女神さまのブラウン管
「うーん。おかしいわ」
女神は頭を悩ませていた。
目の前にあるのは一台のブラウン管。
地上の人々の様子を映し出す、彼女にとって必要不可欠な代物。
しかし今、それは完全に壊れていた。
とある王国を映しているのだが、何処を見ても映像は砂嵐ばかりで、何も見えないのだ。
「壊れちゃったのかしら。元はお下がりだし、やっぱり買い替え時なのかも」
試行錯誤して見えたのは、少し前の王宮の映像だけ。
一国のお姫様が、皆の前で処罰を受けている様子だった。
(システィア姫! 其方が、魅了の術で王子を誑かしていた事は明白! その強大な魔力を利用し、王家の者を魅了した罪、万死に値する!)
(お待ちください! 私は、そのような事は……!)
お姫さまは冤罪だった。
王子さまが他の女性に現を抜かし、魅了の術を使い自分を洗脳したと、冤罪まがいの罪を着せたのだ。
しかし、誰もお姫さまを庇おうとしない。
彼女が元は平民の成り上がり、嫉妬故か。
酷い話だ。
何とかお姫さまを救えないだろうか。
そのためにも、先ずは詳しい状況を把握するため、このオンボロをどうにかしなければ。
そう思い、バンバンとブラウン管を叩く女神の所に、一人の老婆が現れる。
「何をしておる?」
「あれ、死神さん? 地上のお仕事は終わったんですか?」
「うむ。一仕事終えたからのう。一旦、戻って来たのだよ」
やれやれと言わんばかりに死神は腰を叩く。
それでいて女神の様子が気になったのか、勝手に上がり込んでくる。
「で? 何かあったのかい?」
「ブラウン管が、何もしてないのに壊れちゃったんです!」
「そんな初心者のような台詞を……」
「見て下さい! このお姫さまを最後に、先の様子が見えなくなったんです! これはもう駄目です! お古です! 買い替えましょう!」
「どれどれ……」
死神はブラウン管の様子を窺う。
だが暫くして見当がついたのか、彼女はその場から離れる。
「アンタ、これは壊れてなどおらんよ」
「えっ? でも……」
「それは人単位でしか見ておらんからじゃ。国全体を見るように変えてみい」
言われるがまま、女神はブラウン管を調整してみる。
すると砂嵐は消え、真っ暗闇の映像が流れ始める。
何だろうかと暫く見ていたが、ようやく意味が分かり彼女は青ざめた。
「そ、そんな……!」
言葉を失う女神の代わりに、死神が動き出す。
その手には、いつの間にか大鎌が握られていた。
「全く、死神使いも荒いものじゃのう」
しわがれた笑い声が、辺りに響いた。