悪魔は微笑み少女を誘う
少女は楽しい夢の中で黒い猫と出会いそして……
ある少女は、小さな家の中でまだ新しいランドセルを背負い、楽しげに笑いながら、くるりとその場で一周回ってみせた。
「そんなにはしゃでいるとつまずいて転んでひざを擦りむいちゃうわよ〜?」と母は笑いながら言う。
「だって、学校へ行くのが楽しみなんだもん!」両手で肩紐をぎゅっと握り、お気に入りの靴を履き、さらに笑顔を浮かべる少女。
「あら、それは良かったわ。お母さんとっても嬉しいわ。お友達もちゃんとたくさん作るのよ。」玄関の扉を開け、優しい笑顔で手を振り見送る母。
「うん!大丈夫だよ。行ってきます!」少女も笑顔で母へ手を振り返し、学校へと向かう。
今日はよく晴れた日でとても気持ちの良い日だ。スキップをしながらいつもの道を進み学校へ向かっている途中、パセリの花を一本咥えた黒い猫が突然、横断歩道の手前の歩道を横切った。
「あ!黒い猫さんだ!可愛い〜!待て待て〜!」笑顔で両手を前へ広げながら黒い猫を掴もうと追いかけ走る少女。角を曲がりさらに進み、細い路地を抜け黒い猫を夢中で追いかけた。追いかけてくる少女をじっと見つめながら何処かへ案内するかのようにさらに進む黒い猫。少女は、気がついた頃には学校の前まで着いていた。
「あれ?猫さん何処へ行ったのかな?」少女は、あたりを見渡したが、黒い猫の姿はもう何処にもなかった。少し悲しい気持ちになり、学校の校舎へ入り、靴を脱ぎ、上履きに履き替え廊下を歩いていると、黒い猫が咥えていたパセリの花が床に落ちていたのが目に入った。
「猫さんが咥えてた綺麗なお花だ!」少女は嬉しそうにそれを手に取り、前を向くとそこは音楽室の前だった。扉の奥からは綺麗なピアノの音色が聞こえ、少女は楽しい気分になり、もっと近くで聴いてみたいと思い扉を開けた。中に入るとさっき追いかけていた黒い猫が微笑みそこにいた。綺麗なピアノの音色が鳴り響く音楽室で少女も嬉しくなり微笑んだ。
ある家の老婆は数年前から認知症を患っていて、記憶障害になっていた。老婆は自分が年寄りとは思わず自分は小学生の少女だと思い込んでいたそうだ。ある日老婆はなんで私にはランドセルがないのかと家族に言ったことがあった。可哀想に思った家族もそれに合わせる形で接し、社会人になった孫が学生時代に使っていたスクールバッグをランドセルの代わりのつもりで渡した。老婆は大変喜び、まるで小学生の少女がランドセルを背負うかのようにスクールバックの持ち手に両腕を通し背負った。そうそうこれこれと楽しそうに笑っていたそうだ。
それから数年経ち、今日より数ヶ月前頃には老婆は不運なことに命に関わるような大きな病気に罹り、病院へ入院していた。家族も毎日見舞いに来ていたそうだ。さらに数日前に危篤な状態にあると老婆の家族は医師から告げられた。
そして今日、老婆が連れていかれた集中治療室では心電図がピアノの音色のように心地よいリズムでピッ、ピッと室内に響いていた。そして数十分後には、老婆を死に誘うかのように心電図からピーと音が鳴り、室内に残響していた。そして老婆は幸せそうな顔をして息を引き取ったそうだ。
閲覧ありがとうございます。はじめまして、るくすと申します。この度処女作となります「悪魔は微笑み少女を誘う」を投稿させていただきました。
今作の前半では老婆の中の楽しい少女時代の記憶を描き、後半は、認知症と記憶障害を患った老婆の最期を描きました。物語に出てきます「黒い猫」は悪魔でありこれから少女に訪れる不幸を表しています。現実世界の老婆に最期の時が訪れること(不幸)とで記憶と現実でリンクしています。また黒い猫が咥えた「パセリの花」の花言葉は「死の前兆」です。つまり少女の前にパセリの花を咥えた黒い猫が現れ少女(老婆)を死へと誘なっていることを表しています。また、少女が黒い猫に連れていかれた先は「音楽室」です。現実の老婆が危篤な状態となり「集中治療室」へと運ばれたことを示しています。音楽室の中では綺麗なピアノの音色が反響していた。こちらは集中治療室の中にある心電図の電子音が反響していることを示しています。最後の少女は楽しくなり微笑んだ。こちらは老婆も記憶の中で懐かしい楽しい記憶を思い出して微笑んで、息を引き取ったことを示しています。
伏線多めのミステリーな世界観を表現できたと思います。初投稿なので至らぬ点もございましたが、最後まで読んでいただきまして本当にありがとうございました!