来たアンジュは本物かどうかは分からない。彼女はアンチが多いから偽物の可能性だってある。日頃の行いがあまりにも悪いから仮に偽物だったとしても初見じゃ偽物を本物と勘違いしそう。僕はどっちでもいいけど


「夢乃達も大筋で理解してるようだから話を戻すけど、麻子さんの配信に現れたアンジュって人の誹謗中傷コメ、モデレーターなら消せたでしょ? いつの話かは知らないけど、そこまで思い詰める事もないんじゃないの?」


 荒らされた人には気の毒だけど、誹謗中傷コメはモデレーターが消せる。翌日なのか数日なのかは知らないけど、引きずるような事じゃないと僕は思う。荒らされた上にSNSのダイレクトメッセージに殺害予告が来たとかなら怖いんだろうけど


「陽人の言う通りだし、実際その時はそうしたんだけどよ……その後SNSの方にまでアンジュって奴が来てな……アンジュのリスナー盗るな! 泥棒猫! って言いがかりをつけてきてよ……」


 リスナー盗るな! って……配信が面白くないならリスナーは離れていくでしょ……。彼女の配信なんか特にそうだ。暴言は吐く、関係ない人の悪口は言うと面白い要素ゼロ。離れて当たり前だ


「リスナー盗るなって……それはただの濡れ衣なんじゃないの?」

「アタシも陽人に同感ね。アンジュって人の配信がどんなのか知らないし、そもそもがVtuberの配信自体どんなものなのかは分からないけど、面白くないなら離れて行くのが当たり前なんじゃないの?」


 丈達の言っている事は至極当然。テレビだって放送してる番組が面白くなければチャンネルを変える。配信も同じでこの人の配信つまらないな、面白くないなと思えばリスナーは面白い配信や自分の望む配信を求めてネットの海を彷徨う。要するにアンジュからリスナーが離れて行くのは彼女の配信が面白くないから。もう一つはアンジュが注意批判と誹謗中傷の判別がつかないから。例えば、話題にすら出てない人の悪口を言うのは良くないと注意したとする。普通はそこで謝罪の一つあるんだけど、アンジュの場合は注意した人をアンチだと決めつけ、金を要求してくる。これじゃ真っ当なリスナーは離れて行く


「莉子ちゃんの言う通りだよ。アンジュって人の事はよく分からないけど、面白い配信をしてるならリスナーさん? は離れて行かないと思う」

「私も二人に同じく。その人に惹かれるものがあるならファンは離れないと思う。アンジュって人言ってる事おかしいよ」


 よく知らない丈達、長村、夢乃にまで批判されるアンジュ。よく知らないからこの程度の批判で済んでるけど、知った後、どんな意見が出るか……ある意味じゃ見物だ。多分、関わる機会はないと思うけど


「そこには俺も同感なんだけどよ……その人曰く自分が誹謗中傷するのはブジャルって奴に命令されたかららしいんだ」


 甲谷の口からブジャルって単語が出てきたのもそうだけど、アンジュが僕に罪を擦り付けようとしているところに驚きを隠せない。表には出さないけど、内心ビックリしてる。僕がアンジュに命令するのはもちろん、アンジュが僕の命令を聞くわけがない。金はせびってくるけど


「アンジュって人がそう言ったの?」

「ああ。証拠もある」


 そう言って甲谷はスマホを操作し、僕達の前に出してきた。麻子さんSNSアカウントに送られてきただろうメッセージのスクショ。そこには“ブジャルって奴に脅されてるんだ~(´;ω;`) アンジュだって本当はこんな事したくないんだよ~、ごめんね~(>人<)sorry…”という全く誠意のない謝罪文があった


「「「ないわ……」」」


 謝罪文擬きを見た夢乃達はドン引き。僕はというと……


「あ、あはは……」


 彼女達の引きように表向きは苦笑を浮かべる。あのクソババア……次の配信で覚えとけよ? 泣いても配信荒らしてやっからな?



 話し合いの結果、アンジュをどうにかするよりもブジャル(僕)にコンタクトを何とかして取ろうという事で解散。各々が家路に就いた


 僕にとって気がかりはアンジュがどうしてブジャルの命令で誹謗中傷コメをしたのか、麻子さんも甲谷も一度アンジュの配信を見て僕(ブジャル)との関係に何の疑問も持たなかったのかだ。っていうか、甲谷と麻子さんはアンジュの配信見たのかな?


















今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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